このキューはデザインが気に
入っている。
撞球性能としては、キューが
よく切れる。
キューの内部構造はいろいろな
技法がある。
ビリヤードキューは大別して
上部のシャフト部分とジョイント
から下のバット部分に分かれる。
さらにバット部分は上からジョイ
ント、リング、フォアアーム、
ハンドル、スリーブ、エンドキャ
ップ、ダンパーゴム、となる。
バット部分にはインレイやハギや
リングが装飾的に仕込まれる事も
多い。私のキューなどはジョイント
リング下はすべてただの一本のメイ
プルであるので、棒のような物だ。
ただし、ただの棒ではない。
数十年寝かして、さらに入手して
から30年後に削り終えてパーツを
組み込んで糸巻きをして塗装した。
ただの棒ではなく乾燥棒だ。
軸心計測器で計測しても曲がり
ゼロ。
バットのうち、リアのスリーブ部分
には各キュー製作者の工夫が導入
されている。
バラブシュカは典型的に超長期使用
された程度の良いハウスキューを
原本ブランクとしていたので、合体
組み立てクラフトマンとはいっても、
入手素材からして違っていた。
必要十分にして長い年月で枯れに
枯れたメープルを原本素材として
キューをコンバージョン方式で
作り上げた。
彼は最初の一から作るビルダーでは
なく、コルト・パーカッションを
カートリッヂモデルにコンバージョン
改造して西部開拓時代に超絶普及
させたリチャード・メイスンのよう
なコンバージョン製作者だったのだ。
ゆえに、バラブシュカのキューの
性能が悪い筈がなかった。
あれ、1920年代のハウスキューを
原材ブランクとはせずに一から木材
の乾燥を待っていたら、バラブシュカ
の生きているうちには彼のあの伝説
的なアビリティのキューは生まれ
なかったと思う。
バラブシュカはデザインのファンシー
さで抜き出ていたのではなく、その
実力性能ゆえのキュービルダーと
して知る者は知っていた。
その後、1970年代末期から1980年代
初期にかけて、材木を家のような太い
原木から切り倒して製材して自然乾燥
させる従来の方法ではなく、人工的に
強制乾燥させる方法が楽器や家具や
木製道具の世界に登場した。
ビリヤードのキューもこの超短縮乾燥
の新工法に飛びついた。
結果、最初はよくとも、時間をかけて
乾燥寝かし削りを経て来たこれまで
のビリヤードキューとは異なり、
しばらくするとよく曲がった。
ひどいのはフィリピン製のキューなど
で、完成直後はまっすぐだが、ほん
の数か月でヘビがのたうったように
曲がりまくる。これは今でも。
気乾比重も何も関係なく、ただ材木
を切って適当に乾燥させて削って
キューの形にしただけだからだ。
かつて国内で詐欺行為を働いていた
森という者が手掛けるフィリピン製
のキューが今もフィリピンで製造
されてヤフオクで出品されている
が、十分に注意されたい。
出品先「海外」とある大量出品の
キューがそれ。
かつては「X CUSTOM」という名称
だったが、現在は別な似たような
名称でフィリピン製の悪質キューを
販売している。
入金したら連絡が取れなくなって
一人頭10万円から、何十人も詐取さ
れた被害者が多いので、十分に注意
してください。
現在は安物の手ごろ価格のキューで
荒稼ぎしようとしているようだ。
アカウントは複数持っている。注意。
さて、バットの構造なのだが、この
上掲のキューは変わったリアスリーブ
の構造をしている。
(一番下の図が上掲画像のバラブ
シュカコピーモデルの内部構造)
この一番下の図のキューの構造は
変わっていて、かなりキュー研究
の上において考察の勉強になった。
中空部分の木部にはネジが切って
あり、太ネジ山が合うウエイト
ボルトをねじ込むとバットバラン
スが任意に変更できるようになって
いる。
TADのようにウエイトボルトを使わず
に一本木でピタリと狙った重量を
出すのにはかなりのノウハウと材料
の選択が必要になる。
TADはバット材は30年ほど寝かせる
というが、それも頷ける。
私のキューも、一本木だが、狙い
通り、ピシャリと19.5オンスを出し
た。シャフトは125g物だと19.70前
後に収まる。
また、軽いシャフトだと19オンス強
程のセッティングになるが、私自身
の使い勝手の良さは19.5前後程度の
重量だ。私の自作キューは私のTAD
と寸分違わぬ重量とバランス配分に
してある。
そもそも30数年来の構想が、TADと
同じ外径(一般より細め)と重量
とバランスで使いまくりのシバキ
倒せるキューを作りたい、という
のが製作動機だった。
人の為ではなく自分自身の為だけ
のキューを作り持ち、それを使い
まくりたかったのだ。
外見などはファンシーでなくとも
よい。重くなるだけだ。ハウス
キューのような物でよい。
ただし、打球性能は秀でた物と
する。そうしたコンセプトだった。
ゆえに、キューの構造だけではなく、
まるで日本刀の押形(おしがた)を
採るように多くのキューのテーパー
を計測させてもらった。
多くの協力者の人たちがいたから
こそテーパー理論についての研究
ができた。
疵が着かないように金属ではない
樹脂ノギスで5ミリ単位で多くの
シャフトのテーパーを計測した。
また、そのシャフト個体は経年と
使用度数がどれくらいであるの
かも勘案してデータ化して来た。
ゆえに、私自身の私が持つテー
パーデータは私自身の為の物
であり、公開する気は一切無い。
また、多くのビルダーさんたちや
メーカーはすでにやっている事だ
ろう。そちらに私以上のデータ
の蓄積がある。
私自身がかつてキューリペアマン
と共同で開発した先角数種は、
外見上は全くのノーマルで、内部
構造は非常に計算された構造に
してあった。これも私個人の為
だけの開発。
開発要件のキモは振動をどのよう
に外周に振らずに中心に集めて
抜けさせるか、だった。
それを素材選択ではなく、構造
的な面からクリアするアプローチ
をしていた。加工は結構困難。
ただのチクワはめ込みポンや
ネジ込み接着で装着完了という
一般売りの先角ではなかった。
今はそのリペアマンが廃業した
ので作れない。私にはそこまで
の加工技術が無いからだ。
出来合いのパーツを取り付ける
ありきたりの先角加工しかでき
ない。いくら構想や着眼があって
も加工技術を有する人間がいない
とモノヅクリは成立しない。
リペアマンと練りに練って作った
先角を着けたシャフトは私の
所蔵キューのシャフトとして
現在は複数本を秘蔵している。
テーパーは私のオリジナルだが、
大昔のビルダーキューのテーパー
にやや近い。だが、決定的に
異なる点もある。
シャフトはブランクからの削り
物で、非常に良い物が何本かある。
すべては、私が撞き、違いを
感知して見識を深める為の物。
売り物でも進呈物でもない。
ゆえに、私が開発した先角を
着けた私のテーパーのシャフト
は、いくら気前よくザンボッティ
フルコピーのP.モッティさえも
人にプレゼントしようとも、その
スペシャル物を人に渡すつもり
は無い。自分用だからだ。
私は業者でもプロでもないので
それでいいと思う。
ただ、それらのシャフトを装着
したキューで撞いたプロプレーヤー
3名はそれらを絶賛していた。
もちろん、ノーマルソリッドだ。
3名ともソリッドシャフトの遣い手。
ただ、一人、元モーターサイクル
ロードレーシングライダーだった
撞球プロが使うキューのご自身で
育てたシャフトを着けたキューで
撞かせてもらったらぶったまげた。
お店のオーナーが私が行ったから
とプロに電話して、自宅でお休み
中なのにわざわざ呼び出してくれた。
撞かせてもらったら、これ、最高
じゃないすか、と驚いた。
その時はノギスを持っていなかっ
たのでテーパーは測れなかった。
8時間ほどそのプロの所属する店
にいて、4時間以上、二人で座り
込んでずっとバイクレースの話
をしていた(笑)。
彼は某チャンピオンの4気筒ワー
クスマシンのキャブを1個持って
いる。1個だけ(笑)。
ワークスマシンだろうとそういう
事はある。
このバット内部のウエイトボルト
方式というものは、バットキャップ
が接着不能のデルリンⓇを使用
したバラブシュカが採用していた。
TADなどは一本木にしてウエイト
は用いず、ダンパーゴムは木ネジ
で硬木のプラグ芯部にねじ込む
だけの構造になっている。
これは、できる限り木部内部に
金属を入れない方向性を採る事
で、木材の動きを妨げず、打感
を損なわない事が狙いだから
だろう。
この上掲のトップ画像のバラブ
シュカタイプの4剣キューのバット
のリアスリーブは、とても面白い
構造をしていて、キュー考察の
上でいろいろな発見を与えてくれ
た。
世の中、いろんな事を考える人は
いるものだ。
玉撞き棒のキュースティック一つ
とっても、内部構造は多岐に亘る。
スポーツで使う道具というものは
設計の発想を見ていると、とても
面白い。