ハイテクシャフトのキュー先の
構造。中空である。
これでソリッドな打感やしっかり
としたリニアな反応を求めるほう
が無理がある。
どうにもカランという竹で突いた
ような感触が多いが、打感の要因
はこれ。
この構造はどのメーカーも模倣し
ているが、手玉のトビズレを減少
させるためにこうした軽量化構造
にしている。
振動の「戻り」を早くさせれば
トビが激減する事を21世紀になる
頃に発見したからだ。
だが、非常にそれは表層的な一面
だけを捉えていて、歴史全体を
俯瞰していない。
大昔の1960年代、1950年代のキュー
で撞けば「!?」となる。
非常に手玉のトビズレが少ないの
だ。ゆえに見越しによる補正も
極小で済む。
勿論、無垢一本木のソリッド
シャフトだ。そして、むしろガチ
ガチにシャフトは硬い。揺れない。
先角に重たい象牙が使われていて
も手玉のトビズレがとんでもなく
少ない。
なぜなのか、なのである。
今年ハタチのA級のプレーヤーに
1950年代、1960年代のキューで
撞いてもらった。
すると「なにこれ?ハイテクシャ
フトみたいに見越し要らない」と
イングリッシュを使って即座に
言った。
他の何人もが撞いて同じ事を言う。
1950年代、1960年代のプレーヤー
はそうしたキューを使ってヒネリ
もビシビシ入れて快音も響かせて
撞球をやっていたのだ。
この事実は、あまり知られていない
事なのかも知れない。
良質メープル材の資源枯渇をどう
乗り越えようかとの工夫の中で
ハイテク合板ベニヤシャフトが
この世に登場したが、個体差の
減少と同時にトビの少なさが
瓢箪からコマで発見され、誰も
が製造者はそれに飛びついた。
だが、包括的な考察が浅かった
感は否めない。
80年代物であっても、良質素材
を用いていたアメリカン・カス
タムのキューはトビズレの少ない
個体が多かった事実、それは何故
なのかを深く掘り下げなかった
からだ。
てっとりばやく量産できる方向
にメーカーは右へ倣えでシフト
した。
そして、「ハイテク」と命名する
事で消費者の心理を操作して爆発
的に販売を拡大させる事に成功
した。
でも、よく曲がるし壊れちゃう。
製作の端緒の動機がそれなので
そうした物だろう。
そして、次から次に「今度の新製
品は最高」という宣伝文句で、
使い捨て品にシャフトをして
しまう戦略をメーカー各社は
採った。
それはまるでゴルフクラブの
「今度のは飛ぶ」という販売
促進宣伝文句と全く同質、同目的
でビリヤードのキューは消費物
とされてしまったのだった。
でも売れる。
大衆は乗せられやすく、「流行」
が大好きだから。
世界一のハイテクシャフト消費国
が日本だろう。
今は新素材のカーボンシャフト
がハイテクシャフトに取って代わ
ろうとしている。
そのうち別素材のシャフトが「今度
の新製品は今までと違う」との
売り文句で出て来る。
見えている。
私が無垢のソリッドシャフトに
こだわっているのは、天然木の
ソリッドシャフトでなくば超え
られないものがある事に気づい
ているからだ。
耐久性、打感、特定撞球能力、
音、etc。
良質のソリッド材を超える物を
見たことが無い。
だが、世間の趨勢や人気はそう
ではない。
ソリッドシャフトの優位性や
良性を理解しているのは、現在
ではごくほんの一握りの人間
だけのようだ。
民主主義じゃないのだから、多
数派で決を取る類の問題では
ない。
どんなにその時代の中で少数派
であろうとも、良い物は良いの
だ。
私はハイテクシャフトの存在や
使用については一切否定はしな
い。自分でも所有しているし。
ただ、ハイテクシャフトがソリッ
ドシャフトよりもトータルで
優れている等々の概念化の普及
には「ある意図」が見え見えな
ので、それに乗るのは自分では
拒否しているだけだ。
そして、精神論でいうならば、
ハイテクシャフトの作り手の心根
の在り方は商業主義唯一路線であ
り、心澄んだものであるとはいえ
ない。
最近ではタップでもそうした
「汚れたタップ」が増えて来て
いる。
撞球プレーヤーが作り手にハッ
スルかまされてたら埒もないと
思うのだけどなぁ。