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予測、政策、理論

2015年06月05日 | 研究活動
4年のゼミ生たちに、拙稿「国際関係理論は将来を予測できるのか―政策とインテリジェンスへの含意を探る―」を読んでもらったところ、あるゼミ生から「ガッカリした」と言われました。何でも、そのゼミ生曰く、「国際関係理論は実践でもっと役に立つものだと思っていた」とのこと…。

そこで今日は、「予測」に関するいくつかの重要な文献を紹介することにします。これらを読めば、予測がいかに難しいかを分かってもらえると思います。

・ダン・ガードナー(川添節子訳)『専門家の予測はサルにも劣る』飛鳥新社、2012年。

刺激的なタイトルの図書です。著者は、その道の「プロ」による予想には悲観的です。

なぜ予測が難しいのか。ガードナー曰く、「世界は複雑なのだ。予測するには複雑すぎる。…予測できない世界を、間違いを起こしやすい脳を使って予測すれば、失敗を重ねて当然だろう」(同書、34ページ)とのことです。

・Philip E. Tetlock, Expert Political Judgement: How Good Is It? How Can We Learn? (Princeton: Princeton University Press, 2005).

私がもっとも刺激を受けた研究の1つです。テットロックは、専門家の予測の失敗の「バラツキ」をさらに詳しく分析しました。そして本書は、キツネのような「狡猾な」思考を持つ専門家の方が、予測の成績が良かったと結論づけています。

・ネイト・シルバー(川添節子訳)『シグナル&ノイズ』日経BP、2013年。

情報に含まれるシグナル・ノイズの観点から、データによる予測可能性を探求した意欲作です。シルバーは、「予測できないものを受け入れる冷静さ」と「予測できるものを予測する勇気」を持つことの意義を説いています。

では、国際関係の予測は、どうなのでしょうか。シルバーはこう言っています。

「私が(戦略国際問題研究所主催の)会議で説明した方法が、国家の安全保障を分析するにあたって大いに役立つとは思わない。野球や政治の予測で納得できる答えが出せるのは、豊富なデータがあるからだ。…ところがテロはそうはいかない。…テロの計画を見つけるのは、干し草の山から一本の針を見つけだすよりずっと難しい」(同書、471-472ページ

国際関係理論は思ったよりも役立たないと考えている人は、ぜひ上記の3冊をお読みください。


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