1日1日感動したことを書きたい

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人生の黄昏時だから、なおそう思います。

「夜想曲集:音楽と夕暮れをめぐる五つの物語 」(カズオ・イシグロ)

2009-09-23 00:01:49 | 
「夜想曲集:音楽と夕暮れをめぐる五つの物語 」(カズオ・イシグロ)を読みました。

 27年間つれそっと妻との離婚旅行にベニスを訪れた老歌手。自らは才能があると信じながらも、いっこうにうだつの上がらないサックス奏者。不協和音に直面している友人夫婦宅を訪れたしがない英会話教師。私の才能はいまだ埋もれたままなのだと主張する自称チェロの大家などなど。人生のたそがれ時を生きる人たちの5つの短編集です。どこかせつなくて、ほろ苦いお話でした。

 カズオ・イシグロは1954年生まれの55歳。同世代の人間として、カズオ・イシグロが、人生のたそがれ時をテーマに選んだ気持ちがとてもよくわかる気がしました。日々体力の衰えを感じるし、才能も枯渇してくる。若いころにいだいた夢もほとんどがしぼんでしまい、キャリアにおける折り返しもすでに通り過ぎて、自分の底が見えてしまう。そんなたそがれ時をどう生きていくのかということは、僕たちの世代には、とても大きな問題なのです。

 この短編集のいく人かの主人公たちは、整形手術を受けたり、新しい境遇に身を置いたりして、再チャレンジの一歩を踏み出そうとします。でもね・・・老いていくということは、とても自然なことなのだから、たそがれをたそがれとしてしっかりと受け止めて、生きていこうとする人たちの姿を、次回の作品では描いてもらいたと思いました。夕暮れには夕暮れの美しさと味わいがある・・・そう思う今日この頃なのです。