生涯を完結させるまでに歌いたい歌、最近始めたヴァイオリンとフルートはどこまで演奏できるようになるか、と時々ワンコ

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日本で活躍するロシア人バリトン歌手ヴィタリー・ユシュマノフ氏が歌うトスティの歌曲

2016-12-12 23:01:39 | トスティ

 先日来、日本で活躍するロシア人バリトン歌手ヴィタリー・ユシュマノフ氏の歌を取り上げています。私が把握しているユシュマノフ氏の経歴では、2015年春に活動拠点を移して日本トスティ歌曲コンクール第1位及び特別賞受賞、2016年は第14回東京音楽コンクール声楽部門第2位、第52回日伊声楽コンコルソ第1位及び最優秀歌曲賞を得ているそうです。また2015年にデビューCD「歌の翼に」、2016年にセカンドアルバム「Parole d'amore(愛の言葉)」をリリースしています。

 ということで私が購入したユシュマノフ氏のCDがこのセカンドアルバムであったわけです。その中には初めて聞くチェスティの「どこに迷い込んできたのか?」もありますが、ヴェルディのアリアと歌曲が4曲、ベルリーニが3曲、ジョルダーノ、ドニゼッティ、カルダーラ、ジョルダーニがそれぞれ1曲納められています。そしてトスティの歌曲が7曲。2015年の日本トスティ歌曲コンクール第1位を獲得した自信からの選曲とも思いますが、CDを聞いてもきれいなイタリア語で歌われています。予め知らなければロシア人が歌っているとは思えないのではないか、イタリア人が歌っているように自然に思い込んでしまうのではないかと思います。「Parole d'amore(愛の言葉)」のライナーノーツにはユシュマノフ氏自身の挨拶文も載せられており、その中で如何なる国の声楽家にとってもイタリア語は第2の母語となるという主旨の言葉が書かれています。

 さて、私がユシュマノフ氏のCD「Parole d'amore(愛の言葉)」を聞いて目から鱗が落ちた思いがしたのは、何よりもトスティの歌曲を深く豊かな低中声で歌うことの魅力を再確認できたことです。これまでもイタリア人バリトンの大御所であるレナート・ブルゾンの歌う歌曲のCDを聞き込んだりしていますが、同じバリトンでもイタリア人のバリトンとロシア人のバリトンとの差のなせる技でしょうか?それとも録音を編集する技術あるいは編集によって仕上げる音の好みの違いでしょうか。レナート・ブルゾンもヴィタリー・ユシュマノフも同じバリトンとは言え、ブルゾンの声はどうしてもイタリアという看板から連想してしまう明るく伸びやかな重心の高いバリトンに聞こえます。一方のユシュマノフの声は必ずしもバリトンという範疇に納まりきらないバスと行っても納得させられてしまう深さを備えています。これまでトスティに限らずイタリア人作曲家のオペラや歌曲は、どうしてもソプラノやテノールといった高声系のイメージを払拭できずに、どこかしら後ろめたさを感じながら歌って・聞いていたのに対し、ユシュマノフの歌唱はテノールが逆立ちしても出せない低・中声の魅力を前面に押し出しながら何のケレン味もなく低・中声の魅力でイタリアのアリア・歌曲を歌っています。

 これまでに私自身がさらったトスティの曲では「理想の人(Ideale)」、「さようなら(Addio)」と一昨日取り上げた「暁は光から暗闇を分かち」の3曲が「Parole d'amore(愛の言葉)」に収録されています。この中で特に「Ideale」については本番で歌った曲でもあり自分なりにかなり研究した曲です。しかし、当たり前と言われれば当たり前ですがユシュマノフ氏の歌唱を聞くと、過去の自分の歌唱が比較にならない稚拙なものであったことを思い知らされました。ユシュマノフ氏の生演奏を聞いた際には、こんなに魅力的なバリトンの声で歌う人間が居るのであれば何も私ごときが歌をうたう必要は全く無い、と思い此処半年実質的に全く歌っていませんがユシュマノフ氏の声と歌唱を聞けたことで完全に歌を辞めようかとも思いました。

 ユシュマノフ氏のセカンドCD「Parole d'amore(愛の言葉)」を購入して以来、何度も繰り返し聞き直していますが、そうするとこの様に歌えばよいのだということが幾つか自分の中に芽生えてくるものがあります。ということであらためて「Ideale」と「Addio」とを歌い直し、更にキィを少し下げて「暁は光から暗闇を分かち」を今度こそ歌い込んで見たいと思い始めているところです。

 オペラではソプラノやテノールという高声系が主役を務め、アルトやバリトン・バスと言った低・中声系はどうしても子分や召使、老人、悪者といったイメージがあり、高声系に対するコンプレックスが全く無いとは言い切れない方もいらっしゃるかと思います。そんな方には是非ヴィタリー・ユシュマノフ氏のCD「Parole d'amore(愛の言葉)」を聞いていただいて、低・中声の魅力を再確認して頂きたいと思います。


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