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碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

放送文化基金賞も受賞の『アンナチュラル』。プロデューサーが振り返りながら語ってくれたことは!?

2018年06月18日 | 「ヤフー!ニュース」連載中のコラム


放送文化基金賞受賞の『アンナチュラル』。
プロデューサーが振り返って語ってくれたこと

今年の1月から3月まで放送された、金曜ドラマ『アンナチュラル』(TBS系)。これまでに、数々の賞を受賞しました。

私も審査員を務めさせていただいている、第11回「コンフィデンスアワード・ドラマ賞 2018」では、作品賞、主演女優賞(石原さとみ)、助演男優賞(井浦新)、 脚本賞(野木亜紀子)。

第21回「日刊スポーツドラマグランプリ」で主演女優賞、第96回「ザテレビジョンドラマアカデミー賞」の最優秀作品賞や主演女優賞なども獲得しています。

そして先日は、第44回「放送文化基金賞」のテレビドラマ番組最優秀賞、そして脚本賞にも輝きました。

「TBSレビュー」(2018.05.27放送)で、このドラマを制作したドリマックス・テレビジョンの新井順子プロデューサーに、お話をうかがうことができましたので、一部ですが採録してみます。

碓井  『アンナチュラル』には、医学や法医学関係の専門的な用語や事象が頻繁に出てきました。見る側は、それがよくわからないとついていけないし、あまり説明されると今度はうるさいと感じてしまいます。このあたりが、「わかったような気になる」という、いいバランスで作られていました。プロデューサーとして中身を練っていく際、苦労されたんじゃないかと思うんですが。

新井  脚本の野木亜希子さんは、医学書などを読んだり、取材もされたりして、かなり知識が豊富になっていらっしゃいました。逆に私は、わざと文献などを読まないようにしたんです。台本を読んだとき、私が「どういう意味か、わからない」と思ったら、多分視聴者もそう思うだろうと。ですから、(ヒロインたちの)医学的に高度な内容の会話を、よりわかりやすくしゃべらせてくださいとお願いし続けましたね。「これくらいでわかるでしょう」「いえ、わからないです」というやり取りをして、難しい言い回しをなるべく簡単にしてもらいました。

碓井  このドラマは、ジャンルで言えばサスペンス物と呼ばれるかと思うんですが、事件があって、犯人がいて、追いかけて、捕まえたという一般的な流れとは違っていました。サスペンスとヒューマン、その2つの要素のバランスが絶妙で、人間の性(さが)とか業(ごう)といったものまで、すくい取っていたんですよね。そう聞けば「重たいドラマか」と思われそうなんですが、すごく軽快でテンポがいい。またテンポがいいのに、急ぎ過ぎてはいない。実に見事でしたが、演出の塚原あゆ子さんの功績も大きかったんじゃないでしょうか。

新井  大きいと思います。原作のないオリジナル作品でしたから、どういうキャラクターにしたらいいのか、なかなか掴めなくて。何度もホン(台本)読みをしながら、どの位のテンションでやればいいのか、みんな迷ったりしました。そんな中で塚原さんが「こっちです!」と誘導してくれたり、「もっとハネてください」などと修正してくれました。

碓井  なるほど。

新井  脚本が良くても演出でダメになることがあるし、その逆もあります。なかなかバランスが難しいんですが、今回は放送前に全部撮り上がっていたこともあって。いいとか悪いとか、いろんな情報が入ってこないまま、信じた道をひたすら突き進むしかないという状況でした。そのおかげでブレずに、とにかくゴールに向かって進んでいけたことは良かったのかな、という気がしています。

碓井  ドラマは脚本、役者、演出の三位一体で作られますが、『アンナチュラル』では、そのどれもがレベルを超えていたと思います。オーバーに言えば、「ドラマってここまで表現できるんだよ」ってことを示してくださった。しかもオリジナル作品です。物語も人物像も、ゼロから作られていました。いわばこのドラマだけの楽しみを提供していたわけで、「ドラマ、まだまだいいぜ!」っていう有り難さがありました。私も含め、続編が見たと思っている視聴者の皆さんも多いはずので、すぐに連ドラとは言いませんが、「スペシャルでいいのでぜひ!」とお願いしておきたいですね。

新井  はい。急いでネタを集めないと(笑)。


どんな形の続編になるのかはともかく、いずれまたミコトや中堂に会えるかもしれません。それまで楽しみに待ちたいと思います。

【書評した本】 石黒健治 『青春 1968』

2018年06月17日 | 書評した本たち


週刊新潮に、以下の書評を寄稿しました。

石黒健治 『青春 1968』
彩流社 3456円

50年と聞けば遠い過去か、遥か未来を思ってしまう。しかし、そんな単純なものではないようだ。特に「文化」という地下水脈において過去と現在は濃密につながっている。1968年に撮影された俳優、歌手、作家、美術家など130人を超すポートレートを眺めていてそう思う。

この写真集に並ぶのは当時すでに「何者か」であった人たちである。いや、だからこそ石黒はレンズを向けたのだ。被写体を選択する眼は的確で鋭いと言える。私たちは彼らの「その後」を知っているからだ。

巻頭を飾る寺山修司(33歳・以下すべて当時)は、前年に演劇実験室「天井桟敷」を結成したばかり。女優・大山デブ子の背中に頬を寄せ、レンズを正面から見つめる口元には不敵な笑みが浮かんでいる。寺山の旗揚げ公演「青森県のせむし男」などで主演を務めたのは丸山(美輪)明宏(33歳)。本でも読んでいるのか、その横顔のアップは美青年と呼ぶしかない妖しさである。

翌年に「新宿の女」で歌手デビューすることになるのは藤圭子(17歳)だ。特徴のあるおかっぱ頭。パンツスーツの上着のポケットに両手を突っ込んだ少女の表情から、45年後に自死を決意する天才歌手の運命を読み取ることはできない。また2年後に市ヶ谷へと向かう三島由紀夫(43歳)も、セーターにジーンズというラフな服装で何かを見つめている。

この年、フランスではパリを中心に「五月革命」が始まり、チェコスロバキアでは「プラハの春」と呼ばれる民主化運動が起こった。日本でも原子力空母エンタープライズの佐世保入港を阻止する闘争や成田空港建設反対運動などが展開された。

こうした活動の中核を担ったのが学生たちであり、本書には全学連委員長・秋山勝行(26歳)の肖像が収められている。さらに67年の羽田闘争を取材中のジャーナリスト、岡村昭彦(39歳)の姿も見ることができる。まさに同時代ドキュメントだ。

(週刊新潮 2018年6月14日号)

「900万」アクセスに、感謝です!

2018年06月16日 | テレビ・ラジオ・メディア



ついさっき、このブログを見ました。

すると、トータルのアクセス数が「9,001,081PV」となっていました。

「900万」アクセスを超えたわけですね。

まずは、ご覧いただいている皆さんに、感謝いたします!

振り返れば、800万を超えたのが昨年の9月。

700万到達が一昨年のやはり9月でしたので、100万のペースが速まっている感じでしょうか。

ありがたいことです。

ブログの開設が2008年ですから、今年で11年目になります。

この間のさまざまな活動がぜ~んぶ、ここにアーカイブされています。

あくまでも個人のささやかな発信ではありますが、これからも、あれやこれやと書いていきたいと思っていますので、引き続き、どうぞよろしくお願いいたします!

【書評した本】 『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』ほか

2018年06月15日 | 書評した本たち


週刊新潮に、以下の書評を寄稿しました。


矢部万紀子 
『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』

ちくま新書 864円

朝ドラが描く女性の生き方、働き方をめぐるコラム集。『ゲゲゲの女房』(2010年)、『カーネーション』(11年)、『あまちゃん』(13年)、そして『ひよっこ』(17年)など11作品が並ぶ。ヒロインたちの何に共感し、どこに憤るのか。朝ドラは時代を鮮明に映し出している。


柳下毅一郎
『興行師たちの映画史 新装版』

青土社 2,592円

映画が利益だけを目的とする「見世物」だとしたら。そんな刺激的な視点で編まれた陰の映画史だ。リュミエールやメリエスによるエキゾチズムへの誘いに始まり、奇形ホラー映画、セックス映画など、世にエクスプロイテーション(搾取)フィルムの種は尽きない。

(週刊新潮 2018年6月7日号)


バラエティの新機軸、マツコさんとチコちゃんに叱られたい!?

2018年06月14日 | 「ヤフー!ニュース」連載中のコラム


バラエティの新機軸、
マツコさんとチコちゃんに叱られたい!?

今期も新しいバラエティが何本か登場しました。その中で、攻めの姿勢や、新しいことにトライする意欲に注目したい番組があります。バラエティの新機軸は、マツコさんとチコちゃんに叱られたい!?


大胆な設定で攻めていた、
『マツコ、昨日死んだってよ。』(テレビ東京)


最近よく言われる、「元気なテレビ東京」を象徴するような1本でした。先月29日の深夜に放送された『マツコ、昨日死んだってよ。』です。なんと「マツコ・デラックスが急死した」という大胆な設定で進行する異色のバラエティだったのです。

いきなり「ニュース(もちろん架空です)」でマツコさんの「訃報」が伝えられ、街の声やマツコさんをよく知るYOUさん、ミッツ(マングローブ)さんといった面々のコメントが流されます。

スタジオに置かれた棺には白い衣装のマツコさんが横たわり、ナビゲーター役の滝藤賢一さんが「追悼番組」を進行させていきます。ちなみに、マツコさん本人は「棺に入る」以外は聞かされていなかったそうです。

そこから展開されたのは、結構鋭い「マツコ論」でした。自らを「電波芸者」と認識し、テレビというメディアが期待する「マツコ」を披露し続けてきたマツコさん。番組では、マツコさんがテレビの世界を広げたこと、テレビを多様化したことだけでなく、その人気の核には閉塞社会における「違和感の表明」があることも指摘していきます。

さらにこの「追悼番組」の終了後、突然、滝藤さんがスタッフやカメラ(視聴者)に向かって、「お前らがマツコを殺した!」と怒り出しました。続けて、カメラを棺の前まで引っ張って来て、「死に顔を撮れよ!これが見たかったんだろ!」と叫びます。この辺りから「マツコ論」というより、「テレビ論」の様相を呈していきました。

そう、これはテレビによる「テレビ論」の試みだったのです。「(テレビは)これからは枠にとらわれず、不都合に蓋をせず、多様化していかなければ」という滝藤さんの最後の言葉は、まさに自戒の念を込めた制作者たちの決意だと思います。

結局、番組の中では、ほとんど棺の中で寝ていただけのマツコさん。実にゼイタクな“起用法”だったわけですが、マツコさんという存在をテコにしたからこそ可能となった、バラエティの可能性を広げる1本と言えるでしょう。


地上最強の5歳児が攻める、
『チコちゃんに叱られる!』(NHK)


今期の新バラエティ番組の中で、いい感じで“攻めてる”のが、金曜夜の『チコちゃんに叱られる!』(NHK総合)です。コンセプトは明快で、子どもが投げかける「素朴な疑問」に大人として答えてみよう、という雑学バラエティです。

この「素朴な疑問」ってやつが結構難物で、たとえば「空はなぜ青いの?」と聞かれたとき、正確でわかりやすい説明が出来る大人は(私を含め)少ないのではないでしょうか。

番組に登場するのは「チコちゃん」という5歳の女の子です。ただし生身の人間ではなく、頭の部分はCGで、その下はワンピースの着ぐるみなんですね。そして自分の問いかけに、スタジオにいる大人たち(MCの岡村隆史さん他)が答えられないと、目が炎と共に燃え上がり、頭から大量の湯気を噴き出して、「ボーっと生きてんじゃねーよ!」と激怒するのです。これがまた痛快で(笑)。

たとえば、「なぜ高齢者のことをシルバーというの?」という素朴な疑問を投げかけたりします。もちろん大人たちは答えられません。解説VTRでは、45年前に国鉄(現在のJR)が採用したシルバーシートをめぐる再現ドラマ(主演・鶴見辰吾さん)まで作ってしまいます。

また先週は、「なぜサッカーは手を使えないのか?」とチコちゃんが問いかけていました。スタジオの大竹まことさんや高橋みなみさんだけでなく、なんとVTR出演のサッカー解説者・松木安太郎さんも正解を知らなかったぞ(笑)。

何でもサッカーの元祖は「モブフットボール」という競技で、そこではボールを奪い合って殴り合いまであったそうな。そこである時期から「手を使わない」というルールが出来て、それが「サッカー」になったと。一方、手を使っていいフットボールもやりたいということで、それが「ラグビー」になっていったんだって。うーん、なるほど。雑学というか、堂々の教養バラエティですね。

この「チコちゃん」の声を、音声変換で演じているのがキム兄こと木村祐一さん。どんなゲストが来ても当意即妙なやりとりが見事で、チコちゃんの言動が時々関西のオッサンと化すのは番組名物となっています。週に一度、この超個性的な「地上最強の5歳児」に叱られてみるのも悪くありません。

今年上半期に出版された、おススメの「エンタメ本」は!?

2018年06月13日 | 「ヤフー!ニュース」連載中のコラム


今年上半期に出版された、
おススメの「エンタメ本」は!?

出版不況といわれますが、やはり本は面白い! 今年上半期に出版された、映画、テレビなどに関する「エンタメ本」の中から、硬軟取り混ぜて、おススメのものをピックアップしてみました。気になる本があったら、本屋さんで手にとってみてください。


藤波 匠
 『「北の国から」で読む日本社会』

日本経済新聞出版社 918円

1981年に始まり、約20年にわたって放送された国民的ドラマ「北の国から」。富良野で暮す登場人物たちの生活を通じて、社会の変容を解読しようとする試みでした。特に田中邦衛さんが演じた黒板五郎には、脚本を書いた倉本聰さんの思想と実践が色濃く反映されています。


大林宣彦 
『大林宣彦の映画は歴史、映画はジャーナリズム。』

七つ森書館 1944円

この本には、5つの対談や座談会が収められています。「過去の記憶と現在を対話させると未来が見える」と川本三郎さんに語り、「映画は、風化しないジャーナリズムです」と常盤貴子さんに伝える大林監督。肺がんで余命3カ月と宣告された後に、壇一雄原作の新作『花筐(はながたみ)』を完成させたことに拍手です。


樋口尚文 
『映画のキャッチコピー学』

洋泉社 1728円

かつて、映画の宣伝文句は「惹句(じゃっく)」と呼ばれていました。スターで押す、スケール感で煽るなど、観客を誘うアプローチは様々です。本書では洋画・邦画から厳選した傑作を解説しています。「凶暴な純愛映画」は、リュック・ベッソンの『ニキータ』。宮崎駿『もののけ姫』は、ズバリ「生きろ。」でした。


亀和田武 
『黄金のテレビデイズ 2004ー2017』

いそっぷ社 1728円

2004年に始まり現在も続く、週刊誌連載の人気テレビコラムです。対象となる番組は、ドラマからバラエティまでジャンルは問いません。また時には人物にもスポットを当てていきます。何が面白いのか、どう見れば楽しめるのか。判断基準は著者である亀和田さんの興味のみ。掲載されている放送当日の番組表も貴重な資料と言えるでしょう。


芦屋小雁 
『笑劇(しょうげき)の人生』

新潮新書 778円

芸能生活70年目を迎えた芦屋小雁さん。「番頭はんと丁稚どん」「てなもんや三度笠」など人気番組の裏側はもちろん、ケタ外れの映画愛と収集癖、驚きの金銭感覚、さらに3度の結婚までが語られています。読んでいると、NHK朝ドラ「わろてんか」だけでは分からなかった上方芸能の姿も見えてくるのです。


岡田秀則・浦辻宏昌:編著 
『そっちやない、こっちや~映画監督・柳澤壽男の世界』

新宿書房 4104円

柳澤壽男さんは『夜明け前の子どもたち』などの作品を生み出した記録映画作家です。障害者や難病患者、その背後にある社会問題にレンズを向け続けてきました。軌跡をたどる評伝、本人のエッセイ、さらに作品の解読などで構成されている本書は、発見と再発見に満ちた労作です。


川本三郎 
『映画の中にある如く』

キネマ旬報社 2700円

『キネマ旬報』で連載中の「映画を見ればわかること」をまとめた最新刊です。「クロワッサンで朝食を」のライネ・マギの美しさ。「ハンナ・アーレント」から連想する丸山眞男先生。そして、俳優の中で「誰よりも倫理的だった」高倉健さんのこと。映画の細部には神が宿っています。


中村実男 
『昭和浅草映画地図』

明治大学出版会 2700円

映画を「風景の記憶装置」と捉える明大教授が、浅草の歴史と変化をたどります。たとえば川島雄三監督が『とんかつ大将』で描いた戦後復興期の裏長屋。また大林宣彦監督が『異人たちとの夏』で見せてくれた昭和末期の六区。浅草には、懐かしくて切ない物語がよく似合います。


柳下毅一郎 
『興行師たちの映画史』

青土社 2592円

もしも、映画が利益だけを目的とする「見世物」だとしたら。そんな刺激的な視点で編まれた、いわば「陰の映画史」です。リュミエールとメリエスによるエキゾチズムへの誘いに始まり、奇形ホラー映画、セックス映画など、世にエクスプロイテーション(搾取)フィルムの種は尽きません。


矢部万紀子 
『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』

ちくま新書 864円

NHK「朝ドラ」が描く、女性の生き方や働き方をめぐるコラム集。『ゲゲゲの女房』(10年)、『カーネーション』(11年)、『あまちゃん』(13年)、そして『ひよっこ』(17年)など11作品が並びます。私たちはヒロインの何に共感し、どこに憤るのか。朝ドラは時代を鮮明に映し出しています。

日テレ「正義のセ」 吉高由里子を支える安田顕の功績

2018年06月12日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評


日テレ「正義のセ」
吉高由里子を励ます安田顕の解毒作用

今期の連ドラが大詰めとなってきた。「正義のセ」(日本テレビ系)も今週が最終回だ。

主演は吉高由里子。近年は翻訳家(朝ドラ「花子とアン」)や脚本家(日テレ系「東京タラレバ娘」)などを演じてきたが今回は検事である。ヒロインの竹村凜々子は下町の豆腐屋で育った庶民派で、融通がきかない上に感情移入も激しい。

原作は阿川佐和子の同名小説だ。阿川の処女小説「ウメ子」は坪田譲治文学賞受賞作品だが、主人公のウメ子はいつも勇敢な行動で周囲を驚かす。そんな少女が正義感いっぱいの大人になったのが凜々子だと思えばいい。当初「検事に見えるか?」と心配した吉高も回を重ねるうちに凜々子をすっかり自分のものにした。

これまで様々な案件を扱ってきたが、先週は女子高生に対する痴漢事件だった。凜々子は被害者に取り押さえられた男(東幹久)を起訴するが、別に真犯人がいたことが判明。つまり冤罪だ。しかし粘りの捜査の結果、男は他の女子高生(AKB48の向井地美音)を狙ったことがわかる。

一度は検事を辞めようかと悩んだ凜々子を、「あなたはいつも被害者のために闘っています」と言って励ましたのは事務官の相原(安田顕)だ。このドラマでは安田の功績がとても大きい。時々パターンに見えてしまう吉高の表情や台詞回しを補う、解毒剤の役割を果たしているからだ。

(日刊ゲンダイ 2018.06.12)

手持ち資産を生かす戦略商品だった、テレ東「ヘッドハンター」

2018年06月11日 | 「ヤフー!ニュース」連載中のコラム


手持ち資産を生かす戦略商品だった、
テレ東「ヘッドハンター」

テレビ東京が創設した新たな月曜22時枠「ドラマBiz」は、経済を軸に人間や社会を描くドラマという試みです。「経済に強いテレ東」ということで、いわば自社の特色や強みを生かしたコンテンツ開発と言っていいでしょう。その第1弾が「ヘッドハンター」でした。

黒澤和樹(江口洋介)は、転職斡旋サーチ会社「SAGASU」の社長であり、腕利きのヘッドハンター、つまり優秀なスカウトマンです。対象者や企業を徹底的に調査して、双方にとって最良のマッチングを探っていきます。タイトルだけ見ると、何だかヘッドハントの成功物語みたいな印象を受けますが、中身はなかなか奥深いのです。

たとえば第3話のターゲットは、総合商社で数々の事業を成功させてきた熊谷瑤子(若村麻由美)でした。黒澤が大企業への転職を勧めますが、肝心の当人の意思がはっきりしません。しかし、その背後には彼女が抱える大きな秘密がありました。結局、このヘッドハントは不成立に終わるのですが、女性が企業社会で生き抜くことの難しさを浮き彫りにするような出色の一本でした。

また第6話には大手企業の人事部長(宅間孝行)が登場しました。彼は自分の出世のために、容赦のないリストラを敢行しますが、裏では悪徳ヘッドハンター(野間口 徹)と結託。リストラした自社の社員に、条件のいい転職と思わせて、ワケあり企業に人を送り込むのです。黒澤は「転職勧誘の罠」ともいうべき手口を調べ上げ、2人をしっかり追い詰めていきました。

そんな黒澤ですが、なぜヘッドハンターになったのか。過去の謎が徐々に明らかになってきており、「SAGASU」の社長補佐で片腕であるはずの灰谷(杉本哲也)が、かつて同じ会社の同僚だったことも分かってきました。江口洋介は、胸の奥に葛藤を抱えた黒澤という男を、抑制の効いた渋い芝居で好演しています。

また杉本だけでなく、「SAGASU」に出入りするフリー記者の平山浩行、リサーチャーの徳永えり、そして同業者でライバルの小池栄子も、それぞれの役にハマった、いい芝居を見せています。全体としてテレビ東京系の「ガイアの夜明け」「カンブリア宮殿」でおなじみの出演者が多いのですが(笑)、手持ち資産を生かした戦略商品という意味で的確な配役でしょう。

脚本は「ハゲタカ」(NHK)などで知られる、林宏司さんのオリジナル。毎回、転職やヘッドハントの現実を巧みに取り込みながら、企業人が見ても納得のストーリーを構築していました。

【書評した本】 『素人力~エンタメビジネスのトリック!?』ほか

2018年06月10日 | 書評した本たち


週刊新潮に、以下の書評を寄稿しました。


長坂信人
『素人力~エンタメビジネスのトリック!?』

光文社新書 842円

オフィスクレッシェンドという社名は知らなくても、この制作会社が手がけてきた『20世紀少年』(堤幸彦監督)、『TRICK』(同)、『モテキ』(大根仁監督)、『JIN-仁-』(平川雄一朗監督)といった映画やドラマのヒット作を見た人は多いのではないか。

同社を率いる長坂信人は、秋元康氏との縁で「素人プロデューサーを経て素人社長となった」と言うが、それだけで24年も会社経営ができるはずもない。初の著書『素人力 エンタメビジネスのトリック?!』は、いわば「プロの素人」が悪戦苦闘しながら見つけた仕事術や、先輩・恩師から学んだことを伝える一冊だ。

仕事の上では「偶然は必然」と信じ、運を見逃さないためにアンテナを立て、出会った人を大事にする。しかも「最後まで人の話を聞く姿勢」を忘れない。本気の相槌とリアクションを武器に、自己主張の権化たる監督たちとも臆することなく渡り合ってきた。

また力説するのが代案の大切さだ。何かを提案し、否定されたときに「それなら、こちらはどうですか」と即座に出せること。そんな「代案力」を培うのはひとえに経験だと言い切る。経験を伴った知識は強く、知識の集積が知恵を生む。この知恵こそがアイデアであり、代案の源泉なのだ。さらに知恵を発揮するためには「妄想」や「想像」という名の燃料も必要だと。

本書の随所に登場する普遍的な「ものの見方」は、エンタメ業界を超えた多くのヒントを含んでいる。


佐藤 優 『十五の夏』上・下  
幻冬舎 各1944円

五木寛之の小説『青年は荒野をめざす』が出版されたのは1971年。その4年後、佐藤優という15歳の少年がソ連・東欧をめざして旅に出た。虚心のままに出会う街と人が若き知性と感性を刺激していく。すぐれた旅の文学であり、また同時代ドキュメントでもある。


真保裕一 『オリンピックへ行こう!』
講談社 1620円

オリンピックはアスリートたちの夢の大舞台だ。明城大学卓球部の成元雄貴もまた野心に燃えている。わずか3メートル先に立つ相手との死闘。瞬時に放たれる1打に込めた意思と意味。卓球の他に競歩とブラインドサッカーの奥深さも堪能できるスポーツ小説集だ。


清水義範 『定年後に夫婦仲良く暮すコツ』
ベスト新書 864円

「妻とのふたり暮らし」の先達に学ぶ、ストレスの少ない定年後ライフだ。何より建前や無理なことは書かれていないのが有難い。孤独な夫婦であることを喜び、日常をちょっとだけ行動的にしてみるのがコツだ。妻がご機嫌でいることが自分の幸福につながると知る。

(週刊新潮 2018年5月31日号)

産経新聞で、ドラマ「ブラックペアン」 について解説

2018年06月09日 | メディアでのコメント・論評



TBS「ブラックペアン」 
「ドラマの自由」めぐり議論


■学会「現実と乖離」 識者「演出は当然」

大学病院を舞台にしたTBSの連続医療ドラマ「ブラックペアン」(日曜午後9時、二宮和也さん主演)に対し、日本臨床薬理学会が抗議している。劇中に登場する「治験コーディネーター」が患者に多額の負担軽減費を支払う描写などについて、「現実と乖離(かいり)」などと指摘。一方で、識者からは「ドラマ的演出は当然」との意見も出ており、“ドラマの自由”をめぐって議論を呼んでいる。(大塚創造)
                  ◇
同学会では、一般的に治験コーディネーターと呼ばれる職種とほぼ同義という「臨床研究コーディネーター」を認定している。

ドラマ内の治験コーディネーターは、新薬・医療機器の開発に必要な治験をめぐって患者と医療機関とを仲介する役で、医師を接待するシーンが複数回描かれている。同学会が劇中で特に問題視しているのが、医療機器の治験を受ける予定の患者に、治験コーディネーターが負担軽減費として300万円の小切手を手渡す場面だ。

こうした描写に対し、同学会は5月7日付で見解をTBSに送った。文書では負担軽減費について、1回の来院当たり7千~8千円が大半で、多額の負担軽減費で治験参加を誘導することは「厳に戒められて」いると指摘。その上で、患者が不信感を抱き、治験への協力が得られなければ「医療イノベーションを目指す日本にとって大きな損失」と強調し、「あまりにも現実と乖離した描写を避けていただくよう希望する」と訴えている。

TBSはこの見解を受けてドラマのプロデューサーが学会側と話し合っているといい、「実際とちょっと違う部分も誇張した表現もあるのがドラマ。最後まで見ていただければ理解は得られるのではないか」と話す。

インターネット上では、ドラマの影響力の大きさから、誤った認識を視聴者に抱かせるなどと抗議に賛同する意見の一方、ドラマはあくまでフィクションで、逆に認知度向上の好機などと抗議に否定的な意見もあり、賛否は分かれている。

このドラマについて、上智大の碓井広義教授(メディア文化論)は「手術成功率100%の超人的技能と秘めたる野望を持つ天才外科医が主人公だ。不可能を可能にする手術場面などダイナミックな展開で楽しませるエンターテインメント作品である」と評価する。

その上で、「(元フジテレビアナウンサーの)加藤綾子さん演じる治験コーディネーターは原作小説にはなかった脇役の一人。そのキャラクターや仕事ぶりに、他の登場人物と同様、ドラマ的な演出や味付けがなされているのは当然のことだ。物語全体がドラマというフィクションであり、現実に沿った内容に終始するのであれば、医療ドラマだけでなく、刑事ドラマも弁護士ドラマも成立しなくなる」と指摘している。


(産経新聞 2018.06.05)


テレ東「マツコ、昨日死んだってよ。」はテレビ論の試み

2018年06月08日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評


テレ東「マツコ、昨日死んだってよ。」は
“テレビ論”の試み

最近よく言われる「元気なテレビ東京」を象徴するような1本だった。5月29日の深夜に放送された「マツコ、昨日死んだってよ。」だ。なんと「マツコ・デラックスが急死した」という大胆な設定で進行する異色のバラエティだった。

いきなりニュースで訃報が伝えられ、街の声やYOU、ミッツ・マングローブなどのコメントが流される。スタジオに置かれた棺には白い衣装のマツコが横たわり、ナビゲーター役の滝藤賢一が「追悼番組」を進行させていく。ちなみにマツコは「棺に入る」以外は聞かされていないという。

そこから展開されたのは結構鋭い「マツコ論」だ。自らを「電波芸者」と認識し、テレビというメディアが期待する「マツコ」を披露し続けてきたマツコ。その人気の核には、閉塞社会における「違和感の表明」があったことを指摘していく。

さらに「追悼番組」の終了後、突然滝藤がスタッフやカメラ(視聴者)に向かって、「お前らがマツコを殺した!」と怒り出した。続けて「死に顔を撮れよ!これが見たかったんだろ!」と。この辺りから「マツコ論」というより「テレビ論」の様相を呈していく。

そう、これはテレビによる「テレビ論」の試みだったのだ。「これからは枠にとらわれず、不都合に蓋をせず、多様化していかなければ」という滝藤の最後の言葉は、まさに制作側の決意だ。

(日刊ゲンダイ 2018.06.05)

「あたし、キレイじゃないから」と市川実日子さんは言うけど・・・

2018年06月07日 | 「日経MJ」連載中のCMコラム



日経MJ(日経流通新聞)に連載しているコラム「CM裏表」。

今回は、市川実日子さんが出演している、大塚製薬 「エクエルジュレ」CMについて書きました。


大塚製薬 「エクエルジュレ」
仕事も恋も自分流
ヒロインは永遠だ

女優・市川実日子さんにはリケジョ(理系女子)がよく似合う。映画「シン・ゴジラ」ではゴジラの生態を探る、環境省課長補佐・尾頭ヒロミを演じていた。冷静沈着で無表情。しかもその情報処理能力と解析力は抜群だった。

またドラマ「アンナチュラル」では法医学者の三澄ミコト(石原さとみ)を支える臨床検査技師・東海林夕子だ。プライベート優先で合コンの常連だが、仕事は完璧でミコトの信頼も厚かった。

そんな市川さんが姉妹と雑談中だ。彼氏が「(つき合う女性が)キレイ過ぎるとギクシャクする」と言ったらしい。「あたし、キレイじゃないから」とジャブを返すと、彼氏は慌てて「いや、すっごいキレイだよ」とフォローしたと笑う市川さん。なーんだ、のろけ話か。    

30~40代の女性には仕事も恋もマイペースで歩んで欲しい。そんなメッセージが伝わってくる。だって、これからも「ヒロインは、つづく。」のだから。

(日経MJ「CM裏表」2018.06.04)




御礼! 連載対談 「倉本聰 ドラマへの遺言」 100回到達

2018年06月06日 | テレビ・ラジオ・メディア

「倉本聰 ドラマへの遺言」第100回


日刊ゲンダイで、
1月から平日の毎日、
掲載が続いている連載対談
「倉本聰 ドラマへの遺言」が、
6月6日付けで
100回に到達しました。

お読みくださっている
皆さんのおかげです。

ありがとうございます!

まだまだ続きますので、
どうぞよろしく
お願いいたします。




週刊新潮で、「8K」についてコメント

2018年06月06日 | メディアでのコメント・論評


高解像度で日本代表を応援…? 
NHKが突っ走る「8K」に疑問符

ようやくハイビジョンが浸透してきたかと思えば、今や家電店のテレビ売場を占めるのは解像度がその4倍に増えた「4K」。4Kってどれだけ凄いの、なんていってる内に、総務省やNHKでは今度はさらに上をいく「8K」が登場。

特にNHKは8Kに本腰を入れる。12月からは世界に先駆けBSで実用放送を開始の予定。その前哨戦とばかり、来月開催のロシアW杯では「8Kでサッカー日本代表を応援しよう!」と、日本の初戦、19日のコロンビア戦を含む8試合を8Kで流す。臨場感を体感してもらうため、渋谷のNHKみんなの広場、グランフロント大阪など、全国6カ所に大画面パブリックビューイングを設けるそうだ。

8Kの「K」とは単位名に冠し1000倍を表す「キロ」の記号のこと。横の画素数が8000に近いのでこう呼ばれる。画素数の多さ、即ち精細度が高く、大画面なほど映像の臨場感は増す。8Kの臨場感を味わうための理想の画面サイズは80型以上、最低でも畳1枚分ほどの大きさが必要となる。

8Kの解像度は、街の風景なら群衆一人一人の表情から建物の奥行きまで、画面が立体に感じられるほどだ。

上智大学の碓井広義教授(メディア文化論)は、

「スポーツ中継や大自然の風景といった映像だけならともかく、NHKはいずれ大河ドラマなども8Kで流すでしょう。でも、たとえば『西郷どん』篤姫役の北川景子さんが、輿入れが決まり涙を流す感動のシーンを、実物以上の大きさのアップ、毛穴の奥まで見える鮮明さで見たいと思いますか。どんなに高精細な画面と謳われても、一般家庭には過剰な技術だと思いますよ」


8Kで観戦すれば、日本代表が勝つ! というわけでもないしなぁ。

(週刊新潮」2018年5月31日号)


ヒロインも脇役も光る、朝ドラ「半分、青い。」

2018年06月05日 | 「北海道新聞」連載の放送時評


NHK朝ドラ「半分、青い。」
ヒロインだけでなく脇役のキャラクターも光る

主人公が母親の胎内にいる時点から始まったNHK朝ドラ「半分、青い。」。楡野鈴愛(永野芽郁)は、1971(昭和46)年に岐阜県東濃地方で楡野宇太郎(滝藤賢一)と晴(松雪泰子)の長女として生まれた。この両親で思い浮かぶのが「ひよっこ」のヒロイン、谷田部みね子(有村架純)だ。

みね子は64(昭和39)年の「東京オリンピック」の時に高校3年生だった。物語の最後で「すずふり亭」の秀俊と結婚したが、71年には25歳になっているはずで、鈴愛を産んだ晴とみね子はほぼ同世代だ。つまり、「半分、青い。」の背景となっている時代は「ひよっこ」のその後であり、鈴愛も律(佐藤健)もいわば「みね子の子供たち」に当たる。好評だった先行作品との“ゆるやかな連続性”を意識したこの設定は上手い。

加えて岐阜編では、「あまちゃん」で話題となった「80年代文化」も登場した。松田聖子のヒット曲から温水洗浄便座まで様々なアイテムで楽しませてくれたが、このあたりも成功例を踏まえた見事な目配りと言える。

鈴愛は小学3年生の時、片方の耳が聴こえなくなってしまった。朝ドラ史上初の「ハンディキャップを持つヒロイン」だ。しかし、このドラマは「障害も個性だ」という姿勢で貫かれている。鈴愛が「障害のある女の子」ではなく、「個性的でユニークな女の子」として描かれていることに好感がもてる。

現在ドラマの舞台は東京へと移っており、鈴愛は漫画家を目指して修業中だ。元々朝ドラではヒロインが「何かのプロ」になろうと切磋琢磨するのが王道で、これまでも様々な職業に就いてきた。「梅ちゃん先生」の医師、「花子とアン」の翻訳家、「まれ」のパティシエなどだが、変わったところでは「ちりとてちん」の落語家というのもあった。そんな中でも漫画家はかなり異色で、垣間見る創作の現場は視聴者にとっても興味深い。

しかも鈴愛が弟子入りした売れっ子少女漫画家、秋風羽織(豊川悦司)のキャラクターが秀逸だ。長身、長髪、サングラス。徹底的に自分のルールと価値観にこだわる偏屈さ。さらに浮世離れした天才のお茶目な一面もある。

脚本の北川悦吏子と豊川の組み合わせは、95年の「愛していると言ってくれ」(TBS-HBC)、01年の「Love Story」(同)などがあるが、今回、豊川が恋愛ドラマの主演とは違うポジションを大いに楽しんでいることが伝わってくる。ヒロインだけでなく脇役も輝いている朝ドラにハズレはない。

(北海道新聞 2018.06.02)