「週刊新潮」に、以下の書評を寄稿しました。
大沢在昌 『夜明けまで眠らない』
双葉社 1728円
久しぶりのハードボイルド長編である。主人公の久我は傭兵だった過去をもつタクシー運転手だ。客の体から漂っていた血の匂い。置き忘れていった携帯電話。それを手に入れようとする怪しい者たち。望まずとも再び戦いの渦に巻き込まれていく男がここにいる。
太田和彦 『東京エレジー~居酒屋十二景』
集英社 1620円
田端駅近くの「初恋屋」。浅草の「喜美松」と「ぬる燗」。阿佐ヶ谷の「吟雅」。著者が愛する町と居酒屋が登場する随筆集だ。かつて住んだ場所にまつわる回想の中でも、とりわけ信州・松本で過ごした高校時代の思い出を綴った、書き下ろしの文章が印象に残る。
美内すずえ
「『ガラスの仮面』の舞台裏~連載40周年記念・秘蔵トーク集」
中央公論新社 1404円
連載開始から40年。『ガラスの仮面』は現在も続く長寿漫画だ。本書には過去の対談や座談会が収められている。相手は舞台女優、ミュージシャン、漫画家と多彩だ。「世の中がクールになっても(中略)熱いマヤで突っ走っています」という著者の言葉が頼もしい。
(週刊新潮 2017年2月2日号)

つかの間の“ローマの休日”に、終りが近づく。
本来の世界と立場に戻らなくてはならない、アン王女(オードリー・ヘプバーン)。
彼女を戻したくはないが、それができないこともわかっている記者、ジョー・ブラッドレー(グレゴリー・ペック)。
狭いアパートの一室で、2人は別れを惜しむ。
そして、ジョーが静かに言うのだ。
「ままならないのが人生さ」
――映画『ローマの休日』

CMには、若き美男美女があふれています。もちろん、その訴求力は言うまでもありません。しかし、CMを面白くしている立役者は他にもいるのです。それが、おじさんたち。しかも、「怪しいおじさん」たちです。
●全保連「渡したくない」編の岸部一徳さん
持論の一つが、「岸部一徳さんの出演作にハズレなし」だ。
『医龍』(フジテレビ系)や、『ドクターX~外科医・大門未知子~』(テレビ朝日系)などのドラマシリーズだけではない。映画『ハッピーフライト』の運行管理官、『十三人の刺客』の庄屋でも、存在感を示してきた。その場に立つだけで、あれほど“不穏な空気”を醸し出せる役者さんなど、そうはいない。同時に、岸部さんが出ている作品は、間違いなく面白いのだ。
全保連のCM「渡したくない」編で、岸部さんが扮しているのは賃貸物件のオーナー、つまり大家さんである。それも、かなりの心配性。入居者がちゃんと家賃を支払ってくれるかどうかが不安で、マンションの部屋の鍵を手渡すことが出来ない。
早く受け取りたい入居者の青年。そう簡単には渡したくない大家さん。結局、2人は鍵を握り合ったまま、カンフー映画さながらのアクションへと突入していく。スタントも交えた動きは本格的で、ワイヤーアクションの連続技に、唖然としながら笑ってしまう。しかも、岸部さんにはセリフがまったくないのだ。まるで往年のバスター・キートンである。
賃貸保障の全保連は、沖縄に本社を置く会社。これまでは知る人ぞ知るという存在だったが、岸部さんを起用することで、全国的な認知度アップを目指しているそうだ。
●アルペン「青い冬、はじまる バイト先にて」編の堀井憲一郎さん
“スキー場=恋の舞台”というイメージが一般化したのは、いつのことだろう。まず、1987年に公開された、原田知世さん主演の映画『私をスキーに連れてって』の存在は外せない。
そして、この映画以上に影響を与えたのが、89年に登場したアルペンのCMだ。CMソングの最初が、GO-BANG'Sの「あいにきて I・NEED・YOU!」。出演は、松本典子さんと真木蔵人さんだった。
さらに、アルペンの印象を決定づけたのは93年。とにかく広瀬香美さんの曲「ロマンスの神様」が衝撃的だった。その後も、「ゲレンデがとけるほど恋したい」や「真冬の帰り道」などが続いたが、やはり「神様」の強さには敵わない。
あれから24年。アルペンのCM「青い冬、はじまる バイト先にて」編で、懐かしいあの曲を口ずさみながら、スキー場でバイトをしているのは、永野芽郁(ながの めい)さんだ。雑誌「Seventeen」のモデルであり、昨年『こえ恋』(テレビ東京系)でドラマ初主演した新進女優である。
そこへ現れたのが、ロマンスの神様ならぬ、長髪&90年代風スタイルの思いきり怪しいおじさん(「ホリイのずんずん調査」などで知られる、コラムニストの堀井憲一郎さん)。しかも、「スキーに連れてってあげる」などと誘ってくるではないか。しかし芽郁さん、ソッコーで「やだ!」と返事。実はこれ、芽郁さんが見た一瞬の幻想だったというのがオチだ。
先日、あるドラマ賞の審査会で、初めて実物の堀井さんにお会いした。ニコリともせず、鋭くて辛辣なコメントを、絶妙のタイミングで言い放つ、その”怪しいおじさん”ぶりが素敵だった。
時代は変わっても、スキー場が持つ、非日常的ワクワク感は変わらない。この冬も、きっとあちこちのスキー場で、 “ゲレンデがとけるほどの恋”が誕生しているに違いない。

「Nスペ 人権侵害」
小保方氏番組、BPOが勧告
小保方氏番組、BPOが勧告
放送倫理・番組向上委員会(BPO)の放送人権委員会は10日、理化学研究所の元研究員、小保方晴子氏らのSTAP細胞の論文不正問題を特集したNHKのドキュメンタリー番組「NHKスペシャル」について、小保方氏に対する名誉棄損の人権侵害が認められるとして、再発防止に努めるようNHKに勧告した。人権侵害による勧告は委員会の判断としては最も重い。
勧告では、NHKが具体的な根拠を示さないまま、小保方氏が不正行為によってSTAP細胞を作製したと視聴者に受け取られる内容になっており、「編集上の問題があった」と指摘。全国放送されて小保方氏が受けた被害は「小さなものではない」とした。
取材班が小保方氏を執拗に追跡した行為についても「放送倫理上の問題がある」とした。NHKは同日夜のニュースで勧告内容を放送、「真摯に受け止めるが、取材を尽くして制作しており、人権を侵害したものではない」と反論した。
番組は平成26年7月に放送。小保方氏が人権侵害をBPOに申し立てた翌月の27年8月に審理入りしていた。小保方氏は弁護士を通じ、「正当に認定していただいたことを感謝しています。放送が私の人生に及ぼした影響は一生消えるものではありません」とコメントした。
番組制作 自主規制に危惧
今回のBPO勧告は、調査報道の編集のあり方に踏み込み、報道機関に反省を迫る内容となった。識者からは、番組制作の現場に影響を与える可能性を指摘する声もある。
「配慮を欠いた編集上の問題が主な原因」。勧告は、番組を「人権侵害」と判断した理由について、NHKによる番組構成の手法に落ち度があったと結論づけた。勧告後の記者会見で、BPO委員の曽我部真裕京都大教授は「誤解を与えないような(番組の)作り方もできた」と述べ、編集手法に疑問を投げかけた。
一方、NHKによると、同社は今回の番組制作に当たり、100人以上の研究者らを取材。読み込んだ資料も2千ページを超えるとした。NHKは勧告に対し、「客観的な事実を積み上げ、表現にも配慮した」と、編集が慎重に行われたことを強調する異例の反論を行った。
上智大の碓井広義教授(メディア論)は「放送した番組に『人権侵害』の判定を下されるのは、報道機関にとっては痛恨だ。番組制作の現場に無言の圧力が生まれ、自主規制が働くようになるのではないかと危惧される」と指摘している。
(玉崎栄次/産経新聞2017.02.11)

【ZOOM】
人気の鍵は「シンプルさ」?
隠れた高視聴率番組
「さわやか自然百景」「人生の楽園」
人気の鍵は「シンプルさ」?
隠れた高視聴率番組
「さわやか自然百景」「人生の楽園」
ドラマ、バラエティー、スポーツ中継…。これら注目分野の影で、ひそかに支持を集めている高視聴率番組がある。NHK総合「さわやか自然百景」(日曜午前7時45分)は今年度、平均視聴率12%台が見込まれ、テレビ朝日系「人生の楽園」(土曜午後6時)も12%に迫る数字を記録。情報過多の番組が多い中、シンプルで奥深い内容を求める人が増えているようだ。(本間英士)
平均で12%超へ
約15分の自然紀行番組「さわやか自然百景」は、平成10年にスタート。47都道府県の豊かな自然をテーマにした穏やかな内容だ。同番組について、伊豆浩プロデューサーは「日本には土地ごとに特殊な環境があり、そこで生きる動物たちがいる。この番組は人や動物というよりも場所そのものが主人公」と狙いを語る。
これまでの最高視聴率は昨年6月の15・7%。高知・幸島(こうしま)がテーマで、絶滅の危機にある海鳥の繁殖や巣立ちを取り上げた。近年の大河ドラマ並みの視聴率は、放送終了間際に関東地方で比較的大きな地震が発生したことが影響しているとみられるが、番組全体の平均視聴率はじわじわ上がっている。
昨年10月に放送した「屋久島」の回は14・1%を記録。今年度の番組全体の平均視聴率は、初めて12%を超える見込みだという。
「日曜朝は、基本的には情報番組が多い時間帯。そうした内容以外の、爽やかな気持ちになれる番組を見たいという心理もあるのでは」(伊豆氏)
予想外のうれしい反響もあった。鳥や小動物の映像が多いためか、インターネット上では飼い猫が同番組にくぎ付けになる動画が次々とアップロードされた。“猫視聴率ナンバーワン番組”としてひそかな話題になっている。
15%台を複数回
「今週は何かいいことありましたか。私ね、思うんですよ。人生には楽園が必要だってね…」
俳優、西田敏行の独特の語りで始まるドキュメンタリー番組「人生の楽園」は12年にスタート。主に50代以上の夫婦が田舎暮らしを始めたり、飲食店経営を開始したり、第二の人生を歩んでいく様子が描かれる。
「大切にしているのは、何気ない会話や食卓の風景など、ご夫婦の『ありのままの日常』を自然に撮ること。ゆったりと温かみのある番組なので、土曜日の夕方に見るのにちょうどよいのだと思う」。森川俊生プロデューサーはそう語る。
これまでの最高視聴率は、26年3月の15・4%。最近はドラマでも難しい15%台を、複数回マークしたことも。昨年1年間の平均視聴率は11・9%だった。
同番組ではこれまで、800組を超える夫婦を紹介してきた。森川氏は「取り上げたのは自身の努力で“楽園”をつかんだ人たち。高齢化の進展で、第二の人生をどう生きるか、多くの視聴者の関心事になっている」と語る。
大画面も追い風
なぜ、これらの番組が人気を集めるのか。上智大の碓井広義教授(メディア論)は、「週末」「引き算の番組作り」という2つのキーワードを挙げる。
「週末は気楽な気持ちでテレビを見たいもの。これらの番組は、大自然や、ゆったりとした暮らしの人たちを取り上げるので、見ていてホッとする。ネタや情報を詰め込んだ番組があふれる現在、シンプルかつ余計な情報を削(そ)いだ番組も求められている」
「テレビの大画面化も追い風になった」と語るのは、「人生の楽園」の森川氏だ。「雄大な自然や野菜の収穫シーンなどは、大きい画面で見るとグッとくる。自然番組へのニーズは高まっているのでは」
NHK総合「小さな旅」(日曜午前8時)や、日本テレビ系「ぶらり途中下車の旅」(土曜午前9時25分)など、週末は旅番組も根強い人気を誇る。碓井教授は「テレビの“大票田”である年配の人からの支持を集めているのが大きい」と分析している。(視聴率はいずれもビデオリサーチ調べ、関東地区。放送時間は一部地域で異なる)
(産経新聞 2017.02.07)

北海道新聞に連載している「碓井広義の放送時評」。
今回は、「カルテット」と「就活家族」について書きました。
冬ドラマの意欲作
スリリングな会話と展開
スリリングな会話と展開
4人のアマチュア演奏家がカラオケボックスで知り合う。バイオリンの真紀(松たか子)と別府(松田龍平)、ヴィオラの家森(高橋一生)、そしてチェロのすずめ(満島ひかり)だ。彼らは、別府の祖父が持つ軽井沢の別荘を拠点に、弦楽四重奏のカルテットを組む。ゆるやかな共同生活も始まった。
新ドラマ「カルテット」(TBS―HBC)は、音楽を梃子(てこ)にして、冬の軽井沢を見事な“ドラマ空間”に仕立てた設定がうまい。夫が謎の失踪を遂げたという真紀。その夫の母親(もたいまさこ)から、真紀の動向を探ることを依頼された、すずめ。家森は怪しげな男たちに追われている。さらに別府の事情や本心も不明のままだ。
そんな4人が、鬱屈や葛藤を隠しながら交わす会話がスリリングで、“行間を読む”面白さがある。舞台劇のような言葉の応酬は、脚本家・坂元裕二の本領発揮だ。また、一つ一つの台詞がもつニュアンスを絶妙な間(ま)と表情で伝える役者たちにも拍手だ。いい意味で独特の暗さがあり、万人ウケはしないかもしれない。しかし続きが見たくなる、クセになるドラマとして、今期一番の出来だ。
安定していたはずの家庭が、ふとしたきっかけで危機に陥っていく。「就活家族~きっと、うまくいく~」(テレビ朝日―HTB)の舞台は家族4人の富川家だ。夫の洋輔(三浦友和)は元・大手企業人事部長。妻の水希(黒木瞳)は中学教師。娘の栞(前田敦子)はOL。そして弟の光(工藤阿須加)は就職活動中の大学生である。
最初は役員就任が目前だった洋輔にトラブルが発生した。リストラの通告を受けた女性社員(木村多江)がセクハラ疑惑をでっち上げ、会社に訴えたのだ。背後には社内の出世争いがあったのだが、洋輔は子会社への出向を拒否。結局、退職の憂き目に遭う。しかも苦境は洋輔だけではない。怪しげな就活塾に入った光の就職問題、水希の雇用延長問題、さらに栞が受けるパワハラ問題など、まさに問題山積の展開だ。
作りは堂々の社会派ホームドラマである。リストラも就活もリアルなエピソードばかりで、見ていて息苦しいほどだ。願わくば、もう少しユーモアがあるとありがたい。とはいえ、この年代の男の強さともろさを見せる、三浦友和の演技と存在感が光る。これだけで一見の価値がある。昨年の「毒島ゆり子のせきらら日記」(TBS―HBC)で演技に開眼したはずの前田敦子にも期待したい。
(北海道新聞 2017.02.06)

日経MJ(流通新聞)に連載しているコラム「CM裏表」。
今回は、岸部一徳さんが出演している、全保連のCMについて書きました。
全保連「渡したくない」編
「大家」岸部さんに認知度アップ託す
「大家」岸部さんに認知度アップ託す
持論の一つが「岸部一徳さんの出演作にハズレなし」だ。『医龍』(フジテレビ系)や『ドクターX~外科医・大門未知子~』(テレビ朝日系)などのドラマシリーズだけでなく、映画『ハッピーフライト』の運行管理官や、『十三人の刺客』の庄屋でも存在感を示してきた。
出てくるだけで、ここまで“不穏な空気”を醸し出せる役者など、そうはいない。今回、岸部さんが扮するのは賃貸物件の大家さんだ。入居者がちゃんと家賃を支払ってくれるのかが不安で、マンションの鍵を手渡すことが出来ない。
結局、鍵を握り合ったまま、カンフー映画さながらのアクションへと突入していく。スタントも交えた動きは本格的で、唖然としながら笑ってしまう。しかも岸部さんにはセリフがまったくない。まるで往年のバスター・キートンだ。
賃貸保障の全保連は沖縄に本社を置く会社。岸部さんを起用することで全国的な認知度アップを目指している。
(日経MJ 2017.02.06)

日刊ゲンダイに連載しているコラム「TV見るべきものは!!」。
今回は、ドラマ「バイプレイヤーズ」について書きました。
テレビ東京系
「バイプレイヤーズ
もしも6人の名脇役がシェアハウスで暮らしたら」
パロディーの煙幕に隠された“本当のこと”
「バイプレイヤーズ
もしも6人の名脇役がシェアハウスで暮らしたら」
パロディーの煙幕に隠された“本当のこと”
大杉漣、遠藤憲一、松重豊、寺島進、光石研、田口トモロヲ。いずれも脇役でありながら、時には主役を「食っちゃう」ほどの実力派俳優だ。この6人を集めたドラマがテレビ東京系「バイプレイヤーズ(脇役たち)」である。しかも遠藤の役名は「遠藤憲一」で、大杉もまた「大杉漣」という役者を演じる“ひねり技”だ。
ある日、彼らに仕事が舞い込む。チャン・イーモウ監督が「七人の侍」をリメークするという。主演は役所広司で、残りの主要人物への大抜擢だ。ただし条件があり、役者同士の絆を深めるため、クランクインまでの3カ月間、合宿生活を送らなくてはならない。6人は即座に快諾し、奇妙な日常が始まった。
彼らが参加しているドラマの現場の“あるある感”が半端じゃない。遠藤と松重の刑事ドラマ「相方」では、スタッフの間に「2人は仲が悪い」という噂が広まり、本人たちも疑心暗鬼に。また光石は「W不倫の悲劇」の共演者、山口紗弥加(本人)と実際に不倫関係に陥りそうになる。
毎回ドラマや芸能界をネタに連射される、“ちょっと危ない話”が堪らなくおかしい。NHKや民放各局が実名で登場。あの「文春砲」も話題になる。6つの個性のぶつかり合いはもちろん、パロディーの煙幕に隠された“本当のこと”を探してみるのも、この深夜ドラマの醍醐味だ。
(日刊ゲンダイ 2017.02.08)

フジテレビ上層部
今クールも大コケ! 月9を「やめる」「やめない」大モメ会議
今クールも大コケ! 月9を「やめる」「やめない」大モメ会議
『家政婦のミタ』や『半沢直樹』『逃げ恥』『ドクターX』など、テレビ離れが叫ばれる昨今でも、大ヒット作は現れる。ただしフジテレビ以外から。
かつてあれだけ若者を魅了した月9はどうなるのか?
■竹野内豊に逃げられた!
もう誰も驚かない。フジテレビの看板ドラマ枠「月9」が今クールも大ピンチに陥っている。
西内まりや主演の『突然ですが、明日結婚します』は、第1回(1月23日)の視聴率が8.5%と無残な結果に終わった。これは初回視聴率としては月9歴代ワーストだ。
「局内では『もっと低いと思っていたよ』と公然と言う社員もいました。そもそも今回は竹野内豊が主演し、脚本家・山田太一の長女でフジのドラマ班のエース、宮本理江子が演出する予定でした。宮本はこれまで中井貴一主演の『風のガーデン』や小泉今日子主演の『最後から二番目の恋』を手がけていました。現場はこれまでにない見応えのある作品を作ろうとしていたんですよ。ところが、企画内容が竹野内の所属事務所と折り合わず、白紙になってしまった。まったく違う企画で急遽代わりの主演を探し、たまたまスケジュールが空いていた西内を起用することになったんです」(フジテレビ関係者)
かつて誰もが主演したいと願った月9の権威は消えてしまった。放送前の会見で、西内は「実は海外留学の予定でした」と明かし、相手役のミュージシャン・山村隆太もオファーは「11月末の突然の話」と告白。共演する沢村一樹には年末に打診があったという。
「主要キャストに舞台ウラのドタバタをバラされてしまったわけです。第1回も放送の2日前まで撮影しており、スケジュールもギリギリ。このままでは途中で打ち切りになるのではないでしょうか」(スポーツ紙担当記者)
ストーリーもいまの時代に求められているものとは言い難い。西内が演じるのは大手銀行勤務のキャリアウーマン。結婚願望の強い彼女が、独身主義のイケメンアナウンサーと恋に落ちる。
元テレビプロデューサーで上智大学教授の碓井広義氏が言う。
「視聴者はちゃんと見るべきドラマを見極めています。美男美女が紆余曲折を経て最後は幸せになるという流れが見なくても分かる。見る動機がないんです。視聴者と感覚がズレてしまっている。この作品はテレビマンとして本当に作りたいドラマなんでしょうか」
月9は昨年放送の4作品が、いずれも平均視聴率ヒトケタに終わっている。
福山雅治主演の『ラヴソング』が8.5%、ジャニーズの山田涼介主演の『カインとアベル』が8.2%で、歴代ワーストの数字を次々と更新したが、今クールはさらに低調に終わる可能性が出てきた。
『月9 101のラブストーリー』の著者で評論家の中川右介氏が語る。
「俳優を決めてから脚本を作っていくスタイルで、月9がピークを迎えたのは'97年頃です。昨年は、月9の凋落を決定づけたような年でしたね。恋愛モノが時代の雰囲気に合わなくなったという声もありますが、TBSの『逃げ恥』がヒットしたことを考えるとそうでもない。フジは試行錯誤するものの、放送前に『今回もダメだ』という声が広まり、視聴者側もどこか色眼鏡で見てしまうんです」
フジが月曜9時から連ドラを撤退する日がついに現実味を帯びてきた。
■若い女性が見てくれない
昨年10月の定例会見でフジの亀山千広社長は、月9の終了について、「微塵も考えていない」と断言したが、別のフジ関係者は次のように語る。
「エースだった加藤綾子アナの退社がスポーツ紙に報じられた際、亀山社長は『絶対ない』と否定したものの、結局、加藤は独立しました。亀山社長がどんなに月9撤退を否定しても、むしろ信じられるものではありませんよ。実際には、月9の主演をやりたがる大物俳優がどんどんいなくなっているのが現状なんです」
フジテレビ局内でも、編成担当者は「月9」が役割を終えたことは十分に理解しているという。
「月9のターゲットはF1層と呼ばれる20~34歳の女性です。まず、今のこの世代は連ドラを見る習慣がありませんし、恋愛をドラマで学ぶ世代でもない。しかも実は25年前に比べて、この年代の人口は約25%も減少しています。単純計算で視聴率を10%取っていたものが、7.5%しか取れない。月9の視聴率が下がるのは宿命づけられていると言えます」(番組制作会社プロデューサー)
視聴者が不在。ならば月9は路線を変更して、若い女性ではなく、年配の男性に向けて、『半沢直樹』のような人間ドラマがメインの重厚な作品を作ればいいのではないかと思いがちだが、そう簡単でもないという。
「『半沢直樹』がヒットしたのは、日曜夜だからです。月曜9時はサラリーマンが帰宅して、ゆっくりテレビを観られる時間帯ではありません。在宅していても、年配の男性層はNHKの『ニュースウオッチ9』を見る習慣がある。だから、月9はそれと重ならない若い層を狙ってきたんです。すでにTBSがサスペンス系の2時間ドラマを放送しており、月9を年配の男性向けにシフトしても失敗は目に見えています」(前出・プロデューサー)
■そこそこ儲かるから……
どうすればヒットが生まれるのか、フジの制作の現場は会議で頭を悩ませているという。
「このままでは視聴率がとれないことは分かっていますが、'90年代に上層部がお世話になったしがらみがあって、主演級のキャストは大手芸能事務所の若手を起用しなければならない。そうすると必然的に恋愛モノになる。人間ドラマは演技力が必要ですから……」(フジテレビドラマ制作関係者)
制作の現場は上司からこの2つだけを厳命されているという。
「大物を起用しろ」
「原作モノをとってこい」
前出の関係者が続ける。
「このどちらかでなければ、企画が通りませんから、粛々と従うだけです。制作費も減らされて、2年ほど前から月9でさえ、ロケバスの使用やエキストラの人数を節約しています。もはや中身を変えたくても、変えられません。ドラマの制作担当者が一堂に集まる会議は恒常的にはありませんので、月9の今後をどうするかを話し合うことはありませんが、危機感は共有していると思います。ただそれを上に吸い上げてもらう機会がないんですよ」
別のフジの中堅社員はこう明かす。
「編成担当者の会議では、月9を中心としたドラマ枠を今後どうするか話し合っています。『月9は看板だから続けるべきだ』という考えの社員もいますし、低迷が続くだけだから、月9のドラマは終わらせたほうがいいという意見も当然あります。ただ、その後に何をやるのか。数字を獲れるようなバラエティの企画なんてありません。しかも月9はこれだけ低迷しても広告の単価が他のドラマより高いんです。月9ドラマを終わらせてもこれまでと同じようにスポンサーから広告を取れるかどうかわからない」
月9を終わらせたくても、現状から変えられないのが、実情のようだ。
「ドラマの現場責任者である制作局長とその直属の部下2人が月9低迷の対策を話し合っているようですが、結局のところ月9をゼロから見直すという案を役員レベルに提案することができていない。それが一番の問題だと思います」(フジ関係者)
月9の絶頂期を知る日枝久会長、亀山千広社長の元では、なかなか抜本的な改革はできないという事情もある。
「亀山社長はプロデューサーとして'90年代に『あすなろ白書』や『ロングバケーション』『ビーチボーイズ』などを手がけて大ヒットさせた。月9に対する思い入れがとにかく強い。なんとしても現状のまま立て直すということしか考えていない。
昨年から幹部の間では『月9不要論』は何度も浮上しています。しかし、いまの日枝体制では目立つ失敗をすれば、すぐに左遷させられる。月9がジリ貧なのは分かっていても、広告収入はそこそこ入る『儲かる枠』なので、大きなリスクを冒してまで月9を改革しようという部長、局長はいないんですよ」(フジ関係者)
■またジャニーズかよ!
八方塞がりのなか、月9は春から「ジャニーズ攻勢」に出る。
「4月クールの主演は、NHK紅白歌合戦の司会も務めた『嵐』の相葉雅紀で、人気ミステリー小説『貴族探偵』を映像化する予定です。共演者に大物女優をキャスティングすることに躍起になっていましたが、なんとか仲間由紀恵が内定しそうだと聞いています。
さらに7月クールには、これもジャニーズのアイドル、山下智久主演で医療ドラマ『コード・ブルードクターヘリ緊急救命』のパート3が内定しています」(前出・フジ関係者)
そして10月クールには、満を持して、木村拓哉が主演するという。
「キムタクは'96年の『ロングバケーション』から始まって、月9には計10作品に主演しています。『ラブジェネレーション』('97年)で30.8%、『HERO』('01年)で34.3%という怪物的な平均視聴率を叩きだした木村に『夢をもう一度』と託すわけです。これがコケたら、さすがに亀山社長も月9を終わらせる決断をするしかないでしょうね」(前出・関係者)
キャスティング頼みと視聴者に揶揄されているなかで、ジャニーズのタレントを3連投。さらに月9のイメージを支えてきたキムタクで最後の大勝負に出るというわけだ。
だが、「またジャニーズか」という感は否めず、厳しい戦いになるのは目に見えている。
「枠そのものが復興するには、キムタクだけでは足りない。月9という枠としての衰退はもはや止められない。月9ブランドを一度壊すという選択をしたほうがいいでしょうね」(前出・碓井氏)
フジの制作現場でも、いまのキムタクが20%を獲るのは難しいということは分かっている。
別のフジの社員がタメ息まじりで明かす。
「現場には厭世観が漂っていますよ。『テレ朝の「ドクターX」なんて、まるで「水戸黄門」のような古臭いドラマだよ』なんて軽口を言う幹部もいますが、自分たちは数字をまったく取れていない。月9の制作費には直接影響しませんが、昨年、トヨタが月9のスポンサーから降りたことも大きい。このままでは営業サイドも黙っていない。東芝の経営危機で、『サザエさん』だってどうなるか分からない時代ですから。
基本的にテレビ局の営業は半年かけて広告を売っていきます。10月にキムタクドラマが始まるときには、すでに次のドラマの営業活動は始まっています。だから月9のドラマ枠がなくなるとしたら、来年春からでしょうね。どうせ低視聴率なら、もっと実験的な番組を始めたほうがいい。それにしても『笑っていいとも!』『SMAP×SMAP』に続いて、月9まで終わったら、フジには何が残るんでしょうか……」
フジテレビが再び面白いドラマを作り出してくれるのを待っている視聴者もいる。
(週刊現代 2016年2月11日号)

ドラマ『カルテット』(TBS系)の脚本は、『Mother』(日本テレビ系、10年)『最高の離婚』(フジテレビ系、13年)などを手がけてきた坂元裕二だ。メインの役者が松たか子、松田龍平、高橋一生、満島ひかり。チーフプロデュース・演出は、『重版出来!』『逃げるは恥だが役に立つ』の土井裕泰である。これだけの豪華メンバーがそろって、一体どんな物語を見せてくれるのか。
先が読めないストーリー
4人のアマチュア演奏家が、カラオケボックスで出会う。バイオリンの真紀(松)と別府(松田)、ヴィオラの家森(高橋)、そしてチェロのすずめ(満島)である。偶然かと思ったが、どうやらそうではなかったようだ。
彼らは、世界的指揮者である別府の祖父が持つ軽井沢の別荘を拠点に、弦楽四重奏のカルテットを組むことになる。簡易合宿のような、ゆるやかな共同生活も始まった。冬の軽井沢という”舞台”。音楽を梃子(てこ)にした”ドラマ空間”。まずは、一見強引とも思える、この設定がうまい。
4人に共通しているのは音楽との関係だ。プロへの夢を追い続けるのか、趣味として音楽を続けるのか、そんな二者択一から逃避した保留状態にある。一方、彼らが抱える過去や背景は、当然のことながら、それぞれに異なる。
夫が謎の失踪を遂げたという真紀。それは果たして本当に失踪なのか、それとも事件なのか。夫の母親(もたいまさこ、怪演)から、真紀に近づいて動向を探ることを依頼されたのが、すずめだ。彼女は子供時代、父親(作家・高橋源一郎、びっくりの快演)に従って、詐欺まがいを行っていた経験をもつ。家森は、何やら怪しげな男たちに追われているが、単なる借金取りとかではなさそうだ。さらに別府の事情や本心も不明のままだ。
台詞の“行間を読む”面白さ
そんな4人が、鬱屈や葛藤を押し隠し、また時には露呈させながら、互いに交わす会話が何ともスリリングなのだ。それは1対1であれ、複数であれ、変わらない。見る側にとっては、まさに“行間を読む”面白さがある。ふとした瞬間、舞台劇を見ているような、緊張感あふれる言葉の応酬は、脚本家・坂元裕二の本領発揮だろう。そして、台詞の一つ一つがもつ”ニュアンス”を、絶妙な間(ま)と表情で見せてくれる、4人の役者たちにも拍手だ。
このドラマは、サスペンス、恋愛、ヒューマンといった枠を超えた、いわば「ジャンル崩しの異色作」と言える。ここには、『重版』の黒沢心や、『逃げ恥』の森山みくりのような、つい応援したくなる“愛すべきキャラクター”はいない。だが、4人ともどこか憎めない、気になる連中なのだ。
いい意味で独特の暗さもあり、幅広く万人ウケはしないかもしれない。しかし続きが見たくなるドラマ、クセになるドラマとしては、今期ピカイチの出来だ。

没後10年、克明な日記を含む、
鬼才研究の起点となる1冊
樋口尚文『実相寺昭雄 才気の伽藍』
鬼才研究の起点となる1冊
樋口尚文『実相寺昭雄 才気の伽藍』
実相寺昭雄監督が亡くなったのは2006年11月29日のことだ。69歳だった。昨年が没後10年。今年は生誕80年を迎える。
1960年代にTBS系で放送された、「ウルトラマン」「ウルトラセブン」「怪奇大作戦」などで知られる実相寺監督。その後も長編映画デビュー作「無常」をはじめ、「帝都物語」などの映画、音楽番組やオペラの演出でもその才能を発揮した。
私と監督との出会いは、テレビマンユニオンに参加した81年だ。以来、監督が亡くなるまでの25年間、旅番組「遠くへ行きたい」やドラマ「波の盆」(芸術祭大賞受賞)などの制作を通じて師事してきた。いつも現場で驚かされたのは、創ろうとする映像の明確なイメージであり、それを実現する巧みな技術だ。
これまでも実相寺監督に関する優れた論評が発表されてきた。しかし、その多くは特撮シリーズについてだったり、映画に特化していたりと、ある側面は押さえているものの、全体像を捉えているとは言えなかった。
本書の最大の功績は、ウルトラマンからクラシック音楽、小説や随筆までの広がりと奥行きを持つ監督の取り組みを、総合的・立体的に再構成し、その全貌に迫ろうとしていることだ。それを支えているのが、監督が遺した膨大な資料の数々である。中でも18歳に始まる克明な日記は、人間・実相寺の、まさに“実相”を探る貴重な手がかりとなっている。
その上で著者は、監督の特異性を「映画とテレビの技術のアマルガムであるテレビ映画独特の手法を一貫して作家性としたこと」に見出す。そして、この手法を具現化してきたのが撮影の中堀正夫、照明の牛場賢二、美術の池谷(いけや)仙克(のりよし)(昨年10月没、合掌)という「実相寺組」の名匠たちだ。
本書では中堀カメラマンの証言も挿入しながら、実相寺調と呼ばれる独特の映像美を分析している。今後の実相寺研究は、本書を起点とすることで展開されていくはずだ。
(週刊新潮 2017年1月26日号)

桑子真帆アナが「ニュースウオッチ9」に大抜擢
NHKのウラ事情
NHKのウラ事情
春の番組改編を目前に控え、NHKで、目玉人事があるという。平日午後9時から放送の報道番組「ニュースウオッチ9」でのことだ。
「2015年4月から、河野憲治キャスター(54)、鈴木奈穂子アナ(35)のコンビで臨んでいますが、昨秋頃から視聴率が低迷し、10%を切ることもあった。今年1月下旬に行われた、番組の出演者を検討する『キャスター委員会』で2人の降板が決定的となりました」(NHK関係者)
低迷の原因として問題視されるのが、河野キャスターだという。河野キャスターはワシントン支局長を歴任するなど、国際畑を歩んできた。
「決して人は悪くないが、キャスターとしては物足りなさがある。あらかじめ決められたコメントしか言わないし、関心の幅も狭く、アメリカ情勢以外のことにはまるで興味がない様子でした」(同前)
後任として白羽の矢が立ったのが、現在「ニュースチェック11」に出演中の桑子真帆アナ(29)と有馬嘉男キャスター(51)だ。桑子アナは10年入局で現在7年目。「ブラタモリ」では2代目アシスタントを務め、タモリ相手に物怖じせず、軽妙な掛け合いをするキャラクターがお茶の間の人気を呼んだ。
「入局当初は失敗も多く、ニュース原稿をよく噛んでいたので、付いたアダ名が“噛み子アナ”。でも、『ブラタモリ』に出演してからは一皮むけたようです。今も有馬さんと共に、上手く番組を回している。気さくで人懐っこい性格なので、上層部からの好感度も高い」(別のNHK関係者)
そして、今後「ニュースチェック11」は国際部の女性記者が担当するとみられる(新年度のキャスターについて、NHK広報局は「2月中に発表する予定」と回答した)。
NHKは、1月25日に籾井勝人氏(73)に代わる新会長として上田良一氏(67)を迎えたばかり。今春の番組改編は、上田新体制の今後を占う上でも重要な意味を持つ。
「『ニュースウオッチ9』はNHKの顔とも言える番組です。桑子アナで視聴率は期待できますが、『ブラタモリ』のようなカジュアルな雰囲気が入り込み、NHKの民放化などと批判される可能性もある。その点は留意すべきです」(上智大学・碓井広義教授)
果たして桑子アナはNHKの顔になれるか。
(週刊文春 2017年2月9日号)
「報道ステーション」視聴率急降下
古舘後任の無害な優等生
古舘後任の無害な優等生
局アナに「看板」を背負わせるのは酷だったか――。テレ朝局内ではそんな声が漏れ始めているという。
富川悠太アナ(40)が古舘伊知郎氏から「報道ステーション」のメインキャスターを引き継いだのは昨年春。だが、大抜擢から1年を待たずに、優等生すぎる「夜の顔」には予想外の数字が突きつけられていた。
「上期最大の収穫のひとつは報道ステーションのリニューアルが成功したこと」
昨年9月、テレ朝の早河洋会長はそう胸を張った。
確かに、昨年度「上期」の平均視聴率は古舘時代と変わらない11・4%を記録。日によっては13~14%台を叩き出すことも珍しくなかった。ところが、
「ここ最近、目に見えて数字が急降下しているのです。特に、1月はかなりひどい」
テレ朝関係者はそう打ち明けるのだ。
たとえば、4日の視聴率は過去最低クラスの6・7%。裏番組が新年のバラエティ特番に占拠されていたとはいえ、「看板番組」らしからぬ数字である。
さらに、第2週の平均も9・38%と、1桁台に落ち込んでしまっている。
失速の理由については、
「まず、『ドクターX』が12月末で最終回を迎えたことです。コンスタントに20%前後の視聴率を稼ぐドラマが21時台にあったお陰で、後に続く『報ステ』の数字は木曜だけ2~3%底上げされていた」(同)
もっとも、別の中堅局員に言わせると、
「富川さんに代わってから『報ステ』が好調だったのは、単にニュースに恵まれただけです。就任直後の熊本地震にはじまり、舛添前都知事の金銭疑惑にリオ五輪など、世間の耳目を引くニュースが続いた。正直なところ、現在の数字が富川アナの“実力”なのだと思います」
■毒にも薬にもならない
とはいえ、富川アナの「優等生」ぶりは局内でも知られたところ。
リポーター時代は日本中を駆け回った現場の叩き上げで、メインキャスターになってからも仕事には人一倍熱心だという。
「『報ステ』の放映後、反省会が終わるのは深夜12時過ぎになりますが、富川さんは飲みの誘いも断って明け方まで新聞を読み込んでいる。ただ、マジメな反面、独自の視点や切り口に乏しく、番組内容にもほとんど口出しはしない。前任の古舘さんは全ての原稿を自らチェックして、オンエア直前にニュースを差し替えることも日常茶飯事でした。それこそ、30秒程度のストレートニュースすら気に入らなければ変更していた。うるさ型のキャスターが消えたことで、スタッフも緊張感に欠けるのです」(同)
年間出演料が「約12億5000万円に上った」(同)という古舘氏の降板がコストダウンに繋がり、官邸の怒りを買うリスクが減じたのも間違いない。
だが、毀誉褒貶の激しい個性派からバトンタッチされた無害な優等生は、
「淡々とニュースを捌くだけで、毒にも薬にもならない印象です」
とは上智大学の碓井広義教授(メディア論)の評。
「古舘さんや久米宏さんの時代はアンチを含め、常にその発言に注目が集まった。古舘さんを切って制作費が浮いたとしても、看板番組が視聴率を獲れなければリニューアルに成功したとは言えません」
いかに優等生といえども、視聴率が赤点ではキャスターとしての落第は免れない。
(週刊新潮 2017年2月2日号)

日刊ゲンダイに連載しているコラム「TV見るべきものは!!」。
今回は、ドラマ「東京タラレバ娘」について書きました。
「東京タラレバ娘」の見方
特殊効果も笑って楽しめばいい
“アラサー女子のリアル”を標榜するのが、「東京タラレバ娘」(日本テレビ系)だ。脚
本家の倫子(吉高由里子)、ネイリストの香(榮倉奈々)、実家の居酒屋を手伝う小雪(大島優子)の3人は高校時代からの親友。いつも小雪の居酒屋に集まり、恋や仕事のタラレバ話で盛り上がっている。
そこへ現れたのがモデルのKEY(坂口健太郎)だ。いきなり「そうやって一生、女同士でタラレバつまみに酒飲んでろよ!」と一喝。3人組は凍り付く。
倫子は、かつて自分が失恋させたADで、現在はプロデューサーの早坂(鈴木亮平)にアプローチして失敗。ふとしたことから、KEYと一夜を共にしてしまう。
また香も、かつて恋人だったミュージシャンで、現在はスターとなった鮫島涼(平岡祐太)に誘われ、同じく一夜を。さあ、次回は小雪か? という流れだ。
これって、3人組のリアルというより、恋と仕事に関する“勘違い”が炸裂するラブコメディーだ。
例えば倫子。自分の脚本が売れない理由を「恋愛にブランクあり過ぎて、今どきの若い子の恋愛観、書けなくなってた」などと言う。
それは違うだろう。脚本家は自分の体験だけで書くわけじゃない。殺人などの犯罪ドラマや時代劇はどうする?
といったツッコミをしながら、飛んでくる矢に鉄球などの特殊効果も含め、笑って楽しめばいい。
(日刊ゲンダイ 2017.02.01)