碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
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オリコンニュースで、『今日からヒットマン』について解説

2023年12月02日 | メディアでのコメント・論評

 

 

『今日からヒットマン』

相葉雅紀、40歳妻子持ち設定で新境地 

愛すべき“おじさん”主人公を好演

 

嵐・相葉雅紀(40)が主演するテレビ朝日系連続ドラマ『今日からヒットマン』(毎週金曜 後11:15 ※一部地域を除く)。

第1話では、パンツ一丁の姿で体を張った演技が話題となった同作だが、「嵐」が活動休止となり2021年には結婚も発表、今年41歳を迎える相葉にとってこれまでアイドル像を壊し、“おじさん”も売りにした新境地を開拓した作品となったのではないだろうか。

同作は、2005年~2015年まで『週刊漫画ゴラク』(日本文芸社)にて連載された漫画家・むとうひろし氏によるガンアクション漫画をドラマ化。相葉は、ある日突然、伝説の殺し屋の名を継ぐことになる平凡なサラリーマン・稲葉十吉を演じる。

脚本は『ゴッドタン』や『バナナサンド』など人気バラエティー番組の構成作家を務めるオークラ氏が担当し、監督は嵐が出演する映画『ピカ☆★☆ンチ LIFE IS HARD たぶん HAPPY』(ピカンチハーフ)を手掛けた木村ひさし氏が務めることでも注目を集めた同作。

第1話では、敵に捕らえられてパンツ一丁になり、しかもパンツの中に銃を隠し持ちあたかも卑猥(ひわい)なことを連想させる流れで股間の銃をぶっ放し、敵を倒してしまうコメディー色強めの展開に。

メディア文化評論家の碓井広義氏は、「アイドルとしてやってきた相葉さんが、ここまで体を張っていることに非常に驚きましたが、そこに一種の“覚悟”のようなものを感じました」とコメントする。

これまで相葉といえば、嵐のメンバーとしての「バラエティー担当」イメージが強い。役者業についてはこれまでも数多くのドラマに出演してきてはいるが「二宮和也さんや松本潤さんに比べると、まだ一般的な評価が低いのも事実です」と碓井氏は語る。

しかし今回の役柄に関しては、ネットで辛辣(しんらつ)な意見がほとんど見当たらないそうで「『殺し屋とサラリーマンを上手く演じ分けている』、『今までのドラマと比べても特にハマり役だと思う』といった称賛の声が多い」という。

その理由の一つについて同氏は「相葉さんは異次元の“スーパーマン”よりも、等身大の“サラリーマン”のような役のほうが向いている。特に同作のような、いわゆる『巻き込まれ型』ドラマの主人公は相葉さんにピッタリです。これまであまり演じてこなかったのが不思議なくらいで、今回は制作陣の慧眼と言ってもいい」と評価している。

さらに「相葉さん自身が、下手だと言われながらも、演技に磨きをかけてきたという側面もあります」と語り、「『和田家の男たち』(テレビ朝日系)や『ひとりぼっち―人と人をつなぐ愛の物語』(TBS系)では、繊細な表情が好評でした」と地道な努力があったと話す。

2021年の『和田家の男たち』(テレビ朝日系)では、力まない演技とセリフ回しも好評で、段田安則(父親役)や佐々木蔵之介(兄役)ら演技派の俳優たちの力も借りて実力を磨いた。

そして今作は、その『和田家の男たち』以来2年ぶりの連ドラ主演作。原作は青年誌で連載されていた作品で、エロやバイオレンスの要素も強い深夜枠のドラマとなり、相葉にとってもこれまでの経験が試される挑戦的な作品となった。

碓井氏は「『嵐』も活動休止になり、相葉さんも40歳になっています。結婚もして妻子もおり、今までのアイドル像を壊していく必要が出てきました。いわゆる“おじさん”も売りに出来る新境地を開拓していく必要があったのではないでしょうか。そんな覚悟と企画のタイミングが合致した結果、第1話の体当たり演技が生まれたのだと思います」と分析する。

原作との設定の違いも、たしかに等身大の相葉に合わせて練られている。漫画原作では、主人公の稲葉十吉は34歳。妻の美沙子(ドラマでは本仮屋ユイカが演じる)ともまだ新婚で、子どももいない。しかしドラマ版の十吉は相葉と同じく40歳で、息子がいる設定だ。

現実世界の相葉とほぼ同じ設定となっており、同氏は「より多くの視聴者が感情移入し、共感できる主人公像になっています」と、あえて原作よりも年齢を重ねさせることで、今だからこそできる役柄を見事に演じていると話す。

同氏によると、『今日からヒットマン』の面白さは「ひと言で表すなら“ギャップ”。伝説の『ヒットマン』と普通の『サラリーマン』、冷酷な『殺し屋』と明るい『愛妻家』、両者のギャップが大きいからこそ、そこに緊張感が生まれ、同時に笑いが生まれる」のだという。

さらに十吉の部下・山本を演じている深澤辰哉(Snow Man)との共演もいい方向に作用しているといい「深澤さんは、相葉さんと同じ愛されキャラです。二人の掛け合いは、同じ事務所の先輩・後輩という関係性もプラスに作用し、殺し屋というテーマが必要以上に重くならないための、実に有効なコメディー要素となっています」(同氏)

碓井氏に、相葉の今後に同作がどんな影響を与えるのか聞くと「今回、明らかに相葉さんの演技の幅が広がっています。今後は、稲葉十吉のような『巻き込まれ型』の主人公のオファーが増えるのではないでしょうか。また、いつか相葉さんにトライしてみてもらいたい役柄は、『本当の悪』と呼べるような人物。“いい人”の要素がない『非情の男』を、相葉さんが演じるとどうなるのか。ちょっと怖いですが、見てみたいですね」と期待を寄せた。

■碓井広義(ウスイ・ヒロヨシ)プロフィール

1955(昭和30)年、長野県生まれ。メディア文化評論家。2020(令和2)年3月まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。慶應義塾大学法学部政治学科卒。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年、テレビマンユニオンに参加、以後20年間ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に『人間ドキュメント 夏目雅子物語』など。著書に『テレビの教科書』、『ドラマへの遺言』、『倉本聰の言葉――ドラマの中の名言』などがある。

(オリコンニュース 2023.12.01)


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