フジテレビ「調査報告書」の全貌
「第二の日枝久」に懸念
日枝氏が3月27日の取締役会を欠席したことについて、フジ・メディア・ホールディングス(フジHD)の金光修社長(70)は「腰椎の圧迫骨折で入院中のため」と説明。健康が回復しても、表舞台からはこのまま退場する運びとなりそうなのだが、
「これは金光のクーデターですよ」
そう声を潜めて言うのはフジの元重役である。
「株式会社富士テレビジョン(現在のフジHD)を設立し、フジサンケイグループの土台を築いたのは池田勇人内閣時代に財界四天王の一人として知られた水野成夫です。しかし、1968年に水野は脳溢血で倒れ、鹿内信隆がグループの実権を握りました。その鹿内家をクーデターで追い出して権力を掌握したのが日枝氏だったわけですが、金光氏は日枝氏を本人の意に反して権力の座から追い落とした。OBの間では金光氏がクーデターに成功したとの見方が広まっています」(同)
この点、フジ関係者もこう述べる。
「報告書によれば、港浩一前社長(72)氏の後任人事は金光氏が主導して清水賢治氏(64)に決めたとのことです。一方、金光氏はその人事について、日枝氏に報告こそ行っているものの、“(日枝氏の)影響力の行使があったとは認定できなかった”とも。金光氏は清水氏の社長就任をはじめとする人事を通じて、日枝氏から権力を奪取したと見るべきです」
まわりに子飼い
金光氏は78年に早稲田大学第一文学部を卒業後、西武百貨店に入社。83年にフジに中途入社し、人気料理番組「料理の鉄人」の企画に携わった経歴を持つ。2009年に経営企画局長に就任し、経営企画畑を歩んだ。19年6月から現在のフジHDの社長職にあり、21年6月から22年6月まではフジの社長も兼任している。
前出の元重役が言う。
「金光氏は今度の人事で日枝氏と同様に、まわりに子飼いを配しました。たとえばフジHDの取締役(常勤監査等委員)及びフジの監査役を兼任することになる柳沢恵子さん(60)は現在、フジの人事局上席HRアドバイザーという立場ですが、もとは経営企画畑で、金光氏の下で働いていた。金光氏がフジの社長時代に早期退職制度を導入してリストラを断行した際、人事局に局長職として送り込まれたのが彼女でした」
このほか、深水良輔フジHD新専務執行役員(63)、皆川知行フジHD新常務執行役員(60)らも経営企画畑出身で金光氏の息がかかっているという。
「金光氏は権力欲の強い人間でね。今から7年前、日枝氏を乗せた送迎車が大雪のために首都高のトンネル内で渋滞に巻き込まれて身動きが取れなくなったことがありました。その時、金光氏は車両部を通じて日枝氏の窮状を知ると、日枝氏の元に駆け付けてトンネル内から救出したのです。この一件は当時、社内でもうわさになりました。“そこまでやるかね”と皆であきれたものですが、翌年、彼は中途採用ながらフジHD社長に抜てきされました」(同)
権力欲の塊と見られた日枝氏。その日枝氏に取り入ってフジHD社長の椅子を手に入れ、ついにはフジ全体を牛耳るに至った金光氏は「第二の日枝久」なのか。
もっとも、現役の社員たちは今のところ刷新人事を歓迎している。
「6月の人事で3割以上の女性役員登用、役員の世代交代、取締役の半減などが実現されることになりますが、何といっても日枝氏の寵愛を受けてきた政治部出身者とバラエティー畑の幹部が一掃されるのが大きい。彼らこそ日枝相談役と共に会社をむしばんできたがんでしたから」(フジの中堅社員)
一方、社会部出身である安田美智代氏(55)のフジHD取締役への抜てきはサプライズだった。
「安田さんは現在、フジHD経営企画局グループ経営推進担当局長兼開発企画統括という立場ですが、取締役への登用は人事慣行から言えば“飛び級”ですよ。彼女は司法キャップや社会部デスクを歴任したバリキャリ。ニューヨーク支局員時代は9・11に遭遇し、緊迫の現場をリポートしたことでも知られています」(同)
実力重視の人事に見えるが、彼女も現場を離れてからは経営企画畑。やはり金光氏の身内びいきがうかがえよう。
人事公表のタイミングに疑問
企業ガバナンスに詳しい青山学院大学名誉教授の八田進二氏は、報告書に関しては、
「女性トラブルの内容が克明に記されていて驚きました。また、日枝体制が結果的にフジの人権軽視の社内風土を醸成した点もしっかり書かれていたと思います」
と評価するが、刷新人事公表のタイミングに関しては次のように疑問を呈する。
「数日後に第三者委員会の報告書が出るというのに、なぜ急いで日枝氏の退任を含む新人事を公表せねばならなかったのか。早期の信頼回復につながっていません。そもそも、第三者委員会は問題の原因を究明し、それを踏まえた上での再発防止策を提言するものです。新人事はその策を実現するために、どのような新執行部が望ましいかを考えて行わなければならなかったわけで、これでは筋が違います」
元上智大学教授でメディア文化評論家の碓井広義氏も同様の意見だ。
「確かに日枝氏の退任発表のタイミングはおかしかった。スポンサーが戻ってこない現状で、日枝氏退任という最大のカードを先に切らねばならぬほど、金光氏らは追い込まれていたのでしょう」
果たして、フジは刷新人事と報告書をバネに危機から脱却できるのか。大手広告代理
店元社員で桜美林大学准教授の西山守氏が言う。
「テレビCMにはタイムとスポットの2種類があります。タイムは番組提供のCMで、スポットは時間枠のCMです。4月クールのタイムの契約は2月末ごろまでには済ませておく必要があるので、4月以降もCMは戻ってきません。スポットに関しては出稿企業が、フジテレビの対応や世論次第で、復活するか否かを検討することになるのです」
しかし、金光氏が「第二の日枝久」として組織を私物化し、刷新が見せかけに終わるのならば、フジは中居氏同様、世間の信頼を取り戻せず、再生の計画も絵空事になろう。
(週刊新潮 2025年4月10日号)