碓井広義ブログ

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中川淳一郎さんが、「ドラマへの遺言」の書評を・・・

2019年02月25日 | 本・新聞・雑誌・活字



中川淳一郎さんが、日刊ゲンダイ「週末オススメ本ミシュラン」で、「ドラマへの遺言」を取り上げてくださいました。ありがとうございます。


「ドラマへの遺言」
師匠の言葉を残しておきたい弟子の迫力

「北の国から」「やすらぎの郷」などのドラマ脚本で知られる倉本聰氏に、「弟子」であるテレビ制作会社出身で現在は上智大学教授の碓井広義氏が話を聞き、戦後最大のメディアとなったテレビに関し、論を展開する。日刊ゲンダイの連載をまとめたものだ。

書かれる内容は、ドラマやテレビの歴史や裏話など非常に歴史的価値のあるものが多いのだが、私自身が本書で感じたのは「親分・子分」関係の尊さである。現在84歳の倉本氏は碓井氏に対し、非常に丁寧に接するし、敬意を持っているのがよく分かる。当然ご自身は碓井氏のことを「子分」だとは思っておらず、あくまでも「碓井さん」だ。だが、20歳年下の碓井氏は還暦を過ぎたものの、倉本氏の前では学生のごとき姿勢で何かを学ぼうと前のめりでインタビューをしている“書生”的感覚が本書を読むと伝わってくるのである。

本書は本当にテレビやドラマがいかにつくられてきたかや、役者との関係など芸能界のドロドロした話が克明に描かれているのに加え、倉本氏の怒りを含めた各種感情が描かれている良作である。

〈そういえば、『やすらぎの郷』の中で「昭和48、9年以前のテレビ作品は消却されて殆ど残っていないンです!」というセリフがあった。倉本にしては珍しくセリフにビックリマークが付いている。相当な怒りがあったことがうかがえるが、かつてのドラマの映像が残っていないという事実は重い〉

碓井氏のこうした解説を受け、倉本氏のコメントが出るのだが、この流れが心地よい。

〈これはもう誰か訴訟を起こしてもおかしくない犯罪だと思っています。誰も起こしませんけどね〉

このように、テレビやエンタメ業界に関し実のある話をしつつも、本書からひしひしと伝わってくるのは、「弟子」と「師匠」の美しくも羨ましい関係性である。新書というジャンルの書籍は、一つのテーマについて短時間でサッと読み、知識を深める本だとこれまでは理解していたのだが、不意打ちだった。

倉本氏は「終活」をしているという。つまり、残りの人生の長さもある程度考えているということだろうが、そこに弟子が斬り込んで「とにかく師匠であるあなたの言葉を私は残しておきたい」という迫力を感じるのである。

倉本氏は4月からテレビ朝日系で放送される「やすらぎの刻~道」の脚本を書き終えた。1年間にわたり全235話が放送されるが、本書を読んだうえで臨むとなお楽しめることだろう。 ★★★(選者・中川淳一郎)

(日刊ゲンダイ 2019.02.25)



ドラマへの遺言 (新潮新書)
倉本聰、碓井広義
新潮社


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