「週刊新潮」に寄稿した書評です。
黒沢哲哉『ぼくらの70~80年代青春録』
いそっぷ社 1760円
1970年代始めから80年代末に青春を過ごした者には堪えられない一冊だ。73年の「花の中三トリオ」。75年のドラマ「俺たちの旅」。77年のキャンディーズ解散。80年のアニメ「機動戦士ガンダム」。83年の深夜番組「オールナイトフジ」。そして85年のゲーム「スーパーマリオブラザーズ」など現在に繋がる文化遺産が並ぶ。時間旅行の道案内となる豊富な図版と同時代感あふれるコラムに拍手したい。
町田 康『俺の文章修業』
幻冬舎 1870円
著者と「修行」という言葉のギャップが読者を誘う。あの独特の文体と独創的な文学世界はどこから生まれたのかが明かされる。見聞きしたものを文章に置き換える「変換装置」の存在。筋道を見せる「プロレス」的文章と、敵を倒すための「格闘技」的文章の相違。果たして本当に手の内を明かしているのか、それとも煙に巻いているのか。全体を小説として読むことも可能な怒濤の文章読本。
小宮 京
『昭和天皇の敗北~日本国憲法第一条をめぐる闘い』
中公選書 2200円
日本国憲法第一条に、天皇は日本国の「象徴」とある。それはどのようにして成立したのか。事実を踏まえて憲法改正の過程を再構成したのが本書だ。GHQとマッカーサーはもちろん、内大臣府、枢密院や貴族院、天皇の模索も検証していく。戦後も「元首」であり続けようとした天皇。新憲法成立後は、元元首としての権限を拡張すべく活動した姿も浮上する。歴史探偵による謎解きを見るようだ。
町山智浩『独裁者トランプへの道』
文藝春秋 1870円
雑誌で連載中のアメリカからの報告。本書にはトランプが再選されるまでの400日が記録されている。トランプは一度下野して返り咲いた史上2人目の大統領だ。また刑事事件で起訴されたまま当選した史上初の大統領であり、議会襲撃を扇動して警察官を死なせたにもかかわらず再選された大統領だ。何がそれを可能にしたのか。現地で体感した著者だからこそ書ける、リアルなアメリカの光と影。
(週刊新潮 2025.02.20号)