碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
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【新刊書評2024】 村井邦彦『音楽を信じる』ほか

2024年06月25日 | 書評した本たち

 

 

「週刊新潮」に寄稿した書評です。

 

中沢孝夫『本を読む~3000冊の書評を背景に』

草思社 1760円

大学名誉教授の著者は、32年にわたり新聞や雑誌に書評を書いてきた、読書界のレジェンドだ。本読みのプロはどんな本と出会い、どう楽しんできたのか。本書は自伝的読書エッセイだ。本を読むことは、他者の「ものの見方、考え方」を知ることだと著者。さらに「本の持つ生命力」という意味で、小泉信三『読書論』や池田潔『自由と規律』などを挙げる。碩学による読書案内であり人生案内だ。

 

笹山敬輔『笑いの正解~東京喜劇と伊東四朗』

文藝春秋 1870円

昭和12年生まれの伊東四朗は86歳になる。初舞台から60年以上経つが、今も現役の喜劇人だ。演劇研究者の著者によれば、伊東の軌跡は「東京喜劇の歴史そのもの」。しかも本書は体験的演劇史を超えた、「笑い」の探究書である。てんぷくトリオや電線音頭はいかにして生まれたのか。「喜劇はお客さんに教えてもらう」という持論はどこから来たのか。その肩書は「喜劇役者(でありたい)」だ。

 

小堀歐一郎

『死を生きる~訪問診療医がみた709人の生老病死』

朝日新聞出版 2420円

かつて、子どもたちは自宅で臨終を迎える祖父母の死に立ち会うことができた。しかし今、多くの死は病院というブラックボックスの中の出来事だ。著者は700人以上の看取りに関わってきた訪問診療医。本書は多くの事例を踏まえた、現代医療をめぐる深い考察だ。「命を永らえる医療」の先の病院死。「命を終えるための医療」と在宅死。さらに介護と医療の分断という問題も検証されていく。

 

村井邦彦『音楽を信じる~We believe in music!』

日本経済新聞出版 1870円

1945年生まれの著者は学生時代から音楽に携わり、24歳で音楽出版社を設立。プロデューサーとして荒井由実のデビューアルバム「ひこうき雲」や、イエロー・マジック・オーケストラ(YMO)の世界進出を手がけた。自叙伝である本書は、そのまま現代ポピュラー音楽史だ。いかにして名曲を生み出し、新たな才能を発見し、創造とビジネスの両方で成功を収めるのか。その秘密が明かされる。

(週刊新潮 2024.06.20号)