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碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

【旧書回想】  2021年7月後期の書評から 

2023年04月03日 | 書評した本たち

 

 

【旧書回想】 

「週刊新潮」に寄稿した

20217月後期の書評から

 

 

村上春樹『古くて素敵なクラシック・レコードたち』

文藝春秋 2530円

著者はジャズだけでなく、クラシックにも造詣が深い。それは『小澤征爾さんと、音楽について話をする』(小社刊)でも明らかだ。本書ではジャケット写真と共に、愛すべき楽曲について語っている。リストのピアノ協奏曲は初めて買ったクラシック・レコードだ。ベートーヴェンのピアノ・ソナタ第32番は10枚以上が並ぶ。「名盤」など他人が下す評価より、自分の耳を信じるスタンスが心地よい。(2021.06.25発行)

 

片山 修『山崎正和の遺言』

東洋経済新報社 2420円

戯曲『世阿彌』や評論『鴎外 闘う家長』などで知られる、山崎正和が亡くなったのは昨年の8月。88歳だった。本書は初の本格評伝だ。ライターとして45年の交流があった著者が、貴重なインタビューも交えながら、その業績を辿っていく。軸となるのは1979年の設立から携わった、サントリー文化財団での取り組みだ。学芸賞や地域文化賞など、プロデューサーとしての構想力が発揮されていた。(2021.07.08発行)

 

成毛眞:編著『決定版HONZが選んだノンフィクション』

中央公論新社 1980円

ノンフィクション専門の書評サイト「HONZ」。本書は10周年を記念する、ベスト・レビューの集大成だ。サイエンス、教養・雑学、社会、歴史など10のジャンル、100冊の本が並ぶ。しかも永野健二『バブル』、梯久美子『狂うひと』、清水潔『殺人犯はそこにいる』といった、一読どころか再読の価値をもつ面白本ばかり。編著者をはじめ、東えりか、堀内勉など信頼できる書評家を見つけるのも一興だ。(2021.07.10発行)

 

大塚信一『哲学者・木田元~編集者が見た稀有な軌跡』

作品社 2860円

著者は元・岩波書店社長。編集者時代には木田元の名著『現象学』などを世に送り出してきた。本書は木田の思索や学究的歩みを辿るだけでなく、木田が向き合ってきたハイデガーやメルロ=ポンティなどの思想をも解説していく意欲作だ。1980年代の代表作『ハイデガー』。90年代の重要な著作『哲学と反哲学』。特に自らの「反哲学」を構築し、広い領域で展開していくプロセスが刺激的だ。(2021.06.25発行)

 

田村優子『場末のシネマパラダイス~本宮映画劇場』

筑摩書房 1980円

その映画館は福島県本宮市にある。築100年を超える建物と珍しいカーボン式映写機で、今も不定期の上映会が行われている。本書は「映画館の娘」として育った著者による、地方映画館物語だ。名作もピンク映画もストリップ興行も、すべてのエンタメに貴賎なし。古いポスターなどの資料を手掛かりに、映画黄金期の恩恵も受けずに時代の波を乗り越えて来た、町の楽園の歴史を発掘していく。(2021.06.30発行)

 

筒井康隆『活劇映画と家族』

講談社現代新書 924円

本書のテーマは活劇映画で探る「家族とは何か」だ。対象はギャングや冒険などを扱った洋画。しかも著者が長年愛してきた作品ばかりだ。母親が4人の息子と強盗団を組む、ロジャー・コーマン監督『血まみれギャングママ』。ジョン・ウエインの家父長的キャラクターが光る、ハワード・ホークス監督『ハタリ!』などを例に、家族の悪や運命共同体としての疑似家族の魅力が語られていく。(2021.07.20発行)