「家族」という存在
思えば、奇抜な設定のドラマだった。3月25日に幕を閉じた、「妻、小学生になる。」(TBS系)である。しかし、その奇抜さには意味があった。「家族」とは何かという問いかけだ。
10年前、新島圭介(堤真一)は、妻の貴恵(石田ゆり子)を事故で失った。それからは娘の麻衣(蒔田彩珠)との2人暮らしだが、どちらも生きることに無気力になっていた。良き妻、良き母だった貴恵への依存度が高すぎたのだ。
ある日、父娘の前に見知らぬ小学生、白石万理華(毎田暖乃)が現れる。しかも、自分は「新島貴恵」だと主張するのだ。真相としては、貴恵が万理華の体を借りる形で一時的に現世に戻ったことになる。やがて来る2度目の別れは必然だった。
最終回では、万理華の姿をした貴恵との「最後の一日」が描かれた。だが、それは特別なものではない。一緒に朝食を作り、食卓を囲む。3人で麻衣の洋服を買いに出かける。あくまでも「日常」だ。けれど、家族で過ごす日常がどれほど愛しいものなのか、じわりと伝わってくる。
東日本大震災を経験したことで、また今も続くコロナ禍の中で、私たちはごく当たり前の生活のありがたさを知った。また最も身近な存在である家族の大切さも。
特に最終回には、印象に残る言葉がいくつも埋め込まれていた。たとえば貴恵が夫に言う。
「(これからも)思いもよらないことがあるかもしれない。いろんな幸せをたくさん見つけてね」。さらに「あなたが隣りにいてくれて、本当に幸せだった」。そして娘には「生まれてきてくれた瞬間から、ママをいっぱい幸せにしてくれたの。今でも麻衣にはそういう力がある」。
こうした場面を成立させていたのが、“小さな大女優”毎田だ。朝ドラ「おちょやん」で見せた達者な演技が一層進化している。毎田の中に石田が入っているとしか思えないほどだった。いわば、もう一人の「主役」だ。
人生は誰にとっても永遠ではない。人は結末の見えない有限の時間を生きている。その時間の使い方の中に「生きることの意味」を見出せるのだと、このドラマは伝えていた。滋味あふれる佳作だったと言っていい。
(しんぶん赤旗「波動」2022.04.04)