<碓井広義の放送時評>
自分への問いかけ
生きてるうちに何がしたいか?
3月27日、特番「生きてるうちにしたい100のこと。-2022晩冬-」(HTB)が放送された。
出演は「水曜どうでしょう」(同)の鈴井貴之と、「イチオシ!!」(同)の司会を長年務めたヒロ福地。初共演だという彼らが、肩を並べて会いに行ったのは脚本家・倉本聰だ。現在87歳の倉本が「生きてるうちにしたいこと」とは何なのか。
倉本が挙げたのは7つだ。1つ目は、何と「プーチン暗殺をゴルゴ13に依頼すること」。しかし、漫画家のさいとう・たかをが亡くなり、果たせなかったと本気で悔しがる。
次が「北海道を1960年代の貧しいが倖(しあわ)せな哲学を持った共和国として独立させる」。原発その他、化石エネルギーの使用を禁じ、人間が本来体の中に持っているエネルギーだけで生きていける「島」に戻したいと言うのだ。
3つ目は「20~30代の愛人を2~3人持つ」。これには鈴井も福地も驚いていた。だが、「脚本は女優へのラブレター」が信条の倉本だ。まだまだ脚本を書き続けたいという意欲の表明なのである。
続いて「安楽死法案を成立させ、イヤになったらいつでも楽に死ねる国家にする」。安楽死や尊厳死について、長年考えてきた倉本。それはドラマにも反映されている。あらためて、医学の役目は患者を苦しみから救うことだと主張した。
5番目は「おふざけタレントをテレビ界から放逐する」。ある大物芸人が、長くテレビに君臨し続けることに対する異議だ。倉本は彼の俳優としての演技もあまり評価していない。その名前はピー音で消されていたが、87歳の愛すべき過激さに驚かされる。
さらに「自由に煙草(たばこ)の喫える社会に戻す」も飛び出した。何しろ倉本によれば、ドラマ「北の国から」は「46万本のマイルド・ラークと1400本のジャック・ダニエルが書かせた」のだから。
そして最後、7番目のしたいことが「時速40キロ以上のスピードを全て禁止する」だ。人は急ぐことで、たくさんのものを見失ってきた。今こそ文明とスピードの関係を検証する必要がありそうだ。
この番組、50代の鈴井と福地が、80代の倉本に敬意を込めて迫ったことで化学反応が生まれた。人生の「残り時間」とその「使い方」に関して、より切実であるはずの倉本が自由に跳ねたのだ。しかも、そこには衰えを知らぬ反骨とユーモアの精神があった。
今回の3人にならって、「これから何がしたいか?」と自分に問いかけてみる。それは悪くない時間の使い方かもしれない。
(北海道新聞 2022.04.02)