2021.09.20
<週刊テレビ評>
最終回迎えた「ハコヅメ」
永野×戸田が最高のペア
警察が舞台のドラマは主人公が刑事であることが多い。しかも、ほぼ男性の刑事だ。その意味で、先日最終回を迎えた「ハコヅメ~たたかう!交番女子~」(日本テレビ系)は新鮮だった。ハコヅメ(交番勤務)の女性警察官、藤聖子(戸田恵梨香)と川合麻依(永野芽郁)の物語だったからだ。
まず2人のキャラクターが秀逸で、藤は刑事課の元エース。パワフルな上に仕事は完璧だ。一方の川合は警察学校を出たばかり。安定した生活を求めての公務員志望だから、勤務についた途端、「もう辞めよう」と思ってしまう。そんな困った新人が、藤と組んだことで変わっていく。このドラマの軸の一つは川合の成長物語だ。
しかも、ドラマ全体が肩の力の抜けたユーモアに包まれていた。藤の強さを「マウンテンメスゴリラ」とからかう同僚たち。川合のことを指す「ナチュラルボーン・ヘタレ」、「無名のゆるキャラ感」といったセリフ。警察署内に漂う「おっさん臭」に困った2人、息を止めてアヒル声で話す抱腹絶倒のシーンなど、脚本の根本ノンジの遊び心がさえる。
川合は藤に憧れるだけでなく、心から信頼し、何でも学んでいく。その真っすぐな気持ちは藤にも伝わり、この後輩を鍛えつつ可愛がる。しかしドラマの終盤では、そんな絆が揺らぎそうになった。
初回からずっと謎だった、藤が交番勤務を望んだ本当の理由。そこには、藤や源誠二(三浦翔平)と同期の女性警察官、桜しおり(徳永えり)が関係していた。3年前、桜はひき逃げされ、一命はとりとめたものの、休職したままリハビリに励んでいる。藤が犯人だと考えたのは、桜に執着していた謎の男、通称「守護天使」。事件後に姿を消した彼をおびき出すため、藤は桜によく似た川合を囮(おとり)にしようとペアを組んだのだ。
それを知った川合の心は乱れる。だが、「後悔している」と謝罪する藤に向かって川合が言った。「藤さんが後悔しているなら、その何倍も、ペアを組んで良かったって思ってもらえるような警察官になってみせます!」
このドラマで、永野はコメディーとシリアスの絶妙なバランスによる出色の演技を見せた。そこには硬軟自在のスタンスで受けとめる戸田の存在があった。戸田の胸を借りて、のびのびと跳ね回る永野が、藤の背中を追って成長する川合と重なって見えてきた。
今も連載が続く原作漫画には、遠い将来、川合が県警初の女性警察学校長になる場面が登場する。いや、そこまで先の話でなくてもいい。最高の「たたかうぺア」の今後を、ぜひ見てみたい。
(毎日新聞 2021.09.18夕刊)