碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
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書評した本: 後藤広喜 『「少年ジャンプ」 黄金のキセキ』ほか

2018年05月19日 | 書評した本たち


週刊新潮に、以下の書評を寄稿しました。


後藤広喜 『「少年ジャンプ」 黄金のキセキ』
ホーム社 1728円

今年、「週刊少年ジャンプ」(以下「ジャンプ」)は創刊50周年を迎える。元編集長である著者が、新入社員として「ジャンプ」編集部に配属されたのは創刊から2年後の1970年。発行部数はすでに100万部を超えていた。編集長に就任した86年が450万部。退任翌年の94年には653万部の最高記録に達した。

そんな「ジャンプ」の歴史を、どんな漫画家がどのような作品を描いてきたのかという、最も興味深い視点でたどっていくのが本書だ。おかげで回想記を超えた漫画家論、漫画作品論、そして漫画創作技術論になっている。たとえば、創刊当時はギャグ漫画が主流だった「ジャンプ」に革命を起こしたのは本宮ひろ志『男一匹ガキ大将』だ。キーワードは暴力、金力、権力の3つ。著者はアクションシーンの構図や感動シーンの演出などを通じて魅力を解説する。

また鳥山明『DRAGON BALL』の面白さの要因はキャラクターの造形と描写であり、人間関係も物語展開もシンプルであることだと指摘。それは言葉よりも「映像の連続で考える」鳥山の姿勢から来ていた。さらにスポーツ漫画の金字塔、井上雄彦(たけひこ)の『SLAM DUNK』。ワンシーンの細部に宿るキャラクター像が見事だが、それを支えているのは井上の図抜けた画力だという。

本書のもう一つの特色は、漫画家と編集者との関係を明かしていることだ。元々「ジャンプ」は後発だったため、新人の育成に力を入れてきた。著者が初めて担当した新人は『アストロ球団』の中島徳博だ。より読者の意表をつくアイデアを求める若い2人は、二人三脚どころか七転八倒。激した著者は、なんと中島の頭をトレーシングペーパーで殴ってしまう。漫画が最も熱い時代の熱いエピソードだ。

よく知られているように、「友情」「努力」「勝利」はこの少年漫画誌の編集方針だが、漫画家と編集者と読者をつなぐ約束の言葉でもある。


松本大介 
『本屋という「物語」を
 終わらせるわけにはいかない』

筑摩書房 1620円

盛岡の「さわや書店」は伝説の本屋だ。“魔法のPOP”と呼ばれる手書きの推薦文で、文庫本の外山滋比古『思考の整理学』などを売りまくったことで知られている。現役社員である著者が内側から見た「さわや」と本へのこだわりを熱く、しかも淡々と語っていく。


反町 理 『聞きたいことを聞き出す技術』
扶桑社 1512円

著者はBSフジ「プライムニュース」のキャスター。政治家などのゲストから本音を聞き出す技術を開陳したのが本書だ。事前にゴールを把握する。相手に敬意を伝える。質問を前後・左右・上下に振るなど、生放送という一回性の場を逆手にとった戦い方が見えてくる。


(週刊新潮 2018年5月17日菖蒲月増大号)