放送批評懇談会が発行する専門誌「GALAC(ぎゃらく)」。
発売中の5月号に、『クラウド 増殖する悪意』の書評を寄稿しました。
『クラウド 増殖する悪意』
森 達也 著(dZERO)
森 達也 著(dZERO)
3月4日、森達也は永田町の海運クラブにいた。放送批評懇談会シンポジウム「再発見!クリエイティブパワー」で、映画監督の是枝裕和などと共に講演を行ったのだ。
担当したテーマは「放送ジャーナリズムの自律と自覚」。森は50分の持ち時間をフルに使って話し続けた。
その中で、自身の映像作品『A』がテレビから排除された時のことに触れ、オウムの信者が自分たちと同じ普通の人間ではなく、一種「違う存在であって欲しい」という願望のようなものを感じたと語った。
そして日本人が集団化した場合、二つの動きが起こると指摘した。一つは異物の排除。それによって多数派となっていく。
もう一つが外側に仮想敵を作ることで、集団の連帯を強める効果がある。興味深いのは、この話が近年目立つ「同調圧力」に通じていることだ。
森の新著『クラウド 増殖する悪意』は、ここ数年の間に新聞や雑誌、WEBサイトなどで発表してきた論考をまとめたものである。タイトルはコンピュータ系のクラウド(cloud)ではなく、群衆という意味のクラウド(crowd)だ。
たとえば、「大ヒットやベストセラーが生まれやすい国」と題した一文では、日本人の集団化と多数派への同調志向がメディアのすさまじい影響力とリンクして、社会が一つの方向へと流れやすくなっていることを警告する。
また、森のドキュメンタリー論も存分に展開されている。曰く、「作品は自己の表出であり、『恣意的に切り取る』ことは当たり前だ」。
さらに「映像は客観を装う。あるいは観る側はそう思い込もうとする。こうして虚実が溶解する。これは映像の特質だ」と。
メディアについて学ぶことが、自分たちの「今の姿」を知ことに通じるという意味で、格好のテキストでもある。
(GALAC 2014年5月号)