碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

言葉の備忘録49 山際淳司『スローカーブを、もう一球』

2011年05月14日 | 言葉の備忘録

授業で取りあげた『NHK特集 江夏の21球』。

そのベースとなったのが、山際淳司さんが書いた同名ノンフィクションだ。

舞台は、1979年の日本シリーズ第7戦。

その翌年、雑誌「ナンバー」が創刊され、そこに山際さんは、短篇「江夏の21球」を寄稿し、実質的に作家デビューしている。

『スローカーブを、もう一球』には、「江夏の21球」をはじめ、高校野球に材をとった表題作などが収録されている。

備忘録に入れたのは、巻頭の「八月のカクテル光線」の中の一文で、スポーツだけでなく、山際さんが書いてきたスポーツ・ノンフィクションの醍醐味をも、伝えているように思う。



「ゲーム」――なんと、面白い言葉だろう。
人は誰でも、自分の人生の中から最低一つの小説をつむぎ出すことができるように、どんなゲームにも語りつがれてやまないシーンがある。
それは人生がゲームのようなものだからだろうか、それともゲームが人生の縮図だからだろうか。
――山際淳司「八月のカクテル光線」
        (『スローカーブを、もう一球』収録)

スポーツ・ドキュメンタリーの傑作『江夏の21球』

2011年05月14日 | テレビ・ラジオ・メディア

大学の「現代文化としてのスポーツ」という講義の中で、「スポーツとマスメディア」全2回を担当した。

昨日はその2回目。

スポーツ・ドキュメンタリーを取り上げ、教室で『NHK特集 江夏の21球』を参考プレビューした。

1979年の日本シリーズ、近鉄対広島の7戦目、大阪球場。

広島1点リードの9回裏、 リリーフエース・江夏豊が、ノーアウト満塁のピンチを乗り越え、劇的な勝利を飾った日本シリーズ史上の名勝負だ。

放送されたのは1983年。

番組は、当事者たちの「証言」を駆使して、9回裏の死闘を描いたスポーツ・ドキュメンタリーの傑作である。

今回見直してみて、あらためて、この時の江夏のすごさがわかった。

野球選手というより、勝負師。

一匹狼の剣豪にして、素浪人(笑)。

とはいえ、こういう選手が、現在の野球界に存在することは難しいのかもしれない。

だからこそ、よけいに、マウンドの上で江夏が見せる、一瞬の“不敵な笑い”が魅力的なのだろう。