『感性創房』kansei-souboh

《修活》は脱TVによる読書を中心に、音楽・映画・SPEECH等動画、ラジオ、囲碁を少々:花雅美秀理 2020.4.7

●演劇鑑賞:『いちごをたべたい』(九州大学演劇部)

2018年04月24日 17時10分07秒 | ●演劇鑑賞

 しっかりした「脚本」の成功

 舞台『いちごをたべたい』の“成功”は、一にも二にも「脚本」がしっかりしていることにある。“言わんとするテーマ”は明快であり、“ストーリーの展開”もまとまりがよかった。的確なキャスティングに役者達の無難な演技、それに登場人物7人の「キャラクター」やその“絡み方”も素直で分かりやすかった。

 『九演』(九州大学・伊都キャンパス演劇部)本来の“堅実な舞台創り”として、いつもながらの“知力の高さ”を感じた。〈舞台美術、照明、音響・効果〉にしても“基本をオーソドックスに踏まえ”たデザイニング、そしてオペレーションであり、これといった欠点は見当たらなかった。

 上演時間は程よい長さであり、人物の登場のさせ方については、かなり“分かりやすさ”に気を配ったようだ。そのため〈場面の転換〉に無理がなく、ごく自然に“物語の世界”に浸ることができた。初めて舞台を観た人も“フラッシュ暗算化”に陥ることなく、十二分にこの優れた舞台を、そして物語や役者を堪能したことだろう。事実、帰り際にそういう声を耳にした。

 前述のように、この舞台は“初心者向け”と言ってよい。といってそれは“作品のレベルが初級”というのでは決してない。それどころか、作・演出者の秘めたる才能と豊饒な開花を予感させるものであり、“余裕”をもった脚本そして演出との印象を受けた。

 そのためだろうか。筆者は“創り手側”の一員のように“ヤキモキ”することが一切なく、それだけ観劇に没頭することができた。

 

 巧みな「登場人物・役者」の活かし方  

 物語の舞台は、「キリスト教系の炊き出しをしている施設」といったものだろうか。世間的には、キリスト教会がホームレス等を対象に無償の食事を提供し、その活動をボランティアが支えるという実態が増えている。舞台は、そういう類の施設を運営する〈姉さん〉、〈賢治〉の夫婦をはじめ、〈〉という14歳の少女とその叔父の〈想太〉青年に、〈イチ〉というおっさんの5人がまず登場する。

 そこに〈姉さん〉の実兄〈友輔〉が「借金の申し出」のために訪ねて来る。そこから兄妹二人の過去が明らかにされるとともに、物語が一気に展開する。それに伴い、登場人物それぞれの意識や感情が錯綜し始める。

 妹の親友〈ちーちゃん〉のストーカーであったという〈友輔〉は、その一方、会社の同僚への傷害事件により損害賠償の請求を受けたようだ。そういう“問題児”的な〈友輔〉の過去や、妹〈姉さん〉との対面時の言動などから、彼は直情径行型の人間として描かれている。自分勝手な思い込みに加え、自意識過剰な雰囲気はどこか得体のしれない不気味さを醸し出している。

 この舞台において、筆者が一番注目したのがこの〈友輔〉役の「本名慶次」君であり、彼の声や巧みな顔の表情には目を見張るものがあった。二十歳そこそこの年齢なのだろうが、どこか達観したような大人の落ち着きと人間的な深みを感じさせた。立ち居振る舞いや台詞の口調に、冷徹ともいえるサイコパス調の人格が垣間見えた。

 もちろんそれは“役作り”によるものだが、少しも不自然さを感じさせない演技だった。けだし“秀演”というべきだろう。ことに〈妹・姉さん)に強く迫る際の口調と視線に、筆者は一瞬ハッとさせられ、その巧みな人物表現に何度も頷かされた。筆者は帰り道、今回のキャラクターとは真逆な人物を彼がどのように演じ分けるのか、早くもそのことを想像していた。

 その他の役者としては、〈姉さん〉の「野上紗羽」嬢と〈〉の「伊東佳穂」嬢に注目した。前者はヒロインとして登場機会がもっとも多いこともあり、その存在感は大きかった。兄の〈友輔〉に対する嫌悪と憎しみとが入り混じった感情――おそらくそれは、忘れようとして長いこと封じ込めていたもの――が兄との再会によって甦り、新たな苦悩を引き起こしていく。

 しかし最後は、クリスチャンとしての“諦念と赦し”により自分を説き伏せ、〈友輔〉にしかるべき金額を与えた。そこへ到るプロセスに「聖句」すなわち「聖書の一節」を用いなかったことに、christianityに対する作・演出家の“矜持”のようなものを感じた。つまりは、安易に「聖書訓話」的な解決を図らなかったということを意味する。舞台美術に「十字架」を使用しなかったことも、その思いをいっそう強くした。

 以上の〈姉さん〉に14歳の少女の想いをストレートにぶつけたのが〈〉であり、大人へと成長していく多感さをよく表現していた。台詞自体が的確であったのに加え、伊東嬢の堂々たる台詞回しや感情の表現は、観客を鮮烈に引き込む説得力があった。筆者は次第に「本物の14歳」に思えて仕方がなかった。

 同様に「本物のおっさん」と思わせるほどの好演を見せたのが、〈イチ〉役の「槌井雄一」君だ。彼は“渋い”というバイプレーヤーへの賛辞ともいうべき特性を見せた。ほんとに“おっさんらしい”雰囲気に溢れ……まさか五浪した留年五年生なんてことはないよね? ……いや、失礼。

 ヒロインの夫〈賢治〉の「橋本大智」君と〈想太〉の「久永海斗」君は、それぞれ〈妻・姉さん〉と〈萌〉という二人の女性を魅力的に描き出す人物と言えるだろう。〈ちーちゃん〉の「小島彩」嬢は、ほんの一瞬の登場だった。

 ともあれ「登場人物」と、演じた「役者」双方の「個性」を巧みに調和させたと言えるだろう。優れた脚本であり演出であることを改めて感じた。

 

 

   


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