『感性創房』kansei-souboh

《修活》は脱TVによる読書を中心に、音楽・映画・SPEECH等動画、ラジオ、囲碁を少々:花雅美秀理 2020.4.7

・アルフレッド・ハウゼ in 寺井尚子(3)-終章

2011年07月16日 15時46分33秒 | ●JAZZに親しむ

 ……時間を少し遡(さかのぼ)ってみよう。前回“動きの中の寺井尚子を見るのは初めて”と言った。だが実は“動きの中”どころか、彼女の姿を見ること自体“初めて”だった。

 あの日、筆者はセラビー氏宅でまず数枚のCDジャケットを目にした。「寺井尚子」の文字とともに、写真集の“モデル”にでも出てきそうな麗しい女性が写っていた。成熟した雰囲気の中にも顔立ちは清雅な印象を与え、しっとりとした知性の中にも秘められた女の情念を感じた。その瞬間、筆者は思わずセラビー氏に語りかけていた。

 ――この表情いいですね。

 だが彼は、すかさず別のCDジャケットを示しながら躊躇なく言った。

 ――こっちの方がいいと想いますが。

 そこには、演奏中の彼女の姿があった。少し眉をひそめたその表情には、苦渋すら浮かんでいる。先ほどの“モデルスマイル”とは別人のようだ。だが“女性ヴァイオリニスト”が、そしていっそう“女性の美”が感じられた。

 この「やりとり」の後、筆者は生まれて初めて寺井尚子のCDを聴き、また動画付きの『JEALOUSY』を観たのだった。

      ☆  ☆  ☆  ☆  ☆  ☆  ☆

 ともあれ、セラビー氏宅での“寺井尚子体験”は、音楽に関する久しぶりの衝撃と興奮をもたらした。筆者は帰りの車の中で、繰り返し押し寄せて来るアップテンポのヴァイオリンと、その多彩なメロディに圧倒されていた。自宅までの20kmという距離はあっという間に過ぎた。

 帰宅後、「寺井尚子の試聴動画」を探した。そこには彼女の「ジェラシー(JEALOUSY)」や「ラ・クンーパルシータ」とともに、何と「アルフレッド・ハウゼ楽団」の同名の曲もあった。

 筆者はまず「アルフレッド・ハウゼ」の「ジェラシー」を選んだ。これこそ紛れもなく、47年前の“アルフレッド・ハウゼ”の“サウンド”そのものだった。次に、再確認の意味で寺井尚子の「ジェラシー」を聴き、さらに両者の「ラ・クンパルシータ」を聴き比べた。
 その結果、筆者は確信した。やはり寺井尚子のDNAは、間違いなくアルフレッド・ハウゼから来たものであると

 そしてそのあと、筆者の目は『ハバネラ』というタイトルの動画に釘づけになった。何を隠そう、この一曲によって、筆者は“寺井尚子ワールド”への“真のあゆみ”を辿り始めることとなるのだ
 
      ☆   ☆   ☆

 『ハバネラ』。歌劇『カルメン』におけるもっともポピュラーな歌曲。いや、『カルメン』の中でというより、すべての「歌劇」の中でも突出して知られている。誰しも、一度ならず二度、三度と耳にされたはずだ。
 恋多きジプシー女“カルメン”――。拘置された牢獄から逃れるため、護送役のドン・ホセを誘惑しようとするあの第一幕のアリア(独唱曲)――。 

 まず動画「ハバネラ」の「冒頭のシーン」の寺井尚子の衣装に惹かれた。右肩にデザインされたサーモン系の赤いノースリーブ。……明らかに彼女は『カルメン』を意識している。その恋人(エスカミーリョ)を心に秘めながら、彼マタドーラ(闘牛士)の象徴ともいえる「赤いマント」に包まれているのであろう。
 
 黒っぽいスカートは、裾にオシャレな襞(?)を織り込んだもの。どこか「ジブシー女」をイメージづけているのかもしれない。そして、いつもは無造作に垂らした亜麻色の長い髪は、頭の後ろでコンパクトにまとめられている。

 舞台背景の照明をギリギリまで落としているため、演奏者と楽器とがひときわ浮かび上がって見える。ベースに導かれたヴァイオリンの「イントロ」が始まる。カメラアングルは“カルメン”いや“寺井尚子”をやや斜め前下から見上げている。そのため成熟した女性(にょしょう)の上半身のフォルムが、あますところなく現れる。
 
 その柔らかなフォルムから繰り出される寺井尚子の全身のライン。一つは右肩からヴァイオリンの弓を持つ右腕へ、一つは首筋から肢体の胸のあたりへと続く。そして最後の一つはヴァイオリンを挟んだ顎から左肩の付け根へ、さらには弦を抑える左手、左指へと流れていく……。
 
 フォルムは全身を律動的に撓(しな)らせ、弓を持った右手を、そしてヴァイオリンを支える左手を操って行く。紡ぎ出される多彩で繊細な音の数々。女性ヴァイオリニストのフォルムは淀みなく流れ、ときには切なく、ときには妖しくその表情を変えながら、感動的なメロディを、リズムを、そしてハーモニーを次々に創り上げていく。

 ……美しい無駄のないフォルム。その繊細で大胆な動き。ヴァイオリンと言う楽器の動きを、筆者はこれほど魅力的に感じたことはなかった。それにしても、何と躍動感あふれるフォルムの流れだろうか。そして“女性美の動き”だろうか。それはおそらく、人間の四肢が表現しうる限界といえるのではないだろうか。そう想えてならなかった……。

 もはや、筆者の余計な「能書き」など“無用の長物”と言うもの。各位に、直接“カルメン”いや“寺井尚子”さんに触れていただきたいと願うばかりだ。

  ●寺井尚子の試聴動画:『ハバネラ』(Habanera)


 今回初めて知ったが、「ハバネラ」は『恋は野の鳥』という意味のようだ。その「アリア」は次の一節で締めくくられている。

  ――あなたが私を好きじゃないなら、私が好きになる。私があなたを好きになったら、せいぜい用心することね。

 せいぜい、そういう用心とやらをしてみたいものだ。(了) 
 
       ★  ★  ★  ★  ★  ★  ★


 ※読者のみなさんへ 寺井尚子さんのことについてお知りになりたい方は、本ブログのブックマークにリンクされている『アドリブログ』の「寺井尚子」シリーズをごらんください。
  


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