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好きな本とかについて、ちょこちょこっと書く場所です。蔵書整理の見通しないまま、特にきっかけもなく08年12月ブログ開始。

パンダの死体はよみがえる

2022-05-14 19:15:16 | 読んだ本

遠藤秀紀 二〇〇五年 ちくま新書
これは、忘れるくらい長く収納してたのを最近になって再発見した新書のひとつ。
2005年って、たぶん私はひどく忙しくしてたころだと思うが、なにを考えてこういう本を読もうと思ったのか、まったくおぼえていない。
著者は「博物館に生きる解剖学者」として、1995年に上野動物園で死んだパンダのフェイフェイの解剖をした。
そのときに、パンダがどのように笹をつかんでいるのか、それまでの通説をひっくりかえす発見をする。
パンダの手というか前肢の指は5本あるけど、クマなんで指の向きはみんな一緒、人間のように親指が他の指に向き合うような形ぢゃないので物はつかめない、でも親指の側の手首んとこに大きめな骨があるんで、それが笹とかをつかんで落とさない役割をしてるんだろう、ってのが従来の説。
ところが著者が解剖をしてみると、そのいわゆる「偽の親指」、正式名称・橈側種子骨は独立して動かせるものぢゃないことが判明。
「六本の指」で笹をつかんでるんぢゃなく、反対の小指側の手首にも大きな骨・副手根骨の突起があって、手首を折り曲げると五本の指と橈側種子骨と副手根骨とで筒状の形をつくって笹を落とさないように支えてる、ということがわかったと。
というのが、タイトルのパンダの死体ってことなんだろうが、たしかに生きてるパンダが笹食ってるのを目の前で見ててもメカニズムわかってなかったのに、死体を解剖したら、この指のようなものは動かないで親指にくっついてるだけじゃん、ってことわかったのは不思議な感じする。
でも、著者が言いたいのは、パンダの骨格の構造と動きとかってだけぢゃなくて、動物の遺体は解明されてない謎を多く含む知の宝庫なんだから、社会全体の財産として大事にしようよ、ってことらしい。
>ここで大切なことを強調しておこう。
>「遺体は全人類共有の財産である」ということだ。(p.38)
とか、
>「すべての遺体は学問に、文化に、そして人類の知に貢献する」
>それが私の信念である。遺体は絶対に捨ててはならないのだ。
とか熱く訴える。
それっていうのも、日本では大学が、
>(略)教授が定年退官すれば研究室を解体して次の教授がゼロから作り変えるというスクラップアンドビルドのシステムを採用してきたので、遺体は大学ではさっぱり大事にされずに捨てられるばかりになってきている。(略)
>(略)もちろん個別には洞察力の豊かな人物が教官を務めていて、標本資料の散逸を防いだという真に称えられる足跡も見られるのだが、一般的には大学とは先人のものを捨てるのが“得意”だ。(p.181-182)
って存在であり、また博物館についても、建てたはいいが収蔵や研究をちゃんとやっていないって、
>本来博物館とは、例えば遺体を集め、例えば学術資料を収集し、そこから人類の新たな叡智を獲得していく、文化や学問や教育の根幹を支える組織であるはずだ。それがわが国では公共事業や政治や行政の体の良い道具に化している。それは貧しさ以外の何物でもないだろう。(p.209)
と指摘するように、積年のうらみに近いようなものがあるからって感じられる。
ゾウのような大型動物の遺体を研究しながら骨にしていくのは金のかかる仕事で、100万円だとしたら大企業には小さな事業費かもしれないが研究者には大変で、でも先人たちから受け継いで自分も後世に残そうと努力するのが大事、
>遺体は必ず未来へ引き継がなくてはならない。遺体は遠い未来に、自分が生きていたときの真実を語り始める。そして彼らが語る真実は、人類の知にとって斬新な内容を無限に含んでいるものなのだ。(p.193)
という。
冒頭の章で、どうやってゾウを解剖するか、厚い皮膚に刃物がなかなか入っていかないとか、リアルな作業の描写あるが、そこんとこがパンダの指の話より私にはおもしろかったりする、やってみたいとかってわけぢゃないけど。
ほかにも、モグラやツチブタがどうやって穴を掘るか、センザンコウやオオアリクイがどうやってアリを食うか、体のつくりを研究して解説してくれたりするのもおもしろい。
第一章 息絶える巨象
第二章 パンダの指は語る
第三章 語り部の遺体たち
第四章 解剖学から遺体科学へ


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