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好きな本とかについて、ちょこちょこっと書く場所です。蔵書整理の見通しないまま、特にきっかけもなく08年12月ブログ開始。

視点をずらす思考術

2022-05-21 18:53:32 | 読んだ本

森達也 二〇〇八年 講談社現代新書
最近の私にとって、むかし読んでみたものの、その後は仕舞いっぱなしで忘れちゃってた新書を、読み直してみてるシリーズのひとつだ、これ。(同じ著者の同じころのものと一緒に見つけた。)
初出はいろいろなところへ発表したものを集めて加筆修正したという本、新書でそういうのはめずらしい気がする。
視点をずらすって何のことかというと、世の中ってのは本来多面的なもんなんだから、全員で一方的なものの見方すんのやめないかって話で、まあ、主に当時のメディアに物申すような感じが多い。
>たまたま通行人が撮った場合や監視カメラの映像は別にして、無作為な映像など存在しない。もちろん映像に限ったことではない。文章だって同様だ。いわばメディアは視点なのだ。撮ったり書いたりする主体がどの位置に立つかで、事象や人物像もまったく変わる。つまり客観性など幻想なのだ。(p.126)
というように、主観が入らない映像づくりなんて無いんだから、いいとか悪いとかぢゃなくて、そのこと自覚しようよ、ってスタンスから始まる話が多い気がする。
そうなんだよね、テレビとか新聞に載せる写真だって、いろいろ報道する側の意図が入り込んでるもので、たとえば殺された子供は可愛らしくしてるとか友達と仲良くしてるのを使って「誰にでも愛される子だったのに」感を押し出してくるし、反対にまだ若い犯人なんかのほうは何かできればはっちゃけた写真をわざわざ見つけて貼りだす。
しかし、なんだね、最近のテレビ報道は、防犯カメラとかドライブレコーダーの映像を手に入れて流しちゃあ喜んでるのが多いようにみえるから、もう自分たちで何をつくりたいとかって気持ちも薄いのかもしれないね。
さて、メディアのよろしくないところのひとつの例としては、逮捕されたときは大騒ぎして報道するけど、それが不起訴になったときにはほとんど何も触れない、みたいなところがあげられる。
それで、逮捕されると実名がんがん出すんだけど、そこはまだ容疑があるってだけなのに、名前出されて報道されるとダメージ大きすぎないか気になる。
著者が2004年当時にそういう疑問をぶつけると、だから人権に配慮して手錠にはモザイクかけてます、みたいに答えるひとがいて、困ったもんぢゃないかという。
>すべてを理解して覚悟のうえでやっているのならまだ良い。良くはないが無自覚よりは救われる。最悪なのは自覚がないことだ。手錠や腰縄にモザイクをつけることで、彼らの人権に配慮していると本気で思い込むテレビ業界関係者が少しずつ増えている。なぜなら今のメディアはマニュアルの申し送りが当たり前になりつつある。疑問を持つ人は煙たがられる。こうして麻痺は、思考を奪いながら蔓延する。(p.111)
ってとこから、戦争のときだって、軍の意向に沿うような好戦的な報道を始めたのは、最初はそのほうが売れるからだったのに、そのうち無自覚なまま、世論を誘導するようなことまでするようになったのは、やっぱ考えないで感覚麻痺したまま突っ走ったからぢゃないかという。
著者は「オウム」に密着したドキュメンタリーを撮ったんだけど、そのときに警察が信者に暴行を加える場面をカメラにおさめる、なんで警察がカメラがいるまえでそんなことしたかっていうと、それまでにさんざ同じようなことがあっても、居合わせた報道スタッフってのは誰も咎めたりしなかったからだ、と分かったという、信者をやっつけるのは正義だみたいな空気ができあがってたんだと、こわいねー。
人間は弱い生き物なんで、群れる、それで何か恐ろしいと思うことあると、逃げる、そのとき集団で一斉に一方向に猛スピードで走る、集団と一緒にいかないと生き残れないかもしれないから、同じ方向に走るのは本能というか遺伝子に組み込まれたものかもしれないけど、間違った方向にみんなで行くのも危険かもしれないから、気をつけませんか、そういう傾向の強い日本人のみなさんは、みたいな問いかけが随所にあるんだけど。
たぶん今の日本でもそういう意見は攻撃されるんでしょうねえ。戦争に疑問をもつと、非国民とか声高にやっつけるDNAが流れてるからなあ、やっぱ。
>だから僕のメディア・リテラシーの定義は、「メディアは前提としてフィクションであるということ」と「メディアは多面的な世界や現象への一つの視点に過ぎない」という二つを知ること。(p.42)
だそうですが。
コンテンツは以下のとおり。
少し視点をずらすだけで違う世界が見える
第1章 社会の多数派からずれる
 1 知っているのに知らない死刑
 2 痴漢と逮捕、どちらが情けない?
 3 メディアは危機を煽る
 4 定年をむかえる憲法
 5 裏日本は「心の日本」
第2章 国家を懐疑するまなざし
 1 「愛国心」に自由を
 2 天皇崩御の日を忘れない
 3 なぜ今上天皇は『君が代』を歌わないのか
 4 「憲法前文」正しいか、間違えているか
第3章 多面的矛盾に満ちた「現代の不安」
 1 ビンラディンへの手紙
 2 ビンラディンへの手紙を書いた経緯と理由
 3 ブッシュが示す「凶暴な優しさ」と正義
 4 禁煙への自由
 5 親鸞が残した「わからない」の教え
第4章 あえてメディアをずらして見る
 1 繰り返される六十余年前の「翼賛報道」体制
 2 メディアと権力の親和性
 3 オウム真理教撮影と禅寺の日々
第5章 脱線をおそれないアウトサイダーたち
 1 魚住昭 激しくて優しい業の人
 2 森巣博 「戦争はどうやったらなくなるか」
 3 笠原和夫 「仁義なき戦い」十七歳、初恋の人と観たかった映画
 4 PANTA 過激な「伝説」の歌手
第6章 日々の暮らしのなかのモノの見方
 1 結論を先延ばしにしたっていいじゃないか
 2 読書をする時間を
 3 もうダメ。みなさんさようなら
付けたしのエピローグ


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