田丸昇 2005年 毎日コミュニケーションズ
こないだ『名人を獲る』をとりあげたときに、そういえば前のあの本はいつだったけかと探したのがこれ。
そしたら、ここには出してなかったことが判明、本棚に入ってたものはたいがい並べたと思ってたので意外だ。
(うんと古い蔵書よりも、ブログ始まるちょっと前の時期に買って読んだもののほうが、わりと漏れることがある気がする。)
サブタイトルは「現役プロ棋士の実話レポート」で、そういうこと。
昭和40年に奨励会入りして、昭和47年に四段昇段した著者は、若手時代からいろいろ対局以外の将棋界の出来事に関わってきた経験が多い。
それで「はしがき」によれば、記憶を書き残しておきたくて、『週刊将棋』に「千駄ケ谷ノート40年」というタイトルで、平成15年から1年間連載したのが本書のもとになっているそうな。
会館の建設とか名人戦の契約問題(2006年のぢゃなくて、その前の1976年のやつね)とか、いろいろな事件に詳しくて、将棋現代史としては、けっこう十分なものがまとめられているんぢゃないかと。
こういうのは、ほとぼりが冷めたころになったらでいいから、誰かがまとめて記録しておくべきだとは思うけど、観戦記者とかがやるよりは棋士本人がやったほうがつまんない軋轢とか生じなくていいんぢゃないという気もするんで、「将棋世界」編集長もやった著者は適任なのでは。
個性的な棋士の話もいっぱいあるけど、やっぱ芹沢九段とか真部九段とかが出てくると、いいなあと私なんかは思うわけで。
(もう、オールドファンの部類に入っちゃってんだろうな、ま、いいか、昭和はよかったんだから、たしかに。)
プロ・アマ平手戦に一章が割かれてるのは、ちょうど2005年に瀬川アマのプロ編入試験があってホットな話題だったって影響だろう。
しかし本書の刊行後もすぐ新たな名人戦契約問題が起きたり、そのあとにもソフト不正使用疑惑事件があったりしたから、10年か20年にいっぺんは、こういう事件簿をつくってくれてもいいのかもしれない。
コンテンツは以下のとおり。細かい見出しをみればだいたい何書いてあるか思い出せるんで並べてみる。
第1章 盤外騒然の激動期
昭和40年代の棋士勢力図
記録席から見た棋士たち
連盟総会で名人戦契約金問題が議題
時代の節目となった昭和47年
九段昇段新規定は総合実績を評価
将棋連盟の総会は時間をかけて徹底論議
昭和49年通常総会は徹夜論議で閉会が午前4時
将棋会館建設を巡って水面下で大きな動き
大山、升田が手を組んだ臨時総会での政変劇
新理事会は前体制の方針どおり新会館建設を決定
囲碁名人戦契約金問題が将棋界にも波及
連盟と朝日の名人戦契約金交渉が決裂
名人戦契約決裂時の棋士の思いと人間模様
名人戦は毎日に復帰したが1年の空白に若手棋士が反発
毎日主催の「順位戦」が昭和52年から始まる
名人戦で打倒中原を公言した森が第1局で剃髪姿
第2章 大山時代から羽生世代
大山全盛時代は対局場も大山ペースの仕切り
大山に対して敢然と立ち向かった山田
山田は現代棋界の研究システムの先駆者
山田が奇病によって36歳で急逝、絶局は大山戦
順位戦最終局での棋士たちの微妙な対局心理
米長流勝負哲学の原点となった大野八段戦
「尺進あって寸退なし」の原田将棋とその人生
昔の関西棋界と谷川の奨励会時代
内藤が歌手活動、デビュー曲『おゆき』は大ヒット
芹沢の「飲む打つ書く」人生とタレント活動
盤上の活躍がマスコミにも注目された真部四段
不世出の天才棋士・升田が昭和54年に引退
綺羅星のごとき昭和50年代後半の奨励会・研修会
平成に入り大山、升田の両巨頭が逝去
羽生人気の高まりで女性ファン急増、イベントも盛況
羽生七冠達成に日本中が注目、羽生効果で棋界隆盛
第3章 将棋界の仕組みと出来事
昭和49年に女流棋士制度が発足、初代名人は蛸島
男性対女流の公式戦初対局で棋士人生をかけた高橋
蔵前国技館の土俵上で第1回将棋の日、観衆8000人
昭和56年からNHK杯戦が全棋士参加方式に
NHK杯戦の収録現場でのハプニング
異色の将棋ドラマ『煙が目にしみる』がNHKで放送
昭和58年の米長―谷川戦を契機に千日手規定が改正
昭和58年の対局中外出禁止令は背景にカンニング問題
最高棋戦の竜王戦が創設され新体系の賞金制に
連盟会長7期14年の大山が退任、二上新体制に
女流棋士・林葉の失踪騒動でマスコミ取材が過熱
林葉劇場第2幕は連盟大会、写真集出版、不倫告白
居飛車穴熊の元祖を巡って強豪アマが田中九段を提訴
懸案の順位戦制度改革に着手、有志棋士で論議
順位戦不参加でも現役続行のフリークラス棋士制度
第4章 プロ・アマ平手戦対局の変遷
戦後まもない順位戦、九段戦に強豪アマが特別参加
将棋雑誌でプロ・アマ平手戦の企画
A級八段に平手で勝った小池アマにプロ入りの話
真剣師・小池重明の壮絶な無頼人生
小林朝日アマ名人が田丸らプロ棋士を4連破
南八段―小林アマの世紀の一戦に取材陣が殺到
プロ棋戦で好成績の瀬川アマに、特例でプロ編入試験
近年のプロ・アマ関係は対決から交流の時代に
第5章 わが修業時代の思い出
将棋を覚えたきっかけは花札と大ヒット曲『王将』
有望な若い弟子が多い佐瀬一門に押しかけ入門
師匠宅で内弟子生活を送って将棋三昧
ほろ苦い青春の彷徨の末に四段昇段