幼いころ金魚をよく飼っていた。
大体、縁日ですくってきたものが多かった。
いや、金魚屋さんといって、下町にはリヤカーに沢山の金魚を積んで売り歩いていたおじさんもいた。
いずれにしても、隣近所、向こう三軒両隣には、金魚鉢の一つや二つ玄関や居間にあった。
小学2,3年の頃、クラスで飼っている金魚を夏休み預かった事があった。
たしか5,6匹だったと思う。夏休みの真ん中あたりで、その中の一匹が死んでしまった。
突然のことで、私は悲しみとうしろめたさで胸がつぶれそうだった。
両親は「生き物だからしょうがないのよ」といい、先生に手紙を書きなさいと言った。
その日のことだったと思う。隣の印刷やさんのおばさんが来て、
「ほら、この子でも入れとけばいいのよ」と、両手から一匹の金魚を差し出して、
私の水槽に放った。母から私の様子を聞いたのだろうか・・・、
金魚の背格好(?)は確かに似ていた。
その新入りは、もう何年も前からそこでそうしていたように、やけにゆっくりと水の中を泳いでいた。
休み明け、私は「金魚の死」を誰にも告げずにいた。
初めて秘密を持った夏だった。