☆映画の旅の途中☆

色んな映画をどんどん観る旅

『Strange Circus 奇妙なサーカス』(2005)

2014年06月08日 | 園子温監督☆映画
『Strange Circus 奇妙なサーカス』(2005)

監督:園子温
尾沢小百合/三ッ沢妙子:宮崎萬純
田宮雄二:いしだ壱成
尾沢美津子(小学生時代):桑名里瑛
尾沢美津子(少女時代):高橋真唯
不二子
編集長:田口トモロヲ
大口広司

【作品概要】
 「自殺サークル」「夢の中へ」の鬼才・園子温監督が、近親相姦や児童虐待を題材に、ひとりの女の歪んだ愛の行く末を華麗かつ淫靡に綴る禁断のエロティック・ミステリー。小学生の美津子は実の父親・剛三に犯され続けていた。しかし、それが忌むべき近親相姦と自覚することはなく、ただ心だけが壊れていく。妻・小百合は、そんな夫と娘の関係に激しい嫉妬覚え、娘への虐待を繰り返す――。一方、倒錯したエロスの世界を描く車イスの人気女流作家・三ッ沢妙子。新たに担当となった編集者・田宮雄二はそんな妙子に気に入られるのだが…。(Yahoo!映画より)

【感想レビュー】
またしても!またしても、園ワールドを惚れ直す結果となりました…

文学、音楽、美術、あらゆる芸術の分野を融合させ、監督自身の観念的なテーマを浮き上がらせていくスタイル。
それでいて、映画としてのエンターテイメント性もたっぷり兼ね備えています

とにかく、全体の構成が素晴らしく、いつも思うのですが、まるで交響曲を聴いているような心地になります。
ラストに向けて、盛り上がり加速していくところなんかも、まさに…

園作品で繰り返される、肉としての“本当の自分”と、容れ物としての“身体”のテーマに加えて、親子間の愛憎が描かれています。
…が、そういった事だけでもないような気がします。
つまり、母と娘、父と娘、妻と夫、男と女、自己と他者。というモチーフを使いながら、常に相対する二つの物事の関係を描いている気がします。
例えば…光と影、享楽と禁欲、真実と虚偽…などの表裏を描いているように思えるのです。

それは、劇中の画や台詞でしばしば可視化されます。
・赤い世界と白い世界。(赤い背景と白い背景、赤い衣装と白い衣装など)
・『私は母であり、母は私。』
・バッハのチェンバロ協奏曲 第5番 ヘ短調 第2楽章に乗せて、サーカスの『ショウタイム』の時の音楽が重なるところ。

園作品を形容する時によく言われる『エログロ』も、もちろんあるが(本作はそこが沢山出てはきますが)それはいつもながら、あくまでも一つのパートに過ぎません。

あらゆる煩悩や情念が渦巻きますが、これまたバッハのG線上のアリアなどのクラシックが劇中音楽に使用され、浄化していくようです。
昨年観た、モーリス・ピアラの『愛の記念に』を思い起こしました。

また、宮崎ますみさんやいしだ壱成さんが素晴らしかったです。
まるで、憑依しているみたいでした


色々とショッキングなこの作品ですが、圧倒的な画力がとっても映画的な魅力を放っていて、私は好きです

冒頭の一説↓
『その首を盆にのせて持ち来らしめ、これを少女に与える。少女はこれを母に捧ぐ
いま、首断役人は血に染んだ長剣の柄頭に手をかけ無感動な表情で立っている。
彼女は正真正銘の女である。火のように激しい残酷な女の気質に、そのまましたがっている。』
『さかしま』ユイスマンス








『ちゃんと伝える』(2009)

2014年06月04日 | 園子温監督☆映画
『ちゃんと伝える』(2009)

監督:園子温
北史郎:AKIRA
北徹二:奥田瑛二
中川陽子:伊藤歩
北いずみ:高橋惠子
田村圭太:高岡奏輔
渡辺先生:吹越満
釣堀のオヤジ:綾田俊樹
釣具屋店員:諏訪太朗
葬儀屋:佐藤二朗
田中先生:でんでん

【作品概要】
「愛のむきだし」が国内外で高い評価を得た園子温監督が、亡き父とのエピソードを元に映画化した家族ドラマ。
【感想レビュー】
父親と息子。よく言われることだけど、男同士って難しい…。

園監督は、父親との確執をご自身の著書『けもの道を笑って歩け』の第二章でも触れています。

“父は2008年に亡くなりましたが、僕と父が腹を割って話すことは、最後までありませんでした。”
32ページより

家族をテーマにした作品が多いのも、そういった背景があるのだと思います。
園監督は、父親ともっと話せたのではないか…と後悔したのかなぁ…と思うと、観ながらなんだか切なくなってしまいました。

しかし、現実の世界では、確執を埋めていけるような、そんなきっかけはなかなか…無い。

そして、この作品の父と息子は、父の病気や入院をきっかけに、やっと打ち解ける事が出来た親子…という風に見せているが、そうではない気がするのです。

うまく言えないのだけれど、この映画は、一見すると、父と息子のシコリが、父の癌をきっかけにお互いが変化していき、改善していく事を描いているように見せているのだけども、実は全く逆の事を描いているように見えるのです。劇中の彼らは、息子のある試練がありながらもうまくいきます。けれども、額面通りに受け取れないシグナルが…。

なぜか。

それは、上滑りするような芝居がかった会話のやり取りからも伺える気がします。
これは、意図した台詞であり、意図した演出なのではないかと。

小道具の蝉の脱け殻からも。

それを、そっと持つ父。
それを、そっと持つ息子。
釣り竿のそばに蝉の脱け殻を置いてくれと病室で頼む父。
釣り竿の先端に、それを、そっとくっつける息子。

退院したら、2人で釣りに行く約束をしているのだ。
釣りは、2人の希望。
けれど蝉の脱け殻は…。
空洞のそれを大切にしても、仕方ないのに…。そこには、もう温度はないのに…。
温度のあるうちに、『ちゃんと伝える』をしなければ…。


また、園監督作品の常連俳優さんがたくさんっ
今回は吹越満さんが、素敵でした…
満島さんもちょっと出てました。

淡々と時間が過ぎていく作品ですが、一番のクライマックスの湖のシーンは、園作品臭がたっぷりです!


『うつしみ』(2000)

2014年04月06日 | 園子温監督☆映画
『うつしみ』(2000)

監督:園子温
おでん屋の男 鈴木卓爾
少女:澤田由紀子

【作品概要】
“うつしみとは現身、現世(うつしよ)の身の現身なり“との解釈のもと、写真家・荒木経惟の撮影現場やデザイナー・荒川眞一郎のパリ・コレ、舞踏家・麿赤児の活動ドキュメンタリーと主人公の女子高生が男を求めてただひたすら疾走する、青春ドラマが同時進行で繰り広げられる。(ぴあ映画生活より)

【感想レビュー】
なんと形容してよいか、分からない。
形容される事を拒む映画のようにも感じる…けれども!何なのかよく分からないけど、面白いっ!

なにせ次はどういう展開になるのか、全く先が読めないのだから…

そもそも、ドキュメンタリーとフィクションのストーリーが1本の作品世界に収まっているのも凄いし、ふいに心奪われるアートなカットもあったりする。この編集のテイストは、『MAKE THE LAST WISH』にも通じる何かで、作品精神は、『恋の罪』に繋がるものを感じたりする。そういえば、両作品とも渋谷の街が舞台だ。

“現身よ、その豊かな空洞を愛せ”

“花のない花瓶よ
コーヒーカップよ
己の空洞をもてあます者よ
虚身よ
毅然としていろ
器よ
現身よ”

これらの観念的な詩と、ハチャメチャな映像のコントラストと、そのハチャメチャにも思えるシーンの根底にある精神に、ただただ、驚愕するのであります…

そしてラストの方は、カメラや音声マイクが映ったかと思えば、もうカメラマン達も映っていて、ある種撮影現場のドキュメンタリーになっていて、そういうのも面白いし、実験的な映画が好きな方にはお勧めな作品です






『エクステ』(2007)

2014年03月27日 | 園子温監督☆映画
『エクステ』(2007)

監督:園子温
優子:栗山千明
優子の同居人/由紀:佐藤めぐみ
優子の姉/清美:つぐみ
山崎:大杉漣

【作品概要】
VFXをパワフルに駆使し、のろわれた“髪の毛”が暴走する恐怖をビジュアル化したホラー映画。
海辺の美容室で働く優子(栗山千明)は美容師の卵。実の姉(つぐみ)がその娘に虐待を繰り返していることに心を痛めつつも、店のオーナーの佳代(山本未来)のもとで一流美容師を目指して励んでいた。そんなある日、膨大な量の髪の毛に埋め尽くされた巨大コンテナが横浜港に到着した。その異様な船内からは少女の遺体が発見される。少女は臓器売買の為に外国で誘拐された闇社会の犠牲者であった(Movie Walkerより)。


【感想レビュー】
す、凄かった…!!‼
放心しております。
ネタばれに気を付けて書きます…。

冒頭は完全なホラー映画。効果音などでビックリさせる事(←これが苦手)もなく、もう映像と展開に度肝を抜かれます。
けれども次第に、闇社会で行われている臓器売買、母親による児童虐待など、様々な社会問題が集約されている事に気付きます。
小説の『闇の子供たち』がよぎりました。。
そして、もう本当に震えるほど怖いシーンが沢山ありますが、そればかりではありません。楽しげなシーンもあります。
明るい日常がある一方で、世の中には救いのない日常もある。子どもを虐待してしまう母親や社会との距離がうまく取れない山崎のようなキャラクターも掘り下げて描かれています。

それでいて、ちゃんとホラー映画特有の息をのむ面白さを両立させ、エンターテイメントにもなっている…そこが本当に凄過ぎました!

山崎を演じる大杉漣さんの怪演ぶりが素晴らしく、栗山千明さんがとっても魅力的な作品でした

『希望の国』(2012)

2014年03月11日 | 園子温監督☆映画
『希望の国』(2012)

監督:園子温
小野泰彦:夏八木勲
小野智恵子:大谷直子
小野洋一:村上淳
小野いずみ:神楽坂恵
鈴木ミツル:清水優
ヨーコ:梶原ひかり
志村(町役場職員):菅原大吉
加藤(町役場職員):山中崇
産婦人科医:河原崎建三
松崎:浜田晃
田中(警官):大鶴義丹
寺山(警官):松尾諭
島田(避難する住民):吉田祐健
橋本(避難する住民):並樹史朗
ガソリンスタンドの店員 米村亮太朗
水島(避難所の人):吹越満
谷川(避難所の人):伊勢谷友介
トークイベントのゲスト:田中壮太郎
TVの中の司会者:手塚とおる
三島(洋一の同僚):本城丸裕
荒井(洋一の同僚):深水元基
林(洋一の同僚):大森博史
ひろみ(妊婦):占部房子
検問所の警官:井上肇
TVの中の官僚:堀部圭亮
海辺の父親:田中哲司
鈴木めい子:筒井真理子
鈴木健:でんでん



【作品概要】
東日本大震災以降の日本の人々の暮らしを見つめた社会派エンタテインメント。原子力発電所近辺で暮らす2組の家族の姿を通し、改めて現在、日本が直面している危機について訴える(Movie Walkerより抜粋)

【感想レビュー】
震災から丸三年が経った。鎮魂の日。
ご冥福をお祈りいたします。


この映画は、先日やっと観たのだけど、DVDを購入してまた観ました。
どうしても、園監督のコメンタリーを聴きたかったのと、この作品の夏八木勲さんをどうしてもどうしても何回も観たかったから。コメンタリーは、これからまた観ますが、作品の感想を書きたいと思います。

全編に渡り、真摯な姿勢と鬼気迫るものを感じました。
国も県も市も村も、自分たちを助けてはくれない。留まる選択だけが強さではない、逃げる選択もまた強い勇気なのだと。どう生きていくかを決めるのは家族会議でだ、という強いメッセージ。
大切な人を守るのだという強い信念と大きな愛。この逆境を乗り越えていくエネルギーは、結局は個々の愛なのだ。

そして、夏八木勲さんに、ただただ圧倒されました。こういう人物が本当に居ると思わせる迫真の演技でした。夏八木さんでなくてはこの作品は成り立たないのではないかというほど、その存在感は常軌を逸するものがありました。
痴呆を患う妻を演じる大谷直子さんは、時に無邪気、時にはすべて解っているのではないか…というその狭間を行ったり来たりする難しい役どころ。
息子を演じる村上淳さんのあえて芝居がかった大きな演技。
そしてその妻を演じる神楽坂恵さんは、一番普通に居そうなキャラクターを演じている。しかしその“普通”が、どんどんエスカレートしていく描写は、過剰なようでいて、妙にリアルだ。実際に行動に移すかは別として、ああいう心理状態に近くなった人は沢山いるはずだから。
さらに主要人物だけでなく、近所の家族や市役所の担当など、一人一人のキャラクターが深く掘り下げられているので、それぞれの視点から捉えた震災が描き出されています。

園監督作品の、他の作品でも常々思っていたのですが、映画そのものが、まるで大編成の交響曲のように感じます。それぞれの楽器が時に雄弁に、時に支え合い、重厚なハーモニーを奏でているように感じるのです。
まるで劇中使用曲のマーラの第10番のように。


原発問題がタブー視され、発言も慎重になる中で、この問題に真正面から向き合い、表現者としての情熱とアイデンティティーを映画という形にした園監督に尊敬の念を禁じ得ない。

印象的なシーンがたくさんあります。好きなシーンもたくさんあります。

希望を感じるラストでした。