KADOMIUMTANK ソフビブログ

ヘミングウェイの詩にこんなのがある。
「人生は素晴らしい 戦う価値がある」
後の方は賛成だ byモーガン・フリーマン

妖怪ソフビ祭り ぬっぺっぽう

2012年09月02日 | 特撮・SF



「かっこいい!妖怪シリーズ」。ベアモデルさんが90年代に発売した
妖怪ソフビシリーズのヘッダー。ミニ3点セットを2シリーズ、ミドルサイズで
ぬっぺっぽう、うんがいきょう、このほか強大な海外妖怪のダイモンなどをリリース。

このシリーズ、当時のインディーズ怪獣ソフビムーブメントの多様さをそのまま
あらわしたような製品でした。「かっこいい 妖怪シリーズ」はレトロ当時風を
標榜したのか、非常にそっけない造形なんですが、そこがまたありそうな
デキで親しみやすく、当時ものの妖怪ソフビの横においても違和感のない仕上がりに
なっています。ラインナップ中でタコはひょうすべと青坊主、海ぺろりんが
好きですね。TOMY×マルサンさんの食玩ソフビとあわせると、映画「妖怪百物語」の
メインで活躍する妖怪たちはだいたい製品化してくれたので、
当時はまだ妖怪のソフビ化が少ない中でファンの渇きを癒してくれたと思う。




深夜の更新・前回のサンガッツさん悪鬼×如意自在に続いて、
「夏の納涼妖怪ソフビ祭り」シリーズ、その2~。

カチ・カチ・(人寄せの拍子木)

最近入手したソフビで地味にかなり気に入っているのがこのぬっぺっぽう。
マーミットさんが妖怪絵の第一人者・鳥山石燕画の描線に忠実なぬっぺっぽうを
いきなり!ソフビ化した一品。

江戸時代、ある夕方に徳川家康領の敷地にぶらっと現れた肉人ともいうべき
奇怪な物体。警備の者たちに裏山に追い出されたという伝聞が残っていますが、
いまだ正体がわからないこの物の怪を、いつしかヒトビトは「ぬっぺっぽう」と
呼ぶようになりました。
この妖怪に関する記述はネット上にも多くいかにポピュラーな妖怪かがわかります。
特に人間に危害を加えないとの説明が多いのですが、いきなり家の敷地にこんな妖怪が
夕方に無言でたたずんでいたら、やはり怖いですよね。



有名な鳥山石燕による妖怪画「ぬっぺふほふ」。
荒寺にたたずむ肉の塊のような、目も鼻も口もない不気味はいきもの。
寂寥感と諧謔味とを同時に漂わせる異形のものの姿を描出した妖怪書画の名作。




これまでぬっぺっぽうのソフビ化というと昭和の妖怪映画として著名な
大映の「妖怪百物語」に登場するぬっぺっぽうのソフビ化がベアモデルさん、
TOMY×マルサンさんが行っているのですが、いずれも昭和当時の映画公開
で日東科学さんからリリースされなかった妖怪たちの
補完リリースのようなものでした。マルサンさんのソフビは製品の仕様を
日東科学さんのソフビの雰囲気に近づけている、という点をパッケージで表記
していました。

さらにさかのぼると80年代中期の鬼太郎リバイバルアニメ化の際に
鬼太郎の仲間の妖怪として「ぬっぺらぼう」の名でミドルサイズの
ソフビが発売されています。比較的造形がしやすいキャラクターだからか、
ケシゴムやお菓子のおまけ、ソフビ化などの機会に恵まれていますね。








今回のマーミットさんのぬっぺっぽうは「当時の妖怪画の再現」を目指したようで
表面にはいったシワやたるんだ肉のディティール処理も手にとってじっくり見ると
何気に細かく、肉玉のような不気味でつかみどころのないぬっぺっぽう
という妖怪の特徴を非常によく捉えた製品化といえそうです。

特にこの腰の引けたサイド、リアビューのポージングはキグルミ的なプロポーション
としてもありそうなテイストをかもし出しています。
成形色もホワイトで少しブラウンを吹いているだけのシンプルなものですが
ぬっぺらぼうの肉の感じがソフビ素材によりよくかもし出せている仕上がりと
いえます。




鬼太郎「あっ!何匹もいるのか」
笑っている顔に見えるシワが表面に刻まれている肉襦袢のような
不気味なぬっぺっぽうの群れが鬼太郎と情報やを次第に取り囲む。。。



コミックの鬼太郎「朝鮮魔法」のように群れで襲ってくるぬっぺっぽう。

ベアモデル、マーミット、TOMY×マルサンぬっぺっぽうの競演Death。
90年代から怪獣ソフビのムーブメントに参加していろいろなソフビを買ってきた
ヒトはこのいくつかあるぬっぺっぽうソフビのいずれかをお持ちではないでしょうか。

ベアモデルさんのぬっぺっぽうはミドルサイズ(画面肌色のもの)とミニ(黄色)の
ものがありミニのほうは青坊主、ひょうすべとセット品で販売されていました。
ミドルサイズのぬっぺっぽうは肌色成形色のほかに蓄光ホワイト成形が存在します。
当時のベアモデルさんはイベント販売も多く、今もときどきこれらのシリーズを
イベント会場の軒先などで見かけることがあります。









水木先生の少年マガジン連載「ゲゲゲの鬼太郎」の一編、「朝鮮魔法」。
鬼太郎が、村民が次々と急激に老化する怪現象を解決しに朝鮮に行く。
アリランの歌に乗って襲い掛かる肉玉のような妖怪の群れ。
ぬっぺらぼうが群体で襲撃してくる。そして山ほどもある巨大ぬっぺらぼうも
出現する怪エピソード。実はこの話、じっくり読むと
H・P・ラヴクラフトの「ダンウィッチの怪」を
下敷きに描かれている気配があることがわかる。
水木ぬっぺっぽうはじつはクトゥルーの尊属なのダ。

この火にいぶされたりすると妖怪があわてて飛び出るシーン「鬼太郎」の
漫画ではよくある場面なんですが、擬音の「ぴょん ぴょん」ていうのが
水木先生ならでは、たまらなくツボな音感ですね。









昭和の大映映画、「妖怪百物語」のぬっぺっぽう。
不気味だがコミカルさも持ち合わせた名造形。ぎこちなくちょこちょこ動く姿が
無骨キュート。
ぬっぺっぽうの立体物はこのキグルミの存在を知りつつ作られたものが
多いんではないかと思う。

この映画で感心するのは「ぬっぺらぼう」(着物を着たヒトの姿をしてて顔だけがない)
とこの肉人ともいうべき「ぬっぺっぽう」の双方を別々に登場させて、両妖怪の
区分を明確にしていることですね。

この映画のほか、実写作品では70年代のTBSドラマ「笛吹童子」に
笛吹童子を助ける妖怪としてキグルミ表現によるぬっぺらぼうと油すましが出てきます。




東映60Sアニメ白黒版鬼太郎に登場するぬっぺっぽうならぬ、ぬっぺらぼう。
原作コミックでは朝鮮が舞台だったが、沖縄に設定を変更。
80年代に発売されたバンダイのソフビぬっぺらぼうはこの白黒版の設定画を元に
造形した気配がある。



2001年にフルタが販売、海洋堂プロデュースのボックスフィギュア
「百鬼夜行妖怪コレクション」に入っていたぬっぺっぽう。
荒れた寺の背景も緻密で、今の目で見てもすばらしい逸品。
ぬっぺっぽうの夕方、さびしい場所に
たたずんでいるという習性を7cm四方のヴィネットで表現。



フルタ×海洋堂により2002年に発売した「フルタ妖怪根付 百鬼夜行コレクション」
に入っていたぬっぺっぽう。けだるい感じで座っている姿はこの立体物が初。
リアルたれパンダ風味のユルさですね。
この「百鬼夜行」3シリーズは造形総指揮にあたった竹谷隆之氏の存在感が
大きかったですね。



こちらは「妖怪大全鑑」のぬっぺっぽう。
アレンジの少ない忠実な造形。



妖怪映画の第一人者にして継承者でもある原口智生監督が90年代に
メガホンをとった「さくや妖怪伝」には
クラシックスタイルの日本妖怪たちが多数登場。ぬっぺっぽうもさくやの味方
キャラとして登場。
この映画好きですね。さまざまな妖怪討伐の旅を繰り広げるストーリーに加え、
最後は樋口眞嗣特技監督によるVFXで
巨大松坂慶子が大暴れとか、サービス精神旺盛な1作でしたね。
きぐるみや操演、デジタル特撮のバランスが程よくかみ合っていて妖怪乱舞シーン
などは「妖怪百物語」への良質なオマージュとなっていました。

もう引退してしていますが、主演の安藤希は数年間の芸能活動の中で、
ガメラヒロインからGOTH系ホラーに富江、
妖怪モノのヒロインまでとディープで幅広い芸歴を持っている。歌もいいっすよ。



たぶんぬっぺっぽうの銀幕登場では本作が最新になるのだろうか。
三池崇史監督の「妖怪百物語」に出てくる、クリーチャーナイズされたぬっぺっぽう。
顔の造形がなんともセンセーショナル。









シンプルなデザインですが、映画、アニメ、妖怪画の再現とテイストの違いで
それぞれ味のあるぬっぺっぽうが製品化されています。

都会には暗闇がなく妖怪たちの居場所が徐々になくなっている、とよく妖怪趣味、
怪奇趣味のあるヒトビトは口にしがちになっているのですが、
じんわりとした土俗の香りや逢魔ヶ刻のヒンヤリとした気分、どこかにユーモアを
漂わせるのにはソフビという素材と妖怪との相性もまたいい、
妖怪たちが現代でヒトビトにその存在を
知らしめるべく活躍するのにソフビはうってつけな素材ではないでしょうか。