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折にふれて

季節の話題、写真など…。
音楽とともに、折にふれてあれこれ。

もうひとつのおわら風の盆

2024-09-16 | おわら風の盆・八尾

越中八尾、おわら風の盆。

風の盆と聞いてまず思い起こすのは、

ゆったりとしたおわら節に乗せて若い男女が踊る姿だ。

そもそも踊りの所作は収穫に感謝するものなのだが、

互いに菅笠で素顔を隠し、艶やかに踊る姿に

見る人は男女の恋に思いを馳せる。

そこにおわら節の物悲しい曲調もあって、

一様に「哀愁を帯びた」と情緒を感じるものなのだが

一方では、若い未婚の男女が掛け合う姿だから、

哀愁を感じつつも華やかさも伝わってくる。

縁あって、そんなおわらを十数年見てきたのだが、

実はそれとは別に見てみたいおわらがあった。

 

十代の頃の話だが。

当時、五木寛之の小説を読み漁った時期があって

風の盆を舞台にした短編小説「風の柩」には

地元の人しか知らないおわらが描かれていた。

その印象がその後も長く心に残ることになったのだが。

深夜、人通りの途絶えた町。

そこにどこからともなく聞こえてくる胡弓の物悲しい音色。

見物客も帰り、踊り手も引き揚げたあと、

淋しい町になった時がおわらには似合う、とあった。

そんな記憶が勝手に作り出したおわらを見てみたかったのだ。

     

「風の柩」が書かれたのはもう50年以上も前のこと。

その時よりも風の盆はずっと有名になった。

今では全国的に注目を浴び、祭の3日間に訪れる観光客は

20万人とも30万人とも言われる。

つまり、深夜になっても、「風の柩」に描かれているように

人が途絶えてしまうわけではない。

けれども、そこには今まで目にしてきたものとは別物のおわらが

確かにあったのだ。

     

続く。