「9」のつく日は空倶楽部の日。
部屋のカーテンを開けた瞬間、
思いもよらぬ光景に目を奪われた。
窓の外には今までに見たことのない猛々しい伊吹山が
迫りくるようにそびえ立っていたからだ。
滋賀県長浜市 2020.12.20 7:13am Sony α7R3 F2.8G/70-200㎜ (200㎜ , f/5.6 , 1/320sec , ISO100)
まだ薄暗い夜明けの空に
赤く染まる雲を従え、霧と雪をまとった
武骨な岩肌が「ぬっ!」と現れる。
「神が棲む山だ!」
ファインダーを覗き込みながら内心呟いていた。
ところで...。
神と言えばこんな話を聞いたことがある。
ヤマトタケルの話だ。
ヤマトタケルノミコト(日本武尊または倭建命)は
古事記や日本書紀など古代史に登場する英雄で
熊襲(くまそ)や東国蝦夷(えみし)を征伐し
国を平定したことで知られている。
そのヤマトタケルが最後の戦いとして伊吹山の神に挑んだ。
数々の敵を打ち破った慢心からか、素手で立ち向かったとのことだが
荒ぶる山の神が降らせた雹(ひょう)に打たれ気を失ってしまう。
その後、熱病にも冒されたヤマトタケルは
居醒めの清水(醒ヶ井の湧き水)で病を癒し
大和へと帰還しようとしたが
能煩野(のぼの:三重県亀山市)であえなく落命。
死の間際、遠のく意識の中で故郷大和を詠んだ歌が
倭は国のまほろば たたなづく 青垣 山隠れる 倭し麗し
やまとはくにのまほろば たたなづくあおかき やまごもれる やまとしうるわし
ヤマトタケルは大和朝廷による日本統一を象徴化した人物だろう。
東奔西走の活躍はおよそ一人だけの功績とは思えないし、
そもそもヤマトタケルの存在すらも怪しいと思える。
おそらくは諸国を平らげた大和古代人の強さへの自信が
ヤマトタケルの伝説を生み出したのだろうが、
一方で、その英雄の命を奪うほどの荒々しさを
ある時に見た伊吹の姿に映したのかもしれない。
そうだとするなら、それは冬の伊吹だったのではないだろうか。
古代人も畏れた何者にも屈しない自然の驚異と気高さ。
この朝の伊吹に「神」を感じずにはいられなかったのである。