個室に案内される。京都の大市ほどではないが、凝ったつくりになっている。池波正太郎の全文を紹介。
洋食を食べたくなると、ホテルのグリルへ行ったものだが、もう一つ、新栄町の[石川]
へもよく出かけた。
ここも、いまは改築してしまったが、いまも行って見て、女店員たちのサーヴィスが親切なのと、料理にも手抜きをしてないのがよくわかる。
[石川]の名物はハヤシ・ライスだ。
すくなくとも、私は、そうおもっている。
私のように五十をこえた年代の男たちは、子供のころ、むかしの洋食屋のハヤシ・ライスをはじめて口にしたおどろきを、まだ、おぼえているだろう。
(こんなうまいものが、世の中にあったのか……)
このことだった。
あの茶褐色のソースで煮込まれた牛肉やタマネギを熱い飯の上にかけ、グリーン・ピースを散らした一皿の味わいなど、いまの子供たちは、
「見向きもしないよ」
と、さびしげにいった男がいる。
[石川]の、ヒレのカツレツもうまい。
料理に[活力]がみなぎっている。