1876to1945さんのツイート(2013年10月01日~)を順に紹介します。77回目の紹介
【フクシマ見聞録】
「アキラ、日本政府が言ってる事が全く分からない。
”爆発的事象”とは何ですか。酷すぎる」
Akira Tsuboi@1876to1945さん 2014年1月19日のツイートから
福島行-なにか沈没してゆく船から脱出してゆくような気持ちだった。
ただそうして自分を含めた家族が切迫して車を飛ばしているのとは
無関係に、空は青く、地震の影響から抜け切らぬ街はいつもより身を
小さくしているように見えた。空がいつもより澄んで見えていたのは、-
-逼塞を余儀なくされた人間が多いためだったのかもしれない。
自分たちが只中にいる動乱と街の静けさとの差が、
透明な恐怖としてかつてない現実さ迫ってきたことを覚えている。
女が出国してゆく前の日に、政府の会見に出ていた。
その会見が終わるとドイツ人たちの国外退避の話が急遽決まったようで-
-やはり急遽パスポートが必要になった女を車で迎え、再度赤坂へ送った。
女の家に着くと、地震のせいで散乱した物が床に散らばっていた。
必要な物を物色しながら女が言った。
「アキラ、日本ノ政府ガ言ッテイル事ガマッタク分カラナイ-」
苛立ちをこらえきれず、両手に持った不可解な物体を-
-ゆすぶるようにして言った。「”バクハツテキジショウ”ハ、バクハツナノカ。
違ウノカ。辞書ヲ見テモ分カラナイ。アキラ、”ジショウ”
とは何デスカ。ヒドスギル-。」”『事象』という言葉に意味はないよ。
意味があるとしたら、現実をなるべく曖昧なものにしたい、そんなところだな-”-
-自分が言うと「ナゼ、コトバヲ急二作リダスノカ。信ジラレナイヨ。」
女は再度、両手を揺すって言った。それまで割合と日本という社会、
人間に信をおいていた女がはじめて日本人の抱えてきた
裏側にぶつかった瞬間だった。
現実を解釈の問題にすりかえ処理してしまう。それは不遜さだった。-
-これ以降、ただちに健康被害はないと繰り返し、ひたすら
解釈上の操作を展開してゆく日本の政府とドイツ人たちの
共有する認識は決定的にわかれてゆく。「行キマショウ。」
めぼしい物を集め終え、そうして赤坂へもどり別れた後、
女は電話口で言った。-
-「アキラ。怖イヨ-。ZDFの同僚二科学二詳シイ方がイル。
彼ガ言ッテイル。カクバクハツ、が起キルカモシレナイ-」
核爆発が起きるかもしれない-。
家を立つ前に爆発する3号機の映像を見て母が言った
「今までの爆発とちがう。横じゃなくて、縦に、爆発してる-。」
その言葉にも思い出した女の話-
-を、やはり思わずにいられなかった。荷はリュックが二つだった。
そのほとんどが服で占められていた。肌着。靴下。
トレーナー。みな、買うときには選ぶものがなくて仕方なく
買い求めた物ばかりだった。62年製のジャズマスターも、
これまで描いてきた絵も、およそ自分というものを注ぎ自分そのもの-
-のように思いなしてきたたいせつな物は、およそ持ってゆくことが
できない物ばかりだった。たいして思い入れのない、平凡で、
実用的な衣類ばかりの詰まったリュック二つ。
どうやらそれが自分そのものらしかった。-
※次回に続く
2017/2/14(火)22:00に投稿予定です。