パラスト氏が「フクイチ」の耐震証明問題を取り上げたのは、ニューヨーク郊外のロングアイランドに建設された(運転開始を前に住民の反対運動で廃止された)、フクイチと同じGE社製原子炉の「ショーラム原発」が、実は耐震基準(SQ=Seismic Qualification)をクリアできていなかたことを――にもかかわらず、SQをクリアしたとNRC(米原子力規制委員会)に虚偽の報告をしていたことを突き止めていたためだ。
パラスト氏は「ノートブック」と呼ばれる証拠の内部文書を入手・保管している。
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さてパラスト氏が、その「ノートブック」を書いた、原発の建設会社( Shaw Construction 現在はStone & Webster)の上級エンジニアのディック氏と、その部下で同社の耐震検査員(地震専門家)であるウィーゼル氏の2人を呼び出し、SQ偽造問題の取材をしたのは、(チェルノブイリ事故があった)1986年のことだった。
場所は、あの「9・11」で倒壊したニューヨークの世界貿易センター(WTC)のタワーの52階。
遠くに「自由の女神」が見える部屋でのことだった。
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2人は、パラスト氏とその調査スタッフに対し、会議テーブルの上に関係資料を広げて見せたそうだ。
「ノートブック」も、そのひとつ。
上司のディック氏が部下のヴィーゼル氏からの「ショーラム原発」の関する耐震検査報告を受け、記録文書(フィールド・ノート)として書きとめていた。
パラスト氏はこの「ノート」を、WTCが崩壊する「9・11」以前に持ち出して保管していた。
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「ノート」にはこう書かれていた。(以下、要約)
「ウィーゼルは気を動転させていた。ナーヴァスになっていた。ウィーゼルは言った。『これはひどい(耐震検査の)結果だ。(NRCに)報告しなくちゃならないものだ』。そして彼は連邦政府の規制法令集を取り出し、50.55セクションを指差した。そこに報告しなければらない原発の欠陥が書かれていた……彼は報告したら、会社を解雇されるのではないかと心配していた。しかし、報告しなければ、連邦法を犯すことになる……」
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結局、ウィーゼル氏とデイック氏の2人は、会社の上層部からの指示もあり、「ショーラム原発」がSQをクリアしているとして、ウソの報告をNRCに対して行ったという。
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さて、この「ショーラム原発」の件と「フクイチ」が、どこでどうつながるか――ということだが、ひとつは、すでに述べたように原子炉が同じGE社製の沸騰水型原子炉であるということ。
もうひとつは、グレッグ・パラスト氏によると、「フクイチ」を建設したのが、「ショーラム」と同じ、ディック、ウィーゼル両氏が勤めていた「Shaw Construction」であるということだ。
(この点は要確認である。もしかしたら「フクイチ」もまた、この Shaw Construction社が日本の当局に対して、SQクリアの証明書を出していたかも知れない……)
「ショーラム」は1973年に着工、84年の完成。「フクイチ」とほぼ並行して建設が進められた原発だ。
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ここでもう一度、地震検査員、ウィーゼル氏の「ショーラム原発」耐震検査に戻ると、検査の結果は「大半の機器が地震の際、完全・完璧に損傷する( most of these components could "completely and utterly fail" during an earthquake.)」という、とんでもないものだった。
これはまるで「フクイチ」の悲劇を予言したような検査結果ではないか!
実際問題として、「フクイチ」では津波の前に地震の揺れで損傷した疑いが持たれているし、柏崎もまた地震で爆発寸前まで追い込まれたことは、なお記憶に新しい……。
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パラスト氏はことしの3月12日(米国では時差があるので……)、フクシマがメルトするのを目の当たりにした時のことを、新著『ハゲタカのピクニック』で、こう書いている。
私は知っていた。フクシマの「SQ」が偽造されたものであることを。
On March 12 this year, as I watched Fukushima melt, I knew: the "SQ" had been faked.
そして、私は吐きそうになった。
I was ready to vomit.
吐き気がしたのは、フクシマを建設したのが、あのShaw Construction社であることを知っていたからだ。
Because I knew who had designed the plant, who had built it and whom Tokyo Electric Power was having rebuild it: Shaw Construction.
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疑惑の提示――というよりも、疑惑を断定したような……いや、耐震偽装を断定したパラスト氏のレポートぶりではある。
「耐震偽装」されていた「フクイチ」!……
これは重要な証言である。日本のマスコミは(あるいは政府事故調は)、パラスト氏から詳しく事情を聴くべきではないか!
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「ショーラム原発」でのSQ偽装のことを知っていたからパラスト氏は、東京に飛んだCNNのアンカー、アンダーソン・クーパー氏の、(おそらくは東電の説明を真に受けた)「フクイチは震度8まで耐えられる設計だったが、今回の地震は震度9だった」とのレポートを見て、眉をひそめたのだ。
震度9は震源での震度。(パラストのサイトの記事にあるように)フクイチの現場では震度8を下回っていた……。
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プラスト氏は新刊書の発売に先行して明らかにしているのは、以上、これまで――ここまでである。
『ハゲタカのピクニック』には果たして、これ以上の「衝撃の真実」が書かれているのか?
手元に本が届き次第、報告するが、今回、パラスト氏がネットで先行公開した部分だけ読んでも、「フクイチ」の耐震性に対する疑問は膨らむ。
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プラスト氏のいう「ハゲタカ」とは、金もうけのためなら何でもする強欲のメタファーだ。
「ハゲタカ」たちは、もともと「耐震性」のないものを、地震国・日本に持ち込んで、地震の巣の前に据え付けたのだろうか?
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