原発問題

原発事故によるさまざまな問題、ニュース

終章 東京ブラックアウト ※5回目の紹介

2015-06-19 22:00:00 | 【東京ブラックアウト】

*『東京ブラックアウト』著者:若杉冽

章 東京ブラックアウトを複数回に分け紹介します。5回目の紹介

 

Amazon カスタマーレビュー )から
恐ろしい本です。小説という体裁はとっていますが、帯に「95%ノンフィクション」とあるように、限りなく現実に近い話でしょう。これを読んでも、原発再稼働に賛成と言えるでしょうか。一人でも多くの国民に読んでほしい本です。

作中に登場する資源エネルギー庁次長の日村直史は、経産官僚の今井尚哉氏だと、国会議員の河野太郎氏がTwitterで言及しています。現在、安倍首相の政務秘書官を務めている人物です。

 

過去に紹介した記事(【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(45) )から

救いがあるとすれば著者・若杉冽氏の次の言葉だ。
「まだまだ驚くべき事実はたくさんあるのです。
こうした情報が国民に届けば、きっと世論のうねりが起きる。
私が役所に残り続け、素性を明かさないのは、情報をとり続けるためです。
さらに第二、第三の『若杉冽』を世に送り出すためにも」

 

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**『東京ブラックアウト』著書 「章 東京ブラックアウト」の紹介

前回の話:終章 東京ブラックアウト ※4回目の紹介

 一応、名目的には最終処分場ではなく、最終処分するまでの間の中間貯蔵施設ということにはなっているが、世界の原子力発電所の放射性廃棄物の最終処分場を、事実上、一手に引き受けている・・・そんな三流国として生きていくしか、日本に道は残されていなかったのだ。

 日本国内の残りの原発も、引き続き次の事故を目指して稼働していた。

 日村は経済産業事務次官を経て、近畿電力の代表取締役副社長に天下っていた。

 小島は関東電力の会長に収まっていた。

 赤沢は加部のあとを次いで総理を務め、その後、政界を引退していた。

 守下は出世コースから大きく外れ、定年間際のスタッフ職として、原子力発電の検査官を務めていた。

 家が朽ち果ててもシロアリは生き残る。日本が放射能汚染にまみれても、電力マネーに群がる政治家や官僚は生き残る・・・。

 二度の原発事故を起こしても原発推進は止まらない。それが「電力モンスター・システム」の復元力だった。

*****

 今上陛下への請願の送付先
 〒100−8968 東京都千代田区永田町1−6−1 内閣官房内閣総務官室

「終章 東京ブラックアウト」の紹介は、本日で終了します。

引き続き『世界が見た福島原発災害』著書から、「第15章 校庭に原発が来た!」の紹介を6/22(月)22:00から始めます。


東京ブラックアウト(若杉冽)

原発ホワイトアウト(若杉冽)

 


終章 東京ブラックアウト ※4回目の紹介

2015-06-18 22:00:00 | 【東京ブラックアウト】

*『東京ブラックアウト』著者:若杉冽

章 東京ブラックアウトを複数回に分け紹介します。4回目の紹介

 

Amazon カスタマーレビュー )から
恐ろしい本です。小説という体裁はとっていますが、帯に「95%ノンフィクション」とあるように、限りなく現実に近い話でしょう。これを読んでも、原発再稼働に賛成と言えるでしょうか。一人でも多くの国民に読んでほしい本です。

作中に登場する資源エネルギー庁次長の日村直史は、経産官僚の今井尚哉氏だと、国会議員の河野太郎氏がTwitterで言及しています。現在、安倍首相の政務秘書官を務めている人物です。

 

過去に紹介した記事(【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(45) )から

救いがあるとすれば著者・若杉冽氏の次の言葉だ。
「まだまだ驚くべき事実はたくさんあるのです。
こうした情報が国民に届けば、きっと世論のうねりが起きる。
私が役所に残り続け、素性を明かさないのは、情報をとり続けるためです。
さらに第二、第三の『若杉冽』を世に送り出すためにも」

 

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**『東京ブラックアウト』著書 「章 東京ブラックアウト」の紹介

前回の話:終章 東京ブラックアウト ※3回目の紹介

(50)

 東京は、昼間は除染のためのトラックやブルドーザーが行き来するも、夜はすっかり人気のない暗黒のエリアとなった。

 月の光にかすかに照らされて、ザハ・ハディドがデザインした建設途中の新国立競技場と東京スカイツリーが不気味にそびえている。もちろん新国立競技場の建設は中止となっていた。

 そこがかつて繁栄する日本国の首都だったことを忘れないようにするためか、東京タワーだけがオレンジ色にライトアップされている。この灯りがあるだけでも、少しは防犯対策になっているらしい。

 JR東海が社運をかけて着手したリニア中央新幹線の建設も中止となった。東京は既にもぬけの殻で、乗客は見込めない。

 しかし、火力発電を中心に、日本国内には電力が十分に供給されている。それにもかかわらず、放射能汚染がゆえに、東京の首都機能は麻痺し、暗黒が支配するブラックアウトの状態となっていた。

 それは、原発という、神ならぬ人類には制御不能のモンスターを生かし続けたゆえなのか・・・過去に目を閉ざす者は、現在に対しても盲目となる、ということだったのか。


 ー新崎原発の事故から10年後、除染しても除染しても線量の減らない関東平野に、世界中の放射性廃棄物を貯蔵する施設が設置された。

 施設といいながらも、コスト削減のために建屋は設けられず、野ざらしで、コンクリートキャスクがいくつもいくつも並んでいるだけ・・・首都高の高架下には、続々とキャスクが並べられていく。

 ちょうどそれは、新崎原発の事故によって急性放射性障害やその後の甲状腺がんなどで亡くなった者たちの墓標のようでもあった。

※続き「終章 東京ブラックアウト」は、6/1922:00に投稿予定です


東京ブラックアウト(若杉冽)

原発ホワイトアウト(若杉冽)

 


終章 東京ブラックアウト ※3回目の紹介

2015-06-17 22:00:00 | 【東京ブラックアウト】

*『東京ブラックアウト』著者:若杉冽

章 東京ブラックアウトを複数回に分け紹介します。3回目の紹介

 

Amazon カスタマーレビュー )から
恐ろしい本です。小説という体裁はとっていますが、帯に「95%ノンフィクション」とあるように、限りなく現実に近い話でしょう。これを読んでも、原発再稼働に賛成と言えるでしょうか。一人でも多くの国民に読んでほしい本です。

作中に登場する資源エネルギー庁次長の日村直史は、経産官僚の今井尚哉氏だと、国会議員の河野太郎氏がTwitterで言及しています。現在、安倍首相の政務秘書官を務めている人物です。

 

( 「東京ブラックアウト」)から
「バ、バカ野郎!おまえは知っているのか? かつて新潟県の泉田知事が、たった400人を対象に避難訓練をしただけでも、その地域には大渋滞が起こったんだぞ!・・・あと数時間で、東京の都市機能は失われるっ。いいか、これは命令だ・・・」
・・・玲子は絶句した。いつも冷静でクールな夫が、15年の結婚生活で初めて見せる取り乱しぶりだったからだ。


過去に紹介した記事(【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(45) )から

救いがあるとすれば著者・若杉冽氏の次の言葉だ。
「まだまだ驚くべき事実はたくさんあるのです。
こうした情報が国民に届けば、きっと世論のうねりが起きる。
私が役所に残り続け、素性を明かさないのは、情報をとり続けるためです。
さらに第二、第三の『若杉冽』を世に送り出すためにも」

 

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**『東京ブラックアウト』著書 「章 東京ブラックアウト」の紹介

前回の話:終章 東京ブラックアウト ※2回目の紹介

 京都で特別国会が開催されているあいだ、2016年リオデジャネイロオリンピックに併せて、国際オリンピック委員会(IOC)総会が開催されていた。ここで中国の理事から緊急の議題が提案された。2020年の東京オリンピックの取り消しを求めるものだ。

「これから科学的・計画的に除染を実施しますから、2020年の東京オリンピックは安全に実施できます。我が国にはフクシマの経験で培った除染の技術があります。その技術で、放射能汚染は完全にコントロール下にあります」

 と、松添都知事は得意のフランス後と英語を交えながら、必死で反論していた。

「・・・私は、東京オリンピックの成功を日本の復興のシンボルにしたい。みなさん、ぜひ東京を、そして日本を助けてください。世界のスポーツの力で助けてください!」

 最後は浪花節だった。しかし、オリンピック選手への健康の影響を心配するIOCの委員からしてみれば、除染によってどの程度線量が低下するか、その科学的根拠が示されないことが不満だった。

 結局、2020年の東京オリンピックの取り消しは93対1の圧倒的多数で決定された。

 続いて、同じく中国の理事から、上海を東京の代わりの候補地とする提案がなされた。すると、92対2の圧倒的多数で、上海がそのまま選出されてしまった。反対に一票加わったのは、委員に一人を出しているチャイニーズ・タイペイのおかげだ・・・。

 日本が新崎原発事故で混乱するなか、中国がじっくりと各国に根回ししておいたのだ。

 1908年のオリンピックはローマが開催予定地であったが、イタリアのヴェスヴィオ山が噴火し、その被害がローマにも及んだことから、開催地が急遽ロンドンに変更された。この先例を引き合いに出し、近隣国である中国が日本の危機を助けたい、という絶妙の根回しだった。

※続き「終章 東京ブラックアウト」は、6/1822:00に投稿予定です 

東京ブラックアウト(若杉冽)

原発ホワイトアウト(若杉冽)

 


終章 東京ブラックアウト ※2回目の紹介

2015-06-16 22:00:00 | 【東京ブラックアウト】

*『東京ブラックアウト』著者:若杉冽

章 東京ブラックアウトを複数回に分け紹介します。2回目の紹介

 

Amazon カスタマーレビュー )から
恐ろしい本です。小説という体裁はとっていますが、帯に「95%ノンフィクション」とあるように、限りなく現実に近い話でしょう。これを読んでも、原発再稼働に賛成と言えるでしょうか。一人でも多くの国民に読んでほしい本です。

作中に登場する資源エネルギー庁次長の日村直史は、経産官僚の今井尚哉氏だと、国会議員の河野太郎氏がTwitterで言及しています。現在、安倍首相の政務秘書官を務めている人物です。

 

( 「東京ブラックアウト」)から
「バ、バカ野郎!おまえは知っているのか? かつて新潟県の泉田知事が、たった400人を対象に避難訓練をしただけでも、その地域には大渋滞が起こったんだぞ!・・・あと数時間で、東京の都市機能は失われるっ。いいか、これは命令だ・・・」
・・・玲子は絶句した。いつも冷静でクールな夫が、15年の結婚生活で初めて見せる取り乱しぶりだったからだ。


過去に紹介した記事(【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(45) )から

救いがあるとすれば著者・若杉冽氏の次の言葉だ。
「まだまだ驚くべき事実はたくさんあるのです。
こうした情報が国民に届けば、きっと世論のうねりが起きる。
私が役所に残り続け、素性を明かさないのは、情報をとり続けるためです。
さらに第二、第三の『若杉冽』を世に送り出すためにも」

 

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**『東京ブラックアウト』著書 「章 東京ブラックアウト」の紹介

前回の話:終章 東京ブラックアウト ※1回目の紹介

 加部の頬に珍しく血の気が差し、紅潮している。加部は自分の言葉に酔っているようにも見える。

「・・・これは、一面においては国際的な貢献であると同時に、もう一つの重要な側面としては、我が国において貴重となった外貨の獲得手段ともなるわけでございます。

 ご承知の通り、先の新崎原発の事故後に、我が国から外国資本が流出し、円の価値も非常に下がっているわけであります。円安に、株安と債権安のトリプル安の苦境から経済的な復興をするべく、ぜひ、国際的な放射性廃棄物の中間貯蔵施設の引き受けをやらしていただきたい、このように考えておるところでございます」

「そんなこといったって、中間貯蔵といいながらずっと永遠に貯蔵させられることになるんとちゃうの? 加部総理」

 と、今回復活した民自党の千額議員が噛みつく。越本代表の裏切りさえなければ、脱原発連合政権で官房長官になるはずだった。もともとは極左の弁護士だった千額も、落選期間中、物心とともに電力の恩義を受けていたため、「中長期的脱原発派」に改宗していた。

 加部が自信満々に答える。脳内でドーパミンが大量に分泌されている。

「我が国はですね、きちんと相手国と、国際条約として約束するんですよ。高レベル放射性廃棄物の最終処分には絶対にコミットしない、あくまで、相手国で最終処分場が見つかるまでの中間貯蔵施設だということを約束するんです。そして、50年後までに最終処分場が見つけられない場合には、放射性廃棄物は相手国に返還する、との規定も置くんです」

 千額はするどく切り返す。

「そんなこといったって、条約の原案には、50年後の期限到来前に両国が反対の意思表示をしない限り、更新される、という規定があるじゃないですか。50年ごと更新、50年ごと更新って、結局は永久的に、日本に世界中の放射性廃棄物が放置される、ってことじゃないんですか」

 千額の指摘は正鵠を射ていた。ただ、加部総理は加部総理で、正しい読みを持っていた。日本人は、50年後の話であれば、後世の負担など気にもせず、懸案を先延ばしにしても目くじらを立てない、大らかな国民性であるという読みを・・・。

※続き「終章 東京ブラックアウト」は、6/1722:00に投稿予定です 

東京ブラックアウト(若杉冽)

原発ホワイトアウト(若杉冽)

 


終章 東京ブラックアウト ※1回目の紹介

2015-06-15 22:00:00 | 【東京ブラックアウト】

*『東京ブラックアウト』著者:若杉冽

章 東京ブラックアウトを複数回に分け紹介します。1回目の紹介

 

Amazon カスタマーレビュー )から
恐ろしい本です。小説という体裁はとっていますが、帯に「95%ノンフィクション」とあるように、限りなく現実に近い話でしょう。これを読んでも、原発再稼働に賛成と言えるでしょうか。一人でも多くの国民に読んでほしい本です。

作中に登場する資源エネルギー庁次長の日村直史は、経産官僚の今井尚哉氏だと、国会議員の河野太郎氏がTwitterで言及しています。現在、安倍首相の政務秘書官を務めている人物です。

 

( 「東京ブラックアウト」)から
「バ、バカ野郎!おまえは知っているのか? かつて新潟県の泉田知事が、たった400人を対象に避難訓練をしただけでも、その地域には大渋滞が起こったんだぞ!・・・あと数時間で、東京の都市機能は失われるっ。いいか、これは命令だ・・・」
・・・玲子は絶句した。いつも冷静でクールな夫が、15年の結婚生活で初めて見せる取り乱しぶりだったからだ。


過去に紹介した記事(【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(45) )から

救いがあるとすれば著者・若杉冽氏の次の言葉だ。
「まだまだ驚くべき事実はたくさんあるのです。
こうした情報が国民に届けば、きっと世論のうねりが起きる。
私が役所に残り続け、素性を明かさないのは、情報をとり続けるためです。
さらに第二、第三の『若杉冽』を世に送り出すためにも」

 

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**『東京ブラックアウト』著書 「章 東京ブラックアウト」の紹介

終 章 東京ブラックアウト

 福島民報(2014年3月12日・4面)

「震災/原発事故3年 伊吹衆院議長脱原発に言及 首相周辺不快感」

 伊吹文明衆院議長は11日、東京都内で開かれた政府主催の東日本大震災3周年追悼式の式辞でエネルギー政策に関し「将来の脱原発を見据えて議論を尽くしたい」と述べた。議長就任に伴い自民党会派を離脱しているが、「脱原発は無責任」(安倍晋三首相)との党の主張と一線を画した形だ。首相周辺から不快感が出ており、波紋を広げそうだ。

 伊吹氏は東京電力福島第一原発事故を受け、長期の避難生活を余儀なくされている現状に触れた上で「電力を無尽蔵に使えるとの前提に立ったライフスタイルを見直し、反省し、省エネルギーの暮らしにかじを切らねばならない」と強調し、脱原発に言及した。

 首相周辺は「追悼式は政治的な発言をする場ではない。どうかしている」と反発した。

*****

(49)

 国立京都国際会館を借りて開催された特別国会で、組閣の後、本会議に続いて、予算委員会が開催された。予算委員会は、メインホールではなく、2階のルームAという会議室が用いられ、テレビ中継された。

 加部総理がいつもの若千舌足らずな口調で答弁している。

「我が国は、先の大戦における二度の原子力爆弾による被害、そして近年のフクシマ、新崎と、2度にわたる原子力発電所の事故を経験しているわけでございます。そうした経験を踏まえて、二度とこういったことが起こらないように、我が国が得た教訓を、国際的に発信していかなければなりません。

 世界的に見れば今後もエネルギーの需給が逼迫することが予想されるなか、世界が引き続き原子力発電に依存しなければならないのであれば、こうした国際的な発進とともに、被災した我々として、この原子力発電の利用に関して国際的な貢献をしていくことが必要であります。その国際的な貢献の一環として、世界中がその困難に直面している放射性廃棄物の中間貯蔵施設を、他国に変わり我が国が引き受けることを、ご提案させていただく次第であります」

※続き「終章 東京ブラックアウト」は、6/1622:00に投稿予定です 

東京ブラックアウト(若杉冽)

原発ホワイトアウト(若杉冽)

 


第10章 政治家と官僚のエクソダス ※10回目の紹介

2015-06-12 22:11:57 | 【東京ブラックアウト】

*『東京ブラックアウト』著者:若杉冽

第10章 政治家と官僚のエクソダスを複数回に分け紹介します。10回目の紹介

 

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恐ろしい本です。小説という体裁はとっていますが、帯に「95%ノンフィクション」とあるように、限りなく現実に近い話でしょう。これを読んでも、原発再稼働に賛成と言えるでしょうか。一人でも多くの国民に読んでほしい本です。

作中に登場する資源エネルギー庁次長の日村直史は、経産官僚の今井尚哉氏だと、国会議員の河野太郎氏がTwitterで言及しています。現在、安倍首相の政務秘書官を務めている人物です。

 

( 「東京ブラックアウト」)から
「バ、バカ野郎!おまえは知っているのか? かつて新潟県の泉田知事が、たった400人を対象に避難訓練をしただけでも、その地域には大渋滞が起こったんだぞ!・・・あと数時間で、東京の都市機能は失われるっ。いいか、これは命令だ・・・」
・・・玲子は絶句した。いつも冷静でクールな夫が、15年の結婚生活で初めて見せる取り乱しぶりだったからだ。


過去に紹介した記事(【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(45) )から

救いがあるとすれば著者・若杉冽氏の次の言葉だ。
「まだまだ驚くべき事実はたくさんあるのです。
こうした情報が国民に届けば、きっと世論のうねりが起きる。
私が役所に残り続け、素性を明かさないのは、情報をとり続けるためです。
さらに第二、第三の『若杉冽』を世に送り出すためにも」

 

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**『東京ブラックアウト』著書 「第10章 政治家と官僚のエクソダス」の紹介

前回の話:第10章 政治家と官僚のエクソダス ※9回目の紹介

 怒りをぶつけるはずの経産省がもぬけの殻であることが、さらに群衆の怒りの火に油を注ぐ。群衆が経産省の建物に投石を始めた制止する者は誰もいない。

 パキン、パキンと、窓ガラスにヒビが入る音がする。それがまた群衆を一層興奮させる。

 「とにかく、残っている職員にでも直談判しなきゃ」

 リーダー格の主催者の一人が、経産省の建物のなかに入っていく。群衆がそれに続く。数名の警備員が制止するが、「誰か政策の責任者はいねぇのか」と興奮した暴徒は、警備員の制止を無視し、どんどん執務室に入っていく。

 憤懣やるかたない暴徒は、椅子を蹴ったり、椅子を叩いたり、それでも不満が収まらない分子は、卓上のノートパソコンを強奪している、バラしてパーツを秋葉原で売れば、結構な値段になるはずだ。

「おーい、ここが原子力政策課だぞ!」

 身分を隠してデモに紛れ込んでいた東田に先導され、経産省別館の5階で群衆から歓声が上がる。

 まるで忠臣蔵の討ち入りだ。吉良上野介を発見したときのようだ。畑山課長の机を横転させて気勢を上げる。

 ロッカーのなかのドッチファイルを床に放り投げる。ファイルから、かつてのMOX燃料やプルサーマルの推進の書類が散らばる。

「こんなもん、こうしてやる!」

 血気盛んな若者がライターで書類に火を点ける。

 群衆の興奮の高まりに呼応するように、火の手が上がった。火は窓際のカーテンに移り、室内が火の海になっていく。

「うぉー!! 火事だ!! 撤収するぞ!!」


 経産省の建物が炎に包まれるなか、入りきれない群衆は、日比谷公園から経産省とは反対方向の内幸町にある関東電力本店に向かった。屋上の巨大なアンテナが特徴的な15階建ての白い鉄筋コンクリート製のビルも、半時間もしないうちに炎に包まれた。

 興奮した群衆は、日比谷公園内の千代田区立日比谷図書文化館、日比谷公園の向かい側のプレスセンタービルも襲った。まさに、第二の「日比谷焼き打ち事件」であった。

 群衆が鎮圧されたのは、政府から再び都心三区に戒厳令が発せられ、自衛隊が現地に到着してからであった。

 いつの世も、国民から乖離した政治は国民を逆上させるが、それを鎮圧するのも国家の物理的な強制力なのである。

第10章 政治家と官僚のエクソダス」の紹介は、今回で終了します。

引き続き「終章 東京ブラックアウト」の紹介を始めます。6/1522:00に投稿予定です 

東京ブラックアウト(若杉冽)

原発ホワイトアウト(若杉冽)

 


第10章 政治家と官僚のエクソダス ※9回目の紹介

2015-06-11 22:00:00 | 【東京ブラックアウト】

*『東京ブラックアウト』著者:若杉冽

第10章 政治家と官僚のエクソダスを複数回に分け紹介します。9回目の紹介

 

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恐ろしい本です。小説という体裁はとっていますが、帯に「95%ノンフィクション」とあるように、限りなく現実に近い話でしょう。これを読んでも、原発再稼働に賛成と言えるでしょうか。一人でも多くの国民に読んでほしい本です。

作中に登場する資源エネルギー庁次長の日村直史は、経産官僚の今井尚哉氏だと、国会議員の河野太郎氏がTwitterで言及しています。現在、安倍首相の政務秘書官を務めている人物です。

 

( 「東京ブラックアウト」)から
「バ、バカ野郎!おまえは知っているのか? かつて新潟県の泉田知事が、たった400人を対象に避難訓練をしただけでも、その地域には大渋滞が起こったんだぞ!・・・あと数時間で、東京の都市機能は失われるっ。いいか、これは命令だ・・・」
・・・玲子は絶句した。いつも冷静でクールな夫が、15年の結婚生活で初めて見せる取り乱しぶりだったからだ。


過去に紹介した記事(【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(45) )から

救いがあるとすれば著者・若杉冽氏の次の言葉だ。
「まだまだ驚くべき事実はたくさんあるのです。
こうした情報が国民に届けば、きっと世論のうねりが起きる。
私が役所に残り続け、素性を明かさないのは、情報をとり続けるためです。
さらに第二、第三の『若杉冽』を世に送り出すためにも」

 

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**『東京ブラックアウト』著書 「第10章 政治家と官僚のエクソダス」の紹介

前回の話:第10章 政治家と官僚のエクソダス ※8回目の紹介

(38)

 国民の生活よりも電力会社の利益や経産省の利権を優先させる、そのことが赤裸々に書かれた記事を読んだ国民は、猛反発した。

 首都圏が壊滅するほどの原発事故を起こしても、まだ原発を動かそうとする経産省と電力会社に対して制裁を加えようと、ツイッターやフェイスブックで呼びかけた。東田係長もその主唱者の一人だった。

 経産省の建物は霞が関に、そして関東電力は、そこから日比谷公園を挟んだ内幸町に本店の建物が位置する。ネットで呼びかけられて集まった群衆は、公園全体に膨れ上がった。

 いつもの金曜日夕方の官邸前の脱原発デモとは異なり、高齢者よりも、ネットに反応する若者が圧倒的に多い。高線量が気になるので、みなマスクにゴーグル姿である。これは写真を取られても顔がわからない姿でもあり、警察権力への警戒心をゆるめ、群衆を一層大胆にした。

 デモの届出はなされていたが、予定人数の1000人を遙かに超える数万人の若者が、続々と集まり続けている。

「それでは、まず、電力供給安定化推進本部を設置し、首都圏の住民を見殺しにした経産省に向かいます!」

 と、先頭の主催者が拡声器で声を上げる。

 うぉーっ!!

 地底から湧き上がる地鳴りのような声が響く。

 経産省の前の歩道の幅には、とうてい群衆は収まりきれない。経産省別館のイイノビルの前にも、経産省の北側の農水省前の歩道にも、経産省本館の向かいの財務省前の歩道にも、経産省の南側の日本郵政の建物の周りにも、群衆があふれ返っている。

「寺沢経産大臣、私たちの声が聞こえますか? 本日は、原発即停止の要請書を持ってまいりましたぁ」

 寺沢大臣は既に大阪にいた。副大臣も、大臣政務官も、経済産業事務次官も、資源エネルギー庁長官も、みんな既に大阪だった。

 電力供給安定化推進本部を設置した経産省は、ほとんどの部局が大阪に移動し、ほぼ、もぬけの殻であった。いつもは不夜城のように深夜まで電気が点いている経産省の本館と別館の建物が、わずかな電気を残して、廃墟のように佇んでいた。

「・・・経産省の奴ら、ほとに俺達を見殺しにしやがった!」

※続き第10章 政治家と官僚のエクソダス」は、6/1222:00に投稿予定です

 

東京ブラックアウト(若杉冽)

原発ホワイトアウト(若杉冽)

 


第10章 政治家と官僚のエクソダス ※8回目の紹介

2015-06-10 22:06:16 | 【東京ブラックアウト】

*『東京ブラックアウト』著者:若杉冽

第10章 政治家と官僚のエクソダスを複数回に分け紹介します。8回目の紹介

 

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恐ろしい本です。小説という体裁はとっていますが、帯に「95%ノンフィクション」とあるように、限りなく現実に近い話でしょう。これを読んでも、原発再稼働に賛成と言えるでしょうか。一人でも多くの国民に読んでほしい本です。

作中に登場する資源エネルギー庁次長の日村直史は、経産官僚の今井尚哉氏だと、国会議員の河野太郎氏がTwitterで言及しています。現在、安倍首相の政務秘書官を務めている人物です。

 

( 「東京ブラックアウト」)から
「バ、バカ野郎!おまえは知っているのか? かつて新潟県の泉田知事が、たった400人を対象に避難訓練をしただけでも、その地域には大渋滞が起こったんだぞ!・・・あと数時間で、東京の都市機能は失われるっ。いいか、これは命令だ・・・」
・・・玲子は絶句した。いつも冷静でクールな夫が、15年の結婚生活で初めて見せる取り乱しぶりだったからだ。


過去に紹介した記事(【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(45) )から

救いがあるとすれば著者・若杉冽氏の次の言葉だ。
「まだまだ驚くべき事実はたくさんあるのです。
こうした情報が国民に届けば、きっと世論のうねりが起きる。
私が役所に残り続け、素性を明かさないのは、情報をとり続けるためです。
さらに第二、第三の『若杉冽』を世に送り出すためにも」

 

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**『東京ブラックアウト』著書 「第10章 政治家と官僚のエクソダス」の紹介

前回の話:第10章 政治家と官僚のエクソダス ※7回目の紹介

<新崎原発事故直後、経産省高官と電力業界幹部とのあいだで、原発推進に関する極秘文書が作成され、事故後処理方針も極秘文書に沿って政策が進められていることが、朝経新聞の取材でわかった。

 この文書は、新崎原発の6号機の爆発の直後に、経産省資源エネルギー庁高官と日本電力連盟幹部とのあいだで、その後の事態の収拾の方針について合意されたA4版1枚のペーパー。

■文書の全文(写真)

 当面の対応

1.被ばく限度を引上げ。即日実施。住民の被曝限度を年20ミリシーベルトに、作業員50ミリシーベルトから500ミリシーベルトに変更。事態の推移に応じ、さらなる見直し。

2.計画停電の実施。電力不足のキャンペーン。

3.発送電分離の先延ばし。附則を足掛かりに。

4.国政選挙対策。「脱原発」○、「即ゼロ」☓。O泉対策。Mシステムフル稼働(フロー+ストック)。

5.首都圏壊滅→パニック鎮圧→遷都。19兆円の財源は原子力発電課税→運転保障。

6.中間貯蔵施設の対内誘致。

 今回入手した極秘文書には、新崎原発7号機の爆発直後に実施された被曝限度の引上げを示唆する記述のほか、今日まで続く首都圏での計画停電の実施について「電力不足のキャンペーン」と記載されており、経産省関係者によれば、「電力は実際には足りているにもかかわらず、原発再稼働の必要性を国民に広く認識させるために意図的に計画停電を実施している」ことが裏付けられた文書だ。

 また、首都圏が壊滅的な打撃を受けることを見越して、パニックの鎮圧についても記載されており、その後の戒厳令の復活などにつながっていったことがわかる。

 その他、昨年成立した発送電分離を定める電気事業法の一部を改正する法律の附則にある「本法の施行までの間に政府は原子力発電の経済的措置について速やかに法制的な措置を講じ、電力自由化と原子力発電の推進との両立を確保するものとする」との規定を根拠に、原子力発電の経済的措置について立法がなされない間は、発送電分離を先延ばしにすることも合意されている。

 さらに、今後の関西への遷都の方針についても明記され、必要となる約19兆円の財源として原子力発電の発電電力量への課税で賄うことや、使用済み核燃料を海外から受け入れるための中間貯蔵施設を建設していく方針が明記されている。

 政界対策としては、今年実施される予定の国政選挙について大泉元総理への対策の必要性、また電力会社が支援する候補者の選別の必要性などが示されている。

 今後の原子力や電力をめぐる政策の方針について、経産省と電力業界との密約が明らかになったことで、これからの議論の行方にも影響を与えそうだ。

 経産省幹部は、朝経新聞の取材に対して、文書の存在を認めつつも、

「あくまでディスカッションの結果を関係者の個人のメモとして書き留めたもので、行政文書ではない。政府の政策は適正な手続きに則って粛々と進められる」

 と回答している>

※続き第10章 政治家と官僚のエクソダス」は、6/1122:00に投稿予定です

 

東京ブラックアウト(若杉冽)

原発ホワイトアウト(若杉冽)

 


第10章 政治家と官僚のエクソダス ※7回目の紹介

2015-06-09 22:00:00 | 【東京ブラックアウト】

*『東京ブラックアウト』著者:若杉冽

第10章 政治家と官僚のエクソダスを複数回に分け紹介します。7回目の紹介

 

Amazon カスタマーレビュー )から
恐ろしい本です。小説という体裁はとっていますが、帯に「95%ノンフィクション」とあるように、限りなく現実に近い話でしょう。これを読んでも、原発再稼働に賛成と言えるでしょうか。一人でも多くの国民に読んでほしい本です。

作中に登場する資源エネルギー庁次長の日村直史は、経産官僚の今井尚哉氏だと、国会議員の河野太郎氏がTwitterで言及しています。現在、安倍首相の政務秘書官を務めている人物です。

 

( 「東京ブラックアウト」)から
「バ、バカ野郎!おまえは知っているのか? かつて新潟県の泉田知事が、たった400人を対象に避難訓練をしただけでも、その地域には大渋滞が起こったんだぞ!・・・あと数時間で、東京の都市機能は失われるっ。いいか、これは命令だ・・・」
・・・玲子は絶句した。いつも冷静でクールな夫が、15年の結婚生活で初めて見せる取り乱しぶりだったからだ。


過去に紹介した記事(【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(45) )から

救いがあるとすれば著者・若杉冽氏の次の言葉だ。
「まだまだ驚くべき事実はたくさんあるのです。
こうした情報が国民に届けば、きっと世論のうねりが起きる。
私が役所に残り続け、素性を明かさないのは、情報をとり続けるためです。
さらに第二、第三の『若杉冽』を世に送り出すためにも」

 

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**『東京ブラックアウト』著書 「第10章 政治家と官僚のエクソダス」の紹介

前回の話:第10章 政治家と官僚のエクソダス ※6回目の紹介

 守下が煽るように、もっともらしくため息をつくと、東田が応える。

「俺、同期が原子力政策課にいるんで、その文書、こっそりもらってきますよ」

 ここまでなら、ありふれた役人同士のやり取りだ。

 しかし、トカゲのシッポにも五分の魂である。ここからが守下の踏ん張りどころだった。

「そうか、ぜひ、お願いするよ」

 そういって一息入れると、自分の目に力を込めた。

「・・・でもな、東田、文書を入手するだけだと、世の中変わらない」

 守下はさらに、グッと東田の瞳のなかを見つめる。

「どいうことですか?」

「2004年、経産省の当時の若手が、極秘文書にわかりやすい解説を付したパワーポイントを『19兆円の請求書』と名付けて、プレスにばらないた。19兆円の請求雨書事件だ」

「ええ、聞いたことはありますが・・・」

 東田の目の光が宿った。守下の術中にはまった。

「・・・『19兆円の請求書』に関わった若手、そして応援した中堅官僚は、みんなパージされたって話だけどな。でも、核燃料サイクルがインチキだってことだけは、どうにも隠しようのない真実として広く世の中には伝わった。

 どういう人生を送るかは、そえぞれが自分で決めることだ。若い奴が若いときにしかできないことをやることで、世の中が変わることもある、坂本竜馬もそうして、31歳で死んだ。人生は一度きりだ。後悔しないように、としか俺はいえんよ」

 東田の目の奥に熾火のような光が見え隠れし、いつしかメラメラと火の粉を散らし始めた。誰だって、自分が生きてきた、その証が欲しいのだ。

 賽は投げられた。2・26事件といい、19兆円の請求書事件といい、どの時代も、立ち上がるのはつねに血気盛んな青年将校なのだ。


 数日後の月曜の朝、朝経新聞にスクープ載った。東田の単独リークと思われた。

「経産省幹部、電力連盟と極秘文書作成 遷都を模索、費用は原発稼働で捻出」との見出しで、記事内容は次の通りであった。

※続き第10章 政治家と官僚のエクソダス」は、6/1022:00に投稿予定です

 

東京ブラックアウト(若杉冽)

原発ホワイトアウト(若杉冽)

 


第10章 政治家と官僚のエクソダス ※6回目の紹介

2015-06-08 22:00:00 | 【東京ブラックアウト】

*『東京ブラックアウト』著者:若杉冽

第10章 政治家と官僚のエクソダスを複数回に分け紹介します。6回目の紹介

 

Amazon カスタマーレビュー )から
恐ろしい本です。小説という体裁はとっていますが、帯に「95%ノンフィクション」とあるように、限りなく現実に近い話でしょう。これを読んでも、原発再稼働に賛成と言えるでしょうか。一人でも多くの国民に読んでほしい本です。

作中に登場する資源エネルギー庁次長の日村直史は、経産官僚の今井尚哉氏だと、国会議員の河野太郎氏がTwitterで言及しています。現在、安倍首相の政務秘書官を務めている人物です。

 

( 「東京ブラックアウト」)から
「バ、バカ野郎!おまえは知っているのか? かつて新潟県の泉田知事が、たった400人を対象に避難訓練をしただけでも、その地域には大渋滞が起こったんだぞ!・・・あと数時間で、東京の都市機能は失われるっ。いいか、これは命令だ・・・」
・・・玲子は絶句した。いつも冷静でクールな夫が、15年の結婚生活で初めて見せる取り乱しぶりだったからだ。


過去に紹介した記事(【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(45) )から

救いがあるとすれば著者・若杉冽氏の次の言葉だ。
「まだまだ驚くべき事実はたくさんあるのです。
こうした情報が国民に届けば、きっと世論のうねりが起きる。
私が役所に残り続け、素性を明かさないのは、情報をとり続けるためです。
さらに第二、第三の『若杉冽』を世に送り出すためにも」

 

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**『東京ブラックアウト』著書 「第10章 政治家と官僚のエクソダス」の紹介

前回の話:第10章 政治家と官僚のエクソダス ※5回目の紹介

「俺たちは、トカゲのシッポなんっすか?」

 新橋の安い個室居酒屋で、経産省から出向している東田係長が、目を三角にして守下に絡んでくる。

 テーブルの上には、もやしサラダのお通しと、赤黒く表面が干からびかけたマグロの刺身・・・昔のように電力会社や特殊法人に領収書を付け回ししていた時代を知らない、若い係長の東田は、ろくに旨い料理を食ったこともないのだろう。しかし、こうさもしい奴に限って、体制には批判的だ。

 ーこいつは使えるかもしれない。

「そうなんだよ。シッポなんだよ、俺達はシッポ」

 と、守下は係長を挑発する。

「ったく、やってられないっすよ。原発を推進した経産省が本来、尻を拭わなくっちゃいけない話なのに、さっさと逃げてやがる。それでもってですよ、原子力規制をしていた俺たちが経産省出身ってことで、霞が関に残されて、白い目で見られてる・・・・」

 焼酎をグラスに注ぎ、ロックでそのままガンガン飲んでいる。ずいぶんと酔いが回っているようだ。

 いまが好機だ。

 重々しく守下が口を開いた。

「実はな、ここだけの話だが・・・」

 といって一息入れる。東田が「おや」という表情をして、息を飲むのがわかった

「・・・関西に遷都するっていう方針を固めた極秘文書があるらしいんだよ。電力の幹部と、資源エネルギー庁の日村次長とで握った文書らしい・・・計画停電を実施、発送電力分離は延期、遷都の費用は原発の電気から賄う、外国から使用済み燃料を持ち込んで中間貯蔵をする、っていうシナリオだ」

「ほ、本当っすか?」

 東田は目を丸くして、唾を飛ばす。

「た、たしかに、フクシマの事故のときにも、『最悪シナリオ』となったら、福岡に臨時政府を置くという案が、極秘に検討されたって聞いたことがありましたけど・・・」

 東田は視線を宙に泳がせている。

 守下はかまわず続けた。

「原子力政策課の畑山課長から聞いたんだよ。文書自体はもらえなかったが、経産省のなかでは密かに出回っているらしいんだ・・・」

※続き第10章 政治家と官僚のエクソダス」は、6/922:00に投稿予定です

 

東京ブラックアウト(若杉冽)

原発ホワイトアウト(若杉冽)

 


第10章 政治家と官僚のエクソダス ※5回目の紹介

2015-06-05 22:00:00 | 【東京ブラックアウト】

*『東京ブラックアウト』著者:若杉冽

第10章 政治家と官僚のエクソダスを複数回に分け紹介します。5回目の紹介

 

Amazon カスタマーレビュー )から
恐ろしい本です。小説という体裁はとっていますが、帯に「95%ノンフィクション」とあるように、限りなく現実に近い話でしょう。これを読んでも、原発再稼働に賛成と言えるでしょうか。一人でも多くの国民に読んでほしい本です。

作中に登場する資源エネルギー庁次長の日村直史は、経産官僚の今井尚哉氏だと、国会議員の河野太郎氏がTwitterで言及しています。現在、安倍首相の政務秘書官を務めている人物です。

 

( 「東京ブラックアウト」)から
「バ、バカ野郎!おまえは知っているのか? かつて新潟県の泉田知事が、たった400人を対象に避難訓練をしただけでも、その地域には大渋滞が起こったんだぞ!・・・あと数時間で、東京の都市機能は失われるっ。いいか、これは命令だ・・・」
・・・玲子は絶句した。いつも冷静でクールな夫が、15年の結婚生活で初めて見せる取り乱しぶりだったからだ。


過去に紹介した記事(【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(45) )から

救いがあるとすれば著者・若杉冽氏の次の言葉だ。
「まだまだ驚くべき事実はたくさんあるのです。
こうした情報が国民に届けば、きっと世論のうねりが起きる。
私が役所に残り続け、素性を明かさないのは、情報をとり続けるためです。
さらに第二、第三の『若杉冽』を世に送り出すためにも」

 

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**『東京ブラックアウト』著書 「第10章 政治家と官僚のエクソダス」の紹介

前回の話:第10章 政治家と官僚のエクソダス ※4回目の紹介

「何なんですか、この『経産省電力供給安定化推進本部』ってのは?」

 六本木ファーストビルの原子力規制庁で、またしても、経産省から出向している東田係長が課長の守下に噛みついてくる。相当イラついているようだ。

 守下課長も、昨夜の定期連絡で、畑山原子力政策課長から本部の設置を聞いたばかりであった。

 その畑山も、近畿電力の電力供給の強化のため、すでに今日から大阪で勤務しているはずだ。

「自分たちがさっさと関西に逃げるための口実だ。これじゃ、トカゲのシッポ切りだな・・・」

 守下が吐き捨てるようにつぶやく。

 もちろん、経産省がトカゲで、原子力規制庁が、そのシッポだ。

「おい、ちょっと今日は早めに切り上げて、飲みに行こう」

 守下としても、部下の東田係長でも連れて飲みに行かないと、やってられない気分だった。

 実は昨夜の定期連絡で、守下は畑山原子力政策課長から、もう一つのことを告げられていた。

「・・・日村次長が日本電力連盟の小島常務理事と、だいたいのシナリオを握ってるんだよ。事故直後に相談したらしい」

「な、何ですか、そのシナリオって?」

 と、守下が食いついた。

 畑山原子力政策課長が語るところによれば、事故直後の被曝限度の引き上げも日村の振り付けだし、計画停電も日村と小島とで示し合わせたもの・・・発送電分離は附則の規定を根拠に先延ばしにして、電力会社は国政選挙対策に邁進、遷都の財源は原発の発電電力量に課税することで今後の原発稼働を正当化、外国から使用済み核燃料を引き受ける中間貯蔵施設を建設する・・・そんなシナリオらしかった。

「メモがあるんだよ。日村次長と小島常務とで握った紙が・・・だいたい、いまいったような感じで進むと思うよ」

 そう畑山は勝ち誇ったようにいう。畑山も、あちら側の人間だ。

「・・・すいません、メモ、見せてもらえないですか?」

 経産省の原子力政策課長がメモを見せてもらっているなら、経産省から原子力規制庁に出向中の課長たる自分が見せてもらうのは、当然の権利と守下には思えた。

「さすがに、他省庁の方には渡せねぇよ。厳重取扱注意だから、勘弁してくれよ」

 と、畑山はつれない返事だった。さすが次官コースのエースは、危険な橋は渡らない。万一マスコミに漏れた場合には、管理責任が問われるからだ。

「せいぜい、早めに関西に不動産でも買っといたらどうだ。経産省の奴らは、もう片っ端から関西の物件を買っているぞ。いくつか買えば、財テクにもなるからさ」

「紙」の取扱についてのリスクは取らないが、金儲けには、あくまでディマンディングだ。通産省の時代から脈々と流れるインサイダーの血だ。株ではないので、証券取引等監視委員会の監視も及ばない・・・。

※続き第10章 政治家と官僚のエクソダス」は、6/822:00に投稿予定です

 

東京ブラックアウト(若杉冽)

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第10章 政治家と官僚のエクソダス ※4回目の紹介

2015-06-04 22:00:00 | 【東京ブラックアウト】

*『東京ブラックアウト』著者:若杉冽

第10章 政治家と官僚のエクソダスを複数回に分け紹介します。4回目の紹介

 

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恐ろしい本です。小説という体裁はとっていますが、帯に「95%ノンフィクション」とあるように、限りなく現実に近い話でしょう。これを読んでも、原発再稼働に賛成と言えるでしょうか。一人でも多くの国民に読んでほしい本です。

作中に登場する資源エネルギー庁次長の日村直史は、経産官僚の今井尚哉氏だと、国会議員の河野太郎氏がTwitterで言及しています。現在、安倍首相の政務秘書官を務めている人物です。

 

( 「東京ブラックアウト」)から
「バ、バカ野郎!おまえは知っているのか? かつて新潟県の泉田知事が、たった400人を対象に避難訓練をしただけでも、その地域には大渋滞が起こったんだぞ!・・・あと数時間で、東京の都市機能は失われるっ。いいか、これは命令だ・・・」
・・・玲子は絶句した。いつも冷静でクールな夫が、15年の結婚生活で初めて見せる取り乱しぶりだったからだ。


過去に紹介した記事(【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(45) )から

救いがあるとすれば著者・若杉冽氏の次の言葉だ。
「まだまだ驚くべき事実はたくさんあるのです。
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私が役所に残り続け、素性を明かさないのは、情報をとり続けるためです。
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前回の話:第10章 政治家と官僚のエクソダス ※3回目の紹介

(37)

 1月末に始まった通常国会では、政府機能の関西移転に議論が集中した。しかし党派は関係なく、フクシマを始めとした東日本の議員や首長が、政府機能の関西移転を強く反対した。

「フクシマの復興もままならず、さらに新崎から首都圏一帯の除染と復興をしなければならないという事態において、政府機能を関西に移転し、日本を東と西に分断するなんてことは、あってはならないことであります!」

 と、東日本の議員は、国会議事堂で次々に演説をぶった。

 他方、西日本が選挙区の議員は、何かと理由を付けて選挙区に帰り、上京を極力拒んでいた。表立ってはいえないが、国会議員などしていなければ、線量の高い東京にわざわざ来る必要もない。議会の定足数がギリギリの事態が続いていた。

 通常国会に臨むに当たって加部総理は、寺沢経済産業大臣に加え、新たに原発・除染・復興担当大臣を新設しようとするが、指名された政治家が次々と拒否する事態となった・・・。


 一方、各省庁は、それぞれ復興とは関連性の薄い部局を関西に移転しようと虎視眈々と狙っていたが、国会での東日本出身議員の反発を受け、なかなか実行に移すことができないでいた。

 そのようななか、寺沢経済産業大臣が閣議後記者会見で、突如、「経産省電力供給安定化推進本部」を関西に設置する旨を発表した。

「本日、経産省では、私、経済産業大臣が本部長を務める『経産省電力供給安定化推進本部』を大阪に置くことといたしました。現下の日本の困難な状況を救うためにも、電力の安定供給は喫緊の課題であります。東日本への電力供給を円滑にするためにも、まずは近畿電力の電力供給を万全なものとすることが必要であり、近畿電力と経産省とが連携を強化するために本部を立ち上げるものであります」

 さらに、各省はもちろんマスコミも唖然とするなか、電力供給に関係ない経産省の部局も、続々と移転していくことも明らかになった・・・。

「経産省所管の業種は、いずれも電力需給と密接に関連する産業でありますから、すべての部局が移転することが必要であります」

 そう、寺沢は、淡々と語った。

 いまどき電力需給と関係のない産業など存在しないわけで、結局のところ、霞が関のなかでも困難な課題から最も逃げ足の速い経産省の連中が、いち早く首都圏から逃げ出だすこととなったのだ。

※続き第10章 政治家と官僚のエクソダス」は、6/522:00に投稿予定です

 

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第10章 政治家と官僚のエクソダス ※3回目の紹介

2015-06-03 22:00:00 | 【東京ブラックアウト】

*『東京ブラックアウト』著者:若杉冽

第10章 政治家と官僚のエクソダスを複数回に分け紹介します。3回目の紹介

 

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恐ろしい本です。小説という体裁はとっていますが、帯に「95%ノンフィクション」とあるように、限りなく現実に近い話でしょう。これを読んでも、原発再稼働に賛成と言えるでしょうか。一人でも多くの国民に読んでほしい本です。

作中に登場する資源エネルギー庁次長の日村直史は、経産官僚の今井尚哉氏だと、国会議員の河野太郎氏がTwitterで言及しています。現在、安倍首相の政務秘書官を務めている人物です。

 

( 「東京ブラックアウト」)から
「バ、バカ野郎!おまえは知っているのか? かつて新潟県の泉田知事が、たった400人を対象に避難訓練をしただけでも、その地域には大渋滞が起こったんだぞ!・・・あと数時間で、東京の都市機能は失われるっ。いいか、これは命令だ・・・」
・・・玲子は絶句した。いつも冷静でクールな夫が、15年の結婚生活で初めて見せる取り乱しぶりだったからだ。


過去に紹介した記事(【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(45) )から

救いがあるとすれば著者・若杉冽氏の次の言葉だ。
「まだまだ驚くべき事実はたくさんあるのです。
こうした情報が国民に届けば、きっと世論のうねりが起きる。
私が役所に残り続け、素性を明かさないのは、情報をとり続けるためです。
さらに第二、第三の『若杉冽』を世に送り出すためにも」

 

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**『東京ブラックアウト』著書 「第10章 政治家と官僚のエクソダス」の紹介

前回の話:第10章 政治家と官僚のエクソダス ※2回目の紹介

 ナガサキの被曝2世の母親から幼いころに放射線の恐怖を聞かされたことを、いまさらながら思い出していた。これまで原発のことは他人事かつ仕事上の話であったが、自分の家族に差し迫る問題となって初めて、いままでの自らの仕事を激しく後悔した。

 「ほんとですよ。うちはもう妻と子どもは田舎に帰していますが、それに気がついた近所の人たちがパニクっていて・・・」

 と、経産省から出向している東田係長が涙ぐんだ。東田は結婚3年目で、この冬に子どもが生まれたばかりだった。避難計画をバリバリつくっていたころの勢いはまったくない。

 原発再稼働後、原子力規制庁の仕事は一段落している。忙しければ、妻や家族のことを真剣に考える暇すらなかったであろうが、いまはそうではない。

 2人とも、日本原発に審査情報をリークしていた審議官を告発し、国家公務員法違反で逮捕された課長補佐、西岡進のことを思い出していた。

 西岡は、裁判でも徹夜して無罪を訴え、反原発の支援者が結成した弁護団の支援を受けていた。西岡のように、原発推進に対し真剣に逆らえば、逮捕される。かといって、原発推進の旗を振れば、自分たちのように罪の意識に囚われることとなる。

「西岡さんは、どうしているんですかねぇ・・・」

 経産省出身の東田係長は、しみじみとつぶやく。西岡は骨があり、上司に対してもいうべきことはいう。しかしだからこそ、後輩には慕われていたのだ。

「まだ、小菅の拘置所にいるはずだけどな・・・」

 大学が同期で、経産省では年次が2年下、小菅に拘留中の西岡のところへ、経産技官の出世頭である守下は、このとき初めて面会に行こうと考えた。正直、経産省での出世など、守下にとってどうでもよくなっていたのだ。

 守下や東田の気持ちは、首都圏で勤務する他の公務員すべての気持ちと同じだった。

「政府機能、3段階で関西に移転を検討 復興非関連省庁から順次」

 という見出しが、散発的に全国紙の一面に載り始めた。

「政府高官によれば」とあり、これまでの状況からすると、放射線量の高い首都圏での生活を嫌がる、官僚の代表たる事務の官房副長官の観測気球であることは明らかだった。

 いったんは日本経済団体連盟に東京に留まるよう説得した加部総理であったが、愛犬トイの被曝を極度に恐れる咲恵夫人の強い希望もあり、すぐに柔軟に考えを変えた。いまや本音では、すぐに官邸も関西に移転したいと考えていた。事務の官房副長官の観測気球も、加部総理の黙認のうえでのことであったのだ。

※続き第10章 政治家と官僚のエクソダス」は、6/422:00に投稿予定です

 

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第10章 政治家と官僚のエクソダス ※2回目の紹介

2015-06-02 22:00:00 | 【東京ブラックアウト】

*『東京ブラックアウト』著者:若杉冽

第10章 政治家と官僚のエクソダスを複数回に分け紹介します。2回目の紹介

 

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恐ろしい本です。小説という体裁はとっていますが、帯に「95%ノンフィクション」とあるように、限りなく現実に近い話でしょう。これを読んでも、原発再稼働に賛成と言えるでしょうか。一人でも多くの国民に読んでほしい本です。

作中に登場する資源エネルギー庁次長の日村直史は、経産官僚の今井尚哉氏だと、国会議員の河野太郎氏がTwitterで言及しています。現在、安倍首相の政務秘書官を務めている人物です。

 

( 「東京ブラックアウト」)から
「バ、バカ野郎!おまえは知っているのか? かつて新潟県の泉田知事が、たった400人を対象に避難訓練をしただけでも、その地域には大渋滞が起こったんだぞ!・・・あと数時間で、東京の都市機能は失われるっ。いいか、これは命令だ・・・」
・・・玲子は絶句した。いつも冷静でクールな夫が、15年の結婚生活で初めて見せる取り乱しぶりだったからだ。


過去に紹介した記事(【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(45) )から

救いがあるとすれば著者・若杉冽氏の次の言葉だ。
「まだまだ驚くべき事実はたくさんあるのです。
こうした情報が国民に届けば、きっと世論のうねりが起きる。
私が役所に残り続け、素性を明かさないのは、情報をとり続けるためです。
さらに第二、第三の『若杉冽』を世に送り出すためにも」

 

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**『東京ブラックアウト』著書 「第10章 政治家と官僚のエクソダス」の紹介

前回の話:第10章 政治家と官僚のエクソダス ※1回目の紹介

 日本産業自動車株式会社は、既に閉鎖していた座間や東村山の工場に続き、最後の国内工場の砦であった横須賀・追浜工場を閉鎖し、本社を横浜から上海に移転することを決定した。ブラジル系フランス人のCEOにとっては、グローバル企業のヘッドクォーターの所在は、利益を極大化するための一つの要素に過ぎなかった。

 日本経済団体連盟も関西経済団体連盟と統合し、関西への移転を模索しているとのスクープが、日本経済産業新聞の一面に躍った。

 早速、加部総理が日本経済団体連盟会長を呼び出し、経済界が東京に留まることを要請した。

「首都機能の空洞化が懸念され、事故対応に支障を来しますから」

 というのが加部の台詞であった。

 東京都知事の松添幸一も声明を発表した。

「これから科学的・計画的に除染を実施しますから、2020年の東京オリンピックを成功させるためにも、経済界が東京に留まってもらわないと・・・」

 東京オリンピックを口実に大衆を煽り、経済界を引きとめようとするが、いまとなっては空虚な言葉だった。

(36)

 加部や松添の発言に、表面的には、公務員は反発しなかったものの、内心は複雑だった。

「おい、俺達をモルモットみたいに、このままこの線量のなかで働かせられるのかなぁ?」

 終業時刻を過ぎて人がまばらになり始めた六本木ファーストビル内、原子力規制庁の大部屋で、原子力防災課長の守下靖は、それとなく経産省出身の係長、東田達也に問いかけた。

 海外にいち早く妻や子息を逃した経産省の大臣や幹部とは異なり、経産省の一般職員の多くは、情報から疎外され、家族を疎開させるタイミングを逸していた。経産省から原子力規制庁への出向組は、なおのことそうだった。

 課長の守下には、新崎原発の緊急事態の情報はいち早く回ってきていたものの、彼は例外的に、家族を逃がすことはしなかた。自分がPPAでの避難計画の内容を甘くしたこともあって首都圏の住民が放射線に晒されているなか、己の家族だけいち早く逃すなどということは、彼の国家公務員としてのモラルが許さなかったのである。

 だからといって、このまま家族を年間積算線量が50ミリシーベルトを超える地域に住まわせておくことには、正直、恐怖を感じていた。妻はともかく、子供はまだ小学生なのだ。

 子供は大人に比べて細胞分裂が活発で新陳代謝が激しいので、放射線の影響を受けやすい。小児白血病とか甲状腺がんになってしまっては、取り返しがつかない。

 新崎原発からバラ撒かれたストロンチウム90は、カルシウムと組成が似ていて、骨に吸収されやすく、半減期が29年と長いため、骨や血液のがんが引き起こされる。肺がんや膀胱がんも統計的に有意に増加する。

※続き第10章 政治家と官僚のエクソダス」は、6/322:00に投稿予定です

 

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第10章 政治家と官僚のエクソダス ※1回目の紹介

2015-06-01 22:00:00 | 【東京ブラックアウト】

*『東京ブラックアウト』著者:若杉冽

第10章 政治家と官僚のエクソダスを複数回に分け紹介します。1回目の紹介

 

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恐ろしい本です。小説という体裁はとっていますが、帯に「95%ノンフィクション」とあるように、限りなく現実に近い話でしょう。これを読んでも、原発再稼働に賛成と言えるでしょうか。一人でも多くの国民に読んでほしい本です。

作中に登場する資源エネルギー庁次長の日村直史は、経産官僚の今井尚哉氏だと、国会議員の河野太郎氏がTwitterで言及しています。現在、安倍首相の政務秘書官を務めている人物です。

 

( 「東京ブラックアウト」)から
「バ、バカ野郎!おまえは知っているのか? かつて新潟県の泉田知事が、たった400人を対象に避難訓練をしただけでも、その地域には大渋滞が起こったんだぞ!・・・あと数時間で、東京の都市機能は失われるっ。いいか、これは命令だ・・・」
・・・玲子は絶句した。いつも冷静でクールな夫が、15年の結婚生活で初めて見せる取り乱しぶりだったからだ。


過去に紹介した記事(【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(45) )から

救いがあるとすれば著者・若杉冽氏の次の言葉だ。
「まだまだ驚くべき事実はたくさんあるのです。
こうした情報が国民に届けば、きっと世論のうねりが起きる。
私が役所に残り続け、素性を明かさないのは、情報をとり続けるためです。
さらに第二、第三の『若杉冽』を世に送り出すためにも」

 

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**『東京ブラックアウト』著書 「第10章 政治家と官僚のエクソダス」の紹介

第10章 政治家と官僚のエクソダス

 週刊現代(2014年10月11日号・143ページ)

「わき道をゆく 魚住昭の誌上デモ」

 日本人の心のありようは最近ガラリと変わった。その契機になったのは3・11だろう。私はあの日から約1ヶ月、終日テレビにかじりつき、各紙の原発報道を隈なく読んだ。それと、某ルートから刻々と入ってくる政府部内の情報を突き合わせた。

 最悪のシナリオは、東日本の壊滅だった。政府内の一部ではその場合、福岡に臨時政府を置く案も極秘に検討されたらしい。

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 事故から1週間後、自衛隊が中心となって、警察、消防、ゼネコン、そして米軍の力も借りて、6号機と7号機の格納容器やコンクリート建屋の基礎、それから崩壊したプールに、スラリーを流し込み、ようやく新崎原発からの放射性物質の放出が落ち着いた。電源も復活し、1号機から5号機の使用済み核燃料プールの冷却にも成功した。

 しかし残されたのは、新崎平野から関東平野に至るまでの放射能に汚染された国土の帯であった。格納容器の爆発とともに飛び散った使用済み核燃料のデブリを伴う瓦礫などは、粉塵になって、黒い雪とともに広範囲の国土にばらまかれたのである。

 フクシマの事故後に帰還困難区域に指定された場所は年間積算線量が50ミリシーベルトを超え、5年経過しても20ミリシーベルトを下回らないおそれのある地域であった。今回、黒い雪が降った関東全域が、この帰還困難区域に該当することになった・・・正に、日本列島は東西に分断されてしまったのである。


 関東平野では、電力不足を口実として、輪番で計画停電も実施されていた。しかし原発の電気が止まる一方で、東西連係線の増強は間に合っていない。

 期待されたメガソーラー発電も、送電線の容量不足を理由に、経産省が再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度による認定を凍結していた。それとともに買取価格も引き下げたため、普及に急ブレーキがかかっていた。

 たとえば九州では、太陽光発電と風力発電による固定価格買い取り制度に基づく接続の申し入れを合計すると、出力は1260万キロワットに膨らんでいた。これは単純にいって原発12基分であり、九州管内の夏のピーク時の電力需要の約8割にも当たる量だったが、経産省の急な政策変更により、その発電プロジェクトの多くは頓挫してしまっていた。

 本当は、原発の再稼働に費やすためのコストを送電網の増強や大型蓄電池の整備、それから揚水発電所の建設に振り向ければ、原発はいらないはずだ。

 そこまでの設備投資が間に合わないにせよ、古い火力発電所を稼働させたり、大工場の自家発電所から電気を購入したり、大口の需要家との需給調整契約による供給停止措置を発動したりすれば、電力は十分足りるのである。

 あるいは、日中、太陽光発電で得たエネルギーを使って水を水素と酸素に分解、こうして作った水素を燃料電池用に使い、夜間の電力やエネルギー源にしてもよいはずだ。

 しかしそれでは、原発即ゼロ論が全国で勢いづきかねない。レントの巨大な、すなわち権力者の取り分が多い原発を守る・・・日村と小島が申し合わせたとおりである。

 いったん家族を母国に避難させた各国大使館は、そのまま家族を日本に戻すことなく、続々と大使館の大阪移転を発表した。外資系大手企業も、その拠点を大阪に移転していった。

 さらに日本企業も、各社が続々と関西に移転を決定した。もともと関西が出自の会社はもちろんのこと、東京が出自の会社も関西移転を決定していく。個別の各社の決定は株主と経営陣の判断に基づく。資本主義社会における会社の目的は利潤の獲得にある。国に義理立てする理由はない。

※続き第10章 政治家と官僚のエクソダス」は、6/222:00に投稿予定です

 

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