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情報公開・個人情報保護審査会 平成17年度(行情)答申第579号 特定政治団体の設立趣意書及び…

2006年03月07日 | 個人に関する情報
諮問庁 : 総務大臣
諮問日 : 平成17年 2月22日 (平成17年(行情)諮問第82号)
答申日 : 平成18年 3月 7日 (平成17年度(行情)答申第579号)
事件名 : 特定政治団体の設立趣意書及び被推薦書の一部開示決定に関する件

答 申 書


第1  審査会の結論
 特定政治団体の設立趣意書及び被推薦書(以下,併せて「本件対象文書」という。)につき,その一部を不開示とした決定については,異議申立人が開示すべきとしている部分を開示すべきである。

第2  異議申立人の主張の要旨

1  異議申立ての趣旨
 本件異議申立ての趣旨は,行政機関の保有する情報の公開に関する法律(以下「法」という。)3条の規定に基づく本件対象文書の開示請求に対し,平成16年10月14日付け総行資第388号により総務大臣が行った一部開示決定(以下「本件決定」という。)について,不開示とされた部分のうち,本件対象文書に記載された特定議員及び特定個人の氏名の開示を求めるというものである。

2  異議申立ての理由
 異議申立人の主張する異議申立ての理由は,異議申立書の記載によると,おおむね以下のとおりである。

(1)  特定政治団体は,設立趣意書において不開示となった人物の政治活動を後援する政治団体である。ここで不開示となった人物は,公人又は公人となることが予定されている人物であることから開示するべきである。

(2)  被推薦書に記載されている特定議員は,設立趣意書に記載され,不開示となった人物と同一人物ではないのか。そうであるなら,特定議員は,公人であり,特定政治団体の事実上の代表者となるため開示するべきである。

(3)  特定政治団体は,設立当時,企業・個人から献金を受け取ることが可能であった団体であるから,誰を後援する団体であったのかを開示する必要がある。

第3  諮問庁の説明の要旨
 下記1及び2より,「設立趣意書」に記載されている氏名及び「被推薦書」に記載されている被推薦者の氏名は,原処分どおり不開示とするのが適当であると考える。

1  法5条1号に該当する不開示情報であること
 「設立趣意書」に記載されている氏名及び「被推薦書」に記載されている被推薦者の氏名は,特定の個人を識別することができる情報であることから,法5条1号における「個人に関する情報であって,当該情報に含まれる氏名,生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの」(個人識別情報)に該当するものと考える。
 なお,法5条1号ただし書では,個人識別情報を開示する例外事由を規定しているが,「設立趣意書」に記載されている氏名及び「被推薦書」に記載されている被推薦者の氏名は,以下の理由により法5条1号ただし書イ及びハに該当しないものと考える。

(1)  法5条1号ただし書イ該当性について

ア  法令の規定により公にされているかどうかについて
 政治活動の自由は,憲法上,思想・信条の自由に関する19条のほか,参政権に関する15条1項,請願権に関する16条,集会・結社・表現の自由に関する21条の各規定により,国民の基本的人権として保障されている。したがって個人の政治活動は本来自由であり,何人からもその内容を明らかにすることを強制されるものではない。
 他方,政治活動の公明と公正を確保することを目的として,政治資金の収支の状況を明らかにすることには,政治資金にまつわる政治腐敗を防止し,民主政治の健全な発達に寄与するという公共の利益がある。
 政治資金規正法は,上記のような政治活動の自由とそれを規制することによって実現しようとする公益との比較衡量の上に立ち,必要かつ相当であると合理的に認められる範囲においてのみ政治資金の収支の状況を明らかにすることを旨とする法律である。すなわち,政治資金の収支については閲覧の規定(20条の2)を設けてその情報を公開し,また政治団体の名称等の公表については告示の規定(7条の2)を設けて,設立届があったときには当該政治団体の名称,その代表者及び会計責任者の氏名,当該政治団体の主たる事務所の所在地並びに当該政治団体が政党又は政治資金団体であるときはその旨について告示することとしている。しかしながら,同法においては,政治団体の設立趣意書や被推薦書についてはそのような規定は置かれていないところである。
 したがって,「設立趣意書」に記載されている氏名及び「被推薦書」に記載されている被推薦者の氏名は,「法令の規定により公にされている情報」には当たらない。

イ  慣行として公にされ,又は公にすることが予定されているかどうかについて
 「慣行として」とは,法の一般的な解釈によれば,「公にすることが慣習として行われていることを意味するが,慣習法としての法規範的な根拠を要するものではなく,事実上の慣習として公にされていること又は公にすることが予定されていることで足りる。」とされる。また,「公にすることが予定されている情報」とは,「将来的に公にする予定(具体的に公表が予定されている場合に限らず,求めがあれば何人にも提供されることを予定しているものを含む。)の下に保有されている情報」とされる。
 特定の政治団体から支持・推薦される者の氏名及び設立趣意書中に記載されている個人の氏名については,現在,事実上の慣習としても公にされているものではない。また,将来的にも,求めがあれば何人にも提供することを予定しているものでもない。
 なお,政治団体自ら,当該団体が誰を推薦しているのかを明らかにすることによって自らの政治的主張を広め,支持者を募る等の活動を行う場合もあるが,当該団体の「設立趣意書」に記載されている氏名や「被推薦書」に記載されている被推薦者の氏名と,必ずしも一致するものとは限らず(例えば,設立趣意書に記載されている者と同様の考え方をもつ者を別の選挙で応援する等),また,これら被推薦者の氏名をどの範囲に知らせるかは,当該政治団体が自ら決めることであり,政治団体の中には,そのような対外的な宣伝活動は一切行わず,あくまで団体の内規として「設立趣意書」を定めているものも存在すると考えられる。
 したがって,「設立趣意書」に記載されている氏名及び「被推薦書」に記載されている被推薦者の氏名が,現に公衆が知り得る状態に置かれているとは言い難く,「慣行として公にされ,又は公にすることが予定されている情報」であると考えることはできない。

ウ  上記ア及びイより,「設立趣意書」に記載されている氏名及び「被推薦書」に記載されている被推薦者の氏名は,法5条1号ただし書イには該当しないと考える。

(2)  法5条1号ただし書ハ該当性について
 法の一般的な解釈によれば,公務員の「職務の遂行に係る情報」とは,「公務員が行政機関その他の国の機関又は地方公共団体の機関の一員として,その担任する職務を遂行する場合における当該活動についての情報を意味する。」とされる。
 政治団体の設立や政治団体を主宰すること又は構成員になること,公職の候補者が政治団体から推薦を受けること,政治団体の代表者等になること,規約・綱領等に公職の候補者の政治活動として記載されること等は,日本国憲法において,参政権(15条),請願権(16条),集会・結社・表現の自由(21条)の各規定により国民の基本的人権の一つとして保障されている政治活動の自由に基づき,一個人として行う政治活動である。これらの行為は,一般的に,国会法等に基づく国会議員の職務として行われるものではない。
 したがって,国会議員の行うこれらの政治活動は,国の機関の一員として,その担任する職務を遂行しているとは言えず,公務員の職務遂行に関わる情報とは認められないため,「設立趣意書」に記載されていること及び「被推薦書」に記載されていることは法5条1号ただし書ハには該当しないと考える。

2  法5条2号に該当する不開示情報であること
 法5条2号に規定されている「法人その他の団体」には,政治団体も含まれると解されている。したがって,設立趣意書及び被推薦書に記載されている情報は,「法人その他の団体に関する情報」に当たる。
 また,同号イでは,法人その他の団体に関する情報であって,「公にすることにより,当該法人等(中略)の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるもの」は,不開示情報に該当するとされている。
 「設立趣意書」に記載されている氏名及び「被推薦書」に記載されている被推薦者の氏名は,以下の理由により法5条2号イに該当するものと考える。

(1)  政治団体とは,その構成員が結社の自由の保障の下に結社し,団体として政治的活動等の自律的な活動を行っているものである。そして,個々の構成員には,当該団体における政治的活動等を他から観察・監視されない自由が憲法上保障されているのであるから,政治団体は,個々の構成員の憲法上の自由の享受を確保することにつき,団体として「正当な利益」を有していると考えられる。
 したがって,政治団体は,団体としてその活動状況等について他者から不当な干渉を受けないことが必要であり,団体に関する情報が,どのような方法でどの程度開示されるかは,団体の活動上重大な意義を有する事柄である。もしそれが適切な範囲を超えて開示された場合には,団体の自律的な意思形成や活動に支障が生じることは否定できず,法5条2号イにおいて保護されるべき法人等の正当な権利利益を害するおそれがあるものに該当すると考えられる。
 ちなみに,判例上でも,政治活動の自由は,個人が政治的思想・信条の自由のような内心的自由を有することは当然として,それにとどまらず,これに基づく外部的な積極的,社会的行動の自由をその本質的性格とするものであり,日本国憲法は,参政権に関する15条1項,請願権に関する16条,集会・結社・表現の自由に関する21条の各規定により,国民の基本的人権の1つとして保障している,とされている(最判昭49.11.6猿払事件)。

(2)  政治資金規正法は,憲法上保障されている政治活動の自由と,それを規制することによって実現しようとする公益(政治資金の透明性を確保することによって民主政治の健全な発展に寄与する)との比較衡量の上に立ち,必要かつ相当であると合理的に認められる範囲においてのみ政治資金の収支の状況を明らかにすることを旨とする法律である。
 このため,同法では,政治団体の設立の届出の際に,当該団体の目的や組織,運営について定めた規約・綱領等を提出することとしているが,これは政治資金規正法に基づく届出を行って政治活動を行うのは政治団体であるとされていることから,団体の組織性を証明するために必要と法律上認められている最小限の規制である。同様に,同法では,政治団体の設立の届出の際に,被推薦書を提出することとしているが,これは,租税特別措置法により課税上の優遇措置を受けることができる政治団体であるかどうかを確認し,もって税務行政の適正な運営を担保するために必要な最小限の措置であると考えられる。

(3)  したがって,このような目的を超えて,かつ,政治団体が自ら公にしている範囲を超えて,設立趣意書及び被推薦書に記載されている内容を第三者に対して公にすることは,もともと政治資金規正法が予想していない状況をもたらすものであって,政治団体における政治的活動等を他からの誹謗・中傷や不当な干渉等を引き起こす可能性もあり得るところである。
 この点を踏まえて,総務省においては従来から,設立趣意書や被推薦書について法に基づく開示請求がなされた場合には,国民の知る権利を十分に尊重しつつも,そのことによって政治団体の政治活動の自由を制約し,正当な利益を阻害することのないよう,開示又は非開示の決定を行うこととしてきた。そのため,設立趣意書及び被推薦書そのものは開示としつつ,当該書面に記載された個人の氏名に限っては不開示としているものである。

(4)  そこで本件について見ると,設立趣意書中の「A(特定の個人の氏名)先生に14年間仕えたB(特定の個人の氏名)氏を支援し」との記載や,被推薦書中の特定の個人の氏名の記載については,そのような記載があるという事実自体は,当該団体が政治資金規正法3条1項2号に規定されている「特定の公職の候補者を推薦し,支持し,又はこれに反対することを本来の目的とする」政治団体であることを示すのみであるから,公にすることによって,必ずしも政治団体の正当な利益を害するおそれがあるとは言えない。一方で,その「特定の公職の候補者」が誰であるかということが公にされた場合には,当該団体の活動方針や活動内容等に対する他からの誹謗・中傷や不当な干渉等を引き起こし,当該団体の政治活動を萎縮させるおそれがある。
 したがって,設立趣意書及び被推薦書に記載された氏名を開示することは,当該政治団体の政治活動の自由を阻害することになる蓋然性が高いものであり,法5条2号イの不開示情報に該当すると考えられる。

(5)  なお,異議申立人は,当該政治団体が設立された昭和60年当時,当該団体が企業・個人から献金を受けることが可能であったことを理由として,設立趣意書及び被推薦書中の氏名を開示するべきであると主張していると考えられる。しかしながら,昭和60年当時は,すべての政治団体が企業・個人から献金を受けることができたため,当該政治団体についてのみ,他の政治団体と区別して,設立趣意書や被推薦書中の氏名を開示するべき理由は認められない。さらに,企業・個人から献金を受けることができる政治団体が制限された後においても,このことによって設立趣意書及び被推薦書中の氏名が公にされるなどの取扱いがされるわけではなく,個人識別情報の性格や当該政治団体の政治活動について公にされる範囲が変わることはないため,法5条1号及び2号の規定に照らして,設立趣意書及び被推薦書中の氏名が開示情報に該当すると考えることの論拠にはなり得ない。
 また,異議申立人は,企業・個人から献金を受けることができる政治団体については,法5条1号及び2号の規定に基づく不開示情報であっても,これを公にすることに,保護すべき利益を上回る公益上の必要性があり,法7条に基づき開示するべきであると主張しているとも考えられるが,政治団体に対して献金することができる者の違いによって政治資金規正法により公開される情報の範囲には差はなく,既に述べたとおり憲法で保障された思想・信条の自由,集会・結社・表現の自由との関係を考慮すると,開示する情報の範囲を,企業・個人から献金を受けることができる政治団体について他の政治団体と区別して扱う公益上の必要性は認められない。

第4  調査審議の経過
 当審査会は,本件諮問事件について,以下のとおり,調査審議を行った。

①  平成17年2月22日  諮問の受理
②  同日  諮問庁から理由説明書を収受
③  同年4月28日  本件対象文書の見分及び審議
④  同年12月14日  諮問庁の職員(総務省自治行政局選挙部政治資金課長ほか)からの口頭説明の聴取
⑤  平成18年2月3日  審議
⑥  同年3月3日  審議

第5  審査会の判断の理由

1  本件対象文書について
 本件対象文書は,特定候補者推薦団体である特定政治団体が,その設立に当たって政治資金規正法6条1項の規定に基づき,旧自治省に提出した設立届に添付された設立趣意書及び被推薦書である。
 当審査会において本件対象文書を見分したところ,設立趣意書には,特定政治団体の設立趣旨が記載され,その記載の中に,昭和60年の本件対象文書提出時において当該特定政治団体が推薦し,支持していた現職(当時)の国会議員であった特定議員及び特定個人の氏名が記載され,両者の氏名が不開示とされている。
 また,被推薦書は,租税特別措置法41条の18に基づく特定政治団体に対する寄付についての課税上の優遇措置の対象とするため必要な書類として政治資金規正法施行令4条6号に規定されているものであり,特定議員が特定政治団体から推薦を受けている事実を承諾している旨の記載とともに,特定議員本人の氏名及び住所の記載並びに印影が認められ,これら氏名,住所及び印影が不開示とされている。なお,公職の種類の欄の「衆議院議員(現職)」の記載は開示されている。
 異議申立人は,これら不開示部分のうち,特定議員及び特定個人の氏名の開示を求めていることから,以下,当該氏名の不開示情報該当性について検討する。

2  不開示情報該当性について

(1)  法5条1号該当性について
 本件対象文書に記載された特定議員及び特定個人の氏名は,法5条1号の個人に関する情報であって特定の個人を識別できるものに該当するので,以下,同号ただし書イの該当性について検討する。

ア  特定議員の氏名について
 上記1のとおり,特定政治団体は,政治資金規正法上の特定候補者推薦団体であるが,同法においては,団体の代表者及び会計責任者の氏名と異なり,団体が推薦する公職の候補者の氏名は告示事項とされておらず,また,これまで諮問庁において団体が推薦する公職の候補者の氏名を積極的に公表したという事実も認められない。
 しかしながら,開示請求の対象となる特定議員の氏名は公人たる現職(当時)の国会議員の氏名であるところ,国民の代表である国会議員の地位,職責及びその活動の公知性の高さに照らすときは,特定候補者推薦団体である特定政治団体の設立趣意書に被推薦者として記載されている特定議員の氏名及び当該団体から推薦を受けている旨の記載のある被推薦書に記載された特定議員の氏名は,法5条1号の個人に関する情報であって,法令の規定又は慣行により公にすることが予定されている情報と認められる。

イ  特定個人の氏名について
 本件対象文書に記載された特定個人の氏名は,特定政治団体を設立するに当たり,特定議員との関係を示すために記載されているものと認められる。そして,特定議員と特定個人との関係については,特定議員のプロフィールが紹介されている公刊書等にも記載されているなど,両者の関係は公知の事実と認められる。
 以上のことから,本件対象文書の記載内容に即して検討すれば,特定議員の氏名が開示された場合には,特定個人の氏名については,慣行として公にされている情報であると認められるため,これを不開示とする理由はなく,開示することが相当である。

(2)  法5条2号イ該当性について
 本件対象文書に記載された特定議員及び特定個人の氏名は,同人ら個人に関する情報であるとともに,それら氏名は,特定政治団体の設立届に添付された文書に記載されていることから,法5条2号に規定する法人その他の団体に関する情報にも該当するものである。
 諮問庁は,特定議員及び特定個人の氏名を開示すれば,特定政治団体の自律権や政治活動の自由を阻害し,その正当な利益を阻害することとなるとして,当該氏名は法5条2号イの不開示情報に該当すると主張する。
 しかしながら,当該特定政治団体については,既に解散し,その旨が官報で告示されている事実が認められる。
 したがって,このように既に解散した政治団体については,そもそも権利,競争上の地位その他正当な利益を害されるおそれを考慮する必要はないものと認められる。
 したがって,本件対象文書に記載された特定議員及び特定個人の氏名は,これを公にしたとしても特定政治団体の政治活動の自由,その他正当な利益を害するおそれがある情報とは認められないことから,法5条2号イに該当するとは認められず,開示することが相当である。

3  本件決定の妥当性
 以上のことから,本件対象文書につき,その一部を不開示とした決定については,不開示とされた部分のうち,異議申立人が開示すべきとしている特定議員及び特定個人の氏名は,法5条1号及び同条2号イに該当するとは認められないので,開示すべきであると判断した。

 (第2部会)

 委員 寳金敏明,委員 秋田瑞枝,委員 戸松秀典


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