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情報公開・個人情報保護審査会 平成22年度(行情)答申第20号 海上自衛隊護衛艦「あたご」に係る…

2010年05月17日 | 存否応答拒否
諮問庁:防衛大臣
諮問日:平成20年8月28日(平成20年(行情)諮問第530号)
答申日:平成22年5月17日(平成22年度(行情)答申第20号)
事件名:海上自衛隊護衛艦「あたご」に係る事故発生当日の航海長に対する事情聴取の記録の不開示決定(存否応答拒否)に関する件

答 申 書


第1 審査会の結論
海上自衛隊護衛艦「あたご」の事故について,事故発生当日に航海長から事情を聴取した際に取得・作成した文書などの記録(以下「本件対象文書」という。)につき,その存否を明らかにしないで開示請求を拒否した決定は,取り消すべきである。

第2 異議申立人の主張の要旨
1 異議申立ての趣旨
行政機関の保有する情報の公開に関する法律(以下「法」という。)3条の規定に基づく本件対象文書の開示請求に対し,平成20年5月7日付け防官文第5740号により防衛大臣(以下「防衛大臣」,「処分庁」又は「諮問庁」という。)が行った不開示決定(以下「原処分」という。)について,その取消しを求める。

2 異議申立ての理由
異議申立人が主張する異議申立ての理由は,おおむね以下のとおりである。

(1)海上自衛隊護衛艦「あたご」の事故について,事故発生当日に防衛大臣ら防衛省の担当官が同艦の航海長から事情聴取し,運用企画局の係官がメモを作成したことは公知の事実である。
防衛省のホームページにおいても,事務次官の記者会見での発言の内容として,「事務方のレベルにおいて,一人の者がメモを記録していることは分かっております。」と上記事実を公表している。

(2)本件開示請求に係る行政文書には当然,この「メモ」も含まれているにもかかわらず,今般の不開示決定通知書は「本件開示請求に係る行政文書の存在の有無を答えるだけで,犯罪の捜査に支障を及ぼすおそれがあると認められることにつき相当の理由がある」と述べている。

(3)このような「おそれ」や「相当の理由」があるはずはなく,原処分は明らかに違法(不合理な隠ぺい体質の表れ)であり,直ちに是正されるべきである。

(4)諮問庁は,理由説明書の中で「記者会見で当該メモの作成について述べたことと,開示請求時ないし現時点で,捜査機関における犯罪の捜査に及ぼす支障を考慮して本件対象文書の保有の有無を明らかにしないこととは別個の問題である。」と述べているが,記者会見当時に本件対象文書が存在していたのならば,現時点でもそれが存在することは明らかであり,存否応答を拒否する理由にはならない。

(5)記者会見当時に既に捜査機関において犯罪捜査は始まっており,捜査に及ぼす支障があったとしても,それに変化があるとは思えない。

第3 諮問庁の説明の要旨
1 経緯
本件開示請求は,海上自衛隊護衛艦「あたご」の事故について,事故発生当日に航海長から事情を聴取した際に取得・作成した文書などの記録を求めるものである。
本件対象文書については,その存在の有無を明らかにするだけで,法5条4号に規定する不開示情報を開示することとなるため,法8条の規定に基づき原処分を行ったものである。

2 法8条の規定を適用した理由について
海上自衛隊護衛艦「あたご」と漁船との衝突事故では,現在横浜地方検察庁における捜査が継続しているため,防衛省における本件対象文書の存在を答えるだけで,捜査の方向性及び進ちょく状況等が推察される可能性があり,その結果,捜査機関における犯罪捜査に支障を及ぼすおそれがあると認められる。
したがって,本件対象文書の存在の有無を明らかにするだけで,法5条4号に規定する不開示情報を開示することと同様の効果を生じさせるため,法8条の規定に基づき,存否の応答を拒否したものである。

3 異議申立人の主張について
異議申立人は,平成20年2月28日の次官会見概要を根拠に海上自衛隊護衛艦「あたご」の事故について,事故発生当日に防衛大臣ら防衛省の担当官が同艦の航海長から事情聴取し,運用企画局の係官がメモを作成したことは公知の事実であるとして,原処分の取消しを求めるが,この会見で当該メモの作成を述べたことと,開示請求時ないし現時点で,捜査機関における犯罪とは別個の問題であり,本件請求時(及び現在)において,上記2で述べた理由により本件対象文書の存否の応答を拒否したものであり,異議申立人の主張は当たらない。

第4 調査審議の経過
当審査会は,本件諮問事件について,以下のとおり,調査審議を行った。

① 平成20年8月28日 諮問の受理
② 同日 諮問庁から理由説明書を収受
③ 同年9月10日 異議申立人から意見書を収受
④ 同年12月11日 審議
⑤ 平成22年5月13日 審議

第5 審査会の判断の理由
1 本件対象文書について
本件対象文書は,「海上自衛隊護衛艦「あたご」の事故について,事故発生当日に航海長から事情を聴取した際に取得・作成した文書などの記録に係る行政文書」である。
処分庁は,本件対象文書の存在の有無を明らかにするだけで,法5条4号に規定する不開示情報を開示することと同様の効果を生じさせるため,法8条の規定に基づき,存否の応答を拒否する原処分を行ったものであり,諮問庁はこれを妥当としている。
これに対し,異議申立人は,海上自衛隊護衛艦「あたご」の事故について,事故発生当日に防衛大臣ら防衛省の担当官が同艦の航海長から事情聴取し,運用企画局の係官がメモを作成したことは公知の事実であるとして,原処分の取消しを主張するため,以下,本件対象文書の存否応答拒否の妥当性について検討する。

2 存否応答拒否の妥当性について
(1)諮問庁は,海上自衛隊護衛艦「あたご」と漁船との衝突事故では,現在横浜地方検察庁における捜査が継続しているため,防衛省における本件対象文書の存在を答えるだけで,捜査の方向性及び進ちょく状況等が推察される可能性があり,その結果,捜査機関における犯罪捜査に支障を及ぼすおそれがあると主張する。
しかし,こうした諮問庁の説明では,当該行政文書の存否を答えることによって開示されることとなる情報が具体的に何であるか不明であり,また,その存否を明らかにすることによってもたらされるという結果もまた明らかでない。

(2)また,異議申立人の主張にかんがみ,当審査会において確認したところ,事故発生後の平成20年2月28日に行われた防衛事務次官の記者会見の内容が防衛省ホームページ中の「次官会見概要」と題するファイルに掲載されており,そこには,当該事故に係る海上自衛隊護衛艦「あたご」の航海長に対する防衛省における事情聴取の際に聞き取った内容を,運用企画局の者がメモとして記録している旨防衛事務次官が発言したとの趣旨の記載があることが認められる。
この記載によれば,当該メモが本件対象文書に該当することは明らかであり,諮問庁自ら本件対象文書の存在を明らかにしていることが認められる。

(3)以上の点から,本件開示請求に対して,その存否を明らかにしないで,開示請求を拒否する理由はなく,また,存否を明らかにしないことにより保護される利益も認められない。

3 本件不開示決定の妥当性について
以上のことから,本件対象文書につき,その存否を答えるだけで開示することとなる情報は法5条4号に該当するとして,その存否を明らかにしないで,開示請求を拒否した決定については,法8条の規定により開示請求を拒否することができる場合に該当せず,本件対象文書の存否を明らかにして改めて開示決定等をすべきであることから,取り消すべきであると判断した。

(第4部会)
委員 西田美昭,委員 園 マリ,委員 藤原静雄


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