諮問庁 : 内閣総理大臣
諮問日 : 平成17年10月14日 (平成17年(行情)諮問第511号)
答申日 : 平成18年 3月15日 (平成17年度(行情)答申第596号)
事件名 : 特定時期の叙勲受章者名簿の一部開示決定に関する件
答 申 書
第1 審査会の結論
「平成17年春の叙勲受章者名簿(桐花大綬章)(旭日章)」(香川県在住者で,旭日小綬章,旭日双光章及び旭日単光章の受章者に係る部分)及び「平成17年春の叙勲受章者名簿(瑞宝章)」(香川県在住者で瑞宝小綬章,瑞宝双光章及び瑞宝単光章の受章者に係る部分。以下,両名簿を併せて「本件対象文書」という。)につき,その一部を不開示とした決定については,受章者の年齢及び性別を開示すべきである。
第2 審査請求人の主張の要旨
1 審査請求の趣旨
本件審査請求の趣旨は,行政機関の保有する情報の公開に関する法律(以下「法」又は「情報公開法」という。)3条の規定に基づく開示請求に対し,平成17年7月7日付け府賞第386号により内閣府賞勲局長(以下「処分庁」という。)が行った本件対象文書の一部開示決定(以下「原処分」という。)について,その取消しを求めるというものである。
2 審査請求の理由
(略)
第3 諮問庁の説明の概要
1 本件審査請求の趣旨について
本件は,審査請求人が行った「平成17年4月29日付発令,平成17年春の叙勲受章者のうち,香川県在住者で,旭日章及び瑞宝章の小綬章以下の者の,氏名及び住所の番地番号まで記載されている名簿」との開示請求に対して,処分庁において,「①平成17年春の叙勲受章者名簿(桐花大綬章)(旭日章)(香川県在住者で旭日小綬章,旭日双光章及び旭日単光章の受章者に係る部分),②平成17年春の叙勲受章者名簿(瑞宝章)(香川県在住者で瑞宝小綬章,瑞宝双光章及び瑞宝単光章の受章者に係る部分)」を対象文書として特定し,受章者の性別,年齢及び詳細な住所については,特定の個人を識別することができる情報であり,法5条1号に該当することを理由として不開示とする,一部開示決定処分を行ったところ,当該処分の取消しを求めて審査請求が提起されたものである。
2 勲章の種類及び受章者名簿について
(1) 勲章の種類
栄典制度の改革について(平成14年8月7日閣議決定)において,功績の内容に着目し,顕著な功績を挙げた者を顕彰する場合には旭日章を授与し,公務等に長年にわたり従事し,成績を挙げた者を顕彰する場合には瑞宝章を授与することとされている。また,功労の大きさに応じて,旭日章については,旭日大綬章,旭日重光章,旭日中綬章,旭日小綬章,旭日双光章及び旭日単光章を,瑞宝章については,瑞宝大綬章,瑞宝重光章,瑞宝中綬章,瑞宝小綬章,瑞宝双光章及び瑞宝単光章を,授与することとされている。なお,旭日大綬章及び瑞宝大綬章を授与されるべき者のうち功績又は長年にわたる功労が特に優れているものに授与される勲章として桐花大綬章がある。
また,上記閣議決定においては,旭日章及び瑞宝章は,男女に共通して授与される勲章とし,また,候補者の選考に当たっては,性別にかかわらず国家又は公共に対する功労を等しく評価するとされている。
(2) 受章者名簿の掲載情報
処分庁においては,桐花大綬章・旭日章の受章者名簿及び瑞宝章の受章者名簿をそれぞれ作成し,当該名簿には,受章者の賞賜,功労概要,主要経歴,氏名,性別,年齢及び現住所(詳細な住所)を記載している。
なお,大綬章,重光章及び中綬章の受章者については,受章者の住所にかかわらず,勲章の区分ごとに氏名の五十音順に掲載しており,小綬章,双光章及び単光章については,受章者の現住所の都道府県ごとにまとめた上で,勲章の区分ごとに氏名の五十音順に掲載しているものである。
(3) 受章者名簿の取扱い
受章者名簿は,処分庁において栄典関係事務の基礎資料として使用するほか,栄典に関する関係行政機関である各府省及び各都道府県における栄典関係事務に資することを目的として提供している。
また,国として,国家や社会への長年の功労,あるいは社会への各分野における優れた行いを顕彰するとの栄典の趣旨に沿った適切な報道を行うとの報道機関の有する公共的役割にかんがみ,報道機関に対しても,受章者各人の了解の下に一定の情報を提供している。
具体的には,各府省及び各都道府県においては,受章者名簿を各回の栄典事務に際しての基礎資料として使用するとともに,今後のより的確な推薦等(例:候補者の発掘,新規分野の開拓)のために利用しており,また,報道機関においては,報道のための基礎資料として利用しているものである。
栄典制度は,国家や社会への長年の功労,あるいは社会の各分野における優れた行いを国家が顕彰するという趣旨から,その氏名,勲章の種別等,一定範囲の情報を公表することが予定されているところであるが,平成17年4月の行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律(以下「行政機関個人情報保護法」という。)の施行を機に,個人情報保護の取扱いに万全を期するため,次のア及びイの点につき,各受章者ごとに了解をとっている。
ア 勲章の受章者の発表に際しては,栄典関係事務及び報道取材の便宜を図ることを目的として,氏名,年齢,性別,授与勲章,功労概要,主要経歴,過去に受章した勲章・褒章及び現住所について,賞勲局から各府省及び都道府県の栄典担当部局,報道機関に情報提供すること。
イ 広報の一環として,氏名,授与勲章,功労概要,主要経歴,過去に受章した勲章・褒章及び居住している市区町村名(政令指定都市は区)を,1年程度一般の閲覧に供するとともに,半年程度内閣府ホームページに掲載すること。
これにより,個人情報保護に留意しつつ,栄典制度の趣旨の達成に努めているところである。
また,これらの情報を記載した受章者名簿の取扱いについては,栄典に関する関係行政機関たる各府省及び都道府県並びに報道機関に対し,個人情報の保護の観点から,その適切な管理につき,それぞれ文書をもって徹底を図っているところである。
3 処分庁による公表資料について
処分庁においては,叙勲の受章者に係る情報を,一定の期間,閲覧に供するとともに,ホームページにおいて公表している。ただし,公表される情報は,平成17年春の叙勲からは,行政機関個人情報保護法の施行を踏まえ,勲章の種別,功労概要,主要経歴,氏名及び市区町村名までの住所であり,性別,年齢及び詳細な住所は掲載していない(平成16年秋の叙勲までは,これらも公表していた。)。これらの情報の公表は,長年にわたる功労を有する受章者が,より多くの国民から祝福されることを目的とするものであり,受章者に対する過剰な祝意の伝達や業者からの強引な勧誘を避ける等,受章者の利益に配意した措置である。
4 不開示情報該当性について
(1) 受章者の性別及び年齢の不開示情報の該当性
受章者の性別及び年齢については,個人識別情報であり,上記3で述べたとおり,処分庁のホームページにおいて公表している情報には含まれておらず,これらの情報を公とする法令の規定も存在しないことから,法5条1号ただし書イに規定する「法令の規定により又は慣行として公にされ,又は公にすることが予定されている情報」とは言えず,また,同号ただし書ロ及びハに該当する情報にも当たらない。以上のことから,これらの情報を不開示としたことは妥当である。
(2) 受章者の詳細な住所の不開示情報該当性
受章者の詳細な住所については,個人識別情報であり,上記3で述べたとおり,処分庁のホームページにおいては,住所の市区町村名までは公表しているが,それよりも詳細な住所についてまでは公表しておらず,公にする法令の規定も存在しないことから,法5条1号ただし書イに該当せず,同号ただし書ロ及びハに該当する情報にも当たらない。また,仮に,受章者の詳細な住所を公にすることになれば,受章者の自宅への送り付け商法等の強引な商勧誘等の被害に遭うなど,個人の権利利益を侵害するおそれがある。以上のことから,詳細な住所を不開示としたことは妥当である。
5 上記の理由により,原処分維持が適当と考える。
第4 調査審議の経過
当審査会は,本件諮問事件について,以下のとおり,調査審議を行った。
① 平成17年10月14日 諮問の受理
② 同日 諮問庁から理由説明書を収受
③ 同年11月15日 審査請求人から意見書を収受
④ 同年12月5日 本件対象文書の見分及び審議
⑤ 平成18年1月19日 諮問庁の職員(内閣府大臣官房総務課課長補佐ほか)からの口頭説明の聴取
⑥ 同年2月20日 審議
⑦ 同年3月13日 審議
第5 審査会の判断の理由
1 本件対象文書について
本件対象文書は,「平成17年春の叙勲受章者名簿(桐花大綬章)(旭日章)」(香川県在住者で,旭日小綬章,旭日双光章及び旭日単光章の受章者に係る部分)及び「平成17年春の叙勲受章者名簿(瑞宝章)」(香川県在住者で瑞宝小綬章,瑞宝双光章及び瑞宝単光章の受章者に係る部分)であり,各名簿には,受章者の賞賜,功労概要,主要経歴,氏名,性別,年齢及び現住所の欄が設けられ,それぞれに,その内容が記載されている。
処分庁は,本件対象文書に記載された情報のうち,年齢,性別及び詳細な住所は,個人に関する情報であり,法5条1号の特定の個人を識別できるものに該当し,また,当該情報は,これを公にすると,既に受章者の氏名が公表されていることから,これとあいまって,より個人が特定されることとなり,これらの情報を悪用する業者からの被害に遭うなど,個人の権利利益を侵害するおそれがあることから,これらの情報は,内閣府(賞勲局)のホームページに掲載しておらず,法令の規定により又は慣行として公にされ,又は公にすることが予定されている情報とは言えないことから,同号ただし書イに該当せず,また同号ただし書ロ及びハにも該当しないとして,不開示としている。
2 叙勲制度について
叙勲制度は,「栄典制度の在り方に関する懇談会報告書(平成13年10月29日)」によると,国家や社会への長年の功労を国家が顕彰する制度であり,国家・公共への功労を国が評価し,その栄誉を称えるものであり,社会に対して,国家・公共の観点から,評価されるべきものは何かを示すという役割を果たしている。また,多くの受章者が,自らの功績が評価されたことに,感激と喜びを感じており,日々公共のために努力を重ねている人々,地域において高い志をもって公共のための活動を行っている人々にとっては,大きな励みとなっており,その受章者については,広く国民に知らしめるべきものであるとされている。
このことを踏まえれば,受章者個人に係る情報については,情報公開法においては原則不開示とされる個人に関する情報ではあるが,受章者及びその功績を広く国民に知らしめるべきという叙勲制度の趣旨にも配慮しつつ,その開示・不開示の判断をすることが適当と認められる。
かかる観点から,本件不開示部分の不開示情報該当性について,以下検討する。
3 不開示情報該当性について
(1) 受章者の年齢
受章者の年齢は,氏名等とともに,個人に関する情報であって,法5条1号の特定の個人を識別できる情報に該当すると認められる。
諮問庁は,受章者の年齢について,理由説明書及び口頭説明において,個人識別情報であり,また,これを公にすると,公表されている氏名と相まって,受章者がより特定されることによって,当該受章者の権利利益を侵害するおそれがあると説明する。
しかしながら,一方,諮問庁は,各受章者の年齢は,平成16年以前においても,また,平成17年春の叙勲においても,処分庁による受章者の発表以後,新聞各全国紙におおむね掲載されていると説明しており,このことからすれば,受章者の年齢は,公にされている情報と解されるところであり,また,春秋叙勲の対象年齢は,前記懇談会報告書において,「春秋叙勲は,原則として,一生に一度,生涯にわたる国家・公共に対する功績を総合的に評価して行われるもので,受章年齢については,生涯における功績がある程度固まった時期をとらえて顕彰するという考え方に基づき,原則70歳以上とされている」としていることから,功労概要や主要経歴を公表しているのと同様に,顕彰をするにふさわしい時期であることを明らかにするために受章年齢を公表することは考えられるところであり,受章者個々の生涯にわたる功績を広く国民に知らしめるという叙勲制度の趣旨にかんがみれば,殊更秘匿すべき情報であるとは解されない。
したがって,受章者の年齢は,法5条1号ただし書イの慣行として公にすることが予定されている情報として,開示すべきである。
(2) 受章者の性別
受章者の性別は,氏名等とともに,個人に関する情報であって,法5条1号の特定の個人を識別できる情報に該当すると認められる。
諮問庁は,受章者の性別について,理由説明書及び口頭説明において,個人識別情報であり,また,これを公にすると,公表されている氏名と相まって,受章者がより特定されることによって,当該受章者の権利利益を侵害するおそれがあると説明する。
しかしながら,受章者の性別については,受章者の氏名が公にされるものであることから,一般的には,その氏名から,当該個人の性別は容易に推察されるところであり,また,受章者の性別は,受章者個々の生涯にわたる功績を広く国民に知らしめるという叙勲制度の趣旨にかんがみれば,殊更秘匿すべき情報であるとは解されない。
したがって,受章者の性別は,法5条1号ただし書イの慣行として公にすることが予定されている情報として,開示すべきである。
(3) 受章者の詳細な住所
受章者の詳細な住所は,氏名等とともに,個人に関する情報であって,法5条1号の特定の個人を識別できる情報に該当すると認められる。
審査請求人は,受章者の詳細な住所の情報については,一部の地方新聞に掲載されており,慣行として公にされている情報であることは明らかである旨主張する。
これに対し,諮問庁は,詳細な住所が記載された受章者名簿を,報道機関に対し提供しているものの,当該受章者名簿の提供は,取材の便宜を図るためのものであり,当該受章者名簿に記載された個人情報の取扱いについて,十分留意し適切な管理を行うよう徹底を図っており,また,詳細な住所が公にされることにより,受章者であることに乗じた送り付け商法等業者からの強引な勧誘等の被害に遭うなどの,個人の権利利益を侵害するおそれがある旨説明する。
報道機関への情報提供については,受章者名簿に記載された受章者個人の情報について,そのすべてを公にすることを前提として,提供しているとは言えず,一部地方新聞において,受章者の詳細な住所が報道されたとしても,それをもって当該詳細な住所の公表慣行があるとまでは言えない。また,詳細な住所が公にされると,それが悪用され,受章者個人の権利利益を侵害するおそれが生ずることは否定できないものと認められる。
したがって,受章者の詳細な住所は,法5条1号ただし書イに該当せず,不開示が妥当である。
4 審査請求人のその他の主張について
審査請求人は,その他種々主張するが,当審査会の上記判断を左右するものではない。
5 本件一部開示決定の妥当性について
以上のことから,本件対象文書につき,その一部を法5条1号に該当するとして不開示とした決定については,詳細な住所は,同号に該当すると認められるので,不開示としたことは妥当であるが,年齢及び性別は,同号に該当せず,開示すべきであると判断した。
(第5部会)
委員 上村直子,委員 稲葉 馨,委員 新美育文
諮問日 : 平成17年10月14日 (平成17年(行情)諮問第511号)
答申日 : 平成18年 3月15日 (平成17年度(行情)答申第596号)
事件名 : 特定時期の叙勲受章者名簿の一部開示決定に関する件
第1 審査会の結論
「平成17年春の叙勲受章者名簿(桐花大綬章)(旭日章)」(香川県在住者で,旭日小綬章,旭日双光章及び旭日単光章の受章者に係る部分)及び「平成17年春の叙勲受章者名簿(瑞宝章)」(香川県在住者で瑞宝小綬章,瑞宝双光章及び瑞宝単光章の受章者に係る部分。以下,両名簿を併せて「本件対象文書」という。)につき,その一部を不開示とした決定については,受章者の年齢及び性別を開示すべきである。
第2 審査請求人の主張の要旨
1 審査請求の趣旨
本件審査請求の趣旨は,行政機関の保有する情報の公開に関する法律(以下「法」又は「情報公開法」という。)3条の規定に基づく開示請求に対し,平成17年7月7日付け府賞第386号により内閣府賞勲局長(以下「処分庁」という。)が行った本件対象文書の一部開示決定(以下「原処分」という。)について,その取消しを求めるというものである。
2 審査請求の理由
第3 諮問庁の説明の概要
1 本件審査請求の趣旨について
本件は,審査請求人が行った「平成17年4月29日付発令,平成17年春の叙勲受章者のうち,香川県在住者で,旭日章及び瑞宝章の小綬章以下の者の,氏名及び住所の番地番号まで記載されている名簿」との開示請求に対して,処分庁において,「①平成17年春の叙勲受章者名簿(桐花大綬章)(旭日章)(香川県在住者で旭日小綬章,旭日双光章及び旭日単光章の受章者に係る部分),②平成17年春の叙勲受章者名簿(瑞宝章)(香川県在住者で瑞宝小綬章,瑞宝双光章及び瑞宝単光章の受章者に係る部分)」を対象文書として特定し,受章者の性別,年齢及び詳細な住所については,特定の個人を識別することができる情報であり,法5条1号に該当することを理由として不開示とする,一部開示決定処分を行ったところ,当該処分の取消しを求めて審査請求が提起されたものである。
2 勲章の種類及び受章者名簿について
(1) 勲章の種類
栄典制度の改革について(平成14年8月7日閣議決定)において,功績の内容に着目し,顕著な功績を挙げた者を顕彰する場合には旭日章を授与し,公務等に長年にわたり従事し,成績を挙げた者を顕彰する場合には瑞宝章を授与することとされている。また,功労の大きさに応じて,旭日章については,旭日大綬章,旭日重光章,旭日中綬章,旭日小綬章,旭日双光章及び旭日単光章を,瑞宝章については,瑞宝大綬章,瑞宝重光章,瑞宝中綬章,瑞宝小綬章,瑞宝双光章及び瑞宝単光章を,授与することとされている。なお,旭日大綬章及び瑞宝大綬章を授与されるべき者のうち功績又は長年にわたる功労が特に優れているものに授与される勲章として桐花大綬章がある。
また,上記閣議決定においては,旭日章及び瑞宝章は,男女に共通して授与される勲章とし,また,候補者の選考に当たっては,性別にかかわらず国家又は公共に対する功労を等しく評価するとされている。
(2) 受章者名簿の掲載情報
処分庁においては,桐花大綬章・旭日章の受章者名簿及び瑞宝章の受章者名簿をそれぞれ作成し,当該名簿には,受章者の賞賜,功労概要,主要経歴,氏名,性別,年齢及び現住所(詳細な住所)を記載している。
なお,大綬章,重光章及び中綬章の受章者については,受章者の住所にかかわらず,勲章の区分ごとに氏名の五十音順に掲載しており,小綬章,双光章及び単光章については,受章者の現住所の都道府県ごとにまとめた上で,勲章の区分ごとに氏名の五十音順に掲載しているものである。
(3) 受章者名簿の取扱い
受章者名簿は,処分庁において栄典関係事務の基礎資料として使用するほか,栄典に関する関係行政機関である各府省及び各都道府県における栄典関係事務に資することを目的として提供している。
また,国として,国家や社会への長年の功労,あるいは社会への各分野における優れた行いを顕彰するとの栄典の趣旨に沿った適切な報道を行うとの報道機関の有する公共的役割にかんがみ,報道機関に対しても,受章者各人の了解の下に一定の情報を提供している。
具体的には,各府省及び各都道府県においては,受章者名簿を各回の栄典事務に際しての基礎資料として使用するとともに,今後のより的確な推薦等(例:候補者の発掘,新規分野の開拓)のために利用しており,また,報道機関においては,報道のための基礎資料として利用しているものである。
栄典制度は,国家や社会への長年の功労,あるいは社会の各分野における優れた行いを国家が顕彰するという趣旨から,その氏名,勲章の種別等,一定範囲の情報を公表することが予定されているところであるが,平成17年4月の行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律(以下「行政機関個人情報保護法」という。)の施行を機に,個人情報保護の取扱いに万全を期するため,次のア及びイの点につき,各受章者ごとに了解をとっている。
ア 勲章の受章者の発表に際しては,栄典関係事務及び報道取材の便宜を図ることを目的として,氏名,年齢,性別,授与勲章,功労概要,主要経歴,過去に受章した勲章・褒章及び現住所について,賞勲局から各府省及び都道府県の栄典担当部局,報道機関に情報提供すること。
イ 広報の一環として,氏名,授与勲章,功労概要,主要経歴,過去に受章した勲章・褒章及び居住している市区町村名(政令指定都市は区)を,1年程度一般の閲覧に供するとともに,半年程度内閣府ホームページに掲載すること。
これにより,個人情報保護に留意しつつ,栄典制度の趣旨の達成に努めているところである。
また,これらの情報を記載した受章者名簿の取扱いについては,栄典に関する関係行政機関たる各府省及び都道府県並びに報道機関に対し,個人情報の保護の観点から,その適切な管理につき,それぞれ文書をもって徹底を図っているところである。
3 処分庁による公表資料について
処分庁においては,叙勲の受章者に係る情報を,一定の期間,閲覧に供するとともに,ホームページにおいて公表している。ただし,公表される情報は,平成17年春の叙勲からは,行政機関個人情報保護法の施行を踏まえ,勲章の種別,功労概要,主要経歴,氏名及び市区町村名までの住所であり,性別,年齢及び詳細な住所は掲載していない(平成16年秋の叙勲までは,これらも公表していた。)。これらの情報の公表は,長年にわたる功労を有する受章者が,より多くの国民から祝福されることを目的とするものであり,受章者に対する過剰な祝意の伝達や業者からの強引な勧誘を避ける等,受章者の利益に配意した措置である。
4 不開示情報該当性について
(1) 受章者の性別及び年齢の不開示情報の該当性
受章者の性別及び年齢については,個人識別情報であり,上記3で述べたとおり,処分庁のホームページにおいて公表している情報には含まれておらず,これらの情報を公とする法令の規定も存在しないことから,法5条1号ただし書イに規定する「法令の規定により又は慣行として公にされ,又は公にすることが予定されている情報」とは言えず,また,同号ただし書ロ及びハに該当する情報にも当たらない。以上のことから,これらの情報を不開示としたことは妥当である。
(2) 受章者の詳細な住所の不開示情報該当性
受章者の詳細な住所については,個人識別情報であり,上記3で述べたとおり,処分庁のホームページにおいては,住所の市区町村名までは公表しているが,それよりも詳細な住所についてまでは公表しておらず,公にする法令の規定も存在しないことから,法5条1号ただし書イに該当せず,同号ただし書ロ及びハに該当する情報にも当たらない。また,仮に,受章者の詳細な住所を公にすることになれば,受章者の自宅への送り付け商法等の強引な商勧誘等の被害に遭うなど,個人の権利利益を侵害するおそれがある。以上のことから,詳細な住所を不開示としたことは妥当である。
5 上記の理由により,原処分維持が適当と考える。
第4 調査審議の経過
当審査会は,本件諮問事件について,以下のとおり,調査審議を行った。
① 平成17年10月14日 諮問の受理
② 同日 諮問庁から理由説明書を収受
③ 同年11月15日 審査請求人から意見書を収受
④ 同年12月5日 本件対象文書の見分及び審議
⑤ 平成18年1月19日 諮問庁の職員(内閣府大臣官房総務課課長補佐ほか)からの口頭説明の聴取
⑥ 同年2月20日 審議
⑦ 同年3月13日 審議
第5 審査会の判断の理由
1 本件対象文書について
本件対象文書は,「平成17年春の叙勲受章者名簿(桐花大綬章)(旭日章)」(香川県在住者で,旭日小綬章,旭日双光章及び旭日単光章の受章者に係る部分)及び「平成17年春の叙勲受章者名簿(瑞宝章)」(香川県在住者で瑞宝小綬章,瑞宝双光章及び瑞宝単光章の受章者に係る部分)であり,各名簿には,受章者の賞賜,功労概要,主要経歴,氏名,性別,年齢及び現住所の欄が設けられ,それぞれに,その内容が記載されている。
処分庁は,本件対象文書に記載された情報のうち,年齢,性別及び詳細な住所は,個人に関する情報であり,法5条1号の特定の個人を識別できるものに該当し,また,当該情報は,これを公にすると,既に受章者の氏名が公表されていることから,これとあいまって,より個人が特定されることとなり,これらの情報を悪用する業者からの被害に遭うなど,個人の権利利益を侵害するおそれがあることから,これらの情報は,内閣府(賞勲局)のホームページに掲載しておらず,法令の規定により又は慣行として公にされ,又は公にすることが予定されている情報とは言えないことから,同号ただし書イに該当せず,また同号ただし書ロ及びハにも該当しないとして,不開示としている。
2 叙勲制度について
叙勲制度は,「栄典制度の在り方に関する懇談会報告書(平成13年10月29日)」によると,国家や社会への長年の功労を国家が顕彰する制度であり,国家・公共への功労を国が評価し,その栄誉を称えるものであり,社会に対して,国家・公共の観点から,評価されるべきものは何かを示すという役割を果たしている。また,多くの受章者が,自らの功績が評価されたことに,感激と喜びを感じており,日々公共のために努力を重ねている人々,地域において高い志をもって公共のための活動を行っている人々にとっては,大きな励みとなっており,その受章者については,広く国民に知らしめるべきものであるとされている。
このことを踏まえれば,受章者個人に係る情報については,情報公開法においては原則不開示とされる個人に関する情報ではあるが,受章者及びその功績を広く国民に知らしめるべきという叙勲制度の趣旨にも配慮しつつ,その開示・不開示の判断をすることが適当と認められる。
かかる観点から,本件不開示部分の不開示情報該当性について,以下検討する。
3 不開示情報該当性について
(1) 受章者の年齢
受章者の年齢は,氏名等とともに,個人に関する情報であって,法5条1号の特定の個人を識別できる情報に該当すると認められる。
諮問庁は,受章者の年齢について,理由説明書及び口頭説明において,個人識別情報であり,また,これを公にすると,公表されている氏名と相まって,受章者がより特定されることによって,当該受章者の権利利益を侵害するおそれがあると説明する。
しかしながら,一方,諮問庁は,各受章者の年齢は,平成16年以前においても,また,平成17年春の叙勲においても,処分庁による受章者の発表以後,新聞各全国紙におおむね掲載されていると説明しており,このことからすれば,受章者の年齢は,公にされている情報と解されるところであり,また,春秋叙勲の対象年齢は,前記懇談会報告書において,「春秋叙勲は,原則として,一生に一度,生涯にわたる国家・公共に対する功績を総合的に評価して行われるもので,受章年齢については,生涯における功績がある程度固まった時期をとらえて顕彰するという考え方に基づき,原則70歳以上とされている」としていることから,功労概要や主要経歴を公表しているのと同様に,顕彰をするにふさわしい時期であることを明らかにするために受章年齢を公表することは考えられるところであり,受章者個々の生涯にわたる功績を広く国民に知らしめるという叙勲制度の趣旨にかんがみれば,殊更秘匿すべき情報であるとは解されない。
したがって,受章者の年齢は,法5条1号ただし書イの慣行として公にすることが予定されている情報として,開示すべきである。
(2) 受章者の性別
受章者の性別は,氏名等とともに,個人に関する情報であって,法5条1号の特定の個人を識別できる情報に該当すると認められる。
諮問庁は,受章者の性別について,理由説明書及び口頭説明において,個人識別情報であり,また,これを公にすると,公表されている氏名と相まって,受章者がより特定されることによって,当該受章者の権利利益を侵害するおそれがあると説明する。
しかしながら,受章者の性別については,受章者の氏名が公にされるものであることから,一般的には,その氏名から,当該個人の性別は容易に推察されるところであり,また,受章者の性別は,受章者個々の生涯にわたる功績を広く国民に知らしめるという叙勲制度の趣旨にかんがみれば,殊更秘匿すべき情報であるとは解されない。
したがって,受章者の性別は,法5条1号ただし書イの慣行として公にすることが予定されている情報として,開示すべきである。
(3) 受章者の詳細な住所
受章者の詳細な住所は,氏名等とともに,個人に関する情報であって,法5条1号の特定の個人を識別できる情報に該当すると認められる。
審査請求人は,受章者の詳細な住所の情報については,一部の地方新聞に掲載されており,慣行として公にされている情報であることは明らかである旨主張する。
これに対し,諮問庁は,詳細な住所が記載された受章者名簿を,報道機関に対し提供しているものの,当該受章者名簿の提供は,取材の便宜を図るためのものであり,当該受章者名簿に記載された個人情報の取扱いについて,十分留意し適切な管理を行うよう徹底を図っており,また,詳細な住所が公にされることにより,受章者であることに乗じた送り付け商法等業者からの強引な勧誘等の被害に遭うなどの,個人の権利利益を侵害するおそれがある旨説明する。
報道機関への情報提供については,受章者名簿に記載された受章者個人の情報について,そのすべてを公にすることを前提として,提供しているとは言えず,一部地方新聞において,受章者の詳細な住所が報道されたとしても,それをもって当該詳細な住所の公表慣行があるとまでは言えない。また,詳細な住所が公にされると,それが悪用され,受章者個人の権利利益を侵害するおそれが生ずることは否定できないものと認められる。
したがって,受章者の詳細な住所は,法5条1号ただし書イに該当せず,不開示が妥当である。
4 審査請求人のその他の主張について
審査請求人は,その他種々主張するが,当審査会の上記判断を左右するものではない。
5 本件一部開示決定の妥当性について
以上のことから,本件対象文書につき,その一部を法5条1号に該当するとして不開示とした決定については,詳細な住所は,同号に該当すると認められるので,不開示としたことは妥当であるが,年齢及び性別は,同号に該当せず,開示すべきであると判断した。
(第5部会)
委員 上村直子,委員 稲葉 馨,委員 新美育文