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情報公開審査会の答申などを集めて載せています。

東京都情報公開審査会 答申第451号 平成17年度における各溶着式道路標示塗装委託単価契約書のうち…

2009年07月03日 | 個人に関する情報
別紙
諮問第528号

答 申


1 審査会の結論
「平成17年度における各溶着式道路標示塗装委託単価契約書のうち、委託契約書表題部分、内訳書及び溶着式道路標示塗装委託予定数量」ほか4件の一部開示決定において非開示とした部分のうち、支店長及び事業所の所長の個人氏名については、開示すべきであるが、その他の部分については非開示が妥当である。

2 審査請求の内容
(1)審査請求の趣旨
本件審査請求の趣旨は、東京都情報公開条例(平成11年東京都条例第5号。以下「条例」という。)に基づき、審査請求人が行った「平成17年度における各溶着式道路標示塗装委託単価契約書のうち、委託契約書表題部分、内訳書及び溶着式道路標示塗装委託予定数量」ほか4件の開示請求に対し、警視総監が平成20年6月17日付けで行った一部開示決定について、その取消しを求めるというものである。

(2)審査請求の理由
審査請求人が、審査請求書で主張している審査請求の主な理由は、次のように要約される。

ア 法人の契約代表者の氏名について
警視総監は、法人の契約代表者の氏名を、条例7条2号の規定に基づき非開示であるとの決定をするが、民間法人の従業員である個人の情報であっても、使用者の指揮命令の下に職務として行われたもので、当該従業員にとって私事としての性質が希薄である場合には、当該個人情報は法的保護を必要としないことは、最高裁判所平成16年2月13日判決(平成13年(行ヒ)第18号)が判示するところである。
これを本件についてみると、契約代表者の氏名が表記されているものは、委託契約書、請求書、支払金口座振替依頼書であり、これらは法人の事業である道路標示塗装業務に係るものであるから、法人の契約代表者の氏名は、非開示情報には該当しない。

イ 警察職員の印影について
公務員についても、最高裁判所平成15年12月8日判決(平成12年(行ヒ)第16号)で上記と同様に判示するところ、警察職員の印影が押捺されているのは、委
託契約書、原議(溶着式道路標示塗装委託単価契約の支出について)及び支出命令書であり、これらは警察職員が職務として行った道路標示塗装委託契約に係るものであるから、警察職員の氏名は非開示情報には該当せず、かつ、押捺に使用された印章は、当該警察職員が日常職務執行に用いているもので、個人の資産を保護する実印とは異なるものであるから、警察職員の印影は、非開示情報には該当しない。

3 審査請求に対する実施機関の説明要旨
実施機関が、理由説明書及び口頭による説明において主張している内容は、次のように要約される。

(1)法人の契約代表者の氏名について
非開示とした法人の契約代表者の氏名は、個人に関する情報で、特定の個人を識別することができるものであり、商業登記簿で公にされているなど公にするとの法令等の規定や慣行はなく、条例7条2号ただし書のいずれにも該当しない。
審査請求人は、契約代表者の氏名が記載されている委託契約書等は、法人の事業に係るものであるから、当該法人の契約代表者の氏名は非開示情報には該当しない旨主張するが、当該契約代表者の氏名は、上記のとおり個人に関する情報であり、条例7条2号の非開示情報に該当するので、審査請求人の主張には理由がない。

(2)警察職員の印影について
非開示とした警察職員の印影は、個人に関する情報で、特定の個人を識別することができるものである。当該警察職員の氏名は、非管理職職員の印影であり、これを公にしている慣行等はなく、条例7条2号ただし書のいずれにも該当しない。
審査請求人は、警察職員の印影は、公務員の職務において押捺したものであり、非開示情報には該当しない旨主張するが、公務員の職務行為に係る情報であっても、当該公務員の氏名については、条例7条2号ただし書イ又はロに該当する場合に限り、例外的に開示するべきものであることから、審査請求人の主張には理由がない。

4 審査会の判断
(1)審議の経過
審査会は、本件審査請求について、以下のように審議した。

(2)審査会の判断
審査会は、審査請求の対象となった公文書並びに実施機関及び審査請求人の主張を具体的に検討した結果、以下のように判断する。

年 月 日審 議 経 過
平成20年 8月22日諮問
平成20年10月 2日実施機関から理由説明書収受
平成20年10月27日実施機関から説明聴取(第66回第三部会)
平成20年11月26日審議(第67回第三部会)
平成20年12月15日審議(第68回第三部会)
平成21年 1月28日審議(第69回第三部会)
平成21年 2月23日審議(第70回第三部会)
平成21年 4月24日審議(第71回第三部会)
平成21年 5月26日審議(第72回第三部会)


ア 溶着式道路標示塗装委託塗装作業について
溶着式道路標示塗装委託塗装作業とは、実施機関が交通安全施設整備の一環として、道路に横断歩道、停止線等の標示を委託契約により行うことをいい、委託に係る費用は、交通安全施設整備費等の年間予算から支出される。
当該委託契約は、予算の配分を受けた警視庁交通部交通規制課が予定数量を計画後、契約担当課に契約を依頼し、同課において事業者と単価契約を締結する。その後、警察署担当者(各署交通課規制係員)が事業者に対して具体的な作業指示を行い、作業を行った事業者からの作業終了報告を受けて作業の確認を行い、代価が支払われる。
本件開示請求は、平成17 年度における各溶着式道路標示塗装委託単価契約に関する文書及びこれらの委託単価契約に係る支払関係文書の開示を求めたものである。

イ 本件対象公文書について
実施機関は、「平成17 年度における各溶着式道路標示塗装委託単価契約書のうち、委託契約書表題部分(1枚目)、内訳書及び溶着式道路標示塗装委託予定数量(但し、単価契約(第302 号)は除く)」の開示請求に対して、「委託契約書表題部分(1枚目)」(以下「本件対象公文書1」という。)、「内訳書」及び「溶着式道路標示塗装委託予定数量」を対象公文書として特定し、一部開示決定を行った。
また、「上記の各委託契約に係る請求書、溶着式道路標示塗装内訳書、事実決定文書、支払命令書」の開示請求に対しては、「請求書」(以下「本件対象公文書2」という。)、「溶着式道路標示塗装内訳書」、「事案決定文書」(以下「本件対象公文書3」という。)、「支出命令書」(以下「本件対象公文書4」という。)及び「支払金口座振替依頼書」(以下「本件対象公文書5」という。)を対象公文書として特定し、一部開示決定を行った。

ウ 本件対象公文書の非開示部分について
実施機関は、本件対象公文書1、2及び5に記載された商業登記簿等で公にされいない支店長及び事業所の所長(以下「支店長等」という。)の個人氏名(以下「本件非開示情報1」という。)並びに本件対象公文書1、3及び4に押捺された管理職職員ではない警察職員の印影(以下「本件非開示情報2」という。)を条例7条2号に該当するとして非開示とした。
また、本件対象公文書4及び5に記載された金融機関名、支店名、口座情報、預金種目及び口座番号を条例7条3号に該当するとして、さらに、本件対象公文書1、2及び5に押捺された法人、法人代表者及び法人の契約代表者の印影を条例7条4号に該当するとして、それぞれ非開示としたが、当該非開示部分に対する審査請求はなされていない。
審査請求人は、非開示情報のうち、法人代表者の個人氏名及び警察職員の印影を開示せよ、と主張するので、審査会は、本件非開示情報1及び2の非開示妥当性について判断する。
なお、実施機関は、本件非開示情報1を条例7条2号でのみ判断しているが、審査請求人は、最高裁判所の判例を引用し、本件非開示情報1は、条例7条2号には該当せず、同条3号で判断すべきである旨主張しているので、審査会は、条例7条3号該当性についても併せて判断することとした。

エ 条例7条2号及び3号該当性について
条例7条2号本文は、「個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)で特定の個人を識別することができるもの(他の情報と照合することにより、特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)又は特定の個人を識別することはできないが、公にすることにより、なお個人の権利利益を害するおそれがあるもの」を非開示情報として規定しており、同号ただし書において、「イ 法令等の規定により又は慣行として公にされ、又は公にすることが予定されている情報」、「ロ 人の生命、健康、生活又は財産を保護するため、公にすることが必要であると認められる情報」、「ハ 当該個人が公務員等…である場合において、当該情報がその職務の遂行に係る情報であるときは、当該情報のうち、当該公務員等の職及び当該職務遂行の内容に係る部分」のいずれかに該当する情報については、同号本文に該当するものであっても開示しなければならない旨規定している。
また、条例7条3号本文は、「法人(国、独立行政法人等、地方公共団体及び地方独立行政法人を除く。)その他の団体(以下「法人等」という。)に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報であって、公にすることにより、当該法人等又は当該事業を営む個人の競争上又は事業運営上の地位その他社会的な地位が損なわれると認められるもの」を非開示情報と規定しており、同号ただし書において、「イ 事業活動によって生じ、又は生ずるおそれがある危害から人の生命又は健康を保護するために、公にすることが必要であると認められる情報」、「ロ違法若しくは不当な事業活動によって生じ、又は生ずるおそれがある支障から人の生活を保護するために、公にすることが必要であると認められる情報」、「ハ 事業活動によって生じ、又は生ずるおそれがある侵害から消費生活その他都民の生活を保護するために、公にすることが必要であると認められる情報」のいずれかに該当する情報については、同号本文に該当するものであっても開示しなければならない旨規定している。

(ア)本件非開示情報1について
本件非開示情報1は、会社名義の契約書・請求書・振替依頼書等の業務に関する文書に会社を代表する者として記載された、当該会社の支店長等の個人氏名である。
実施機関は、会社名義の業務文書に会社を代表する者として記載された者の氏名のうち、代表取締役及び取締役の肩書のある者の氏名については、商業登記簿に記載されて公表されていることから、条例7条2号ただし書イの「法令により公にされている情報」に該当するとして開示している。
一方、支店長又は事業所の所長の肩書を付した者の氏名については、商業登記簿記載事項ではないため、当該会社のホームページの会社概要等でその氏名が公表されているか否かを逐一調査確認し、公表されている者については、条例7条2号ただし書イの「慣行として公にされている情報」に該当するとして開示し、ホームページ等で公表されていない者については、同号ただし書イに該当しないとして、本件では非開示としたものである。
しかし、支店長等の肩書は、当該支店又は事業所の事業の責任者を示すものであり、この肩書を会社から付与された者は、その者の氏名が会社法上の支配人として商業登記簿に登記されているかどうか、あるいは、ホームページ等で公表されているか否かに関わらず、表見支配人として、その支店等の業務に関して対外的に会社を代表する一切の権限を有する者と見なされる(会社法(平成17年法律第86号)13 条参照)のであるから、当該支店長等の氏名が、契約書等の会社業務文書において会社を代表する者として記載されている場合については、当該氏名を代表取締役や支配人の氏名に準じて取り扱うのが相当であり、条例7条2号ただし書イに規定する「公にすることが予定されている情報」に該当するものと解すべきである。
したがって、本件非開示情報1は、条例7条2号ただし書イに該当すると認められるので、本件非開示情報1を同号ただし書イに該当しないとして非開示とした実施機関の決定は、相当ではない。
次に、本件非開示情報1の条例7条3号該当性について検討すると、本件非開示情報1における支店長等の肩書のある氏名は、当該支店長等がその権限に基づき会社を代表する者として表示されているのであり、支店長等の権限に基づく当該法人の職務として行った行為に関するものであるから、法人等の事業活動に関する情報であり、かつ、当該氏名を公にしても、当該法人等の競争上又は事業運営上の地位その他社会的地位が損なわれるとは認められないことは明らかであるので、条例7条3号の非開示情報に該当しない。
以上のことから、本件非開示情報1は、条例7条2号及び3号のいずれの規定から判断しても、非開示情報には該当せず、開示されるべきであると認められる。
なお、食糧費支出に関する判例で本件事案とは異なるものの、最高裁判所平成15年11月11日判決(平成10年(行ヒ)第54号)及び福岡高等裁判所平成18年10月19日判決(平成16年(行コ)第8号 差戻判決)並びに審査請求人が引用する最高裁判所平成16年2月13日判決(平成13年(行ヒ)第18号)においては、個人氏名であっても、法人等を代表する者が職務として行う行為そのものと評価される情報については、専ら法人等の事業活動に関する情報として開示・非開示を判断すべきである旨判示している。
実施機関においては、今後、本件事案のように法人等の事業活動に関する情報中の法人を代表する者の個人氏名の開示・非開示決定に当たっては、一律に条例7条2号所定の個人情報として処理するのではなく、上記最高裁判所の判断を十分に勘案し、開示請求の対象となる文書の性質、記載事項等に照らして条例7条3号所定の事業活動情報として処理するのが相当である場合があることに留意すべきである。

(イ)本件非開示情報2について
本件非開示情報2には、当該印章の使用者の姓が刻されており、特定の個人を識別することができる情報であるので、条例7条2号本文に該当する。
そこで、同号ただし書の該当性について検討すると、審査請求人は、警察職員の印影が押捺されているのは委託契約書等であり、職務に関する情報であるので条例7条2号ただし書ハに該当し、開示すべきである旨主張する。
しかしながら、公務員の職務遂行行為に係る情報に含まれる個人の氏名(印影)については、公にした場合、公務員の私生活等に影響を及ぼすおそれがある場合もあり得ることから、個人情報として条例7条2号本文に該当するとした上で、同号ただし書ハではなく、ただし書イに該当する場合に開示すべきであると解されている。
この点につき、実施機関に確認したところ、実施機関が慣行として氏名を公にしているのは、管理職以上の職員の場合であり、本件非開示情報2は、非管理職職員の印影であるとのことであるから、条例7条2号ただし書イには該当せず、その内容及び性質から同号ただし書ロ及びハのいずれにも該当しない。
したがって、本件非開示情報2を非開示とした実施機関の決定は、妥当である。
なお、審査請求人は審査請求書において、その他の主張を述べているが、当審査会の判断を左右するものではない。

よって、「1 審査会の結論」のとおり判断する。

(答申に関与した委員の氏名)
渡辺 忠嗣、鴨木 房子、前田 雅英、渡井 理佳子


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