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情報公開・個人情報保護審査会 平成22年度(行情)答申第26号 国有財産売買契約書

2010年05月19日 | 法人等に関する情報
諮問庁:財務大臣
諮問日:平成21年1月14日(平成21年(行情)諮問第29号)
答申日:平成22年5月19日(平成22年度(行情)答申第26号)
事件名:国有財産売買契約書の一部開示決定に関する件

答 申 書


第1 審査会の結論
国有財産売買契約書(平成18年10月4日付NS17号)(以下「本件対象文書」という。)につき,その一部を不開示とした決定については,審査請求人が開示すべきとする部分のうち諮問庁がなお不開示とすべきとしている部分を開示すべきである。

第2 審査請求人の主張の要旨
1 審査請求の趣旨
本件審査請求の趣旨は,行政機関の保有する情報の公開に関する法律(以下「法」という。)3条に基づく本件対象文書の開示請求に対し,平成20年9月26日付け近財審理第341号により近畿財務局長(以下「処分庁」という。)が行った一部開示決定(以下「原処分」という。)について,その取消しを求めるものである。

2 審査請求の理由
審査請求人の主張する審査請求の主たる理由は,審査請求書及び意見書の記載等によると,おおむね以下のとおりである。

(1)国有財産の売買であり,売買代金等を開示すべきである。
本件対象文書が開示になった。しかし,不開示とした部分「売買代金,収入印紙」,不開示条項「法5条2号イ」,不開示とした理由「売り払い相手方の財産の価格が類推され,財産権その他の法人の正当な権利利益を害するおそれがあるため。」とされており,これらのこと等に異議がある。
和歌山市では,この開発区域での里道の払い下げについて開示している。同じ開発区域での国有財産の払下げであり,開示すべきである。本件の国有財産の売買は,予定最低価格を決め,競争入札された物件ではない。落札金額の開示を求めているのと訳が違う。本件の国有財産の売買は,この財産価値を量る尺度が示されていない。これらのことに納得がいかない。不動産参考評価報告書等の書類の開示もなされていない。国民は知る権利の下に情報公開法が実施され,行政機関等が使用している文書の開示を求めることのできる制度が実施された。
「売買代金,収入印紙」等の開示を求める。

(2)理由説明書に示された「評価調書」の開示を求める。
当初,担当職員から,「評価調書」の存在に関し説明を受けておらず,文書の存在を知らなかったため,行政文書開示請求書に記載していなかったが,理由説明書により,「評価調書」の存在を知ったことから,「評価調書」の開示を求める。

第3 諮問庁の説明の要旨
1 経緯
本件開示請求に対して,処分庁は,法9条1項に基づき,原処分を行った。この原処分に対し,平成20年10月21日に行政不服審査法5条に基づき,審査請求人から,不開示とした部分のうち,「売買代金」及び「収入印紙等」の開示を求める審査請求があったものである。

2 審査請求人の主張
審査請求書及び反論書によれば,審査請求人の主張はおおむね次のとおり。
本件対象文書のうち不開示とした「売買代金,収入印紙等」の情報,とりわけ,「売買代金」について開示を求めるものである。

(1)本件売却土地を含む開発区域内での里道の払下げについて,和歌山市は,和歌山市における情報公開制度に基づき売買代金を開示しているので,国も開示すべきである。

(2)本件売却土地の売却方法は,一般競争入札によるものではなく,落札金額の開示を求めているものではない。本件売却土地の売買は,財産価値を量る尺度が示されていないので,売買代金を開示すべきである。
また,本件売却土地の財産価値を量る尺度を示すものとして不動産参考評価報告書等の書類も求めていたが,不動産参考評価報告書等の書類の開示は受けていない。

3 諮問庁の考え方
(1)本件対象文書について
本件対象文書は,平成18年に処分庁と特定法人の間で旧法定外公共物(以下「本件売却土地」という。)の売買契約の締結に当たり作成した国有財産売買契約書である。
なお,本件売買契約は,予算決算及び会計令99条22号及び「財務省所管一般会計所属普通財産の管理及び処分を行う場合において指名競争に付し又は随意契約によることについての財務大臣との包括協議について」別紙1の第1の(3)の6に基づき,本件売却土地の隣接地主である特定法人に対して,随意契約により売払いを行ったものである。

(2)不開示情報該当性について
①  「収入印紙額」は,原処分において,法5条2号の不開示情報に該当するとして不開示とされているが,収入印紙は,国有財産の売却価格に応じて貼付され,売却価格と印紙税額には一定の関係があるものの,収入印紙額を明らかにしたとしても,同号の不開示情報に該当しないため,原処分を取り消し,開示することとする。

② 「売買代金」は,国と特定法人との間で交わされる民法上の売買契約における具体的な契約内容であり,特定法人の事業に関する情報である。
本件売却土地は,売払い後の用途を分譲住宅用地とすることを予定したものであることから,本件売却土地の売買代金(取得価格)は,当該法人の宅地開発事業の仕入れ価格に当たるものである。
したがって,これを公にすることにより,用地取得費(原価)が明らかとなり,特定法人が事業を行うに当たって,顧客又は取引先との交渉や競合他社との競争等において不利益を被るおそれがあるなど当該法人の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあることから,法5条2号イの不開示情報に該当するため,原処分を維持し,不開示とする。

(3)対象文書の特定について
審査請求人は,審査請求書及び反論書において,審査請求人が主張する「本件売却土地の財産価値を量る尺度を示すもの」として,地方自治体が本件売却土地の近隣の公有地売払いに当たり,当該公有地の評価のため,当該自治体の不動産評価員が作成し,提供を受けたと思われる不動産参考評価報告書等の書類が開示されていない旨を主張しているが,本件開示請求においては,処分庁において,本件売却土地の売買代金を知りたいとの審査請求人の意向を十分確認した上で,審査請求人の開示請求の趣旨に沿う文書として本件対象文書名を教示し,本人が了解した上で,開示請求書に本件対象文書の名称を記載したものである。
一方,国有地の売却価格は,「国有財産評価基準について」に基づき,原則として不動産鑑定士による鑑定評価額を徴し,審査等を経た上で決定することとしているが,単独利用が困難な土地である本件売却土地については,同通達別紙の第3章評価の特例の第3に基づき,国の職員により簡易な評価方法で算定されており,この際,評価調書を作成している。
したがって,処分庁が保有する文書のうち,審査請求人が更に開示すべきとしているものとしては,この評価調書が該当すると考えられるが,前述のとおり,本件対象文書の特定の経緯から本件対象文書には,「評価調書」が含まれていないことは明らかであり,処分庁において当該評価調書を本件対象文書として特定しなかったことは妥当である。

(4)その他
審査請求人のその他の主張については,原処分の不開示部分のうち「売買代金」については,前記3(2)②の記載のとおり不開示を維持すること及び前述のとおり評価調書を本件対象文書として特定しなかったことは妥当であるという結論を左右するものではない。

4 結論
以上のことから,原処分については,その不開示部分のうち,「収入印紙額」は開示することが妥当であるが,「売買代金」については,法5条2号イの不開示情報に該当するため,不開示を維持することが妥当である。

第4 調査審議の経過
当審査会は,本件諮問事件について,以下のとおり,調査審議を行った。
① 平成21年1月14日 諮問の受理
② 同日 諮問庁から理由説明書を収受
③ 同年2月12日 審査請求人から意見書を収受
④ 同年11月16日 審議
⑤ 同年12月21日 本件対象文書の見分及び審議
⑥ 平成22年2月8日 審議
⑦ 同年4月12日 審議
⑧ 同年5月17日 審議

第5 審査会の判断の理由
1 本件対象文書について
本件対象文書は,平成18年に処分庁と特定法人の間で本件売却土地の売買契約の締結に当たり作成した国有財産売買契約書である。
本件対象文書のうち,処分庁は,印影,売買代金,収入印紙部分を不開示とする決定を行ったが,諮問庁は,収入印紙部分を開示するとしている。
審査請求人は,「売買代金,収入印紙」等の開示を求めるとしており,また「印影」について開示を求めていないことは審査請求の趣旨及び審査請求人の諮問庁に対する説明から明らかであることから,本件対象文書の見分結果を踏まえ,諮問庁がなお不開示を維持すべきとしている「売買代金」の不開示情報該当性を検討する。

2 不開示情報該当性について
本件のような国と法人との間で交わされる土地の売買契約における売買代金が法5条2号イに該当するかどうかは,当該契約の性質や売買代金を公にすることによる影響などから個別に判断する必要がある。 
本件のような無道路地等の単独利用が困難な国有地の売却に当たっては,国有財産評価基準に基づき,当該売却土地と隣接する相手方法人の所有地を含めた一体の土地について評価を行った上,対象土地の評価価格が算出されるものであり,本件売買代金は,周囲の不動産価格の情報を基に客観的に算定されていると認められる。
諮問庁は,①「売買代金」は,国と特定法人との間で交わされる民法上の売買契約における具体的な契約内容であり,特定法人の事業に関する情報である,②本件売却土地は,売払い後の用途を分譲住宅用地とすることを予定したものであることから,本件売却土地の売買代金は,特定法人の宅地開発事業の仕入れ価格に当たるものである,③したがって,これを公にすることにより,用地取得費が明らかとなり,特定法人が事業を行うに当たって,顧客又は取引先との交渉や競合他社との競争等において不利益を被るおそれがあるなど特定法人の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあると主張している。
しかしながら,当審査会において,特定法人のホームページ等により確認したところ,①開発総面積に占める本件売却土地の割合は,極めて小さいこと,②売払い前の本件売却土地周辺の原状は,分譲住宅として販売するためには相当の開発経費が必要と推測されることから,本件売買代金は,特定法人の宅地開発事業の仕入価格に該当するとしても,当該事業の原価に直接,大きな影響を及ぼすものとも認められず,これを公にしたとしても,特定法人が当該事業を行うに当たり,顧客又は取引先との交渉や競合他社との競争等において不利益を被るおそれがあるとは言い難い。
したがって,本件売買代金は,公にすることにより,特定法人の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるものとは言えず,法5条2号イに該当するとは認められない。

3 審査請求人の主張について
(1)審査請求人は,「本件の国有財産の売買は,この財産価値を量る尺度が示されていない。不動産参考評価報告書等の書類の開示もなされていない。」,また,「担当職員から,「評価調書」の存在に関し説明を受けておらず,文書の存在を知らなかったため,行政文書開示請求書に記載していなかったが,理由説明書により,「評価調書」の存在を知ったことから,「評価調書」の開示を求める。」と主張するが,処分庁における文書特定の経緯を踏まえると,その特定に誤りはなく,審査請求人の主張は採用できない。

(2)審査請求人は,その他種々主張するが,いずれも当審査会の上記判断を左右するものではない。

4 本件一部開示決定の妥当性について
以上のことから,本件対象文書につき,その一部を法5条2号イに該当するとして不開示とした決定については,審査請求人が開示すべきとする部分のうち諮問庁がなお不開示とすべきとしている部分は,同号イに該当せず,開示すべきであると判断した。

(第5部会)
委員 戸澤和彦,委員 久保茂樹,委員 新美育文


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