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情報公開・個人情報保護審査会 平成22年度(行情)答申第549号 構造計算書偽装物件一覧の…

2011年02月23日 | 事務・事業に関する情報
諮問庁:国土交通大臣
諮問日:平成19年12月19日(平成19年(行情)諮問第578号)
答申日:平成23年2月23日(平成22年度(行情)答申第549号)
事件名:構造計算書偽装物件一覧の一部開示決定に関する件

答 申 書


第1 審査会の結論
別紙の1に掲げる文書1ないし文書10(以下,併せて「本件対象文書」という。)につき,その一部を不開示とした決定について,諮問庁がなお不開示とすべきとしている部分については,別紙の2に掲げる部分を開示すべきである。

第2 異議申立人の主張の要旨
 1 異議申立ての趣旨
行政機関の保有する情報の公開に関する法律(以下「法」という。)3条の規定に基づく本件対象文書の開示請求に対し,平成19年4月3日付け国広情第387号により国土交通大臣(以下「処分庁」又は「諮問庁」という。)が行った一部開示決定(以下「原処分」という。)について,その取消しを求める。

 2 異議申立ての理由
異議申立人の主張する異議申立ての理由の要旨は,異議申立書並びに意見書1ないし意見書6によると,おおむね以下のとおりである。

(1)特定建築士事務所が構造設計にかかわった物件名について自らのホームページで公表している一部の建築主がいることから,少なくとも,当該建築主及び当該建築主が公表している物件名については,法5条2号には該当しない。

(2)多数の者が利用する建築物については,構造設計に問題がなかったかどうかを検証し,その結果を明らかにすることには公益性があり,法5条1号ただし書ロ及び同条2号ただし書に該当する。

(3)文書4と同一の文書に係る開示請求につき,関東地方整備局長の不開示決定処分が取り消され,当該文書が全部開示されたことから,当該文書は全部開示すべきである。

(4)地方公共団体又は一部の建築主は,耐震偽装問題に関する情報を開示している。

(5)多数の者が利用する建築物については,構造設計に問題がなかったかどうかを検証し,その結果を明らかにすることには公益性があり,地方公共団体及び一部の建築主が情報を開示している状況を踏まえれば,国土交通省が公にしても実質的な支障はなく,法5条6号には該当しない。

第3 諮問庁の説明の要旨
(略)


第4 調査審議の経過
当審査会は,本件諮問事件について,以下のとおり,調査審議を行った。

① 平成19年12月19日 諮問の受理
② 同日          諮問庁から理由説明書を収受
③ 平成20年6月16日  本件対象文書の見分及び審議
④ 同月20日       異議申立人から意見書1及び資料を収受
⑤ 平成21年2月23日  異議申立人から意見書2及び資料を収受
⑥ 同年3月5日      諮問庁から補充理由説明書を収受
⑦ 同月23日       異議申立人から意見書3を収受
⑧ 同年4月14日     異議申立人から意見書4を収受
⑨ 同年5月1日      異議申立人から資料を収受
⑩ 同月11日       異議申立人から資料を収受
⑪ 同日          委員の交代に伴う所要の手続の実施,本件対象文書の見分及び審議
⑫ 同月18日       異議申立人から資料を収受
⑬ 同年6月15日     異議申立人から意見書5及び資料を収受
⑭ 同年7月6日      異議申立人から意見書6及び資料を収受
⑮ 同年12月19日    諮問庁の職員(国土交通省住宅局建築指導課建築安全調査室長ほか)からの口頭説明の聴取
⑯ 平成23年1月24日  審議
⑰ 同年2月21日     審議

第5 審査会の判断の理由
1 本件対象文書について
本件開示請求は,「特定建築士事務所の耐震偽装問題について,国土交通省が都道府県に宛てた文書(決裁文書を含む。)」(本件請求文書)の開示を求めるものであり,処分庁は,別紙の1に掲げる文書1ないし文書10(本件対象文書)を特定し,文書2,文書3及び文書8ないし文書10を全部開示し,文書1,文書4,文書5及び文書7の一部を法5条6号柱書きに該当するとして,また,文書6の一部を同条2号イに該当するとして,それぞれ不開示とする一部開示決定(原処分)を行った。
異議申立人は,原処分の取消しを求めている。
これに対し,諮問庁は,不開示とされた部分のうち,文書4で不開示とされた部分を新たに開示することとするが,その余の部分については,法5条1号,2号イ及び6号柱書きに該当するとしてなお不開示を維持すべきとしていることから,本件対象文書の見分結果及び諮問庁からの口頭説明を踏まえ,以下,諮問庁がなお不開示とすべきとしている部分について,その不開示情報該当性を検討する。

2 不開示情報該当性について
(1)文書1,文書5及び文書7について
文書1,文書5及び文書7は,いずれも建築指導課が,関係都道府県建築指導担当課長に対し,特定建築士事務所が関与した物件について,その構造計算書の偽装等に関する調査を依頼した文書の一部であり,各文書を見分したところ,それぞれ,構造計算書の偽装方法に関する記述の部分並びに回答先及び照会先として記載された国土交通省職員のメールアドレスが不開示とされている。

ア 構造計算書の偽装方法に関する記述の部分
(ア)諮問庁は,当該部分を公にすると,特定の構造計算書の偽装の手法が明らかとなり,同様の偽装を行う契機を与えるおそれ,あるいは摘発を逃れるためのより巧妙な手口による偽装を行う契機を与えるおそれがあり,その結果,今後,同様の手口による違法行為や,より巧妙な手口による悪質な偽装等による被害が拡大し,国及び地方公共団体が行う建築行政事務の遂行に著しく支障を及ぼすおそれがあることから,法5条6号柱書きに該当すると説明する。

(イ)しかしながら,当該不開示部分の記載は,一般的な構造計算書の偽装の手口が記載されているのみで,構造計算書の偽装に係る詳細な手法及び構造計算書の分析結果が記載されているとは認められず,当該部分を開示しても,建築行政事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるとまでは言えないことから,法5条6号柱書きに該当しないものと認められ,開示すべきである。

イ 職員のメールアドレスについて
当該メールアドレスは,各職員の職務遂行のために付与されているものと認められ,これを公にした場合,不特定多数の者から,本来の業務目的以外のメールが大量又は無差別に送信されるおそれがあり,当該職員の事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあることから,法5条6号柱書きに該当し,不開示としたことは妥当である。

(2)文書6について
文書6は,特定建築士事務所が構造計算を行った物件の中から無作為に抽出した42物件について,国土交通省が特定行政庁に対し,その構造計算書の偽装・誤りの有無について依頼した調査の結果が記載された文書で,当該文書を見分すると,当該文書は,「一連番号」,「所在都道府県」,「特定行政庁」,「確認時物件名」,「現在の物件名」,「現況」,「構造計算の偽装・誤りの有無」,「耐震性の検証」,「書類不備事項について対応」及び「計画変更年月日」を表頭とする一覧表の形式となっており,そのうち,「耐震性の検証」欄に「問題なし」又は「調査中」と記載された36物件に係る行について,「確認時物件名」ないし「耐震性の検証」の列が不開示とされている。

ア 法5条1号及び2号イ該当性について
(ア)諮問庁は,構造計算書の偽装・誤り及び耐震性に問題があると確認された物件は,倒壊の危険性があることから,その名称等を公表しているが,文書6の不開示部分は,特定行政庁が構造計算書の偽装・誤り及び耐震性の調査において,調査中の物件又は調査の結果構造計算書の偽装・誤りがなかった又は耐震性に問題がなかった物件であることから,不開示部分のうち,「確認時物件名」,「現在の物件名」及び「現況」の各欄を公表すると,物件の所有者及び建築主,ホテル等施設を経営する者並びに物件の設計・施工に携わった事業者(以下「所有者等」という。)を特定することができ,特定建築士事務所が設計に関与した物件であることをもって,一種の風評被害により,所有者等の権利又は利益を侵害するおそれがあることから,法5条1号及び2号イに該当すると説明する。

(イ)当審査会において文書6を見分したところ,その記載内容からは,当該物件の所有者等が個人又は法人のいずれであるかが明らかでないため,文書6の不開示部分の不開示情報該当性について法5条1号及び2号イに分けて,以下検討する。

(ウ)法5条1号該当性
諮問庁は,調査の結果,耐震性に問題なしと判定された物件を公表すると,所有者等が個人である場合(事業を営む個人の当該事業に関する情報である場合を除く。)は,風評被害により,当該個人の権利又は利益を侵害するおそれがあると説明する。
上記を踏まえると,所有者等が個人である場合(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)について,諮問庁は,当該不開示部分が特定の個人を識別することができない情報であるが,これを公にすることにより,なお当該個人の権利又は利益を侵害するおそれがあるものとして,法5条1号本文後段に該当すると説明しているものと解される。
しかしながら,特定行政庁における調査の結果,耐震性に問題なしと判定された物件については,そもそも十分な安全性が確保されていることから,当該個人の権利又は利益を害するおそれがある状況にあるとは認められず,むしろ,構造計算書偽装が明るみとなり,国民の不安が高まっていた当時の社会情勢にかんがみれば,本件においては,積極的にこれを公表すべきであったものと言えることから,当該不開示部分は,法5条1号本文後段に該当しないものと認められる。
また,調査中の物件については,特定建築士事務所が設計に関与した物件であるという事実が公になったとしても,そのことによって直ちに当該個人がいわれのない不当な評価を受けることとなるとまでは言えず,また,諮問庁は,構造計算書偽装に係る事実の公表に関し,当該個人が被害を受けたという風評被害の具体的実態を把握しておらず,そのようなおそれがあるとする諮問庁の主張は,単なる推測の域を出ないものであり,当該不開示部分を明らかにしても,風評被害により当該個人の権利又は利益を害するおそれがあるとまでは言えない。
なお,開示請求時において調査中のものであったとしても,当該調査が終了し,その結果,耐震性に問題があると認められるものについては,特定行政庁において,平成18年通達に基づき公表されることから,法5条1号ただし書イに該当することになり,また,耐震性に問題がなかったものについては,上述のとおり,むしろ積極的に公にすべきものと認められることからすれば,不開示部分を明らかにしても,風評被害により当該個人の権利又は利益を害するおそれがあるとまでは言えず,結局のところ,同号本文後段に該当しないこととなる。

(エ)法5条2号イ該当性
諮問庁は,物件の所有者等が法人である場合(事業を営む個人の当該事業に関する情報である場合を含む。)は,不開示とした部分は,法5条2号イに該当し,不開示とすべきであると説明する。
しかしながら,特定行政庁における調査の結果,耐震性に問題なしと判定された物件については,上記(ウ)のとおり,そもそも十分な安全性が確保されていることから,当該法人の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるとは認められず,むしろ,構造計算書偽装が明るみとなり,国民の不安が高まっていた当時の社会情勢にかんがみれば,本件においては,積極的にこれを公表すべきであったものと言えることから,法5条2号イに該当しないものと認められる。
また,調査中の物件については,特定建築士事務所が設計に関与した物件であるという事実が公になったとしても,上記(ウ)のとおり,そのことが直ちに当該法人がいわれのない不当な評価を受けることとなるとまでは言えず,また,諮問庁は,構造計算書偽装に係る事実の公表に関し,当該法人が被害を受けたという風評被害の具体的実態を把握しておらず,そのようなおそれがあるとする諮問庁の主張は,単なる推測の域を出ないものであり,当該不開示部分を明らかにしても,風評被害により当該法人の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるとまでは言えない。
なお,開示決定時において調査中のものであったとしても,当該調査が終了し,その結果,耐震性に問題があると認められるものについては,上記(ウ)のとおり,特定行政庁において,平成18年通達に基づき公表されることとなり,開示請求時において,これを明らかにしたとしても,それをもって,直ちに当該法人の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるとは認められず,また,耐震性に問題がなかったものについては,前述のとおり,当該法人の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるとまでは言えないことから,いずれにおいても,法5条2号イに該当しないこととなる。

(オ)したがって,文書6において不開示とした「確認時物件名」,「現在の物件名」及び「現況」の各欄の記載は,法5条1号及び2号イに該当しないものと認められる。

イ 法5条6号該当性について
(ア)諮問庁は,平成18年通達にのっとって特定行政庁が公表をしてきたことを勘案すれば,文書6の各欄の不開示部分をすべて公表すると,特定行政庁については,所有者等の協力を得ることができず,法令に基づいて行う報告聴取や立入検査等の事務の遂行に支障を来し,国又は都道府県については,特定行政庁から正確な情報提供を受けられず,その結果,国,都道府県及び特定行政庁が行う建築士への任意聴取,処分又は建築士事務所への立入検査等の事務に支障を来すおそれがあり,不開示としている部分のすべてが法5条6号に該当すると説明する。

(イ)しかしながら,構造計算書偽装が明るみとなり,国民の不安が高まっていた当時の社会情勢にかんがみれば,本件においては,所有者等は,偽装があったかどうかを早急に把握すべく,特定行政庁が行う調査に進んで協力するものと考えられ,当該部分を開示しても,国,都道府県及び特定行政庁が行う立入検査等の事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるとまでは言えないことから,法5条6号柱書きに該当しないものと認められる。

ウ 以上のことから,文書6の不開示部分は,法5条1号,2号イ及び6号柱書きのいずれにも該当せず,開示すべきである。

3 異議申立人のその他の主張について
異議申立人は,その他種々主張するが,いずれも当審査会の上記判断を左右するものではない。

4 本件一部開示決定の妥当性について
以上のことから,本件対象文書につき,その一部を法5条2号イ及び6号柱書きに該当するとして不開示とした決定については,諮問庁が同条1号,2号イ及び6号柱書きに該当するとしてなお不開示とすべきとしている部分のうち,別紙の2に掲げる部分は,同条1号,2号イ及び6号柱書きのいずれにも該当せず,開示すべきであるが,その余の部分は,同条6号柱書きに該当すると認められるので,不開示とすることが妥当であると判断した。

(第5部会)
委員 戸澤和彦,委員 久保茂樹,委員 新美育文

別紙
 1 本件対象文書
文書1 特定建築士事務所により構造設計された物件に関する調査について(依頼)(平成18年6月23日付け)
文書2 別添様式1 構造計算書偽装物件一覧(基礎データ)
文書3 別添様式1の改ざんの有無欄が「不明」又は「調査中」の物件について
文書4 別添1川崎市まちづくり局から関東地方整備局宛文書(18川ま指第257号,平成18年6月14日付け)
文書5 【重要】「特定建築士事務所により構造設計された物件に関する調査」に関する追加調査について(依頼)
文書6 (別添様式リスト)構造計算書偽造物件一覧(特定建築士事務所サンプル)
文書7 特定建築士事務所により構造設計されたすべての物件に関する調査について(依頼)(平成19年1月25日付け)
文書8 別添様式1 構造計算書偽造物件一覧(基礎データ)
文書9 別添様式1の改ざんの有無欄が「不明」又は「調査中」の物件について
文書10 特定建築士事務所業務概要(平成9年~平成18年)

2 開示すべき部分
(1)文書1,文書5及び文書7
構造計算書の偽装方法に関する記述の部分

(2)文書6
不開示部分のすべて

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