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情報公開審査会の答申などを集めて載せています。

川崎市情報公開・個人情報保護審査会 諮問第225・226号 マンション建設予定地の汚染土除去のため…

2010年06月11日 | 訴訟記録
【諮問第225号・226号】
22川情個第24号
平成22年6月11日

川崎市長 阿部孝夫 様

川崎市情報公開・個人情報保護審査会
会長 安冨 潔

公文書開示請求に対する拒否処分に関する異議申立てについて(答申)

平成20年9月19日付け20川環処第832号で諮問のありました、公文書開示請求部分開示処分に関する異議申立ての件について、次のとおり答申します。

1 審査会の結論
実施機関が部分開示処分を行い不開示とした部分のうち、訴状及び証拠説明書内の原告・被告以外の個人の氏名、甲第1号証から甲第8号証まで及び甲第10号証内の個人の氏名を開示すべきである。

2 異議申立ての趣旨及び経緯
(1) 異議申立人は平成20年6月26日付けで、川崎市情報公開条例(平成13年川崎市条例第1号。以下「条例」という。)第7条の規定に基づき、実施機関川崎市長(以下「実施機関」という。)に対し、「川崎市宮前区のマンション建設予定地の汚染土除去のため約48億円を賠償するよう命じた総務省公害等調整委員会の裁定を不服として平成20年6月5日に提訴することを決裁した文書一式」の開示請求を行った。
実施機関は、当該請求に係る対象公文書を平成20年6月4日付け20川環処第361号で起案した「訴状等の提出について(伺い)」と特定し、平成20年7月9日付けで個人の氏名を不開示とした部分開示処分を行った。
異議申立人は平成20年8月7日付けで、処分の取消しを求めて異議申立てを行った。(当審査会諮問第225号事件)

(2) 異議申立人は平成20年7月18日付けで、条例第7条の規定に基づき、実施機関に対し、「川崎市宮前区のマンション建設予定地の汚染土除去のため約48億円を賠償するよう命じた総務省公害等調整委員会の裁定を不服として提訴した訴訟の、甲第1号証から第10号証、甲第27号証、甲第28号証及び答弁書(供覧文書を含む)」の開示請求を行った。
実施機関は当該請求に対し、平成20年7月31日付けで個人の氏名、法人の印影を不開示とした部分開示処分を行った。また、「答弁書(供覧文書を含む)」については、文書不存在を理由として開示請求拒否処分を行った。
異議申立人は平成20年8月7日付けで、部分開示処分の取消しを求めて異議申立てを行った。なお、部分開示処分のうち法人の印影を不開示とした点及び文書不存在を理由とした開示請求拒否処分については、異議申立ての対象としていない。(当審査会諮問第226号事件)

3 異議申立人の主張要旨
平成21年3月22日付け意見書及び平成21年9月24日に実施した口頭意見陳述によれば、異議申立人の主張の概要は次のとおりである。

(1) 諮問第225号関係
ア 本件処分において実施機関は、「法令等の規定又は慣行により公にされ、又は公にすることが予定されている情報」を不開示とする判断をしている。すなわち、条例により不開示情報から除くと規定されている情報が開示されない状況が発生している。

イ 本件処分により不開示とされている情報は、諮問第226号の対象公文書である不動産登記簿及び川崎市議会定例会会議録に記載のある情報と同一のものである。不動産登記簿や川崎市議会定例会会議録に記載のある情報は「法令等の規定又は慣行により公にされ、又は公にすることが予定されている情報」にあたり、開示すべき情報である。この点についての主張は諮問第226号においてあらためて行う。

ウ 名古屋高等裁判所の判決では、「一体となっている公文書中に、ある個人の個人情報に該当する部分が複数個所ある場合において、同公文書中の一部の個人情報が法令等により何人にも知りえる状態にあるのであれば当該記載部分(個人情報)は公開すべきものであり、同一の個人情報を記載した他の部分も、保護すべき対象とはならず公開すべき。」と判示しており、本件不開示部分も同様の理由で開示されるべきである。

エ 裁判所において公開されている訴訟記録に記載された情報については、東京高等裁判所の判決において「法令等の規定により公にされ、又は公にすることが予定されている情報」に該当するとの判断がされている。

(2) 諮問第226号関係
ア 本件処分において実施機関は、「法令等の規定又は慣行により公にされ、又は公にすることが予定されている情報」を不開示とする判断をしている。すなわち、条例により不開示情報から除くと規定されている情報が開示されない状況が発生している。

イ 本件処分により不開示とされている情報は、本件対象公文書の「甲第1号証から第8号証」である不動産登記簿及び「甲第10号証」である川崎市議会定例会会議録に記載されている情報である。

ウ 不動産登記簿は一般に閲覧が可能となっており、公にされている。最高裁判所や大阪高等裁判所の裁判例でも不開示情報に該当しないとの判断がされている。

エ 川崎市議会定例会会議録は、神奈川県立公文書館や川崎市立図書館で所蔵されており、閲覧、複写することができるため、「法令等の規定又は慣行により公にされている情報」に該当する。異議申立人も実際に川崎市立図書館で本件対象公文書に当たる川崎市議会定例会会議録を閲覧、複写できることを確認した。

4 実施機関の主張要旨
平成21年2月5日付け処分理由説明書及び平成21年10月7日に実施した口頭による処分理由説明聴取によれば、実施機関の主張の概要は次のとおりである。

(1) 諮問第225号関係
ア 本件対象公文書である「訴状及び証拠説明書類」には、事件当時の経緯を説明するために、原告、被告以外の個人である、関連土地所有者及び埋立事業者の氏名が記載されており、条例第8条第1号に該当するため不開示とした。

イ 条例第8条第1号の除外規定である、同条第1号ただし書アからエには該当しない。

ウ 本件土地所有者及び埋立事業者の氏名を開示することは、本人及び親族に心理的負担を強いることになり、当事者の権利利益を侵害するおそれがあり、また、それらの者から苦情や損害賠償を請求される可能性もあり、今後の訴訟進行に支障が発生することが懸念される。

(2) 諮問第226号関係
ア 本件対象公文書である「甲第1号証から第8号証(土地閉鎖登記簿謄本)」には、原告、被告以外の個人である、関連土地所有者の氏名が記載されており、条例第8条第1号に該当するため不開示とした。

イ 本件対象公文書である「甲第10号証(昭和45年第4回川崎市議会定例会会議録)」には、原告、被告以外の個人である、関連土地所有者の氏名及び埋立事業者の氏名が記載されており、条例第8条第1号に該当するため不開示とした。

ウ 上記ア、イで述べた不開示情報は、それぞれの情報を保有していた法務局や市議会事務局では、法令や慣行により公開することを前提として保有していたものであり、広く閲覧・写しの交付等に供されていた。しかしながら、本件のように訴訟資料として取り扱われることになった時点で、その情報は裁判資料を保管する本件実施機関の保管目的に沿った公開基準により公開、非公開の判断をすべきものとなる。

エ 本件では当該個人の氏名を公開することにより本人及びその親族の権利義務を侵害するおそれがあると想定されるので不開示とした。

5 審査会の判断
(1)諮問第225号及び第226号は、いずれも川崎市宮前区のマンション建設予定地の土壌汚染に関し、川崎市が公害等調整委員会の裁定を不服として提起した訴訟(以下「本件訴訟」という。)に関する文書を対象とし、不開示部分が共通することから、併合して審理する。

(2)異議申立ての対象となっている処分
実施機関が不開示とした本件訴訟の訴状、証拠説明書及び川崎市議会定例会会議録(甲第10号証)の個人氏名は、土地所有者及び埋立事業者の個人氏名であり、また同様に不開示とした土地閉鎖登記簿謄本(甲第1号証から甲第8号証まで)の個人氏名は、土地所有者ら及び抵当権の内容である債務者の個人氏名である。実施機関は、上記個人氏名について、いずれも個人識別情報に該当することを理由に不開示とした。
これに対し、異議申立人は、上記処分の取消しを求めている。
そこで、①上記土地所有者ら及び抵当権の内容である債務者の個人氏名、②上記埋立事業者の個人氏名について、それぞれ開示すべきか否かを検討する。

(3)土地所有者ら及び債務者の個人氏名について
ア 条例第8条第1号及び同条第1号ただし書ア
実施機関に対し公文書の開示請求があった場合について、条例は、「個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く)であって、当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの」を原則として不開示とし(条例第8条第1号)、ただし「法令の規定により又は慣行として公にされ、又は公にすることが予定されている情報」については開示しなければならないと規定する(条例第8条第1号ただし書ア)。
ところで、異議申立人は、異議の理由として、個人識別情報に該当するという理由だけではなく、何がプライバシーとして守られるべきかの判断が欲しいとも述べている。しかし、上記条例の規定は、プライバシーの具体的内容が必ずしも明確ではないことから、個人識別情報を原則的に不開示とし、例外的に開示が適当である情報を類型的に定めている(いわゆる「個人識別情報型」の規定)。したがって、上記規定を検討すれば足りるものである。
ここで本件を検討するに、本件土地所有者ら及び債務者の個人氏名は、条例第8条第1号の「個人を識別できるもの」に該当する。
そこで、以下、本件土地所有者ら及び債務者の個人氏名が、不開示の例外である条例第8条第1号ただし書アの「法令の規定により又は慣行として公にされ、又は公にすることが予定されている情報」に該当するのか否かを検討する。

イ 条例第8条第1号ただし書アの該当性
まず、土地閉鎖登記簿に記録された情報は、取引の安全などを図るため、不動産登記法などの法令により公開されており、本件土地閉鎖登記簿謄本(甲第1号証から甲第8号証まで)に記載されている土地所有者ら及び抵当権の内容である債務者の氏名は、公開されて何人でも閲覧等することができる情報である。なお、裁判例(最高裁平成15年(行ヒ)第295号、第296号同17年10月11日第三小法廷判決)においても、土地所有者の氏名は、一般に不動産登記簿に登記されて公示されており、法令等の規定により何人でも閲覧することができる情報にあたり、不開示情報には該当しないとの判断がされている。
また、訴状及び証拠説明書に記載されている本件土地所有者の氏名は、土地閉鎖登記簿を調査した結果を記載したもので、何人でも同じ結果の情報を入手できるものである。
さらに、川崎市議会定例会会議録(甲第10号証)についても、地方自治法は議会を公開とし、その会議録の作成を義務づけており、川崎市立図書館等において何人でも川崎市議会定例会会議録を閲覧謄写することができるのであって公開されている。
したがって、本件土地閉鎖登記簿謄本(甲第1号証から甲第8号証まで)に記載されている土地所有者ら及び債務者の個人氏名並びに訴状、証拠説明書及び川崎市議会定例会会議録(甲第10号証)に記載されている土地所有者の個人氏名は、いずれも条例第8条第1号ただし書アの「法令の規定又は慣行として公にされている情報」に該当する。
よって、上記土地所有者ら及び債務者の個人氏名は、個人を識別できるものではあっても開示すべきである。

ウ 実施機関の主張について
なお、実施機関は、土地閉鎖登記簿謄本及び川崎市議会定例会会議録に記載された情報は、本件実施機関が入手する前は公開すべき情報であっても、訴訟資料として取り扱われることになった時点で、その情報は裁判資料を保管する本件実施機関の保管目的に沿った公開基準により取扱いをすることになると主張する。また、本件土地所有者の氏名を開示することにより、当該個人及びその親族の権利利益を侵害するおそれがあり、これらの者から実施機関が苦情や損害賠償を請求される可能性もあって、今後の訴訟進行に支障が発生されることが懸念されるとして、不開示としたことは正当であると主張する。
しかし、当該個人の氏名が「公にすることにより、争訟に係る事務事業の公正又は適正な執行を妨げるおそれのある情報」に該当する場合(条例第8条第4号)は別としても、本件ではそのような情報に該当する事情はうかがわれない。また、当該個人の氏名を公開することによる当該個人及びその親族の権利利益を侵害するおそれは、抽象的な可能性にすぎず、実施機関に対する損害賠償請求等の可能性についても、抽象的な可能性にとどまるものである。
したがって、上記実施機関の主張は、不開示とすべき根拠とはならない。

エ 結論
以上から、訴状、証拠説明書及び川崎市議会定例会会議録(甲第10号
証)に記載されている土地所有者の個人氏名並びに本件土地閉鎖登記簿謄本(甲第1号証から甲第8号証)に記載されている土地所有者ら及び債務者の個人氏名は、いずれも開示すべきである。

(4)埋立事業者の個人氏名について
ア 「事業を営む個人の当該事業に関する情報」の該当性について
本件埋立事業者の個人氏名は、個人に関する情報であるが、当該事業に関する情報として、開示すべきではないかを検討する。
本件訴訟では、本件埋立事業者の事業である埋立行為が問題となっており、本件埋立事業者の個人氏名は、訴状、証拠説明書及び川崎市議会定例会会議録(甲第10号証)のいずれにおいても、本件埋立行為を行った事業者として個人氏名が記載されている。
したがって、本件埋立事業者の個人氏名は、「事業を営む個人の当該事業に関する情報」に該当する。
そして、本件では、本件埋立事業者の個人氏名が、「公にすることにより、当該法人等又は当該個人の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるもの」に該当する事実はうかがわれず、不開示とすべき事由はない。
したがって、本件埋立事業者の個人氏名は、開示すべき情報に該当する。

イ 実施機関の主張について
なお、実施機関は、本件埋立事業者の個人氏名について、前述の土地所有者と同様の理由で不開示とすべきと主張する。
しかし、本件埋立事業者の個人氏名について、いわゆる個人に関する情報の規定(条例第8条第1号)の適用はなく、また、前述の土地所有者と同様に、埋立事業者の個人氏名を公開することによる当該個人及びその親族の権利利益を侵害するおそれ並びに実施機関に対する損害賠償請求等の可能性は、いずれも抽象的な可能性にすぎない。
したがって、上記実施機関の主張は、不開示とすべき根拠とはならない。

ウ 結論
以上から、訴状、証拠説明書及び川崎市議会定例会会議録(甲第10号
証)に記載されている本件埋立事業者の個人氏名は、いずれも開示すべきである。

以上の次第で、審査会の結論に記載のとおり答申する。

川崎市情報公開・個人情報保護審査会(五十音順)
委員 鈴木 庸夫
委員 岡 香
委員 安冨 潔
委員 葭葉 裕子

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