情報公開制度について考える

情報公開審査会の答申などを集めて載せています。

新潟市情報公開・個人情報保護審査会 新情審第5号の7 ごみ集積場設置に係る文書の公開

2009年06月08日 | 個人に関する情報
新情審第5号の7
平成21年6月8日
新潟市長 様

新潟市情報公開・個人情報保護審査会
会 長 斉 木 悦 男

不服申立てに関する諮問について(答申)

平成20年7月10日付け,新廃対第772号によって諮問のあった案件について,次のとおり答申する。

第1 審査会の結論
新潟市長(以下「実施機関」という。)が,平成20年5月23日付け,新廃対第163号の2において,一部公開決定とした(以下「本件一部公開決定」という。),ごみ集積場設置に関する書類に係る文書について,非公開とした自治会長の氏名,電話番号及び印影並びに自治会長以外の個人の住所及び氏名のうち,自治会長の氏名は公開することが妥当であり,ゴミステーション移転先とされた個人の住所及び氏名は,公開せざるを得ない。

第2 事実関係
答申に至る経緯
(1)異議申立人は,平成20年5月7日,新潟市情報公開条例(以下「条例」という。)第5条の規定に基づき,実施機関に「当該ごみ集積場設置に関する書類」として,①平成18年10月11日付け,家庭系廃棄物集積場設置届出書(以下「届出書」という。)の決裁文書,②同届出書に添付された平成18年9月22日付け,ゴミステーション対案についての経過報告(○○○○自治会役員会及び○○○○○○○○○○○班町内各位宛),③同届出書に添付された○○○○自治会緊急役員会資料(平成18年8月改定7号ごみステーション移動に伴う新設場所について),④西清掃センター業務日報(平成18年10月10日分),⑤同業務日報添付図面(住宅明細図・ごみ集積場位置図),⑥西清掃センター業務日報(平成18年7月分),⑦同業務日報添付図面(○○○○自治会作成・7号ごみステーション移動に伴う新設場所について)及び⑧同業務日報添付現場写真(平成18年10月13日記録)の公開を請求した。

(2)実施機関は,同年5月23日,本件請求文書中記載の,自治会長の氏名,電話番号及び印影並びに自治会長以外の個人の住所及び氏名が,条例第6条第2号の個人に関する情報に該当するとして一部公開決定し,その旨異議申立人に通知した。

(3)異議申立人は,この決定を不服として平成20年6月22日,実施機関に対して当該決定を取り消し,全部公開の決定をするよう,異議申立てを行った。

(4)実施機関は,条例第12条の規定に基づき,平成20年7月10日付け,新廃対第772号において当審査会に諮問した。

(5)当審査会における審査の経過は,次のとおりである。
平成20年 7月10日諮問書受理
平成20年11月26日実施機関から弁明書受理
平成20年12月22日異議申立人から弁明書に対する意見書受理
平成21年 4月 9日審査会開催(第1回)
平成21年 5月 1日審査会開催(第2回)(第2部会)
平成21年 6月 5日審査会開催(第3回)(第2部会)


第3 当事者の主張の要旨
1 異議申立人の主張
異議申立人は,異議申立書及び弁明書に対する意見書において,概ね以下のように主張している。
(1)実施機関は,条例第6条第2号の個人情報であることを一部公開の根拠としているが,同号「ただし書き」によれば,住民の生活を保護するために公にすることが必要であると認められる情報は非公開から除かれる旨規定されている。本件一部公開決定においては,当該受理行為の内容特定(特に設置場所)が明らかにされておらず,行政(意思)行為の適正さをただす事実資料の中核部分が欠落している。欠落している情報は個人情報にかかるものではあっても,2つの設置場所に該当する班の各戸から出されるごみの中で,不適切な処理によるものや収集もれのものが,風により飛散し,当宅の玄関及び庭に散入し,生活上大きな影響又は被害を受けている。
さらに,届出書は,最も大きな影響又は被害を受ける当宅との協議がなされないまま提出されており,これは新潟市ごみ集積場設置要綱第4条の規定に違反している。

(2)本情報公開請求の出発点は,届出書にかかる新潟市長の受理行為の取消又は撤回を求めるため,その届出内容と受理行為の特定を求めるためのものである。公開を求める当該事項は,仮に異議申立人が行政訴訟を選択した場合,訴えの主題となる訴訟物を特定するために必要となる記載部分であり,その意味において,当該事項は社会関係的な評価の対象となっているものである。弁明書の解釈理由は,人格権としての個人のプライバシー保護を理由とするものと考えられるが,プライバシーの保護は,社会的評価にかかわらない私的範疇にあるものと考えられる。個人情報のうち不開示とされるものは,一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるものと理解されるところ,今回不開示とされた部分は,○○○○○○班ないし○○班の各戸別世帯には既に明らかにされている情報である。この情報はプライバシーの保護を受け得るものとはならず,事柄の性質上,明らかにする必要性が存在する。

(3)自治会長の「住所,氏名,印影,電話番号」は,同自治会長自ら異議申立人に別途明らかにしているところであり,非公開とする妥当性はない。実施機関が,「異議申立人が知り得ている情報であっても,全ての人が知っている情報であるとは限らない」と述べる部分にあっては,実施機関の抽象的かつ観念的な主観に基づくものであって,判断の前提を誤っている。まず,当該事項の情報公開請求が他に具体的かつ客観的に存在するか否かの検討がされなければならず,弁明書においては,その検討がされていることが伺われず,合理的な理由がなく公開を拒みうる理由とはならない。

2 実施機関の主張
自治会等の代表者の氏名,電話番号及びごみ集積場設置場所の住所,氏名等は特定個人を識別できる情報であり,条例第6条第2号に規定する個人情報に該当するものである。異議申立人は,条例第6条第2号「ただし書き」によれば,住民の生活を保護するために,公にすることが必要と認められる情報は,非公開から除かれる旨が規定されているとの主張であるが,自治会等の代表者の連絡先等や個人の住所,氏名等については,個人が私的生活を営んでいる場所が識別できるプライバシーに関する情報であり,個人の尊厳の保護の観点から非公開とした。
また,異議申立人は,自治会長の「住所,氏名,印影,電話番号」は,同自治会長自ら異議申立人に別途明らかにしており,非公開とする妥当性はないとの主張であるが,異議申立人が既に知り得ている情報であっても,情報公開請求をする全ての人が知っている情報であるとは限らないことから,個人情報保護の重要性に鑑み,非公開とした。

第4 審査会の判断
本件事案において非公開とされた情報は,自治会長の氏名,電話番号及び印影並びに自治会長以外の個人の住所及び氏名である。実施機関は,これらの情報が条例第6条第2号に規定する個人情報に該当し,かつ同条同号に規定するただし書ウにも該当しないことから非公開とした。この点について異議申立人は,当該情報がプライバシー保護を受け得るものではなく,個人情報に該当しないと主張し,さらに個人情報であっても,ただし書ウにより非公開情報から除かれる旨主張するので,以下これらについて検討する。

1 条例第6条第2号への該当性について
新潟市における条例は,市が保有する情報は公開することを原則としながらも,条例第6条各号において,例外的に非公開とされる情報を規定している。そして,同条第2号は,「個人に関する情報であって,特定の個人を識別できるもの(他の情報と照合することにより,特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)」(以下「個人情報」という。)を非公開情報としたうえで,同号アからオで,例外的に公開される個人情報を列挙している。これは,プライバシーに関する情報であるか否かが明確でない情報についても,特定個人を識別できる情報(個人識別情報)はこれを非公開とするもので(個人識別情報型),プライバシーにかかる個人情報のみを非公開とするタイプの条例(プライバシー情報型)とは異なる。
本市の条例において,個人識別情報型が採用された理由は,プライバシーに関する概念は明確な定義が確立されておらず,個人の価値観により,その範囲につき見解が分かれることも少なくないことに求められる。そこで,本市条例は,個人識別情報を原則非公開としたうえで,個人の権利利益を侵害せず非公開にする必要のないもの及び個人の権利利益を侵害しても公開することの公益が優越するため公開すべきものを,例外的に列挙するかたちで,個人の尊厳を保護するという観点から,単に「プライバシーに関する情報」にとどまらず,「特定個人が識別できる情報」を原則的に非公開とすることで,個人に関する情報がみだりに公開されることを可能な限り防止するものとしている。
異議申立人は,個人情報のうち不開示とされるものは,私的範疇としてのプライバシーの保護を前提として,一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるものと主張するが,上記のとおり,新潟市の条例は,非公開とする個人情報について,いわゆるプライバシー情報型ではなく個人識別情報型を採用していることから,かかる解釈を採用することはできない。
よって,実施機関が非公開とした自治会長の氏名,印影及び電話番号並びに自治会長以外の個人の住所及び氏名が,個人に関する情報であって,特定個人を識別できる情報又は他の情報と照合することにより特定個人を識別できる情報であり,個人情報に該当することは明らかである。

2 条例第6条第2号ただし書への該当性について
(1)ただし書ウについて
異議申立人は,本件情報が,個人情報であっても,条例第6条第2号ただし書ウに定める情報に該当することから,公開すべき情報に当たる旨主張するので,この点について以下検討する。
本規定は,個人情報を非公開として個人の利益を保護すべきことの必要性と,人の生命,健康,生活,財産を保護するために公開することの必要性とを比較したうえで,公開することの必要性が非公開とする必要性を上回ると判断される場合には公開しなければならないとするものである。これは,例外的に非公開とされる個人情報についても,公開の必要性が優越すると判断されれば公開するとした定めと解される。よって,本規定の適用については,文書記載の客観的事実のみならず,事案ごとにその背景や内容等を総合的に検討して判断しなければならない。
異議申立人は,「当該2つの設置場所に該当する班の各戸から出されるごみの中で,不適切な処理によるものや収集もれのものが,風により飛散し,当宅の玄関及び庭に散入し,生活上大きな影響又は被害を受けている」ことから本規定に該当し,公開すべきと主張し,また一方で,届出書の受理行為の取り消しについて行政訴訟を提起する場合,訴訟物特定のために公開が必要とも主張する。
本件請求文書は,当該自治会におけるゴミステーション設置場所の移転にかかる届出書及び関連資料であり,当該自治会内部における意思決定及びその経過に係わる文書である。本件一部公開決定において非公開とされた情報は,本件請求文書の記載のうち,自治会長の氏名,電話番号及び印影並びに自治会長以外の個人の住所及び氏名であるが,「自治会長の住所,氏名,印影,電話番号は,同自治会長自ら異議申立人に別途明らかにしている」ものであり,異議申立人にとっては,自治会長の氏名は既知の情報である。また,文書中におけるゴミステーション移転先とされた個人の住所及び氏名についても,当該ゴミステーションが申立人の属する自治会内の地域に設置されており,そこからゴミが散入してくるとのことからすれば,申立人が既に知りえている情報と考えられる。訴訟物の特定についても,本件一部公開決定において公開された情報及び別途異議申立人が個別に得ている情報から,訴訟物の特定は可能と考えられ,これら非公開とされた情報が公開されないことによって,生活,財産等を保護することができないと言える根拠は認め難い。よって,原則非公開とされる個人情報について,これを覆して本規定により公開すべきとすることはできない。

(2)ただし書イについて
新潟市の情報公開条例は,前述のとおり,原則公開を前提としながらも,条例第6条第2号で,個人情報を非公開情報として規定している。その上で,同条同号ただし書イにおいて,個人情報のうち,「公表することを目的として作成し,又は取得した情報及び慣行として公にされ,又は公にすることが予定されている情報」を,例外的に公開するものとしている。自治会は,そもそもは任意団体であるが,行政文書の配布,回覧や取りまとめなど,行政から様々な業務を受託しており,行政と密接なつながりのある団体である。そして,その会長の情報は,自治会長個人に関する情報という一面とともに,団体である自治会の情報という側面をも有しており,当該団体を代表して行う行為に関する情報であるとも言える。とりわけ,自治会長の氏名は,一般に,個々の自治会等の内部においては広く知られている情報であり,かつ知られていない状態では,当該地域の住民福祉の向上という自治会等の本来の目的達成に少なからず支障を及ぼすものと考えられる。そうすると,自治会長の氏名は,当該地域の住民のみならず,広く一般的にも知れわたり得る情報と言うことができ,これを非公開とする意味は認めがたい。よって,自治会長の氏名は,同条同号ただし書イに規定する,慣行として公にされている情報に該当すると認められ,公開することが妥当である。なお,このことは,同会長の電話番号及び印影までもが公開されるべきことを意味するものではない。電話番号は,直接第三者からのコンタクトを可能とする情報であり,非公開とすべき個人情報の中でもプライバシー性の高い情報である。そして,一般に広く公にされ,又は公にすることが予定されている情報とも認められない。また,印影についても,金融機関への届出印である可能性も否定できず,かつこれを公開することによって,偽造などの犯罪を誘発するおそれがある。よって,自治会長の電話番号及び印影は非公開とすることが妥当と考える。

3 本件一部公開決定の特殊事情について
自治会長以外の個人の住所及び氏名は,上記のとおり,個人情報に該当することが明らかな情報であり,かつ条例第6条第2号ただし書のいずれにも該当せず,本来的には非公開とすべき情報と認められる。しかし,「平成18年8月改定7号ごみステーション移動に伴う新設場所について」と表題の附された「自治会緊急役員会資料」について検分したところ,本件一部公開決定においては,ゴミステーションの新設置場所として,「3軒で1か月ごとの持ち回りとする」との記載とともに,新設置場所として指定された世帯の個人氏名の記載があり,当該個人の氏名が非公開とされている。他方,○○○地区の設置場所として,「8m道路沿いの○印のお宅」,「○印が承諾を得た家」との記載とともに,市販の住宅地図の当該地区の切抜きが公開されている。また,当該住宅地図の中には,手書きの情報として,当該個人の住宅の前面道路上に○印が附されており,これも公開されている。そうすると,本件一部公開決定において既に公開されている情報を見る限り,ゴミステーションの新設置場所として特定された世帯の住所及び氏名は,当該住宅地図上の記載から,既に異議申立人に対して明らかにされていることになる。こうした事情を考慮すると,本件請求文書において非公開とされた部分のうち,ゴミステーションの新設置場所の個人の住所及び氏名は,既に本件一部公開決定によって公開された情報と言うことができるから,非公開を維持する理由は見出しがたい。よって,当該個人の住所及び氏名については,本来非公開とすべき情報ではあるが,他の情報によって,既に明らかとなっている情報である以上,公開せざるを得ないものと判断する。
なお,本件一部公開決定においては,個人の住所及び氏名と併せて,住宅地図上の○印,「8m道路沿いの○印のお宅」,「○印が承諾を得た家」の記載についても,非公開とすることが妥当であった。実施機関においては,今後,他の情報と照合することにより特定の個人を識別できる情報について,適正な運用をされるよう附言する。
また,異議申立人は,自治会長の住所,氏名,印影,電話番号が同自治会長によって異議申立人に別途明らかにされていることをもって,非公開とする妥当性がないとも主張する。当該情報は,同自治会長自らの判断に基づき,特定個人である異議申立人及び当該自治会住民で特定の利害を有する者に限って公開したものであり,広く一般に対して公表されたものではない。このことからすると,当該情報は,条例第6条第2号ただし書イの公表することを目的とした情報又は公にされることを前提として公開されたものとは認められない。
新潟市の情報公開制度は,請求者を限定せず,また請求目的も問わず,請求できる制度である。かかる制度下においては,原則公開を基本としつつも,条例規定の非公開情報に該当する場合には,これを非公開としなければならず,かつ公開又は非公開の判断は,一部の特定の者のみが知り得ている情報か否かに左右されるものではない。従って,特定の者のみが知り得ているという特殊事情を考慮することは許されず,個人識別情報であれば,条例第6条第2号ただし書アからオに該当しない限りは公開してはならないと解するのが相当である。

以上のことから,「第1 審査会の結論」のとおり答申するものである。

(第2部会)
委員 下井康史,委員 藤田善六,委員 吉村洋子


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