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情報公開審査会の答申などを集めて載せています。

東京都情報公開審査会 答申第420号 「都立○○高校における転落事故に関する事故報告書」ほか1件

2008年07月24日 | 個人に関する情報
諮問第507号
答申

1 審査会の結論
 「都立○○高校における転落事故に関する事故報告書」ほか1件を、一部開示とした決定において非開示とした部分のうち、別表に掲げる部分については開示すべきであるが、その他の部分については非開示が妥当である。

2 異議申立ての内容
(1) 異議申立ての趣旨
 本件異議申立ての趣旨は、東京都情報公開条例(平成11年東京都条例第5号。以下「条例」という。)に基づき、異議申立人が行った「都立高校に於ける、転落事故に関する事故報告書、及び当該事故の統計(過去20年間)(死亡事故を含む)」の開示請求に対し、東京都教育委員会が平成19年9月11日付けで行った一部開示決定のうち、「本人氏名」、「クラス」及び「心身の状況」の三点以外の非開示とした部分について、その取消しを求めるというものである。

(2) 異議申立ての理由
 異議申立人が、異議申立書、意見書及び口頭による意見陳述で主張している異議申立ての主な理由は、次のとおりである。

ア 千葉県立高校で生徒が校舎のひさしから転落し、死亡するという痛ましい事故が発生した。この事故を新聞で知ったとき、「あり得ない」「あってはならない」事故であるが、たまたまの不可抗力的な出来事と判断し忘れようとした。しかし、その後、当該転落事故とまったく同様の事故が、過去15年以上に亘り、毎年のように発生し続けているという常識では考えられない事実を知り、驚愕させられた。

イ 当該事故等の再発防止対応のため、その実態を調査・分析する過程で、他都県自治体でも発生している実状を知り、先ず東京都における発生の事実を把握するための調査が今回の情報公開請求である。その請求内容は、過去20年間の転落事故に係る報告書と統計資料であったが、開示されたのは直近5年間に発生した2件の事故報告書のみであった。

ウ 開示されたその2件の報告書は、当該事故の発生日、学校名等を含め多くの情報がマスキング、黒塗りされ非開示とされており、その事故原因の分析はもとより、検討することさえも不可能である。これは、行政の透明性と説明責任をうたう都情報公開条例及び情報公開法の主旨、目的と該当条文を拡大解釈し、必要以上に黒塗り、マスキングをした不当、違法な処分といわざるを得ない。

エ これは、一向に改められぬ、自治体の後進性による悪癖に外ならず、個人情報保護に名を借りての組織防衛のため隠ぺいに走る、退廃的自治体の姿勢そのもので、天下の東京都としてとるべき行為ではない。

オ 東京都以外に神奈川県や文京区などに対しても転落事故に関する開示請求を行っているが、非開示部分は最小限にとどめられ、氏名、被害者の状況、学年・組の3点以外は内容がほぼ開示されており、開示請求人の要求に応えられている。

カ 秘匿扱いを要する個人情報は黒塗り、マスキングが許されるとしても、その範囲は自ずと限られ、必要最小限にとどめられる必要があり、本件については、本人氏名、クラス及び心身の状況の三点以外は開示されるべきものである。

キ 日頃、先進的自治体と目されている東京都としての責任からも、速やかに本件に係る非開示部分を最小限にとどめ、再決定処分されることを切に願うものである。

3 異議申立てに対する実施機関の説明要旨
 実施機関が、理由説明書及び口頭による説明において主張している内容は、次のように要約される。

(1) 本件対象公文書は、都立高校の生徒の転落事故について、学校が東京都教育委員会へ報告した文書である。これらの事故に係る文書には、当然のことながら生徒個人に関する情報等が記載されていることから、東京都情報公開条例にのっとり、文書中に記載された情報に関する開示又は非開示についての検討を行い、非開示部分を検討したものである。

(2) 生徒に関する情報について、氏名、学年、クラス、学校及び居住地が特定されうる情報(学校名、文書記号及び番号、発信年月日、学校長印の印影、課程、学校長等職員氏名、学校経営支援センター名、病院名、発生及び対応の日時)、生徒の行動、怪我の状況については、個人に関する情報で、特定の個人を識別することができるもの(他の情報と照合することにより、特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)であるため、また、特定の個人を識別することはできないが、公にすることにより、なお個人の権利利益を害するおそれがあるものであるため、東京都情報公開条例7条2号に該当し、非開示とした。

(3) 異議申立人が提示した神奈川県や文京区の事例については、事故発生後、学校名や生徒氏名等を明らかにして報道発表されており、報道発表の事実のない本件については同様に判断することはできない。

4 審査会の判断
(1) 審議の経過
 審査会は、本件異議申立てについて、以下のように審議した。
年月日審議経過
平成20年 2月 4日諮問
平成20年 2月13日実施機関から理由説明書収受
平成20年 2月25日異議申立人から意見書収受
平成20年 2月27日実施機関から説明聴取(第60回第三部会)
平成20年 4月23日異議申立人から意見聴取(第61回第三部会)
平成20年 5月26日審議(第62回第三部会)
平成20年 6月23日審議(第63回第三部会)


(2) 審査会の判断
 審査会は、異議申立書の対象となった公文書並びに実施機関及び異議申立人の主張を具体的に検討した結果、以下のように判断する。

ア 本件対象公文書について
 本件異議申立てに係る対象公文書は、「○月○日に管理下において発生した生徒転落事故について(都立○○高等学校)」(以下「本件対象公文書1」という。)及び「部室棟からの転落による顔の裂傷と骨折について(都立○○高等学校)」(以下「本件対象公文書2」という。)である。
 本件対象公文書は、都立学校等において事故等異状事態が発生した場合の事務処理手続について実施機関が定めた事故発生報告等事務処理要綱(昭和46年 10月11日東京都教育委員会教育長決定)に基づき、校長が当該学校で発生した児童・生徒の事故について、主管課長を経由して東京都教育委員会教育長に提出した状況報告書である。

イ 本件対象公文書1及び2の非開示部分について
 実施機関は、本件対象公文書1及び2のうち、氏名、学年、クラス、学校及び居住地が特定されうる情報(学校名、文書記号及び番号、発信年月日、学校長印の印影、課程、学校長等職員氏名、学校経営支援センター名、病院名、発生及び対応の日時)、生徒の行動及び怪我の状況を表す情報を条例7条2号に該当するとして非開示とした。
 異議申立人は、異議申立書、意見書及び口頭による意見陳述で、実施機関が非開示とした部分のうち、「本人氏名」、「クラス」及び「心身の状況」の三点を除いた部分についての開示を求める旨主張していることから、審査会は、この三点を除いた部分を非開示としたことの妥当性について検討した。

ウ 条例7条2号該当性について
 条例7条2号は、「個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)で特定の個人を識別することができるもの(他の情報と照合することにより、特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)又は特定の個人を識別することはできないが、公にすることにより、なお個人の権利利益を害するおそれがあるもの」を非開示情報として規定している。
 また、条例7条2号ただし書は「イ 法令等の規定により又は慣行として公にされ、又は公にすることが予定されている情報」、「ロ 人の生命、健康、生活又は財産を保護するため、公にすることが必要であると認められる情報」、「ハ 当該個人が公務員等…である場合において、当該情報がその職務の遂行に係る情報であるときは、当該情報のうち、当該公務員等の職及び当該職務遂行の内容に係る部分」のいずれかに該当する情報については、同号本文に該当するものであっても開示しなければならない旨規定している。
 これを本件対象公文書1及び2について検討すると、当事者以外の生徒氏名については、当該事故に関与する特定の生徒を識別することができる情報であり、条例7条2号本文に該当すると認められる。
 また、学年、学校名、文書記号及び番号、発信年月日、学校長印の印影、課程、学校長等職員名、学校経営支援センター名、病院名、発生及び対応日時については、これらを開示すると特定の学校あるいは居住地が明らかとなり、他の情報と照合することにより、当事者あるいは当該事故に関与する特定の生徒を識別することができることから、同号本文に該当すると認められる。
 次に、怪我の状況を表す情報について検討すると、当該情報は、当事者の怪我の状況を詳細かつ具体的に記載したものであり、当事者の名誉や資質にかかわる機微な情報で、通常他人に知られたくないものであると認められる。したがって、これを開示すると、特定の個人を識別することができるとまではいえないが、なお個人の権利利益を害するおそれがあることから、同号本文に該当すると認められる。
 また、上記の情報は、実施機関が主張するとおり、他県の事例とは異なり、いずれも実施機関によって公表された事実はなく、法令等の規定により又は慣行として公にされ、又は公にすることが予定されている情報であるとも認められないことから、同号ただし書イに該当せず、その内容及び性質から、ただし書ロ及びハのいずれにも該当しない。

エ 生徒の行動に関する部分について
 非開示とした部分のうち別表に掲げた生徒の行動に関する部分については、特定の個人を識別することができる情報であるとはいえないが、生徒の名誉や資質に関する情報であり、公にすることにより、当事者生徒等個人の権利利益を害するおそれがある情報と認められる。しかしながら、他県において校舎のひさしから転落したことによる死亡・重傷事故の発生が続いており、最近も都内の公立小学校において天窓からの転落による児童の死亡事故が発生した状況にかんがみると、生徒の行動などの事故態様を明らかにすることは、今後の同種事故の再発防止に資するものであり、人の生命、健康、生活又は財産を保護するため、公にすることが必要である情報と認められる。したがって、当該情報は、条例7条2号ただし書ロに該当し、開示すべきである。

 よって、「1 審査会の結論」のとおり判断する。

(答申に関与した委員の氏名)
 渡辺忠嗣、小幡純子、鴨木房子、前田雅英

別表 開示すべき部分
本件対象公文書名開示すべき部分
本件対象公文書1・14行目の31文字目から35文字目まで
・15行目の1文字目から13文字目まで
・同行25文字目から30文字目まで
・34行目の7文字目から16文字目まで
本件対象公文書2・17行目の12文字目から38文字目まで
・18行目の1文字目から9文字目まで
・同行24文字目から37文字目まで


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