情報公開制度について考える

情報公開審査会の答申などを集めて載せています。

石川県情報公開審査会 答申第36号 石川県国民健康保険診療報酬審査委員会名簿

2006年01月20日 | 個人に関する情報
答申第36号
答申書

平成18年1月
石川県情報公開審査会

第1 審査会の結論
石川県知事(以下「実施機関」という。)は、本件異議申立ての対象となった公文書については、すべて公開すべきである。

第2 異議申立てに至る経緯
1 公開請求の内容
異議申立人は、石川県情報公開条例(平成12年石川県条例第46号。以下「条例」という。)第6条の規定により、実施機関に対し、平成16年11月15日に「国保連合会審査委員名簿(平成16年6月1日~平成17年5月31日)」について、公文書の公開請求(以下「本件公開請求」という。)を行った。
2 実施機関の決定
実施機関は、本件公開請求に係る公文書を、「石川県国民健康保険診療報酬審査委員会名簿(以下「本件公文書」という。)」と特定した上で、本件公文書については、一部を除いて公開する一部公開決定(以下「本件処分」という。)を行い、公開しない部分及び公開しない理由を次のとおり付して、平成16年12月27日に異議申立人に通知した。
(公開しない部分)
石川県国民健康保険診療報酬審査委員会委員(以下「審査委員」という。)の職名
(公開しない理由)
条例第7条第2号に該当
公開しない部分は、審査委員の個人に関する情報であって、当該情報に含まれる職名の記述により、個人の権利利益(審査委員個人の通常業務)を害するおそれがあるため。
3 異議申立て
異議申立人は平成17年1月24日に、本件処分を不服として、行政不服審査法(昭和37年法律第160号)第6条の規定により、実施機関に対して異議申立てを行った。
4 諮問
実施機関は、平成17年1月28日に、条例第19条第1項の規定により、石川県情報公開審査会(以下「当審査会」という。)に対して、本件処分の取消しに係る異議申立てにつき、諮問を行った。

第3 異議申立人の主張要旨
1 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、本件処分の取消しを求めるというものである。
2 異議申立ての理由
異議申立人が、異議申立書、意見書及び当審査会における意見陳述で主張している要旨は、おおむね次のとおりである。
(1) 医師の診療にはその時代の医学水準や医療水準を踏まえた対応が求められている。審査委員の診療報酬請求書の審査にあっては、主治医の対応を踏まえた判断が必要となる。このため学識、臨床経験ともに豊富な人材が審査委員に公平に選出され、医学的見地から審査が十分に行われなければならない。審査委員の職務は極めて公的性格が強いものである。
(2) 公開請求により、審査委員の氏名が公開されたが、診療報酬請求書の審査の透明性、公明性を担保するため、また、審査委員一人一人が自らの責任ある姿勢を示すためにも、職名を公開することは極めて当然のことである。
(3) 今回公開の請求をしたのは審査委員名簿であり、特定の診療報酬請求書審査を担当した審査委員名ではない。したがって、通常の業務に支障があると回答した審査委員や、「職名」の公開により審査委員への不当な誹謗、脅迫等が増えるとの実施機関の懸念は杞憂である。
(4) 職名の公開により審査委員への苦情が急激に増えるとは思われないが、仮に苦情が寄せられた場合、石川県国民健康保険団体連合会(以下「国保連合会」という。)として対応すればよいと考える。
(5) そもそも審査委員の氏名を公開することは「職名」も含めて審査委員個人を特定することに等しいといえる。ことさら「職名」を非公開にする意味はないと考える。
(6) 富山、福井などの北信越各県では、審査委員の職名も含めて公開された。

第4 実施機関の主張要旨
実施機関が主張している要旨は、理由説明書及び意見陳述等から総合するとおおむね次とおりである。
(1)国保連合会は、国民健康保険法(昭和33年法律第192号)第84条により知事の認可で設立された法人で、診療報酬審査委員会は同法第87条により設置された国保連合会の内部機関であり、委員の委嘱は知事が行うが、身分は国保連合会の職員ではなく、強いて言えば民間人である。
(2)内閣府の情報公開審査会答申(平成16年度(独情)答申第20号及び第21号)は、社会保険診療報酬支払基金審査委員会名簿の不開示決定に対し、同審査委員の氏名を開示すべきとしているので、「氏名」等を公開し、「職名」を非開示とした。
(3)本件公文書の公開決定にあたり、審査委員に対して意見照会を行ったが、その結果、一部の委員から、査定に関するクレーム等が直接勤務先にあると通常の業務に支障が生じる等の理由から反対する、との回答があった。
(4)国保連合会によると、査定内容に対する問い合わせや抗議については、統計をとっていないので具体的な件数や内容は明らかでないが、実際に審査委員が診療中に、問い合わせや抗議の電話が長時間に及び、患者の診療が中断されるなど業務に支障が生じた事例もあったとしている。
このような状況から、国保連合会は、職名も含めて審査会名簿を公開されると勤務先が容易に分かるようになるので、他の審査委員にも抗議等があることを危惧しているとしている。
(5)診療科目によっては、審査委員が1、2名のものもあり、誰が審査を担当したかが分るおそれがある。
(6)審査委員による審査は毎月数日間、本業の診療の時間を割いて行われており、審査委員への負担が大きく、現状でも審査委員のなり手が少ない状況にあり、委員として必要な人材を確保することが困難になりかねないため、県としてもこれ以上トラブルがないことを願っている。
(7)以上により、「職名」は条例第7条第2号ただし書イに該当しないものと判断して非公開としたものである。
なお、本件公開請求の公開決定の後、富山県や福井県で職名も含めて公開されているが、例えば、富山県では各審査委員への意見照会の結果、特に公開することに反対する審査委員がいなかったこと、あるいは福井県では既に医師会において審査委員の名簿を公表しているなどの事情があった、と聞いており、本県とは事情が異なる。

第5 審査会の判断理由
1 条例の基本的な考え方について
条例は、地方自治の本旨にのっとり、県政に関する県民の知る権利を尊重し、公文書の公開を請求する権利につき定めること等により、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民の県政に対する理解と信頼を深め、県民参加による公正で開かれた県政をより一層推進することを目的として制定されたものであり、公開の原則に基づき適正に解釈・運用されなければならない。当審査会は、この公開の原則を基本として条例を解釈し、以下判断するものである。
2 本件公文書の性格等について
(1)本件公文書は、国民健康保険法第45条第5項の規定により保険者が保険医療機関等からの療養給付費用請求にかかる審査を委託した、石川県の区域を区域とする国保連合会において、同法第87条により設置された国民健康保険診療報酬審査委員会の委員名簿であり、実施機関の職員が作成したものである。
(2)本件公文書は、審査委員48名につき、それぞれの「代表」、「科名」、「氏名」、「職名」及び「備考」(具体的な記載はない。)の各欄から構成されている。
3 条例第7条第2号の該当性について
条例第7条第2号本文は、「個人に関する情報」を最大限に保護するため、特定の個人が識別され、又は識別され得る情報が記録されている公文書は、公開しない旨規定している。
ただし、同号ただし書イ、ロ又はハに該当する情報については、個人の権利利益保護の観点から非公開とする必要のないものや公益上公にする必要性が認められるものとして、同号本文の例外として公開するものとしている。
(1)同号本文の該当性について
審査委員の職名は、所属機関や地位等を表すもので、特定の個人が識別される情報であり、同号本文に該当すると認められる。
(2) 同号ただし書イの該当性について
同号ただし書イは、「法令等の規定により又は慣行として公にされ、又は公にされることが予定されている情報」を非公開の例外としているので、当該規定の該当性について検討する。なお、ここで、将来的に公にする予定の下に保有されている情報には、具体的に公表が予定されている場合に限らず、求めがあれば何人にも提供することを予定しているものも含むと解される。
ア 審査委員は、公務員に該当しないものの、法律の明文の根拠に基づき知事により委嘱される者であって、いずれも医療における各専門分野に関する一定の知見・学識を有する医師及び薬剤師であり、社会的責任の大きい高度な専門職の地位にある者であると認められる。
また、審査委員は、年間約600万件、1,800億円以上にも及ぶ診療報酬請求について、直接にその審査を担当してその適否等を公正中立に判断すべきことが求められている者であって、県民に対する適正かつ円滑な医療給付を実現する国民健康保険制度上、重要な地位を占める存在であり、公的性格の強い立場にある。
このような、審査委員の職務及びその地位の重要性並びに国民健康保険制度の効率的、安定的運営のために透明性の確保が不可欠であり、また、行政としてどのような者を委嘱したかの説明責任があると考える。
イ 審議会等委員の氏名と職名については、通常「慣行として公にされ、又は公にすることが予定されている情報」として公開されている。しかし、実施機関が本件審査委員の職名については、次のような理由から公開できないとしているので検討する。
(ア) 実施機関は、国保連合会から、審査内容に対する問い合わせや抗議について、具体的な件数は明らかでないが、審査委員が診療中に問い合わせや抗議の電話が長時間に及び患者の診療が中断されるなど業務に支障が生じた事例もある、と聴いているとしている。
このことについては、診療報酬請求書の審査は合議制で行われるため、職名を公開しても個別案件の具体的な審査委員名が明らかになるものではなく、また、富山県、福井県などの北信越各県において職名を含めて公開されたこと等を踏まえると、職名の公開によって、審査委員個人の権利利益を害するとまでは言えないのではないかと考える。
(イ) 審査業務は審査委員への負担が大きく、職名の公開によって抗議や苦情が増えて審査委員のなり手がなくなることも危惧されるとしている。
このことについては、どの程度危惧されるか具体的に説明がなく、単におそれがあるだけでは「公にすることが予定されている情報」に該当しないとまでは言えない。
ウ 審査委員は医師又は薬剤師の資格をもつ者に限定されており、一方、診療科目と氏名が既に公開されていることから、仮に抗議等を行おうとする医療機関等においては、審査委員の職名の公開の有無にかかわらず特定の個人が識別でき、およそ職名が分かるのではないかと思われる。
エ なお、審査委員が医療機関等から診療報酬の査定について電話等があったとしているが、審査について苦情がある者は、国民健康保険法施行規則(昭和33年厚生省令第53号)第30条の規定に基づき、直接国保連合会に再度の考案を求めることができることとなっている。
また、付言するまでもなく、条例第4条によって、本件公文書情報の利用者には条例の目的に即した適正な使用の責務が課せられるものである。
以上の状況を踏まえると、審査委員の職名については、条例第7条第2号のただし書イの「法令等の規定により慣行として公にされ、又は公にすることが予定されている情報」に該当しないとは言えないと考える。したがって、「職名」について一部非公開とした決定は受け入れ難いと判断される。
4 まとめ
以上の理由により、本件公文書につき、第1に掲げる審査会の結論のとおり判断する。

第6 審査の処理経過
当審査会の処理経過は、別表のとおりである。

<別表>
審 査 会 の 処 理 経 過
年 月 日処 理 内 容
17. 1.28○ 諮問を受けた。(諮問案件第61号)
17. 2.16○ 実施機関(健康福祉部医療対策課)から理由説明書を受理した。
17. 3. 4○ 異議申立人から理由説明書に対する意見書を受理した。
17. 6.10(第125回審査会)○ 事案の審議を行った。
17. 7.14(第126回審査会)○ 事案の審議を行った。
17. 8.25(第127回審査会)○ 異議申立人の意見陳述を聴取した。
17. 9.15(第128回審査会)○ 実施機関職員の意見陳述を聴取した。
17.11.17(第130回審査会)○ 事案の審議を行った。
17.12.15(第131回審査会)○ 事案の審議を行った。
18. 1.12(第132回審査会)○ 事案の審議を行った。



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