情報公開制度について考える

情報公開審査会の答申などを集めて載せています。

富山県情報公開審査会 答申第11号 公立の小学校、中学校における不登校の状況等に関する調査票

2007年02月21日 | 個人に関する情報
別 紙
答 申


第1 審査会の結論
富山県教育委員会(以下「実施機関」という。)が、異議申立ての対象となった公文書についてした部分開示決定は、妥当である。

第2 異議申立ての経過
1 開示請求
平成18年5月2日、異議申立人は、富山県情報公開条例(平成13年富山県条例第38号。以下「条例」という。)第5条の規定により、実施機関に対し、「県下の各小、中学校における不登校児童数と原因が判る文書及び学校に県教育委員会が発した文書(平成10年度から17年度まで)」について、開示の請求(以下「本件開示請求」という。)を行った。

2 開示決定等
(1)平成18年6月13日、実施機関は、
ア 児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査のうち「調査Ⅳ 公立の小学校、中学校における不登校の状況等」に係る各学校ごとの調査票(平成15年度分、16年度分及び17年度分。以下「本件調査票」という。)
イ その他生徒指導に関する通知文書等
を本件開示請求に係る公文書として特定し、アのうち他の情報と照合することにより記載された内容に係る児童生徒を識別することができると判断した部分については、条例第7条第2号に該当することを理由に非開示とし、その他の部分を開示する部分開示決定処分(以下「本件処分」という。)を行い、異議申立人に通知した。

(2)平成18年7月14日、異議申立人は、本件処分を不服として、行政不服審査法(昭和37年法律第160号)第6条の規定により、実施機関に対し、異議申立て(以下「本件異議申立て」という。)を行った。

(3)平成18年8月18日、実施機関は、条例第19条の規定により、本件異議申立てについて富山県情報公開審査会(以下「本審査会」という。)に諮問した。

第3 異議申立ての趣旨及び理由
異議申立書、非開示理由説明書に対する「意見書」及び本審査会での意見陳述において、異議申立人が主張している異議申立ての趣旨及び理由は、概ね次のとおりである。(なお、異議申立人はこれ以外に、直接本件異議申立てとは関係がない主張もしているが、ここでは取り上げない。)
不登校児童生徒の氏名等については、その児童生徒の在籍校や地域において既に周知されている実態にあり、また、「特定の個人を識別される」側が必ずしも非開示を求めているとは言えないのに対し、個人情報保護の一点に固執した考えから本件調査票の一部を非開示とした実施機関の判断には大いに疑問がある。なお、富山市教育委員会は、旧町、村に係る本件調査票を開示している。また、本件調査票は学校側から見た判断のみで記入されており、事実と異なる報告が行われても発見できない状況にあるが、その内容が公開されることにより、調査票の記載内容と不登校の実態とを照合することが可能となり、より精度の高い調査結果を得ることに繋がるものであり、このような機会を奪う本件処分がもたらす公益性の欠如は、計り知れないほど大きい。
以上のことから、本件処分を取り消し、非開示部分はすべて開示すべきである。

第4 実施機関の主張
実施機関が非開示理由説明書及び本審査会での意見陳述において主張している非開示の理由は、概ね別紙のとおりである。

第5 審査会の判断
1 対象公文書について
本審査会において、実施機関から本件調査票の写しの提出を受け、その内容を確認したところ、本件調査票の性格及び内容は、別紙「実施機関が主張している非開示の理由等」の1に記載のとおりであり、本件調査票のうち、様式並びに学校名、記入者氏名、電話番号(以下「学校名等」という。)及び「1 不登校児童生徒の有無」欄の記入内容のほか、その他の記入欄で有意な情報が識別される部分(人数、○印又は具体例の記入内容及び未記入であってもそれを開示することにより関連する記入内容等が類推される部分をいい、以下「本件非開示部分」という。)以外の部分については開示されていることが認められる。

2 条例第7条第2号(個人情報)該当性について
条例第7条第2号は、個人に関する情報であって、当該情報に含まれる記述等により、他の情報と照合する場合を含め、特定の個人を識別することができるものについては、同号ただし書に該当する情報を除き、非開示情報とする旨規定している。
実施機関は、本件非開示部分について、この規定に該当することを理由に非開示としたと説明しているので、以下、この点について検討する。

(1)条例の解釈及び運用における個人情報の取扱い
条例第3条後段は、この条例全体の解釈及び運用に当たっての基本として、「実施機関は、個人に関する情報がみだりに公にされることがないよう最大限の配慮をしなければならない」と規定し、個人のプライバシーに関する情報は最大限に保護すべき旨を明らかにしているところ、本件非開示部分は、児童生徒の不登校という優れて個人のプライバシーに関するもので、教育的にも慎重な対応を要する事項に係る情報であり、その保護に最大限の配慮が求められている。

(2)理由別長期欠席者数(調査項目0)
ここには、年間30日以上欠席した児童生徒について、不登校、病気、経済的理由等7つの理由別の人数が記入されており、一般に、この情報のみにより特定の個人を識別することはできないものと思われる。
しかしながら、一般に、長期に欠席している児童生徒が在籍する学校の教職員、児童生徒及びその保護者、さらには近隣住民等(以下「学校関係者等」という。)は、周囲の状況から、特定の児童生徒が長期欠席者であることを通常知り得るものと考えられるところ、この情報と上記の情報とを照合することにより、新たに、理由別に記入された人数に係る児童生徒が誰であるかを識別することができるおそれがある(特に該当する児童生徒の少ない学校ほど、その可能性が高い。(3)及び(4)の場合においても同じ。)ことから、条例第7条第2号の非開示情報に該当するものと認められる。

(3)不登校児童生徒数及び学年別内訳(調査項目2)
ここには、不登校児童生徒の人数(前年度より継続分を別途うち書)が学年別及び男女別に記入されており、上記(2)と同様、一般にこの情報のみにより特定の個人を識別することはできないものと思われるが、学校関係者等が通常知り得る長期欠席者に係る情報と照合することにより、当該不登校児童生徒が誰であるかを識別することができるおそれがあることから、条例第7条第2号の非開示情報に該当するものと認められる。

(4)その他の調査項目(調査項目1を除く。)
ここには、不登校となった直接のきっかけと不登校が継続している理由別人数及び類型外の具体例(調査項目3)、不登校児童生徒への指導結果状況別人数(調査項目4)、「指導の結果登校する又はできるようになった児童生徒」で特に効果のあった学校の措置の内容(調査項目5)、相談・指導を受けた機関等別人数(調査項目6)、指導要録上出席扱いとした児童生徒数(調査項目7)並びに自宅におけるIT等を活用した学習活動を指導要録上出席扱いとした児童生徒数(調査項目8。平成17年度分のみ)の必要事項が記入されている。
これらの情報についても、調査項目3に係る具体例の一部を除き、上記(2)及び(3)と同様、一般に、それだけで特定の個人を識別することはできないものと思われるが、学校関係者等が通常知り得る長期欠席者の情報と照合することにより、新たに、当該不登校の状況等に係る特定の児童生徒を識別することができるおそれがあることから、条例第7条第2号の非開示情報に該当するものと認められる。

(5)異議申立人の主張に対する判断
異議申立人は、いくつかの理由を述べて、本件非開示部分はすべて開示されるべきであると主張しているので、検討する。
まず、不登校児童生徒の氏名等については学校関係者等に既に周知されている実態にあり、また、識別される側である児童生徒が必ずしも非開示を望むとは限らないから、特定の個人が識別されることをもって非開示とした実施機関の判断は大いに疑問であるとしている点については、上記(1)で述べた条例の解釈及び運用の基本並びに第7条第2号の規定に照らして相容れない独自の見解であり、採用できない。なお、富山市の旧町・村に係る本件調査票を富山市教育委員会が全部開示していることから、実施機関もこれにならって全部開示するのが当然であるという点については、異議申立人から提出された意見書に添付されている富山市教育委員会が開示した文書を見ると、本件調査票(各学校ごとの個票)そのものではなく、それを旧市町村の教育委員会がとりまとめた市町村集計票であり、双方に記載されている情報の範囲が異なるものであることから、参考にならないといわざるを得ない。もとより、県の行政機関である実施機関が情報公開を行うに当たっては、県の条例の規定のみに基づいて行うべきものであって、富山市が市の情報公開条例に基づいて行う対応に何らの影響を受けるものではないので、念のため申し添える。
また、本件調査票の開示により県民がその記載内容と実態とを照合して調査結果の精度を高めることができるという公益性にかんがみ、個人情報の保護を超えて開示すべきであるとしている点については、条例第9条に非開示情報が記録されている場合であっても公益上特に必要があると認めるときは開示することができる旨の規定があるが、本件について特にその必要がないとした実施機関の判断は、上記(1)で述べた条例全体の解釈及び運用の基本に照らしても妥当なものと認められ、異議申立人の主張には理由がない。

3 結論
以上の理由から、「第1 審査会の結論」のとおり判断する。

4 補足意見
本件異議申立ての審査の過程において、一部の委員から、公文書の開示の方法(非開示部分の特定)を検討する場合の考え方に関連して次のような意見があったので、本件の結論に影響を与えるものではないが、参考までに付記する。
今回、実施機関が行った本件処分は、上記のとおり妥当なものであると考えるが、仮に、本件調査票について、今回のような具体的な個別の学校ごとの状況ではなく、県内の全般的な状況(不登校児童生徒数、不登校の理由別人数、指導結果別人数等)を把握するという意図に基づく開示請求があった場合には、今回とは逆に、学校名等を非開示とし、その他の部分はすべて開示する方法をとれば、条例第7条第2号(個人情報)の規定に該当することなく、請求者の要請に応えることができるものと思われる。このように、開示請求に係る対象公文書が同一であっても、開示の方法が同一とは限らないことから、一般に、条例に基づく開示請求があった場合には、その請求内容や趣旨等を的確に把握し、それに応じた適当な開示の方法を検討することが必要であると考える。

第6 審査会の開催経過
本審査会の開催経過の概要は、別記のとおりである。


別紙 実施機関が主張している非開示の理由等

1 対象公文書について
本件調査票は、文部科学省が全国的に行った「児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査」(平成15年度分、16年度分及び17年度分)において、それぞれ県内のすべての公立小学校及び中学校が調査様式(調査Ⅳ)に回答を記入の上、市町村(又は学校組合)教育委員会を経由して実施機関に提出されたものである。その内容は、学校名、記入者名及び電話番号を記入の上、次の9項目(調査項目8は、平成17年度分のみ)について、人数や内容等を記入する方式で作成されている。

調査項目0:理由別長期欠席者数
調査項目1:不登校児童生徒の有無
調査項目2:不登校児童生徒数及び学年別内訳
調査項目3:不登校となった直接のきっかけと不登校状態が継続している理由
調査項目4:不登校児童生徒への指導結果状況
調査項目5:上記調査項目4の「指導の結果登校できるようになった児童生徒」に特に効果のあった学校の措置
調査項目6:相談・指導を受けた機関等
調査項目7:指導要録上出席扱いとした児童生徒数
調査項目8:自宅におけるIT等を活用した学習活動を指導要録上出席扱いとした児童生徒数

2 条例第7条第2号(個人情報)の該当性について
本件調査票のうち非開示とした部分は、次のとおり、いずれも個人に関する情報であって、他の情報と照合することにより、特定の個人を識別することができることとなるものであり、条例第7条第2号に該当する。

(1)調査項目0:理由別長期欠席者数
長期欠席の理由について「不登校」、「病気」、「経済的理由」等に分類して記入されており、各学校ごとの年間欠席日数30日以上の長期欠席児童生徒の人数は限られ、誰が長期欠席をしているかということは同じ学年や学級の児童生徒にとって周知の事実であることから、この部分を開示することにより、欠席理由ごとに該当する児童生徒が特定されるおそれがある。

(2)調査項目3:不登校となった直接のきっかけと不登校状態が継続している理由
不登校となった原因について「クラブ活動、部活動への不適応」、「入学、転編入学、進級時の不適応」、「病気による欠席」等に分類して記入されていることから、当該学校の児童生徒が既に把握している長期欠席児童生徒の情報などと照合することにより、当該原因別に該当する児童生徒が特定される可能性が高い。

(3)その他(「1:不登校児童生徒の有無」を除く。)の調査項目
同じ学年や学級の児童生徒が既に把握している長期欠席児童生徒の情報と照合することにより、各事由に該当する不登校児童生徒が特定されるおそれがある。


別 記
審査会の開催経過の概要
年 月 日内 容
平成18年 8月18日諮問書を受理
平成18年 9月21日教育委員会に非開示理由説明書の提出を依頼
平成18年10月 6日非開示理由説明書を受理
平成18年10月11日異議申立人に非開示理由説明書を送付するとともに、これに対する意見書の提出を依頼
平成18年10月26日意見書を受理
平成18年11月21日
(第40回審査会)
審議
平成18年12月22日
(第41回審査会)
・審議
・実施機関職員から非開示理由説明を聴取
・異議申立人から意見を聴取
平成19年 1月26日
(第42回審査会)
審議
平成19年 2月21日
(第43回審査会)
審議及び答申


富山県情報公開審査会委員名簿
(五十音順)
氏 名現 職 等備 考
浅 井 尚 子富山大学経済学部教授会 長
荒 木 良 一北日本新聞社論説委員長
岩 田 繁 子富山県婦人会会長
大 坪 健弁護士会長職務代理
濱 谷 元一郎富山県商工会議所連合会常任理事
米 田 育 代富山県労働委員会委員



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