情報公開制度について考える

情報公開審査会の答申などを集めて載せています。

滋賀県情報公開審査会 答申第44号 RD問題に関する自治会長会議の速記録を文章化したもの関係

2009年07月30日 | 個人に関する情報
答申第44号
(諮問第50号)
答申


第1 審査会の結論
滋賀県知事(以下「実施機関」という。)が、「6月27日にRD問題に関して地元自治会長が招集した話し合いの速記録を文章化したもの」(以下「本件対象公文書」という。)について、その一部を非公開とした部分のうち、「自治会長の氏名」を除いて公開すべきである。

第2 異議申立てに至る経過
1 公文書公開請求
平成20年7月22日、異議申立人は、滋賀県情報公開条例(平成12年滋賀県条例第113号。以下「条例」という。)第5条第1項の規定に基づき、実施機関に対して、「6月27日にRD問題に関して地元自治会長と行った協議内容を記した速記録を文章化したもの」の公文書公開請求(以下「本件公開請求」という。)を行った。

2 実施機関の決定
実施機関は、本件公開請求に係る公文書として、本件対象公文書を特定した。
同年8月6日、実施機関は本件対象公文書に記載されている自治会長の氏名および自治会長の発言部分について、条例第6条第1号に該当するとして公文書一部公開決定(以下「本件処分」という。)を行った。

3 異議申立て
同年8月14日、異議申立人は、行政不服審査法(昭和37 年法律第160 号)第6条の規定に基づき、本件処分を不服として実施機関に対して異議申立てを行った。

第3 異議申立人の主張要旨
異議申立人が、異議申立書、意見書および意見陳述で述べている内容は、次のように要約される。

1 異議申立ての趣旨
自治会長の発言部分のうち、個人が特定されない部分の開示を求める。

2 異議申立ての理由
非開示理由とした「特定の個人を識別することができないが、公にすることにより、なお個人の権利利益を害するおそれがあるもの」とは、著作権上の問題等を想定したものであり、当該事案に該当しない。
また、非開示理由として、実施機関の理由説明書において新たに付け加わった条例第6条第6号は、アからオの典型例を定めているが、今回の事案がそのどれにあたるか述べておらず、それ以外の場合であるとするなら、「その他当該事務または事業の性質上、当該事務または事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるもの」を拡大解釈しており、情報公開制度の根幹を揺るがすものでその適用には慎重であるべきである。

第4 実施機関の説明要旨
実施機関が、理由説明書および口頭説明で述べている内容は、次のように要約される。

1 本件対象公文書について
本件対象公文書は、「6月27日にRD問題に関して地元自治会長が招集した話し合いの速記録を文章化したもの」である。

2 6月27日にRD問題に関して地元自治会長が招集した話し合い(以下「自治会長会議」という。)の性格について
RD処分場から地下水汚染等の生活環境保全上の支障が生じていることについては、従来は原因者であるRD社に是正を行わせてきたが、平成18年6月に破産手続を開始したため、県は早期解決をめざして主体的に取り組むこととし行政対応方針を策定した。
平成18 年12 月には、RD最終処分場問題対策委員会を設置し、効果的および合理的かつ経済的にも優れた対策工の検討を行い報告書の提出を受け、報告書の基本方針を検討した上で、平成20年5月に県としての基本的な方針を公表した。
県としての基本的な方針については、平成20年5月28日から知事や琵琶湖環境部長のほか関係職員により、RD処分場周辺の7自治会および1団体に対して、地元説明会を順次行ってきたが、いずれの自治会等においても住民の強い反対が表明され、県の基本的な方針は受け入れられていない。
このため、平成20年6月20日の県議会の環境・農水常任委員会では、地元住民の意見を直接聞くことを目的として、RD処分場周辺の7つの自治会の会長等を参考人として招致された。その結果、対策工実施にあたっては、周辺住民の合意と納得を得ることが確認されている。
上記7つの自治会のうち○○○○を除く6つの自治会の会長から、別の日に県や市の担当者を加えて、自治会長だけの話し合いの開催を提案された。
当初は、非公開で開催するとされていたが、県担当として琵琶湖環境部長が出席すること、他の住民に県と自治会長だけで密談を行ったという誤解を与えるおそれがあることから、開催日時および場所等については広報し、その結果の会議概要をホームページ上で掲載する予定として広報した。
会議については、自治会長および県、栗東市担当者の出席により開催された。
なお、あらかじめ掲載するとした会議概要については、公表することについて自治会長の同意を得ることができず、完成していない。

3 非公開理由について
(1)条例第6条第1号該当性
ア自治会長の氏名については、特定の個人を識別することができる情報である。

イ自治会長の発言部分については、以下のように、特定の個人を識別することはでき
ないが、公にすることにより、なお個人の権利利益を害するおそれがある情報である。

(ア)自治会長の発言には、RD処分場問題に関する個人の信条や考え方を示すものが含まれており、公開することで個人の権利利益を害するおそれがある。

(イ)自治会長が独特の言い回しやこだわりを持った発言を行っている場合もあり、いくつかの表現において個人が推定される可能性があり、発言した個人が推定されれば、他から誹謗中傷を受けるおそれがあり、心理的負担は計り知れない。

(2)条例第6条第6号該当性
公文書の一部公開を決定した時点においては、非公開理由に挙げていなかったが、異議申立の提出後に再検討した結果、条例第6条第6号の「公にすることにより、当該事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるもの」についても該当すると考えられるため、以下のとおり論じる。
県の対策工実施にあたっては、周辺住民の合意と納得を得ることが県議会で確認されている。
この合意と納得を得るためには、県と自治会の信頼回復と協力関係の構築が不可欠であり、そのため自治会長を窓口に交渉しているが、この自治会長会議は、そもそも、自治会長が招集し非公開を前提とした会議であっただけに、会議の終了後に、会議概要以外の会議録を作成することや自治会長自身に公開を前提にした確認を行うこと、また、公開するかどうかについての意見聴取を行うことは、あらかじめ県と自治会長で取り決めた内容に反しており、自治会長を通じた自治会と県との信頼関係の構築にも支障をきたすおそれがある。
その結果、対策工にかかる疑問や意見に答え、対策工実施のための説明会が開催できないため、住民の合意と納得が得られず、県や周辺住民の利益を阻害するおそれがある。
したがって、自治会長の発言部分については、公にすることにより県の対策工実施に関する事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある情報である。

第5 審査会の判断
1 審査会の判断理由
(1) 基本的な考え方について
条例の基本理念は、前文、第1条および第3条等に規定されているように、県の保有する情報は県民の共有財産であり、したがって、公開が原則であって、県は県政の諸活動を県民に説明する責務を負うものであり、県民の公文書の公開を請求する権利を明らかにすることにより、県民の県政への理解、参画を一層促進し、県民と県との協働による県政の進展に寄与しようとするものである。
しかし、県の保有する情報の中には、公開することにより、個人や法人等の正当な権利、利益を侵害するものや、行政の適正な執行を妨げ、あるいは適正な意思形成に支障を生じさせ、ひいては県民全体の利益を損なうこととなるものもある。このため、条例では、県の保有する情報は公開を原則としつつ、例外的に公開しないこととする事項を第6条において個別具体的に定めている。
実施機関は、請求された情報が条例第6条の規定に該当する場合を除いて、その情報を公開しなければならないものであり、同条に該当するか否かについては、条例の基本理念から厳正に判断されるべきものである。
当審査会は、以上のことを踏まえたうえで以下のとおり判断する。

(2)本件対象公文書について
本件対象公文書は、「自治会長会議の速記録を文章化したもの」であるが、この自治会長会議は、自治会の会長から話し合いの提案が行われ、県としても、県の考えについて本音の部分で理解を得て、自治会との信頼関係を構築することを主目的に参加したと実施機関は説明している。
実施機関は、一部公開決定において、自治会長の氏名については、個人に関する情報であって特定の個人を識別できる情報であること、また、自治会長の発言部分については、特定の個人を識別することはできないが、公にすることによりなお個人の権利利益を害するおそれがある情報であるから条例第6条第1号に該当する非公開情報であるとした。
さらに、一部公開決定に対する異議申立てを受けた後の理由説明書において、自治会長の発言部分は、公にすることにより、県の事業(対策工の実施)の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある情報であることから条例第6条第6号に該当する非公開情報であるとして非公開理由を追加している。
これに対して異議申立人は、前述(第3)のとおり、条例第6条第1号該当性については、非公開理由とした「特定の個人を識別することができないが、公にすることによりなお個人の権利利益を害するおそれがあるもの」とは、著作権上の問題等を想定したものであり、当該事案に該当しないとして、また、条例第6条第6号該当性については、情報を公開することこそ、実施機関のいう「住民の合意と納得」を得るために必要であるとして、自治会長の発言部分のうち、個人が特定されない部分の開示を求めた。
当審査会の判断として、仮に実施機関の主張するように、自治会長の発言部分を公開すること自体が条例第6条第6号に該当するのであれば、すべて一律に非公開となり、発言部分の条例第6条第1号該当性を個別に検討する必要がない。したがって、まず6号該当性を検討し、次に1号該当性を検討することとする。
なお、自治会長の氏名の非公開については、争いがない。

(3)条例第6条第6号該当性について
条例第6条第6号は、公開請求された公文書に「県の機関または国、独立行政法人等、他の地方公共団体もしくは地方独立行政法人が行う事務または事業に関する情報であって、公にすることにより、当該事務または事業の性質上、当該事務または事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるもの」が記録されている場合は、当該公文書を公開しないことを定めている。
そして、条例第6条第6号でいう「支障」の程度は名目的なものでは足りず、実質的なものが要求され、また「おそれ」の程度は抽象的な可能性では足りず、法的保護に値する蓋然性が要求されると解される。
とくに、本件のような産業廃棄物の処理をめぐる問題に関する情報については、産業廃棄物処理施設に関し許可制を導入し、都道府県知事に措置命令等の強い権限を与え、生活環境の保全及び公衆衛生の向上を図ることを目的とした廃棄物の処理および清掃に関する法律の趣旨や、産業廃棄物の処理に強い関心が寄せられる社会状況等に鑑み、周辺住民の健康等を保護するために公開をすることが強く要請されているものと考えられ、このような問題に関する情報を公開することは、周辺住民の不安感を取り除き、廃棄物処理行政に対する理解を得るために必要である。このような公開の必要性の高さを考慮すると、「当該事務または事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれ」の蓋然性はおのずと高いものが求められると言わなければならない。
このことを踏まえて実施機関の非公開理由について以下のとおり検討を行った。
実施機関は、この自治会長会議は、そもそも、自治会長が招集し非公開を前提とした会議であっただけに、会議の終了後に、会議概要以外の会議録を作成することや自治会長自身に公開を前提にした確認を行うこと、また、公開するかどうかについての意見聴取を行うことは、あらかじめ県と自治会長で取り決めた内容に反しており、自治会長を通じた自治会と県との信頼関係の構築にも支障をきたすおそれがあると主張する。
ところが実施機関の口頭説明によると、県と自治会長との間には、会議を非公開とすることについては合意があったものの、会議概要等についてまで非公開とする申し合わせはなく、会議概要等の公表について、全自治会長が反対するまでの事実は認められない。
また、自治会長側において、自ら住民に対して会議概要等について公表することは問題ないとも説明している。
このように、自治会長会議の内容の秘密性は、必ずしも高いものではなく、また、前述した事務事業に支障を及ぼすおそれについては高い蓋然性を有することが求められることからすると、会議の内容を公開することが、県と自治会長との信頼構築への支障となり、県の事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるとまでは言えないというべきである。
よって、自治会長の発言部分について条例第6条第6号該当性は認められない。

(4)条例第6条第1号該当性について
条例第6条第1号は、公開請求された公文書に「個人に関する情報であって、特定の個人を識別することができるもの(他の情報と照合するにより、特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)または特定の個人を識別することはできないが、公にすることにより、なお個人の権利利益を害するおそれがあるもの」が記録されている場合は、原則として当該公文書を公開しないことを定めている。
なお、「特定の個人を識別することはできないが、公にすることにより、なお個人の権利利益を害するおそれがあるもの」とは、個人の思想、信条、心身の状況などに関する情報であって個人の人格や私生活と密接に関連する情報等で、公にすると、個人識別情報を除いたとしても、個人の権利利益を害するおそれがあるものを指すと解される。
また、通常は、特定の個人を識別できないが、ごく限られた範囲の者のみにより個人が識別できる情報であって、そのことにより当該個人の権利利益が害されるおそれがある情報等も該当すると解される。
まず、自治会長の氏名については、条例第6条第1号に該当する非公開情報であり、異議申立人も非公開について争っていない。
次に、自治会長の発言部分について、実施機関は、特定の個人を識別することはできないが、公にすることによりなお個人の権利利益を害するおそれがある情報であるから、条例第6条第1号に該当する非公開情報であるとしている。
すなわち、発言中には、自治会長個人の独特の言い回しやこだわりをもった発言を行っている部分も見受けられ、特定の自治会住民にあっては、いくつかの表現において個人が特定される可能性があり、その場合、当該自治会長と意見が異なる者から発言内容にかこつけた誹謗や中傷を受けるおそれがあると説明している。
その一方で実施機関は、会議の中での各自治会長の発言内容については、過去の県と自治会長との話し合い、交渉等の経緯からみると、今までの自治会長の主張と変わっていないとも説明している。したがって、自治会長の発言内容については、自治会住民にあってはある程度知れ渡っていると考えられる。
さらに、これまでの地域内における自治会長と住民等とのやりとりをみても、互いに批判しあう程度にとどまっている。
そうすると、自治会長の発言内容が公開され、発言者個人が住民等に識別されたとしても、RD問題という事柄の重大さや、自治会長がさまざまな意見を持つ住民の代表者としての立場にあることを考えると、自治会長と住民との間で個人的な見解に違いが生じることは通常想定されることであり、当該自治会長が受容限度を超えるような不利益を被るおそれがあるとまでは言えない。

(5)結論
以上のことから、本件対象公文書の自治会長の発言部分について、条例第6条第6号および第1号該当を理由として非公開とした実施機関の決定は妥当ではなく、条例第6条第1号に該当する非公開情報である「自治会長の氏名」を除いて公開すべきである。

よって「第1 審査会の結論」のとおり判断するものである。

2 審査会の経過
当審査会は、本件異議申立てについて、次のとおり調査審議を行った。
年月日審査の内容
平成20年9月26日・実施機関から諮問を受けた。
平成20年10月15日・実施機関から理由説明書の提出を受けた。
平成20年11月5日・異議申立人から理由説明書に対する意見書の提出を受けた。
平成21年1月27日
(第167回審査会)
・諮問案件について資料に基づき事務局から説明を受けた。
平成21年2月16日
(第168回審査会)
・諮問案件の審議を行った。
平成21年3月16日
(第169回審査会)
・実施機関から公文書一部公開決定について口頭説明を受けた。
・異議申立人から意見を聴取した。
平成21年4月30日
(第170回審査会)
・諮問案件の審議を行った。
平成21年5月26日
(第171回審査会)
・実施機関から公文書一部公開決定について口頭説明を受けた。
・諮問案件の審議を行った。
平成21年6月30日
(第172回審査会)
・諮問案件の審議を行った。



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