付け焼き刃の覚え書き

 本や映画についての感想とかゲームの覚え書きとかあれこれ。(無記名コメントはご遠慮ください)

「鴨川ホルモー」 万城目学

2009-05-18 | 日常の不思議・エブリデイ・マジック
 『ウルトラQ』世代は「万城目」と書いてあったら「まんじょうめ」と読んでしまうわけですが、こちらは「まきめ」が正解でした。なるほど。

「できそうな気がして、やってみたらできた」
 楠木ふみの言葉。金言名言ではありませんが、その作品の中でキャラクターを浮かび上がらせる名台詞かも。このキャラはこのひとことに集約されると思います。
 読み始めると奇声と奇態の連続に、これは映画で観たら面白い!と直感。そうだ、映画化して公開しているはずだ!!と近所の映画館の予定を調べたら、その日で終わりだったという結末。いや、車で1時間も走れば、深夜11時過ぎからの回でやっているところがあったけれど、そこまでして見に行く気力はありませんでした……。

 一千年の昔より京都には正史には残らない謎の競技が存在していた。そして、現在それを受け継いでいるのは、京都の東西南北にそれぞれ位置している4つの大学のサークルであった。
 サークル勧誘を利用してあちらこちらでタダ酒を飲み歩いていた主人公は、「京大青竜会」なる怪しげなサークルの飲み会に参加したことから、この「ホルモー」という不思議な競技に参加することになるのだが、それは各チーム1000匹の式神を使役する合戦だった……。

 安倍晴明もこんな格好で式神を操っていたんだとしたら笑えます。何千ものオニを式神として戦わせる話というと夢枕獏のような伝奇バイオレンスにもポケモンバトルにもなりそうなんですが、ちょっと不思議な青春恋愛ストーリーにしたてているあたりがミソ。やっぱ女は怖いね。
 森見登美彦の『夜は短し歩けよ乙女』なんかとも雰囲気が似ています。どちらも京大奇譚のせいでしょうか。作者も書かれていることも違っていても、同じ世界の話というイメージがぬぐえません。

 でも、そうか。映画版の楠木ふみは栗山千明で振付けはパパイヤ鈴木かあ……観たかったなあ……。

【鴨川ホルモー】【万城目学】【安倍晴明】【京都産業大学玄武組】【立命館大学白虎隊】【龍谷大学フェニックス】【京都大学青龍会】【五行相克】【レナウン】【オニ語】【京都】
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「鉄のエルフ(1)~炎が鍛えた闇」 クリス・エヴァンズ

2009-05-17 | ヒロイックファンタジー・ハイファンタジー
「リム・ロクナ・レ・リカ、ティ・ロクナ、セ・リカ、ジェブ・エシグ・ロ・ウェルタ・オクスル、キ・リカ・インジャ(汝は汝の、われはわれの戦を戦う。されど敵はひとつなれば、我らはひとつとなって戦う)

 カラル帝国の治世にかげりが生じ始めていた。
 女帝は強大な魔力を秘めるという<星>を手に入れるための部隊を派遣しようと考えるが、彼の地の軍を掌握する総督を信用できないことから新たに皇太子直属の軍を編成することとした。
 だが、実戦経験のない皇太子に代わって部隊を実質的に率いることとなる副隊長コノワは、1年前に当時の総督を殺害した咎で追放されていた男だった……。

 単純に言ってしまうと、無能な上司とその力の大きさどころか存在するかどうかも解らない敵<影の女王>に挟まれた主人公が、寄せ集めの兵隊をまとめあげて目的もはっきりしない遠征に送り出される話。マスケット銃と剣と魔法の戦争活劇ということで、もう少し「寄せ集めの兵隊をまとめ上げ、鍛え直す」シーンがあるとミリタリーものとして盛り上がるような気がしますが、主人公が理由の分からないままいろんなものを押しつけられて旅立つ話になっているので、この主人公がそんなに指揮官として有能なのか今ひとつ確信できません。完全に流されっぱなしで失策だらけです。

「栄光と死。栄光が先で、死があと。大事なのは、この順番だ。“栄光”と“死”のあいだを充分あけるようにすりゃ、栄光をたっぷり味わえる」
 ドワーフのイムトの言葉。

 主人公は軍人で、軍隊が話の中心になるけれど、まだミリタリー・ファンタジーとまではいえません。物語的には失敗して壊滅する遠征っぽい発端ですが、ラストに登場した老ジャーナリストのラリーが興味深いので、もう少し追ってみたいと思います。

【鉄のエルフ】【炎が鍛えた闇】【クリス・エヴァンズ】【ペンは剣より強し】
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「レジンキャストミルク(3)(4)」 藤原祐

2009-05-16 | 超能力・超人・サイボーグ
 ずいぶん前に購入したまま積ん読になっていた本を発見し、読了し、覚え書きをブログに書き込もうとしたらかなり前に読み終わって投稿済になってました。なんなんだ……。オレの記憶は一体どこに?

「世界をちゃんと理解しないと、世界は滅ぼせないってこと。どんなに力を持っていても、自分のことを理解できてもいない奴に身を委ねるほど世界は小さくも脆くもないんだ」
 速見殊子の言葉。

 姫島姫は死んでしまった。

 生まれては消えていく平行世界【虚軸】の最後の生き残りは、固定剤といわれる存在と出会うことで現実世界に定着し(あるいは現実世界の人間に寄生し)、消え去った世界そのものを体現する異能を発揮する。

 【虚軸】と関わった姫の死は、その同類である虚構(キャスト)以外には誰にも認識されることはない。しかし【全一】である城島硝子は、姫が消えたことで仲良し四人組が三人組になったことにいつまでも違和感を覚えていた。これはバグではなかろうか。機械人形である硝子には感情はないはずだ。ただ計算するだけなのに。
 何かが狂い始めていた。
 だが、自分の求める世界を構築しようとする【無限回廊】は死んだはずの“ひめひめ”の姿で現れ、三人組の1人である直川君子を道具に新たな計略を実行に移していた……。

 蜜と君子の過去話を中心にした、硝子と晶の関係の再構築話。【壊れた万華鏡】はあいかわらず壊れてますが、今回はいろいろな意味で壊れました。

 ほのぼのとコメディタッチの描写が続いたかと思うと一転してダークな陰謀とアクションという展開が繰り返される話なので、油断も隙もあらず。今回もなし崩しの宴会シーンの後に二転三転して続いてしまったので、3巻を読み終えたときには4巻も手元にあって良かったと思いました。面白いけれど気軽に読み飛ばせないので、いつの間にか未読が積み上がってしまい、5・6巻はなくて7・8巻はあるという歯抜けの状態だったのです。さあ、5・6巻をどこかで買ってこないと……。

 最近のライトノベルでは、二つ名、その個性を体現する呼び名がついたキャラクターが登場して特異な技を使って戦うというのが売れ筋パターンなのだとも聞いたことがあります。それを言ったら『水滸伝』だって同じで、まあ、面白い物語の基本フォーマットは500年変わらずということですね。
 そういう意味で、この作品は王道路線ということができます。【壊れた万華鏡】舞鶴蜜、【有識分体】柿原里緒、【目覚まし時計】速見殊子、【アンノウン】佐伯ネア、そして【全一】城島硝子とその固定剤である城島晶。なんというか、中高生レベルで思いつく最強能力設定を集大成して洗練させたといったところでしょうか? これが行き着くとこまで行ってしまうと「行動が三択で表示される」『フラグの王子様』になってしまうんでしょう。
 ちなみに【全一】は「オール・イン・ワン」と読みます。漢字で表記して英語で読むというのは『ジョジョの奇妙な冒険』以来の新しい伝統なのかも知れません。これ以前は二つ名はあっても、素直にそのまま読んでいた気がします。

【レジンキャストミルク】【藤原祐】【椋本夏夜】【プリン】【火曜サスペンス】
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「“文学少女”と月花を孕く水妖」 野村美月

2009-05-15 | 本屋・図書館・愛書家
 飢え渇く幽霊の事件から1ヶ月後の夏休み。遠子部長から届いた『悪い人にさらわれました。着替えと宿題を持って、今すぐ助けに来てください』の電報なんか無視するつもりの心葉だったが、結局、拉致同然に連れ出されて貴重な夏休みを姫倉麻貴の別荘で過ごす羽目になる。
 しかし、その屋敷は過去に6人が惨殺されたという呪いの幽霊屋敷であり、なぜか麻貴は意図してその80年前の状況を泉鏡花の作品をもとに再現しようとしていた……。

 少し時間を遡っての夏休みのエピソードという特別編。番外編でも外伝でもないというあたりがミソですが、今回は泉鏡花で攻めてきました。表面的には「血を尊ぶ旧家の別邸で繰り返される惨劇」であり、結論としては「視点を変えた物語の提示と再出発の始まり」あるいは「終わりの始まり」。

「夢は覚めるの。覚めない夢はない。けどね。美しい夢は、目覚めたあと、心の中に物語を残すのよ」

 でも、あの田舎町にしてはやけにドイツ文学が充実していた書店は、本当に単なる書店だったのでしょうか……?

【“文学少女”と月花を孕く水妖】【野村美月】【夜叉ヶ池】【ドイツ文学】【妖怪】【草迷宮】【高野聖】【キスマーク】
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「“文学少女”と慟哭の巡礼者」 野村美月

2009-05-14 | 本屋・図書館・愛書家
「大人になってから読む童話には、子供の頃に読むのと違った味わいがあるわ。子供の頃は甘かったものが、大人になってからは苦かったりするの」
 まったく10年ごとに読んで面白い本というのは変わるし、昔も今も同じく面白いと感じてもその受け止め方が変わっていたりするものです。

 階段から落ちたというななせを病院に見舞った心葉は、そこで朝倉美羽と再会する。捨てようとしても捨てられず、忘れようとしても忘れられなかった心葉の過去であり、かつて彼のすべてであった少女。
 美羽は心葉の記憶のままに微笑みかけてくる。しかし、そのときから彼の周囲の人たちの関係に大きな軋みが生じ始める……。

 5冊目にして、ついに美羽が登場。1冊目から名前だけは登場していて、当初は死んでいたのではないかと思わせる記述だったけれど、この数巻で実は生きているらしいことが判明。心葉の知らないところで彼の周囲の人たちに影を投げかけていた少女です。
 これで完結と思ったら、まだ続くようです。そういえば、いちばん大事な人を忘れていました。

追伸。玄関先に今度は宮沢賢治全集が……。さすがです。遠子先輩。

【“文学少女”と慟哭の巡礼者】【野村美月】【初詣】【病院】【インスマウスの影】【銀河鉄道の夜】【舞姫】【赤と黒】【枕草子】
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「マリア様がみてる/バラエティギフト」 今野緒雪 16

2009-05-13 | 学園小説(不思議や超科学なし)
 前黄薔薇さま・江利子から薔薇の館に届けられたお菓子の詰め合わせ。このバラエティギフトにどんな意味が込められているのか、そもそも考えすぎなのか? 疑心暗鬼に陥った由乃がキレまくるが……。
 お菓子の詰め合わせから始まる4つの物語。

 『レディ、GO!』の後日譚である「バラエティギフト」の合間合間に、今まで名前も出てこなかったりそもそも居たのかどうかもわからない生徒たちを巡る物語を挟み込んだオムニバス短編集。
 メインキャラ以外にも奇跡は起きるんだという「降誕祭の奇跡」、バレンタインイベントに潜り込んだ中等部が江利子さまにみつかる「ショコラとポートレート」、乃梨子が入学前後の出来事を回想する「羊が一匹さく越えて」、そして江利子が聖に近況を告げる「毒入りリンゴ」の5篇……この数え方で良いはずだ。

 中等部の内藤笙子は高等部のバレンタインデー・イベントに参加したく、姉の制服を無断で借りて潜り込むが……という「ショコラとポートレイト」がいちばん好きかな。蔦子さんはやはり達人である。
 「降誕祭の奇跡」は他とは若干毛色が違っているけれど、そういうこともあるかもしれないと受け止めて読了。人と人との出会いはある意味すべてが奇跡。そのときその人がそこにいて出会ったという奇跡は無理に理屈で片付けない方が良い。それは野暮ってもんです。

【マリア様がみてる】【バラエティギフト】 【今野緒雪】【てるてる坊主】【クリーニングタグ】【クリスマス】
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「赤毛のアン」 ルーシー・モード・モンゴメリ

2009-05-12 | その他フィクション
 実を言えば『赤毛のアン』の話は好きではなかった。
 世界名作文学全集の1つに収録されていたので小学生の時分には読んだけれど、表面的に読んでしまえば癇癪持の娘が妄想をのべつ幕無しにしゃべり続ける話という印象しか残らなかったのだ(実際、しゃべり始めたら1頁ノンストップである)。
 評価が変わったのはアニメ版を視てから。それが面白かったので読み返してみようと思ったら、うちの母親が本好きで講談社刊の赤毛のアンシリーズ(村岡花子版)を揃えており、読めば面白いんだから、あとは『アンの娘リラ』まで一直線。
 うん。面白いわ。少女向けとかそういうことに関係なく……というか、少女小説とは違うよね。政治問題への言及も多いし。
 ただ、やはり小さい子供が主人公の話はやっぱり苦手で、最初の『赤毛のアン』だけはほとんど再読していませんでした。解説と注釈が山盛りの松本侑子訳をみつけなければ再読しなかったかもしれません。

 結婚しないまま年老いたマシューとマリラの兄妹は、農場の手伝いに孤児院から男の子を引き取ろうと考えるが、やってきたのは空想好きでおしゃべりな赤毛の少女だった……。

 アン・シャーリーの代表的な台詞は「想像の余地」があるとかないとかだけれど、これもまた出典のあるセリフとは思いませんでした。ローレンス・スターンの紀行文『フランスからイタリアへのセンチメンタル・ジャーニー』での言葉にちなんでいるんだとか……。
 ほんまいかな!?と思うけれど、他にも明らかに聖書や詩やシェイクスピアなどからの引用が満載なので、そういうのならそうなんだろうなあと納得。まったく、立派な教養小説ですが、現代日本人にはこれくらいたっぷり注釈をつけてもらわないと見当もつきません。
 まあ、ウンチク関係無しに面白いので、読み返す良い機会でした。

【赤毛のアン】【モンゴメリ】【入試】【銀行倒産】【孤児院】【二大政党】【にんじん】
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「アクマ・オージ3」 岡崎裕信

2009-05-11 | 学園小説(不思議や超科学あり)
「別にいいよなー。俺様たちはダメな大人だけれど、つまんない大人じゃねーからなー」
 ダメな大人の見本市にて教師の言葉。
 変態ヤクザのアス太郎さんが普通に混じっているのが怖いです。

 真魔《悪魔王子》復活の予兆を感じ七彩中に転校してきた美少女・黒野九印。彼女こそは日本の退魔士を統べる黒野一族の長だった。彼女は黒野太陽を殺したのはオージではなく、青蓮ではないかと疑っている。
 そして、キャンプの夜。七罪城が一《ルシファーの天空城》が召喚されたのだが……。

 なんか、ジャンプ10週打ち切りみたいな完結編です。そういえば、集英社スーパーダッシュ文庫だ。かなり奔放にジャンプねたを使っていると思った……。
 若干2巻と設定が変わっている気がする急転直下の大攻勢。それでも前半1/3は伏線をバラマキながらどたばたキャンプ話で終始したかと思ったら、二転三転急降下! 勢いあって面白く、やはり九印を応援したいんですが、ダメですか?

【アクマ・オージ3】【セイレーンが歌う海】【岡崎裕信】【裸エプロン】【キャンプ合宿】【キン肉マン】【チキチキ】【カレーバトル】【スポーツテーマパーク】【裏切り】
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「ひとがた流し」 北村薫

2009-05-10 | その他フィクション
「人が生きていく時、力になるのは何かっていうと、《自分が生きていることを、切実に願う誰かが、いるかどうか》だと思うんだ」
 人間は誰かがつなぎ止めてくれている風船のようなものだと玲に語る千波。

 少女たちが高校を卒業してから25年。今も彼女たちの友情は続いている。
 アナウンサーの千波は朝のニュース番組のメインキャスターに抜擢されるが、その直後に乳ガンを宣告される。一方、彼女の高校からの友人である作家の牧子や写真家の妻となった美々は……。

 3人の女性の日々の情景を通じて、さまざまな家族の形、夫婦の形を描いていくのですが、その根幹には幼なじみとの友情がありました。そんな女友達の心のつながりで編み上げられた物語。この前日譚ともいうべき『月の砂漠をさばさばと』も読んだことがなかったのに気がついて反省。またすぐ入手します。

 鴨足屋(いちょうや)さんは本当に良い人だと思いました。小さな納豆が上を向いて落ちたって良いじゃないか。小さな喜びをほらねと笑って語り合える人が側にいるってのは嬉しいことです。『OL進化論』を読んでても思ったことですが。

【ひとがた流し】【北村薫】【幼なじみ】【離婚】【ガン】【友情】【鍵】
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「会長の切り札~一芸クラブに勝機あり!」 鷹見一幸

2009-05-09 | 学園小説(不思議や超科学なし)
「世の中の人は、やればできる人、なんて評価しないのよ。世の中の人は、やってできた人しか認めないの!」
 楢山高校・生徒会長、早乙女朋絵の叱責。

 財政再建のための市町村合併が進められる中、高校の存続問題がネックになって話が進まない3町があった。まずは3校の統廃合問題にけりを付けないことには合併論議が進まないと考えた地方庁合併推進課課長の藍山真由子は、どの学校が存続するかを高校生同士の勝負によって決定するよう画策。かくして男子校、女子校、共学校の3校が存続をかけて争うこととなった。
 しかし、共学校である楢山高校は生徒たちのやる気はゼロ。一方、統廃合候補の相手は文武両道の熱血男子高校。楢山高校の軍師、切れ者副会長の光明は敗色濃厚な対抗戦の活路を有象無象の同好会に見出すが……。

 こういう作品が最近目立ちますね。学校が舞台で、突飛な設定の事件が起こったり異様な状況にあったりしますが、かといって超能力も宇宙人もロボットも悪の秘密結社も出てこないという話です。一昔前なら「ユーモア学園小説」とかいう言葉でひとくくりにされていそうです。
 一時期のヤングアダルト、ジュニア小説、ライトノベルはそんな話ばかりで、やがて異世界ファンタジーと未来SF戦記が幅を利かせるようになり、それがSFだろうとファンタジーだろうととりあえず舞台は学校で主人公は中高生というパターンが増え、気がついたら舞台は学校で主人公は中高生だけれどSFでもファンタジーでもない作品も見かけるようになってきました。かといって児童文学とも違うだよね。とにかく片寄りはあるけれど刊行数が増えている分だけバリエーションも増えているという感じかな。

 さて、よくわかんない弱小同好会がごろごろあって、そいつらが同好会の個性を活かした意外な活躍をして……という話かと思ったら、そういう話でもなかったですね。確かに対戦校の偵察とか企画へのアイデア出しとか校内PRの段階ではいろいろ出番はありましたけれど、本番は結局副会長と応援団長と体育会系女子で終わってしまったという感じです。廃墟探検同好会や稲荷神社同好会は?
 そういう意味でぜんぜん物足りなかったんで、続く女子校戦では一芸クラブの活躍を期待したいです。

【会長の切り札】【一芸クラブに勝機あり!】【鷹見一幸】【城攻め】【スポーツチャンバラ】【町おこし】【観察日記】【てるてる坊主】
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「プレーボール!2002年」 ロバート・ブラウン

2009-05-08 | その他SF(スコシフシギとかも)
「恋などというものは、みな絶望から陥るものなのだ」
 ドクター・ノーバードの言葉。そこまで悲観的にならなくても……。

 清原なつのファンなら作者の名前だけで買ってしまうよね。すばらしいよ、ロバとブラウンさん。

 ひょんなことから大富豪の遺産として万年最下位の大リーグチーム(今なら「メジャーリーグ」だよね)シカゴ・アトムズを与えられ、しかも付帯条項のために自ら監督を務め、なおかつピッチャーとして登板しなくてはいけなくなった主人公。窮余の策として知り合いのノーバード博士に頼り、彼がコンピュータで計算するままプレーするという究極のデータ野球で2002年のシリーズに挑むのだが……。

 書かれたときは四半世紀先の未来でも、もはや過去の話になっちゃいましたね。コンピュータ野球ということですが、まあ、SFというより野球小説。結局、みんな野球が好きなんだよ☆という話でした。(2007.9/28)

 ノーバート博士はもう少しでセルダン博士の領域にまで届くところだった気がするのだけれど……。>統計による未来予測

 イラストの永清文明という人は80年代には雑誌「スターログ」の表紙を描いたりしてSF関係の仕事を始めていたしメカは巧いし「未来的で色っぽくて野球してるとこ」という最低条件は満たしているけど、やっぱりミスマッチという感触は否めません。SFファンにも野球ファンにも逃げられている気がします。
 いや、ぼくが買ったのも作者の名前だけだよ?(2009.5/8)

【プレーボール!2002年】【ロバート・ブラウン】【統計学】【女性選手】【マッド・サイエンティスト】【野球小説】
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「英国流ビスケット図鑑~おともに紅茶を」 スチュアート・ペイン

2009-05-08 | 食・料理
 週末に遊びに来たむしゅさんが「これ最高ですよ!」と教えてくれた本がこれ。(ちゃんと預かってますからいつでも取りに来てね)

「ここでは、すべてフランス人のせいだということにしておこう。オランダ人のせいにしたくても、彼らは気づきもしないだろうから」

 さまざまなビスケットについて、その味や楽しみ方について解説した本
……だけれども、著者がイギリス人ということもあって、まずビスケットを食べるために必要なお茶の楽しみ方に本の最初と最後の2章を割いているところがミソ。お湯やミルクの温度から自分のマグカップが他人に使われたらどうするとか湯沸かしポットはこんなのが良いとか本当に事細か。
 そして、ユーモアだかウィットだかはたまた本気かと疑うような記述にはドキドキさせられます。英国製のお菓子についてもかなり毒舌なのに外国製品となったら「オレオを食べるのはアメリカ人か変わり者だけ」とか「イギリス以外のビスケットは見当違い」とかEUがなんと定義しようと自分たちは自分たちの食べたい物をチョコレートと呼ぶんだとか、イラク人は……とか東京では……とか……。これは本気で言ってる? それとも洒落?
 立食パーティーと『ポセイドン・アドベンチャー』を同義とするようなセンスが全編を貫いているあたりは最高に英国的です。

【英国流ビスケット図鑑】【おともに紅茶を】【スチュアート・ペイン】【付加価値税】【ポッキー】【ピカード艦長】【バビロン5】
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「黄金の幽霊船~ミニスカ宇宙海賊2」 笹本祐一

2009-05-07 | 宇宙海賊・宇宙商人
「途中でどれだけ卑怯なイカサマやズルしたって、最終的な辻褄さえ合ってれば世間ではそれを成功って言うって」
 それがゴンザエモン加藤船長の教えらしい。

 宇宙海賊船<弁天丸>に密航してきたセレニティ星のプリンセスは、海賊たちにお宝が眠る幽霊船を探して欲しいと依頼する。星王家建国時の巨大移民船こそが伝説の幽霊船だというのだ。
 だが、幽霊船探しにはセレニティの正規艦隊も介入してきて一触即発の危機に! 幽霊船には何が隠されているのか!?

 前作は、なかばショーと化した「宇宙海賊」そのものの登場するパートよりも、「お嬢様学校の女子高生が練習船で本物の宇宙海賊を翻弄する」パートの方が面白かったわけで、ここらで本物の宇宙海賊の格好良さを読ませて欲しいものだと期待してました。(←ここまで未読)

 アニメ化も決まったらしいけれど、宇宙海賊というより銀河乞食軍団っぽくあり、もう少し海賊というか宙賊っぽいところがみたいのだけれど女子高生船長では無理かな。
 私掠船免状というのは、発行した国が交戦状態にある敵国の船を襲って掠奪したり沈めても海賊行為とはみなさないよというお墨付き。そうなると、国家が戦争していない状態での海賊っていうのは本当の海賊行為はできないので、保険組合の下請けで誰も彼もが承知の上の海賊ショーがメインのお仕事になってしまいます。
 悪いことしないのが前提の海賊ってのも、なんか物足りないなー。 

【黄金の幽霊船】【ミニスカ宇宙海賊】【笹本祐一】【幽霊船】【暗黒雲】【ホットドッグ】【留学生】
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「アクマ・オージ2」 岡崎裕信

2009-05-06 | 学園小説(不思議や超科学あり)
「宝箱は放置したら負けなんです!」
 危険なトラップの仕掛けられた宝箱を前に力説する青蓮の言葉。

 オージが人殺しとなった原因を作った殺人者黒野太陽の妹、九印が転校してきたその夜、地獄門の開放が七魔王過半数の承認によって許可された。
 地獄門の開放によって召喚された封印空間は《リヴァイアサンの大灯台》。オージや九印も含めた6人は夢の中からその迷宮へと招き入れられるのだが……。

 前巻のラストでちらりと臭わされていましたが、オージが自分を悪魔と言い張るのは単なる誇大妄想や現実逃避ばかりが原因ではなかったようです。彼の願いは確かに聞きとげられたのでした。
 夢の中で繰り広げられる戦いは緩急つけて壮絶な展開に。あの『滅びのマヤウェル』での鯨戦に匹敵しますね。最初は軽くギャグで落としつつ、だんだん重くなっていきます。断たれた因果は元には戻らないのです。

 さて、登場人物が皆中学生と指摘されてあらら?と再確認。前巻のあれこれとかあったので、なんとなく高校生かと思ってたのです。そうか、まだ中学生ですか。
 そして、最後にまた再確認。……それは早すぎるだろ。

【アクマ・オージ2】【リヴァイアサンの大灯台】【岡崎裕信】【成瀬裕司】【七罪城】【夜這い】【RPG】【ポークビッツ】【六連携】
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「“文学少女”と穢名の天使」 野村美月

2009-05-05 | 本屋・図書館・愛書家
「一杯のチャイがあれば、人生は素晴らしいし、平凡な日常は何物にも勝る」
 平凡になりたいと請い願って狂気に陥る人もいれば、平凡はイヤだと狂気に陥る人もいる。世界でたった一輪の花だと思えれば、世の中はもう少し優しく見えるかもしれない。

 文芸部部長の天野遠子が受験のために休部宣言。なぜか琴吹ななせともども音楽教師の毬谷の手伝いをすることになってしまった心葉だったが、ななせの親友が行方不明になったことから事態は意外な方向へと転がっていく。そして、心葉の正体を知るらしい謎の声が……。

 確かに天才と呼ばれた者はいたのです。
 文学少女の第4弾では、図書委員のななせさんと心葉を中心に話が進み、心葉は振り捨てようとしてきた自分の過去とあらためて向き合うことになります。

【“文学少女”と穢名の天使】【野村美月】【大学入試】【クリスマスツリー】【天才】【オペラ座の怪人】【援助交際】
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