付け焼き刃の覚え書き

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「遙かなる星1~パックス・アメリカーナ」 佐藤大輔

2009-06-29 | 宇宙探検・宇宙開発・土木
「考えてもみろ。人間は何のために生まれたんだ? この、たかだか半径6500キロのゴミのような惑星でくたばるためか? 違う。絶対に違う。少なくとも、俺はそれを認めない。人間は、この空の上にある世界を引っ掻き回して遊ぶために生まれたんだ」
 金を稼いでしっかり税金を納め俺のやりたいことをやらせろと学生に説く黒木正一の言葉。

 佐藤大輔といえば質の高い架空戦記のシリーズを抱え、周囲にも根強いファンの多い仮想戦記作家です。その特徴は細かなIFを積み重ねて築き上げるリアルで壮大な嘘と魅力的な登場人物たち、血湧き肉躍る戦い……。
 ただ、完結しない。
 『皇国の守護者』も『レッドサン・ブラッククロス』も『地球連邦の興亡』も『侵攻作戦パシフィック・ストーム』も『逆転信長軍記』こと『覇王信長伝』こと『信長征海伝』も、そしてこの『遙かなる星』もシリーズ途中で止まったまま。シリーズもので完結したのは『征途』だけでしょうか。
 しかし『遙かなる星』は大きな戦争の途中でもなく、最終的な結末は既にプロローグなどで断片的に提示されているので、「これで完結なんだよ!」と言ってしまえば言い切れるところが心の拠り所ですね。

 太平洋戦争に敗戦した日本は独立を果たし、自衛隊を発足させるなど着々と復興しつつあったが、航空産業においては軍需産業解体により停滞が続いていた。しかし、そんな中でも着実に世界の航空産業に食い込んでいく新興の北崎重工には、宇宙ロケットに異常な執着を見せる技術者がいた。
 だが、その頃、アメリカとソ連はソ連がキューバに持ち込んだ反応弾をめぐって一触即発の危機に陥っていた……。

 北崎望という1人の老人の葬儀から始まる、宇宙を目ざした日本の物語。

「たとえ銀色ではなく、異星人を撃滅する光線兵器をそなえていなくても、ロケットはロケットなのだ」
 原田父の言葉。

 宇宙開発をテーマにしたシミュレーション小説に分類されますが、この作品最大のIFは「1人のスピーチライターの体調不良」でした。確かに清濁合わせ持って日本航空業界を牽引する北崎重工の誕生とか、宇宙ロケットにこだわる技術者・黒木正一であるとか、キーとなる架空の存在も色々とありますが、基本的には枝葉の問題にすぎません。本人が登場することもなく、実在の人物ながら名前だけちらりと出てきただけの1人の男の不在によって歴史が変わっていくところが、この作品の妙味です。

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