付け焼き刃の覚え書き

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「戦地の図書館」 モリー・グプティル・マニング

2024-06-01 | 本屋・図書館・愛書家
「軽視され、自我を傷つけられ、軍隊生活の中の不合理で退屈でくだらない物事に耐えなければならない兵士には、心を癒やしてくれるものが必要だ」
 ポール・ファッセルの言葉。

 ナチス・ドイツは自らの主義主張にそぐわない本を「反ドイツ主義」として発禁・焚書に指定し、「払い清め」として文字通り火にくべて燃やし尽くすなど世の中から消し去ろうとした。その数、第二次世界大戦終結までにおよそ1億冊。
 一方、アメリカは書物こそ前線に送られる兵士の心の支えであるとして、一般から寄付を募るなどして大量の本を前線基地に送り届けた。その数、およそ1億4千万冊……。

 古事記に「愛しいあがなせの命。かくせば、なが国の人草、一日に千頭絞り殺さむ」「愛しいあがなに妹もの命。なれしかば、あれ一日に千五百の産屋立てむ」のくだりがありますが、そんな感じの相対する存在の図書をめぐる国と国民の姿が描かれます。
 戦火が近づき、徴兵され動員される若者たちですが、軍は訓練施設から急ごしらえ。訓練用の武器どころか制服すらろくに届かない中で戦争準備が始まりますが、そんなものでとうてい士気が上がるはずもなく、それは実際に戦争が始まり戦地に送り込まれるようになればなおさらです。そんな中、本がなきゃ人間ではいられないよと全米の司書が奮起し、戦地へ送られる兵士たちに1000万冊の本を送ろうという運動が巻き起こります。そんな運動から始まった顛末を、戦地の兵士たちの記憶、従軍記者たちの記録、運動を支えた司書たちの報告、兵士たちと文通を続けた作家などの話をもとに語られていきます。いい話であると同時に思想戦でもあります。「我が闘争」が勝つか「大いなるギャツビー」や「ブルックリン横町」が勝つかという。
 ノルマンディー上陸作戦で重傷を負い、治療待ちで砂浜に放置されている兵士たちが暇つぶしに本を読んでいる光景って、ちょっと想像しにくいですが、なんとなく分かります。自分も手術後にカテーテルとかでがんじがらめにされ、切れた麻酔にイラつきながら、スマホでなろう読んでましたもの。
 そして、アメリカ軍は陸海軍とも寄付があり予算が付いてがんがん送られたけど、イギリスでは予算がなかったし、そもそも出版社が焼け落ちたりしてイギリス兵のもとには無料配布がなくてアメリカ兵からお裾分けがあったとか、これまたちょっといい話ですね。

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