沖縄・台湾友の会

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「ユダヤの陰謀」論が成り立つ政治的根拠がない    イスラエルはミニ政党が13もあって、戦争以外に合意は成立しない

2022-05-16 00:08:35 | 日記
「宮崎正弘の国際情勢解題」 
     令和四年(2022)5月16日(月曜日)
        通巻第7334号  <前日発行>
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 「ユダヤの陰謀」論が成り立つ政治的根拠がない
   イスラエルはミニ政党が13もあって、戦争以外に合意は成立しない
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 拙著『ロシア v ウクライナ 戦争とユダヤ人』の題名だけを見て、「ユダヤの陰謀」とか「ディープステーツ」論と同一視する向きがある。
ユダヤ人ほど団結を好まず、意見はばらばらで統一性がなく、「全員一致ならやめちまぇ」という特性をもつ。例外は国が危殆に陥ると、団結して戦うという戦闘的軍事力行使の能力である。

 さきに軍事力についてみると国民皆兵であり、徴兵は女性にも適用され、兵役を終えないとパスポートは交付されない。
現在イスラエル正規軍の兵士は17万、予備役47万である。これを人口比(イスラエル934万、日本1億2550万人)で換算すると、日本に正規軍が93万、予備役が257万人いることになるから、いかにイスラエルが『軍事大国』であるかを理解できるだろう。いつ戦争が勃発しても、対応できるのだ。

 さてイスラエル政治の「全員一致ならやめちまえ」の分析をしてみよう。
 現在のイスラエルは野党が少数派であるにも関わらず、七つのミニ政党が合従連衡した、きわめて脆弱な連立政権である。「与党」の議席数は56議席(議会は120名)。野党はリクードを基軸に64議席。なぜ少数連立が政権を担うことになったかと言えば、長く続いたリクードのネタニヤフ首相への嫌悪感だけで、突然、野党だったミニ政党が合意し、旧与党の一部議員が造反したからだ。

 社会構造、人口構成はユダヤ人が75%で、殆どがユダヤ教を信じている。残りのうちアラブ人が20%で、このうちの90%がムスリムである。ユダヤ人のうち、ユダヤ原理主義は全人口の12%前後といわれる。

 ユダヤ人といっても東欧、旧ソ連からの移民(アシュケナージ)は20%に近い。北アフリカから南欧にかけて、とくにモロッコからの移民は「セファルディ」と呼ばれ、両者間にも抜きがたい対立がある。政治はアシュケナージがリードしてきた。

この複雑な国民が選挙をするのだから意見が分かるのは当然だ。
くわえて選挙システムが全国区比例代表という独特な、それこそ末端のこまかな意見を吸い上げるという選挙制度だから、現在議席を獲得している政党だけでも13党。単独過半としめる政党はない。
つねに最大得票の政党が主導権を握り、連立をまとめてきた。

 過去にはリクードと労働党の二大政党が交代で主導した時代もあったが、グローバリズムの波にのって、ますますの多党化、多彩化がはかられてきたため、前回の選挙を分析すると、リクードが25%の得票を得て30議席、これにつぐのが「イニシュアテッド党」で、14%の17議席(党首はラピド現外相)。
三番手が宗教右派の「シャス」=7%で9議席、『青と白』が8議席(ガンツ元参謀長が率い、現国防大臣)、嘗ての大政党だった「労働党」は五位、6%で7議席しかない。さらに6%で7議席しかない『ヤミナ』党はリクードより右よりである。

このヤミナ党首のベネットが、どういうわけか首相なのである。連立合意条件は二年後にラビドと首相交代することになっている。
 したがってベネット政権はつよい独自性を発揮することは不可能であり、つねに連立内の七つの政党の合意が必要となる。ロシアへ強い態度に出られないのも、対米関係でときにギクシャクするのも、あまりに連立の基盤が脆弱であり、しかも連立のなかにアラブの政党(ラーマ=マンソール・アッバス党首)も加わっているからややこしい。ネタニヤフ前首相は、この政党を「テロを支持する政党だ」と非難していた。

 ガザ、PLA問題となると、必ずもめ、連立政権から「出る、出ない」と騒ぎ、政局が乱れる。このような特質をもつ国家に、統一的な陰謀をめぐらすこと自体が不可能である。