![Img_5918 Img_5918](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/78/81/98e22cdc46623c675108180556a2b6b3.jpg)
先月、私の店のギャラリースペースで開催した
陶芸家 工藤和彦さんのうつわ展で、
私は野に咲く草花や庭で育てた花などを
2週間にわたって生け続けた。
初めて生けて思ったこと。
こんなに自然に手が動くうつわになかなか出会えない。
なぜ、どこが違うのだろう、
期間中、私はずっと考えていた。
![Img_5982 Img_5982](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/0f/1c/e36c4df99ae96c97e134e59e9f621508.jpg)
北海道、旭川市の郊外で作陶する工藤さんとは
ひょんなことから4年ほど前に出会って、
なんとなくコラボレーションができそうな
根拠のない直感がはたらき、
この秋、ようやく実現したのだ。
![Img_5650 Img_5650](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/61/51/04e95a10a3012512f992a66d537b3576.jpg)
工藤さんはもともと食器の制作が主で、
花の器はそれほどたくさん作っていないので、
今回の作品展の為に、新作をたくさん持ってきてくれた。
![Photo Photo](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/55/a2/e09d1bd6326b06eac627a93740564602.jpg)
そのうつわはどれも美しいフォルムをしており、
そのまま飾っておいても絵になるが、
さらに花を生けたくなるような余裕がある。
生ける花によって、ひとつのうつわからいろんな表情が引き出せる。
そんな大らかさが工藤さんのうつわの魅力なのだ。
![Photo_2 Photo_2](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7d/40/3e644311cfdbacd9a7834849b06888a3.jpg)
かたちもそうだが、その肌色のすばらしさを実感する。
やわらかい黄色、クリーム色は、
不思議とどんな花色も引き立ててくれる。
同系色はもちろん、反対色の青、紫色、
そして白い花もその純粋さがきりっと際立つ。
「黄粉引(きこひき)」と呼ばれるこれらの作品は、
工藤さんが自力で開発した土と技法によるものだ。
中国大陸から飛来し、北海道のある場所に蓄積された
推定2億年前の「黄砂の粘土」だというから驚きだ。
地質学的にはまだ解明しきれていない、謎の土らしい。
誰も試したことのない土を、10年近くも試行錯誤して
工藤さんはようやく自分のものにした。
![_mg_0807 _mg_0807](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/45/df/9441459c01d5ca0ec86fb92190bbd004.jpg)
高台の紅い色は、焼く時にくっつかないようにと
たまたま敷いたホタテ貝と反応して出た色だとか。
北海道の自然環境を存分に生かした技法。
やわらかな黄色と、力強い緋色。
工藤さんの作品は深い魅力をたたえている。
![Img_5341 Img_5341](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/17/6a/f83f1081a4a00302bb4f5020bccb4ea9.jpg)
たっぷりした片口の大鉢。
![Photo_3 Photo_3](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/65/87/5666ca2a7cb1601769bf1b316271a13a.jpg)
大地に還っていきそうな感じ、
と来場者が表現した、迫力の大皿。
![Photo_4 Photo_4](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/5f/0b/13502bb88f144de2404c1d3d0c35fafb.jpg)
料理をする人の創作意欲を駆り立てるうつわ。
誰もが、素材を生かしたシンプルな料理を盛りたい、という。
![Img_5799 Img_5799](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/2f/aa/176bbb6bf50cd9b110850595b547f967.jpg)
花を生ける人もしかりである。
花のほうからすっと身を寄せていく、というくらい
自然にうつわの中に入っていく。
作品展の搬入時、工藤さんが配置していった器に
私は次々と花を生けていった。
用意したいろんな花材の中から、
迷わずとも花の方から「私ここ」と向かっていくようだった。
![Photo_5 Photo_5](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/29/ec/a33d48eda4340f6448fd3923d1a8a426.jpg)
ある壺を前にして、私は初めて工藤さんにお伺いを立ててみた。
庭から採ってきたブルーサルビアの花を壺にさっと挿し、
こんな感じでどうだろう、と聞いてみたのだ。
「ああ、いいですね。」
と言ってもらえたので、壺に水をはって、
先ほどパッとあててみた時の、自然な感じを再現しようとしたら
なぜか うまく生けられなくなってしまったのだ。
まったく同じ花を使おうとしているのに。
あれこれやってみたが、その日は結局だめだった。
それから期間中は意地になって、
庭からブルーサルビアを採ってきては同じ壺に生け続けた。
肩の力がようやく抜けて、最後の日に
やっと自然な感じで生けることができた。
![Photo_6 Photo_6](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/4e/c5/20b86139465f24c73eeffbb2dce98338.jpg)
工藤さんは笑いながらこう言った。
「僕も変な欲を出して作るとうまくできないです。」
そういうことなのだ。
こういう風に生けてやろう、という自分の欲が出てしまったら、
花は堅くなってしまったり、これ見よがしな感じになってしまう。
試しにあててみたときの形を再現しようという欲が
つい出てしまったから、花本来の魅力を引き出せなかったのだ。
私が生涯目指しているのは、
草花の素性と魅力を引き出す、という生け方。
つまり自分の思い描く形におさめない。
デザインしない。
無欲で向かった時にはじめて、植物は応えてくれ、
内なる魅力を発揮してくれる。
工藤さんの造形力は、普遍的なバランスと美しさ。
やはり欲を消して、さっと造形する。
土の美しい風合いが引き出される。
そして、使う人の手にすっとなじむ。
自分の主張を前面に出さない。
でもその人の個性がにじみ出てくる。
それは確かな技術あってこその話で、
実はとても難しいことなのかもしれない。
![Photo_7 Photo_7](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/67/d8/00604f908ddb6908d8ddad2813d488ac.jpg)
花と器。
目指す方向性が似ているので、
いいコンビを組めるな、という手応えをつかむことができたと思う。
来年の秋もまた、二人で作品展をする計画だ。
今度はどんな器を作って来てくれるだろう。
私はその時、どんな花を見つけてこられるか、
心の眼も養っておかなければならない。
![Photo Photo](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/46/10/c200b2ae52a095e36f4dab2358b4b2dd.jpg)
庭にあふれ咲くコスモスの種を
金沢にある花のアトリエの前に蒔いたら、
今年は白いコスモスが咲いた。
去年はうすいピンクのコスモスだった。
毎年いろんな花色のコスモスが
ほんの少しだけ咲く、街の中の一角。
![Img_3725_2 Img_3725_2](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/0b/1f/ca8d66ad0aed83a30b28ef4bb029d26a.jpg)
アトリエの名前を、カタカナの「コスモス」ではなく、
ひら仮名で「こすもす」にしたのは、
この花の名に秘められた「宇宙」という意味を
ちょっとオブラートに包みたかったから。
漢字の「秋桜」もきれいだけど、
桜に媚びているようでもあるから、
「こすもす」にした。
![Photo_2 Photo_2](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/33/ed/72ab5f51f07bebf8f1c2e9df006a73e6.jpg)
田舎の家に作ったアトリエで、約一年、花の仕事をし、
やがて金沢の街の真ん中に拠点を移した。
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不思議なご縁で、
私の「泉」という名前がついた古い薬局の家が
現在の 花のアトリエ こすもす。
いとこに作ってもらった鉄と木の釣り看板が目印だけど、
「看板建築」と呼ばれるその建物には、
今も「イヅミ薬局」と書かれている。
そして、もちろん、薬の代わりに
花を売っている。
![Photo_5 Photo_5](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/1c/3f/2773190d478451f248f68714db78ab26.jpg)
今でも年に一人くらいはなじみのお客さんが
薬を買いにくるが、
今年の初夏に間違えて薬を買いに来たご婦人は、
「それなら薬の代わりに花を買っていこう。」
と一輪の花を買って帰られた。
これがコスモスとの出会いから
現在までつながっている話のあらすじです。
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